521 理路整然とディスられた気がする
考えろ、考えろ、とわたしは唱える。唱えるだけで考えた気分になっちゃうくらい。
どうすればいい?
まず、現状のわたしにできることって、なんだろう。
聖属性魔力、ぶっぱなし。
せっかくの貴重な聖属性魔法使いなのに、その魔力を直接的に使えるのが、ぶっぱなしオンリーって。泣ける。なんとかならんの? もっと華麗な技とか開発できない?
聖属性呪符作成。
聖属性魔法使いだからこそ、効果の高いものがつくれる。これを前線に回すだけで、広く薄く効果があるといっていいだろう。地味だけど、実直な活動といえる。
聖属性魔力玉作成。
これは、エース級の魔法使いに渡すべきものだ。それぞれの得意魔法に聖属性をからめることで、魔王の眷属に対して有利に立てる。派手だし、たぶん士気にも関係するだろうから、余力があればやっておいた方がよさそう。
呪文。
わたしが現地におもむく必要があり、治癒呪文は生育促進などの二次作用も見込める。あと、範囲に使える。
問題は、現状使えるのが治癒呪文のみ、ってところ。もっといろいろ習得できればよかったけど、世界の境界をサクッと突破してしまう可能性があるため、使用自体に良い顔をされない場面も多かったからなぁ。制御の訓練が先になってしまって、次の呪文を学ぶ余裕がなかった。
ナクンバ様。
むちゃ強ビームを吐ける。飛べる。大きさを変えられる。ビームがなくても、大きくなったら物理でも強そう……ただし、聖属性魔力が尽きると活動できなくなる。
わたしにしか従順じゃないみたいだから――ただし、ファビウス先輩考案のやわらかな布は超お気に入りっぽいから、それを餌にすればなんとかなるかも?――大雑把にいって、わたしの力のようなものだろう。実際、魔力はわたしから貯め込んでるらしいし……。
ん?
――ナクンバ様、ナクンバ様。
――なんだ、ルルベル。
――ナクンバ様がわたしの魔力を貯めるってその……吸い取ってらっしゃるんですか?
――そうだが?
――それはつまり、わたしが倒れない程度に?
ああ、とナクンバ様は鼻で笑った。イメージ的に煙たくなったから、たぶんそう。
――然様なことをするものか。溢れたものを取り込んでいる。
――溢れたもの?
――ルルベルが生成する魔力が、身体に貯められる域を超えたときに。それだけだ。
そういうことか!
つまり、肝臓が頑張って生成した結果、魔力量の上限を突破して溢れたら、それをナクンバ様が取り込んでいる……と、いうことだ。よね?
わたしのイメージを伝えると、ナクンバ様は、短く答えた。
――諾。
いやちょっと待て。余剰分だけで、ビーム二発ぶんくらい貯まったってこと?
……そっか、戦場に来るまでのわたしって、けっこう魔力を無駄にしてたんだな。その無駄をなくすようにナクンバ様が取り込んでくれていたのは、激メガ★ラッキーと評価したい。
――わたしが積極的に魔力をお渡しすることって、可能です? その場合、ええと……たとえば、巨人を倒したときくらいのあの魔法を使えるのか、わかります?
――可能だ。そうさな、ルルベルの十日分の魔力をまるごともらったとして、あれくらいになるか。
十日……けっこう大変だな。
でも、毎日魔法を使っている――現場に出なくても呪符は描いているし、調子がよければ魔力玉も作る――現状、わたしの魔力が溢れることは滅多にないだろう。すなわち、ナクンバ様が魔力を貯め込むこともできなくなっているわけだ。
……やっば! これ、少しずつでも積極的に渡して行った方がよくない? チャージがたりなくて最終兵器を使えないとか、愚の骨頂じゃない?
「リート、ナヴァト、ちょっと相談が」
ふたりにナクンバ様との一連の会話を明かすと、双方、渋い顔になった。
まず、リートが口を開く。
「思いつくのは、ルルベルが寝る前に余剰分の魔力を竜に注ぎ込むことだが……」
「ことだが?」
「就寝しているからといって、敵が手心をくわえるはずがない。むしろ狙うところだろう」
あー……。
「本人の魔力がほぼ空の状態で襲撃者と対峙するのは、避けたい。直接的には俺とナヴァトが戦うだろうが、不意を突かれることがないとはいえない。数で圧倒される可能性もある」
リートの危機意識が仕事してる、仕事してる!
「でも、ナクンバ様がいるんだし。そのために、ナクンバ様に魔力をそそぐんだし?」
「大火力を使える場面ばかりじゃないだろう。無論、竜の存在は非常に心強い。しかし、それを奪われたり封じられたりする可能性もある。敵が魔王の眷属であれば、そういった場面でも君自身が反撃可能だ――魔力が残っていれば」
「それは……そうかもだけど」
リートとわたしのやりとりを聞いた上での、ナヴァト忍者の意見は、こう。
「可能ならば、少しずつは……魔力を移譲した方がいいかもしれないと思います。ただ、あくまで『可能なら』です。現状、魔力が余ってしかたがない場面など存在しませんから、どこまでならいいかを明確にすべきでしょう。聖女様は思いつきで頑張り過ぎてしまわれる傾向がおありですので、ご自身の魔力を枯渇させない保証もほしいところです」
理路整然とディスられた気がする……思いつきで頑張り過ぎるって! ……否定できないのが嫌だ。
「魔力測定器で確認できるといいかもしれんな」
「ハーペンス師にご相談しましょう。取り寄せていただけるかもしれません」
「取り寄せなくても、この城にもありそうだ。さっき〈鉄壁〉のデイナルが帰城したと聞いたから、探して訊いてみよう」
デイナルさんて、誰だっけ……あ、そうか。ジェレンス先生の親戚のひとだ。
「わかりました。ここは、おまかせください」
「時間がかかるかもしれん。ルルベルは、夕食まで休んでおけ。一回倒れてるんだからな」
「はいはい」
いちいち指示されなくても休むよ、疲労感ハンパないもん。……リートが戻って来たら、ちゃんと休んだかってチェック入りそう。
リートなら、魔力測定器の数値もナヴァト忍者といっしょにダブル・チェック! とか、やりそう〜。わたし本人が見てても、そこはカウントしなさそう〜!
……わたしの危機意識、リートに認められる日は来るのだろうか? いや、来ない。完。
ソファでぐったりしていると、ほどなく夕食が運ばれて。リートはまだ戻らなかったので、わたしとナヴァト忍者で食べることになった。
「ナヴァトはさ」
「はい」
「なにか思いつく? わたしの力の使いかた」
「いえ……申しわけありません」
「いやいや、謝らないで。自分じゃなにも浮かばなくて、困ってるだけだから」
スープを飲んでから、ナヴァト忍者がつぶやく。
「……いっそ、ナクンバ様にお伺いを立ててはいかがでしょう。我々より、聖属性魔力に詳しいように思えます」
……なるほど!
というわけで、わたしはナクンバ様に訊いてみた。
――ナクンバ様、ナクンバ様。
「聞こえておる」
あっそうか、あなたの心に直接〜ってやらなくてもよかった。聞かれて困る人もいないし。ていうか、さっきの能力確認から声に出しておけば説明の手間が省け……いやいや、あれは脳内がよかった。リートに横槍を入れられて、自分の考えがまとまらずに終わる可能性が高かった。
少し威儀を正して、こほん、と咳払い。もったいぶる必要もないんだけど、ほら、照れ隠しというやつでござるよ。
「聖属性魔力の使いかたに関して、ご教授賜れれば、と……」
「使いかたというてもな。我は数多の聖属性魔法使いを知識として知っておるが――交流はしておらぬし、終始注目していたわけでもなかった」
いきなり、しょんぼりする導入部キター!
えっ、でもそうなの?
「交流してないんですか?」
「ルルベルのようにはな。たとえば、ルルベルの前に魔王を封印した聖属性魔法使いだが、あれはいかん。近寄れば、挨拶の前に吹っ飛ばされそうであった」
……初代陛下ーッ! 脳筋聖属性魔法使い、想像以上に危険度が高そう!
「あのかたは、その……わたしでは真似できそうもないので、参考にならないというか」
「参考にしないことを望む」
「はい」
「で、それ以外だが……聖属性魔法で覚えているものとなると……催眠?」
常時断言モードのナクンバ様が、なんでそんな曖昧表現?
「催眠? って、ふつうは生属性なのでは」
「うむ。我もそう思うが、相手が眷属ならば使えるようであった。だが、使っていたのは、その魔法使いのみだ。ほかに思いだすといえば……壁を張っておった者もおるな」
「壁?」
「魔法障壁だ。食ってみたことがあるが、美味かった」
……それ、食べていいものだったんでしょうか? ねぇ? ナクンバ様?
その問いを言葉にできずに飲み込んでいるあいだに。
「壁を張ったのも、その魔法使いのみであったな」
「……ていうと、それぞれの固有魔法って感じなんでしょうか」
「その可能性が高い。聖属性魔法使いは、独特だ」
個性をだいじにしましょう! というスローガンがなぜか脳裏を過った。ナンバーワンより、オンリーワンを目指せ! みたいな……。
まぁ、もともとナンバーワンなんか目指してもいないけども。
「じゃあ、ほかを参考にするわけにも……いかないんですね」
「諾」
そこは「諾」しないでほしかったなー! 「否」してほしかったなー!




