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53 魔力覆いの常時展開を目指す決意をした

 その日は、魔力切れを起こさずに済んだ。というより、そろそろ残りが乏しそうだなっていうのが、感覚的に掴めるようになったのだ。

 ゲームと違って数字やゲージで確認できないから不便だよな……。でも、考えてみりゃ体力だって、なんとなくでペース配分して使い切らないようにできるわけだし、魔力も慣れればそうなるんだろう。


「魔力感知が身について来た、ってことだね。おめでとう」

「ありがとうございます」


 ファビウス先輩は、にっこりしてくれた。態度が変わらないの、助かる。ほかの誰でも、こうはいかなかったんじゃないか。いや、エルフ校長ならワンチャンあるか?

 そんなことより、魔力の方だ。褒められはしたけども、魔力感知なんて基礎の基礎だよなぁ。さっさと次の段階に行かないと。

 ……それにしても疲れた。おなかすいた。きもちわるい。

 あれ?


「先輩、完全な魔力切れがどんどん近くなってきた気がします」

「うん? もう魔法は止めてるよね?」

「そのはずです」


 ファビウス先輩はわたしの手をとり、しげしげと眺めた。……そう見られると、妙に恥ずかしい。こういう場合はどうすればいいのですか、軍曹!


「まだ少し漏れてるね。きちんと閉じてない」


 いわれてみれば、指先がちょっとキラッとしているぞ。なんでよ、もったいない。


「そんなことがあるんですか」

「うん、たとえばスタダンスは寝ると魔力を垂れ流す癖があってね」


 あああああ! なんか最悪の例が出てきたぞ。目覚めたのが聖属性でよかった! と、心の底から思える。ありがとう、スタダンス留年生! ていうか、マジで気の毒なひとだな……。

 しかし、このままではわたしも魔力切れとコンニチハで気の毒になってしまう。


「どうやったら止められますか?」

「ちゃんと意識すればいいんだ。今、終端を拡張してしまってるんだね、意識の上で」

「……はい?」

「訓練のとき、君は指先から魔法を押し出すような想像をしてるんじゃない?」

「あ、はい。そうです」

「指先から出て表面を覆うところまでを『自陣』だと勘違いしはじめてるんだよ、魔力が。もっとも、それが常時可能になるのが理想ではあるけどね」


 魔力で身体を覆いつづけていれば、そりゃまぁ魔王も眷属も怖くないよね。ただし、物理攻撃を除く。


「そんなこと、できるんですか」

「できるよ。魔力量は大していらないし、密接してるから消耗も少ない。魔力の回復速度が標準値なら、問題なく維持が可能だね。ただし、無意識で制御できないと、ほかになにもできなくなる」


 魔力量は大して必要ないっていうのは、熟練すればってことだよな。今のわたし、感覚としては、全力で自分を覆ってるからね。だけど、いずれはできるようになりたい。いや、できねばならぬ。


「それは、頑張ってみる価値がありますね」

「正直な評価、聞きたい?」

「お願いします!」

「この訓練で魔力切れを起こしているようでは、当分は、無理だと思う」


 魔力の使いかたに無駄が多いからだな! 制御か……制御かぁぁ。

 しかし、先輩はいつまで手を握っているつもりなのだろうか?


「近く実現できるよう、努力します」

「うん、頑張って。ところで、さっき答えをもらってないんだけど。夕食はどうする? 僕は一緒に行く方がいい? それとも行かない方がいい?」


 そこ、答えないといけないかー。やっぱりかー。


「先輩がなさりたいように……では、いけませんか」

「僕は、君がしてほしいようにふるまうよ。だから、君が決めて」

「……率直なところをお伝えしても?」

「もちろん」

「ファビウス先輩がやりたくないことを、やってほしいとは思いません。あ、魔法の訓練だけは別です。多少ご不満があっても、できるだけつづけていただきたいです。ファビウス先輩に代わるひとは、誰もいませんから。それだけでも申しわけないですので、ほかのことは……お好きなようにしていただきたいです」


 先輩は、わたしをじっと見てる。やばい、なんか恥ずかしい。なんでだろう。ていうか、見ないでほしいって真剣に念じたら、先輩は胸を押さえて倒れてしまうのではないだろうか。それはそれで、酷いな!

 よし、耐えるぞルルベル! サー・イエッサー!


「それじゃあ、ちょっと考えさせてもらえる? 今日はまだ時間が早いしね」

「はい、大丈夫です」

「ありがとう。僕の姫君は寛大だな」


 そういって、ファビウス先輩はわたしの指先にかるくくちづけし、とたんに胸を押さえた。

 ひったくるように自分の手を取り戻しつつ、わたしは叫んだ。


「なんでこういうことなさるんですか! どうなるか、わかりきってるじゃないですか!」

「……君がいったんだよ、なさりたいように、って。僕は言葉通りにしただけだ」


 屁理屈!


「無茶しないでください。先輩に代わりはいないんですよ。いったでしょ!」

「……そういわれると、少し嬉しいな」


 上目遣いはやめろ! また倒れたいのかッ!


「ほんっとにもう、気をつけてください」

「魔力の漏出、止まったね」

「え?」


 いわれて、自分の手を見る。魔力ラメがなくなってる……あらほんとだ。


「指先を、ちゃんと意識できたからだよ」


 そういいながら立ち上がると、先輩は余裕の笑みを浮かべてわたしを見た。それが狙いだったんかーい! だったら説明してくれれば……と思うが、説明しないだろうなぁ。そういうひとだ。


「無駄に誓約魔法を発動させますよね……」

「知ってる? 君にかかわることなら、僕は無駄だなんて感じないんだよ。なにひとつ」


 このひとはなんなの、こういうこと口走ってないと死ぬ病にでも罹患してるの? ……してそう。

 少し楽しそうに笑って、先輩は優雅に一礼した。


「それじゃ姫、もしかしたら、あとで。でなければ、また明日」


 ファビウス先輩が立ち去った研修室は、がらんとしていた。ここにいてもしかたないけど、すぐ外に出ると、ファビウス先輩と出くわしそうだしなぁ。ちょっと時間を置いてからにしよう。そうしよう。

 ……このあと、どうしよう。魔法の練習もできないし、図書館に行って課題図書でも読む? 禁帯出本ばっかりなんだよな〜。あっそうか、また閲覧室を使うから書類書きか。いちいち書類を書いて入室するほどの空き時間でもなくない?

 なんてことを考えながら、わたしものろのろと研修室を出た。ほんとに久しぶりに教室に行ってみるのもいいかもと思いついたが、そこで自覚した。

 教室の場所が、わからない。

 食堂でさえ、匂いという道しるべがないと危険である。エルフ校長もジェレンス先生も上空から連れて来るのは自粛してほしい。リートはリートで、道案内が雑。ほんと雑。

 そうか、学校探検しよう! 少なくとも、この部屋の周りになにがあるかくらい、把握しよう。上空から見てるから、建物の並びとかはわかってる……はずだし。たぶん。

 それにしても、巨大な建物だよなぁ……廊下は十人くらい横に並んで歩けそうだし、天井も高い。教室がある棟とは建てられた時代が違うんじゃないだろうか。なんかこう、建築様式? みたいなのが、違う気がする。


「ルルベル嬢?」


 声をかけられ、ふり向くと。廊下のど真ん中に黒髪眼鏡が立っていた。寝起きに気の毒なことになりがちなスタダンス留年生だ。

 こんなスッキリしたイケメンで眼鏡で頭もよさそうなのに……寝てるあいだに魔力たれ流して、起きると寝ぼけて重力事故でみずから負傷なんていう間抜けエピソードの宝庫だとは、想像もできない。

 ところでわたし、どうすればいいのかね?


「スタダンス様、こんにちは」


 とりあえず、挨拶だ。挨拶は、社会生活の基本!


「ああ、こんにちは。なにをやっているのです、授業中だと思いますが?」


 それはそのまま、あなた様にもお返しできるわけですが? ……また保健室か。


「魔力切れ目前なので、今日の訓練は終了になりました」

「なるほど。いつも魔力切れが生じるまで訓練しているのですか?」


 今日は魔力切れ直前に気がついたから、まだ完全には切れてないけども! そこ、自慢したいけど……まぁ、できて当然のことだろうし相手がスタダンス留年生じゃなぁ。


「そんな感じです。これで魔力が増えてくれるといいんですけど。魔力切れまで魔力を使うと、最大量が増えるといいますよね?」

「ああ、増えるのは間違いないです。保証してもいい。わたしは睡眠時の魔力制御ができない方でね。常時、漏出していた結果、今では学内でも指折りの高魔力所持者になってしまった」


 魔力の増やしかた、おかしいだろー!

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― 新着の感想 ―
[良い点] スタダンス先輩、スリーピング重力でありえない寝癖とかつきそう
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