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528 エルフ数百年の知見から得た事実

 魔力玉の製作と配布が完了し、わたしも魔王捜索に乗り出すことになった。


「聖属性樹林から開始することになった」

「聖属性……樹林?」


 なんぞそれ?

 わたしの手首を、リートが指さす。行儀悪い。


「その竜と出会った、あそこだ」


 ……えっ、それってエルフ校長謹製のツリーハウスを生やした場所ってこと? 今そんな名前になってんの?


「樹林って呼ばれるような状態になってるの?」

「なってる」


 わぁ。当初の話では、あのツリーハウスはほどなく消えるみたいな……そういうんじゃなかったっけ?

 愚かで記憶力薄弱な人間なので、あんまりちゃんとは覚えてないけど。


「いつのまに……」

「君の部屋に使っていた大樹は分解したんだが」

「分解」

「含んでいた聖属性の魔力が想定以上で」

「えっ、なんで?」

「君がいたせいだろう……としか、いえないが?」


 いるだけで聖属性魔力を垂れ流す女、わたし! ……ってこと?

 あ〜……そうか、ナクンバ様がいなかった段階なら、余った魔力はだだ漏れで、それでそのへんに……聖属性樹林が? でも、だったら王都にも聖属性の大森林ができちゃってもおかしくない気がするけどな?


「なんか納得いかないんだけど」

「おそらく、あの大樹自体がエルフの魔力を含んでいて、それが君の聖属性魔力と反応したんだろう。詳しいことは、研究者にでも訊け」

「誰か研究してるの?」

「知らん」


 無責任ー! 無責任過ぎる!

 ため息をついて、わたしは腕輪に擬態したナクンバ様を撫でた。


「ナクンバ様、ナクンバ様の生まれ故郷に行くそうですよ」


 手首から、ぷすんという音が聞こえた。ちょっと煙くさい、ナクンバ様の吐息だ。


「我の故郷はルルベルだ」

「はい?」

「我はルルベルの魔力によりうつを得し存在ゆえな。居るべき場所は、ルルベルのもとである」


 竜の理屈はよくわからないが、あの場所にはなんの思い入れもないらしい。里帰り、嬉しいかなと思ったんだけど……なんか違ったみたいですよ。


 護衛はしっかりということで、デフォルトの親衛隊プラス護衛隊にくわえて、さらに追加人員が同行することになった。そこにデイナル様も含まれていて、びっくりだよね。

 デイナル様とは、ジェレンス先生にはない政治的な才能を備え、やはり強力な魔法使いであるらしい、親戚筋のイケメンである。前にお会いしたことがあるけど、そのとき同様、イケメンはもう間に合ってます……と、思ってしまった。

 親戚だからか、どことなくジェレンス先生に似ていなくもない。ただ、立ち居振る舞いも身なりも、ジェレンス先生より洗練されてるっていうか貴族的っていうか……なんか、そんな感じ。


「本日は、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 わたしは口数を少なめにするよう、リートの指示を受けている。

 なんでって、喋ると庶民性がヤバいから、だそうだ。さすがに護衛隊はもうごまかせないが、本日の追加戦力の皆様に対しては、神秘的な雰囲気を勝手に感じさせてほしい、という。

 ……なんだその「雰囲気を勝手に感じさせ」るって! そんな高等技術、知らんぞ!

 リート曰く、わたしがなにかする必要はないんだそうだ。むしろ、なにもしなければ相手が勝手に妄想してくれるから、その妄想の聖女様を育てさせろってことで……。


 それってアレ?

 なつかしの舞踏会で発生してた、チャチャフが群れをなして幻の聖女にダイビングしてくるやつ?

 チャチャフを養殖しろってこと?


 釈然としないけど、リートに睨まれたり無駄に毒舌を食らったりしたくはないので、当面、おとなしく従っておこうと思う。つまり、無口と小声を徹底する。


「デイナル様は、本営にいらっしゃらなくて平気なのですか?」


 この質問はリートだ。わたしじゃない。わたしは無口を頑張っている。

 リートはリートで、猫をかぶってるよねぇ。心なしか、表情も爽やか系――見慣れないので、別人みたいな気がするよ。


「はは、いてもいなくても同じだよ、俺なんて」


 わたしは聖女らしさを演出しようと頑張ってるのに、デイナル様はけっこう砕けた態度だ。

 ファビウス様じゃないけど、本営で気を張って、お疲れなのかも?


「トゥリアージェ領の代表として、あの場に留まられる必要があるのでは、と」

「誰でもできることだ」


 あんなの、とデイナル様は手をふって、どうでもいいという仕草をした。


「そうは思えませんが」

「シュルージュ様のご指示を垂れ流しているだけだ。誰でもできる」

「ご謙遜を。指示を踏まえて臨機応変に議論の流れを制御されるのは、誰にでもできることではございません」


 いっそ清々《すがすが》しいくらい、おもねってるな!

 などという考えを聖女スマイルの裏に押し込め、わたしは黙っている。これけっこうストレス溜まるけど、黙ってるぶんだけ頭も回る気がする。


 だって、いつもなら気づかないことまで思いついちゃったもん――デイナル様のご機嫌をとる必要があるのかな、って。


 そりゃトゥリアージェの偉いひとだから? 嫌われるよりは気に入られておいた方がいいだろうけど? でも、なんか作為的な感じすごいじゃん、リートの態度。きっとメリットがあるんだよ。

 本営で意見を通すときに味方してほしい、とか? それとも、ほかになにかあるのかな。


「聖女の親衛隊長である君が、そのように評価してくれているのは嬉しいね。光栄だよ」


 ふざけたような口調でそういったデイナル様だったけど、次の瞬間には、きりりとした表情になっていた。


「では、行こう。総員、事前の班分けに従い、移動!」


 号令一下、デイナル様が連れてきた増員と思われる人々――だいたい三十人くらいかな? 大袈裟な気がするよ――が、ささっと十人ずつくらいの三班に分かれた。たぶん、それぞれに風属性の魔法使いが配されてるんだろう。十人だと、ふつうの魔法使いがひとりで運べる人数を超えてるから、班ごとに複数名がいるのかな。

 あっ、デイナル様ご本人が風属性っぽい……魔力の流れを見るに、ひとりで十人運んでるな。さすがだな。

 ……いやぁ、黙ってると思考がはかどる!


「案内に従い、移動!」


 つづいてリートも命じて、親衛隊と護衛隊……あと、もちろん聖女であるわたしも出発。

 今回、エルフ校長は同行しない。到着した魔法学園の生徒たちのフォローにあたっているそうだ。

 そりゃ、そっちを優先してくださいってなるよね……。こっちの任務は交戦じゃなく探索だ。魔王を発見できたとしても、さっさと逃げることになっている。

 ……というわけで、親衛隊の移動は護衛隊の風属性魔法使い――ホンモノのファランス様にお願いすることになった。


「よろしくお願いします」


 わたしが挨拶すると、ホンモノ様は笑顔を返してくださった。

 ホンモノ様、たしかファビウス先輩のご親戚みたいな話だったから、王族の血を引いているかもしれない。そうでなくても姻族ではあるだろうから、間違いなく東国セレンダーラ王族のご親戚ってことだよなぁ……。

 偉ぶったところは皆無でいらっしゃるわけだけど。


「聖女様の移動を担当できるとは、光栄の極み。万事、おまかせください」


 ホンモノ様は、我々三人――リート、ナヴァト、わたし――の移動担当らしい。残りの護衛隊は、臨時で入った風魔法使いに運んでもらうための、三班構成。

 余力を持たせるために、この人数なんだろうなぁ。つまり、移動しながらでも戦闘や防御に参加できるような?

 万が一にもわたしが死んだら、大暗黒期の再来待ったなし! だから……ま、こういうことになる。


 先頭を行くのはデイナル様の班。地元民だから、迷うこともないだろう。聖属性樹林とやらは、最近出現したイレギュラーな場所だけど!

 あのへん、もとはジェレンス先生のシマだったんだよな……飛竜との戦闘を、アトラクション的に楽しんでいたのではないかという疑念もあるわけだが。

 デイナル様も行ったことあったりするのかなぁ……いや、なさそうだなぁ……なんかジェレンス先生と違って良識的というか、常識的というか。顔立ちは似たところがあるけど、性格はそうでもなさそうな気がする。


「ファランス様」

「どうぞファランスと呼び捨ててください」


 返しにウィンクが付属してて、東国男〜! と、思ってしまったが。

 各班ごとに分かれている今なら、多少は喋ってもいいだろうと思うけど……でも油断はできないよな。たぶんデイナル様クラスの風属性魔法使いなら、移動しながらこっちの会話を聞くこともできるだろうし。


「東国と央国では、やはり景色に違いがあったりするのでしょうか?」

「そうですね……東国の方が平地が多い印象はあります。植生も多少の差があるようですから、気候の違いもあるのでしょうね」


 じゃあ、デイナル様はじめ、他国の人間が魔王復活のきざしを感じ取るのは難しいかもしれないな……と、わたしは昨晩エルフ校長から聞いた話を思いだして考える。

 物理空間にとらわれない魔王封印――それがゆるむと付近の座標がごっちゃになり、寒冷地でしか育たない草、暖かな海辺にしか生息しない獣、などなどが出現しやすくなるのだそうだ。

 エルフ数百年の知見から得た事実、意外にご当地問題だった!


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