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523  人間の約束より重そう……!

 翌早朝。

 こんな状況でもすやすや眠れる自分が怖いけど、それだけ疲れてるってことだろう。起こされる前に目が覚めたから、緊張はしてるんだと思う。


 身支度をととのえ、朝食をいただいて、出発。

 本日も、昨日と同じメンバーだ。

 ただ、聖女護衛隊には臨時で風属性魔法使いが追加されていた。ハーペンス師が手配してくれた模様。

 元からいた風属性さんと知り合いみたいで、仲良さそうにしてるから、プライドへし折った問題みたいなのも……ないだろう。ないと思いたい。


 わたしとリート、ナヴァトはエルフ校長随伴で。残りはふたりの風属性魔法使いによって、空を飛んでの移動だ。今回はエルフ校長も無法な転移ではなく、風の精霊魔法? 的な? 人間には使えないサムシングな雰囲気の魔法で飛んでいる。


「僕らだけ先に着いてもね」


 という言葉の意味は、到着してすぐ理解できた。

 兵の損耗が激しいのだ……ぼろぼろの柵を守ってなんとか巨人を囲んでるけど、動ける者より動けない者の方が多い。

 そういう話は聞いてたけど、実際に見ると……鼓動がぐんぐん速度を上げて、気もち悪くなる。

 めげてる場合じゃねぇぞ、と自分を叱咤するしかない。


 リートは護衛隊に向かって号令をくだす。


「各自、作戦通りに! 救護班は負傷者の移動優先!」

「はっ!」


 偉そうな若造だな……と思っちゃうが、リートが有能なのは護衛隊にも伝わってるらしく、反抗的な態度をとる者はいない。


「行ってくる。ナヴァト、たのむぞ」

「はい、隊長」


 リートは聖属性呪符を、残ってる柵に足しに行くのだ。生属性魔法のおかげで瞬足だしバテないし、巨人を囲ってる柵を回る役には打ってつけ。

 聖女護衛隊の皆さんは、負傷者の救援と、柵守護の補助に散った。わたしの護衛は、ナヴァト忍者の担当。

 で、エルフ校長は植樹活動。ここは柵が生きてるので、植樹は昨日ほど頑張らなくていい。


「ルルベル、無理はしないように」

「校長先生こそ」


 エルフ校長はわたしの頬に手を当てて微笑んだ。花がほころぶようとは、まさにこのことか! って感じの笑みだ。


「平気ですよ。約束したでしょう、封印に助力すると。かならず、君のもとへ戻ります」


 なにも忘れないエルフの約束って、人間の約束より重そう……!

 エルフ校長は、ひゅんっ! って感じで移動してしまった。

 わたしは呪文の準備だ……救護班が負傷者を近くに集めてるので、うめき声が聞こえて心を乱す……でも、乱れちゃダメなんだ。最近、成長促進にばかり使ってるけど、これから唱えるのは治癒呪文。深い傷を癒すほどの奇跡は望めなくても、少しは足しになるはず。


 鏡のような水面を思い浮かべる。雲ひとつない空を。真っ青の向こうに潜む広大な宇宙を。

 この地上では、つねに命が生まれ、且つまた消えていっている――そういうものなのだ。だから、個々の命に焦点を当ててはいけない。

 わたしは世界だから。

 残酷で、美しくて、かけがえのない――生死を超越した、全体にして唯一の、世界だから。


「隊長から完了の合図です」


 ナヴァト忍者が教えてくれる。わたしは次の報告を待つ。

 待ちながら、心を拡大していく。薄く、広く。個としてのルルベルではなく、この世界に寄り添うひとつの魂になる。

 視界はすべてを透徹し、聴覚は叫びも吐息もひとつにとらえ、そして緑のささやきを聞いた。エルフの合図だ。

 もう待たなくていい。


 わたしは心を解放し、呪文を唱える。聖属性の魔力を広げていく。

 聖属性の呪符を追加した防護柵が、たちまち聖樹へと変貌を遂げる。その内側にも、さらに密なる樹木が芽生え、育ち、百年もの歳月を経た森林であるかのごとく、巨人の姿を覆っていく。


 ――ナクンバ様!

 ――だく


 今日のナクンバ様は、ビーム兵器ではない。魔力残量を気にしつつ、貯めてあった聖属性魔力を放出し、樹木を支える係だ。そのままだと、あの樹々も巨人の穢れにやられてしまうから、そうならないように。

 主力はエルフ校長。


「障壁を張れる者は準備! 短時間でいい、力を尽くせ! ……よし、やれ!」


 リートの号令をどこか他人事のように聞きながら、わたしはナヴァト忍者に運ばれている。まだ呪文から心が抜けきっていない。戦場のすべての穢れ、聖属性の魔力。そういったものを感知できるのと引き換えに、自分の身体を動かすことは不可能だ。

 エルフ校長が風の精霊を集め、巨人への圧を強めつつあるのをしっかり理解してるのは、わたしだけ。

 聖属性の樹々から支援を受けて、風の精霊は巨人を切り裂く。その穢れ、魔王の眷属に与えられた魔力、そういったものを削っていく。

 旋風に覆われたようになった巨人の輪郭がぼやけ、ほどけていく。少しずつ、でも着実に。

 わたしの意識も戻ってくる……戻ってしまう。

 巨人は抗う。聖属性の樹木を引っこ抜き、みずからの手が焼け焦げるのも構わず、それをぶん投げてきた――正確に、わたしの方に。


「障壁、集めろ!」


 号令一下、障壁が重なって樹木をはじいた。ものすごい音がして、樹木は下に落ちる。巨人に捕まれた部分がブスブスと溶け崩れ、煙を上げているけど……ほどなくおさまった。

 ……すごいな。まん前に浮かんでるエルフ校長じゃなくて、わたしが苦戦の元凶だって認識してるのか。それとも、聖属性の力を感じてるの?


 ――ナクンバ様、校長先生に力を送ることは可能ですか?

 ――諾。いかほど必要か。

 ――樹を保護してるぶんを回してください。


 打ち合わせと違うとか、そういうことをいわないのがナクンバ様だ。最高の竜である。

 呪文を使うモードになってるとき、エルフ校長の魔力がちょっと薄いように感じたんだよね。連戦してるし、大技も使ってるしで、回復しきってないんだと思う。たぶん隠してたんだろうけど、呪文モードのわたしには無駄である。強いな、呪文モード。

 広範囲を呪文で覆ったわたしは、今回もけっこうクラクラしてるけど……まぁ倒れてないからOK!


「ルルベル、呪文は終わったな?」


 突然、耳元で声がした。リートの生属性魔法インカムだ。


「終わったよ」

「救護班、重症者の搬送準備! 輸送班は、事前の指示通りに!」


 食い気味に命令をはなつリートは、まるで数々の戦場を経験したことがあるかのように落ち着いている。だからこそ、若造の命令なのに、ここにいた守備隊も諾々と従っている……。

 落ち着きって、だいじだな! わたしもたぶん、今後はアレが必要になるんだろう。


 ……なんてぼんやり考えてると、ナヴァトに身体をさらわれた。

 ドゴッ! とすごい音がして、樹木の破片が地面に突き立つ。

 わぁー……まだ投げて来てるのか!


「とどめに時間がかかっているな」


 リートがわたしのそばに戻って来た。たぶん、警戒してるんだろう。危機意識の鬼だし!

 わたしはもう呪文モードじゃないので、エルフ校長の状態がわからない。なんなら、巨人のことも、よくわからない。双方、樹々の向こうにいるからだ。わたしの視点からでは、どでかい巨人でさえ見ることはかなわない。

 まぁ、音は聞こえるんだけども。


「校長先生もお疲れなんだよ。ちょっと助力するね」


 すでにしてるけどね……ナクンバ様が。


「おい」

「さっさと片づけた方がいいと思う」


 昨日やっつけた巨人より、手強い気がする。


 ――ナクンバ様、校長先生への支援、少し出力を上げてください。魔力の残量が、多少減ってもいいです。

 ――諾。


 ナクンバ様は、自分が貯蓄した魔力を使ってるだけで、わたしに影響はないはずなんだけど……なんか、スーッと力が抜けていくような感覚がある。昨日倒れたの、コレかぁ!

 力を吸われてるのは錯覚なのに……。密着した存在が、わたし由来の力を使うから、そう感じてしまうのかな。


 ほどなく、樹々の向こうの空がカッと白くなり、それから緑になって、色が薄れて――青空に戻った。

 清浄な気がサァッと広がり、不意に呼吸が楽になる。肺の中から、きよらか〜ってされる感じ。

 これは……決着ついたな!

 直後、エルフ校長がシュパッと姿をあらわした。


「ルルベル、無茶はやめてください」


 いきなり叱られた!


「無茶はしてません。それより校長先生は? 大丈夫ですか?」

「僕が何年生きていると思いますか」


 さらっと躱されたけど、疲労の色が濃いのは間違いない。ほぼソロでの巨人退治を、二日連続でしてるんだもの。


「そんなの関係ありません。これまで何年生きたかより、これから何年生きるかですよ。エルフだって、不死の存在ではないんですからね! ……その、気をつけてください」


 エルフ校長は眼をしばたたき、ちょっとおどろいたようにわたしを見下ろした。碧緑の眼差しが、じわりとゆるむ。


「気をつけているつもりですけどね」

「すみません、生意気を申しました……でも、心配なのは事実です」

「では、今日の残りはルルベルの横にいることを許してもらえますか。君の近くにいるほど、僕は回復しやすいので」


 あっ……なるほど! 許すもなにもないと思うけど、わたしはこくこくとうなずいた。

 エルフ校長を心配するのが一段落ついたことで、ようやく意識が周囲に向く。重症者は搬送されて


「念のため、俺も現場を確認してきます」


 いうが早いか、リートの姿は消えていた。リートもリートで無法な存在だよなぁ……。


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