532 こういうとこだよ! こういうとこ!
もう一箇所、巨人が高速で移動していた方にも行ってみることになった。
護衛隊の皆も体調は問題なく、ナヴァト忍者も平気ですというので……自己申告、信じるからね? 信じるぞ!
討伐した場所はエルフ校長とリートが正確に覚えてたので、念のため、リートは護衛隊の方に混ざっての移動だ。いつ、なにが起きるかわからないからね。道案内は、分けておいた方が賢明だ。
……はぁ〜、こういう用心が不要になる暮らしに戻りたい。
そのためには。わたしが頑張らないと、いけないのよね! 魔王を封印できるの、わたしだけなんだから。
気合いを入れ直しているあいだに、現地に到着。
「わぁ……」
ここも、けっこう酷い有様だ。巨人が長逗留したわけではないけど、戦闘自体が激しかったからなぁ。山は崩れ、木々は薙ぎ倒され、あちこちに穢れが散っている。聖属性の樹木も、ちらほら残ってる……程度。穢れと戦って、巨人に岩を投げられて、だったからな。そんなには生き延びられなかったんだね……。
「浄化しましょう」
わたしがいうと、エルフ校長もうなずいてくれた。
合流したリートが、ちょっと厳しい表情になる。
「魔力の残量は平気なのか」
「今日、ろくに魔法使ってないもの。呪符を介せば、平気だと思う。それより、穢れが散ってる場所を皆で探してもらっていい? 軽微なものなら、その場で処置してもらってもいいし。それこそ、呪符で」
「……そうだな。そうしよう」
というわけで、護衛隊は散開。わたしとエルフ校長は目についた穢れを呪符で浄化して歩き、呼ばれればそちらに行って浄化、あちらでも浄化……と、忙しくはたらいた。
「これ、巨人が移動した経路も確認した方がよくないですか?」
「僕もそう思います。この場はもう大きな穢れは残っていないようですし、あとは呪符で対処できます。僕とルルベルで経路を辿って行きましょう。リート、処置が終わったら直接、帰城するように。ナヴァトは僕らに同行した方がいいですね」
「はい」
「わかりました、この場は任せてください。くれぐれも、気をつけて。ルルベルの魔力残量にも」
相変わらずリートが危機意識の高さを見せつけてくるが、まぁ……対魔王勢力という意味では、エルフ校長とわたしのコンビって最強じゃない? そこに、物理対応可能なナヴァト忍者もいるわけで。よほどの大軍に急襲されるとかでなければ、なんの問題もないと思うな! いや、大軍が来てもナクンバ様で上空に逃げられるよね? 万全過ぎない?
むしろ、そっちこそ気をつけろといいたいけど……鼻で笑われる予感しかなかったので、やめました。鼻で笑われる趣味はないのでね。
そこで二手に分かれたわけだけど、移動経路がもうね……わかりやすいんだわ。
斜面がダーッと崩れてたりとか……当然そこに生えていたであろう木々も全滅である。とにかく破壊具合がすごい。自然災害のあとを検証してるみたいな気分だよ。
で、さらに穢れがドン! されるわけだから、そりゃ放っておいたら不毛の地になるよね……。
わたしはせっせと穢れを発見・浄化し、エルフ校長は木々の生育に少しだけ力添えをし、ナヴァト忍者は周囲を警戒という役割分担で、少しずつ進んでいく。
魔力玉職人、呪符職人ときて、ここで浄化職人になったわたしは、もう無の境地だ。
多いんだわもう! 多い! 巨人、頑張り過ぎ!
呪符を使うのが面倒になってきたけど、呪符の方が長期間効果が持続するからなぁ……直接やって、浄化できたつもりが穢れが残ってましたって展開の方が、あとが大変。それに、呪符なら魔力をほとんど消耗しない。
面倒だけど、汚れを探して呪符を貼って有効化して……の方が、賢いやりかただから! 頑張れ、ルルベル!
……結果、へとへとになった。魔力切れではなく、集中力切れだな、これ。
護衛隊の方は作業が終わったらしく、ファランス様に運んでもらってリートが合流。お弁当を差し入れてくれた。
くっ……リートってほんと腹が立つデリカシー皆無男だけど、こういうとこだよ! こういうとこ!
「ありがとう! 食事のこと、すっかり忘れてた」
「だろうな。君はひとつのことに集中すると、ほかが完全に抜け落ちる。腹が減って倒れられては今後に影響するし、せめて身体の不調くらいには気づくように心がけろ」
……こういうとこが、ほんとにリートだぞ!
「リートだけは、偽物が出てもすぐ見分けられる気がする……」
「なんの話だ」
「ううん、なんでもない。それより、ほかのひとたちの体調はどう? お城に戻ったんでしょ?」
「問題ないそうだ。ウィブル先生に直接確認した」
「生徒たちはどうしていますか?」
エルフ校長の問いに、リートは肩をすくめた。
「王子は本営に入りました。ファビウスがなんとかするでしょう。おおかたの生徒は裏方に徹するようですが、スタダンスは前線に行くことになるかもしれません」
「えっ……スタダンス様も来てるの?」
あのひと侯爵家の後継者でしょ! 戦場に近い場所に来るだけでもびっくりなのに、前線に出るなんて。
「そうなるのではないかと危惧していました……」
「校長先生、止められませんか?」
「彼の魔法が有効なのは事実なのです。ジェレンスとシュルージュが如何に強い魔法使いであろうと、休息はとらねばなりません。かれらが強いだけ、抜けたときの穴は大きくなる」
わたしは、ウィブル先生の話を思いだした――ジェレンス先生ひとりで何千何万の兵に値するはたらきができたとしても、寝ているあいだはどうするの? ってやつ。
前世でいう現代戦争とは、ぜんぜん違う問題な気がするよね。
だって、一発で何千何万を殺傷し得る兵器は人間自身じゃない。操作する人間が交代すれば、隙はできない。たとえば一発ごとにクール・タイムが必要だったとしても、だったら十でも二十でも量産すればいい。人間の魔法使いは、そうはいかない。似た能力の魔法使いはいても、まったく同じ魔法使いはいない。
とくに、ジェレンス先生やシュルージュ様みたいな大魔法使いクラスになると、倒れたら替えがないのだ――わたし自身が、たったひとりの聖属性魔法使いであるように。
「……スタダンス様なら、それを補い得る……と、いうことですか」
「ええ」
はじめてスタダンス様の魔法を見たのは、演習でのことだった。そのときの、わたしの感想は――マップ兵器。
数で押して来ているらしい主戦場には、うってつけの人材だろう。広範囲の雑魚を殲滅できるのだから。
「でも、スタダンス様はその……失礼ながら、制御があまりお上手ではなかったような」
うっかり味方も潰しちゃいました、みたいなことにならないか? そんな事故を織り込み済みでも前線投入せざるを得ない状況ってこと? いや、ないだろ。ないない!
「それは本営でも把握している。エーディリア嬢が付き添うことで話を進めようとしているらしい」
「えっ……」
わたしは絶句した。
あの淑女中の淑女みたいな! 巻き髪が乱れたところなんて見たことがないエーディリア様を、戦場に投入する……?
なにもいえないわたしに、リートがつらつらと説明する。
「本営にいる限り、王子が魔法を使うような場面は生じないだろう。他者の魔力に干渉し、うまく作用させる技術において、エーディリア嬢の右に出る者はいない。だからこそ、王子の面倒をみる係をやらされていたのだからな」
「それは……」
それは、そうだろう。
そうだろうけども!
「彼女は有力貴族の血筋を引いているわけでもない。ただその能力を買われて、王子に仕えても不自然ではない程度の貴族の養女となって、令嬢らしい作法を身につけただけだ。前線に出してはならぬ、という話にはならない。王子本人の魔力制御がマシになってきた今は、欠くべからざる人材という認識も薄れた。むしろ、スタダンスの補助として必須だと、皆が認識している」
……そうかもしれないけど。そうかもしれないけど!
そして、エーディリア様は……ご自身の務めと思えば逃げたりはなさらない……絶対だ。行ってくれといわれれば、謹んでお受けしますと美しいカーテシーをキメるだろう。
「じゃあ、もう決まったの」
「いや、難航してるらしいぞ」
はい?
いやだって、リートの口ぶりだと、皆がそれを望んでるって感じじゃん。そして、望まれたエーディリア様がそれを断ることはない。
なのに、難航してる?
「誰か反対してるの?」
ファビウス様は、女子を前線に出すのを善しとはされないだろう。でも、必要なら投入する。……と思う。
じゃあ、誰が?
「本人だ」
「えっ? エーディリア様が?」
「違う」
少し苦いものを口に含んだような顔をして、リートは正解を教えてくれた。
「スタダンスだ」




