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520 ウィンクが返ってきた……さすが東国男!

 すごく……しんみりしてしまった。


 ……いやいやルルベル、しっかりしろ! 過去は過去、今は今。これからのことを話さなきゃ。


「ハル様はもう、参加してくださることはないでしょうけど……校長先生は?」


 わたしが問うと、エルフ校長は笑みを深めた。


「有言実行、ですね」

「はい?」

「以前も誘われましたね? そのとき、僕は断りました。すると、君は……『またお誘いします』と」


 あー……ちゃんとは覚えてないけども、お願いしたかも? ていうか、いいそう〜! わたしっぽい!

 エルフ校長は少し眼をほそめて、わたしの頭を撫でた。そして、びっくりしているわたしに、静かに告げた。


「いいでしょう」

「……え」

「行きますよ、さいごまで。君とともに。ただ、危ないときは君を逃がすことを優先します」


 そこは覚えておいてください、と。エルフ校長は微笑みを崩さないままだったけど、わりとガチの本気って感じではあった。


「わかりました。頑張って、危なくならないようにしますね」


 わたし自身はポンコツだけど。危機意識の鬼であるリートや、物理最強の上に魔法もけっこう使えるナヴァト忍者が常時同行しているのだ。そこに、エルフ校長が追加されたわけだし! そう簡単に、危なくはならないだろう……たぶん。


「ちょっと危なくなった方が、遠くへ退避させてあげられる……と思ってしまいますけどね。でも、君は自分の使命に忠実だ」

「それはまぁ……しかたがないですよね?」


 聖属性じゃないと、魔王を封印できないんだし。

 魔王を封印できないままだと、世界は荒れ狂うわけだし――ちょっと遠くに逃げましたってだけで、平穏な生活なんて送れるはずもないんだから。

 わたしの消極的肯定を微笑みで流し、エルフ校長はこういった。


「ルルベルは今日はもう戻った方がいいでしょう。リート、撤収の指示はまかせます」

「はい」

「僕は、もう一体の巨人の様子を見てきます」

「えっ……校長先生も戻られた方がいいのでは?」


 エルフ校長だって、けっこう疲れてるでしょ! わたしはもちろんだが……ぶっ倒れたくらいなので、疲労感はハンパないが!


「いえ。通常の兵力で、巨人と対峙するのは困難ですからね。少し手伝って来ます」

「でしたら、これを」


 リートがポケットからワサワサと聖属性の呪符の束を出した。

 エルフ校長が妙な顔をする――僕には必要ありませんが? って感じだな!

 だけどリートは動じない。


「守備兵に渡せば、なんらかの形で活用するでしょう。防護柵がまだ残っていれば、貼り替えもできます」

「……なるほど。わかりました、預かります。では、気をつけて」


 エルフ校長は風に乗って消えた。

 ……やっぱエルフの空間移動、反則級だよね? ジェレンス先生の虚無移動は、なんかこう……世界のことわりを踏み倒してます? みたいな感覚が、あの虚無だと思うから。逆に、納得いくんだけど。


「では撤収しようか」


 例によって、二班に分けて移動することになる。……風属性が使える魔法使いの追加を願い出るべき? 東国セレンダーラの魔法使いさんに、負担かかり過ぎてない?

 わたしの班はナヴァト忍者と央国ラグスタリア組で、二班目より少人数。安全性重視、ってことらしいけど……。


「あの、お疲れではないですか?」


 東国の風属性魔法使いさんに声をかけると、爽やかな笑顔とウィンクが返ってきた……さすが東国男!


「聖女様のお役に立つと思えば、全然なんともありません」

「ご無理はなさらないでくださいね。……風属性の魔法使いの増援をたのんだ方がいいでしょうか?」

「いえ、ふだんはエルトゥルーデス閣下もいらっしゃいますし」


 エルトゥルーデス閣下……?

 ……あっ、エルフ校長か! たしか公爵だし、それで尊称が閣下なのか……。


「でも、今みたいなこともありますし」

「聖女様は、僕ではご不満ですか?」


 苦笑しながら返されてしまったー!

 そ、そう来るか。プライド的なものに抵触したってことか。


「いえ、とんでもないです。ただ、今日明日で終わる任務というわけでもないですから、お疲れなのではと思って」

「おやさしいお言葉、ありがとうございます。ですが、これが僕の仕事ですから」


 にっこりされてしまうと、それ以上の追求もどうかって感じなので……撤退。

 でも一応、あとで誰かに相談してみようかな。魔法使いとしてのレベルが低めのわたしなので、風属性魔法を使っての多人数での移動が、どれくらい負担になるかさえ把握できてない。

 優秀な指揮官だったら、部下の限界も把握してるんだろうな。誰にどれだけ魔力があるかだけじゃなく、どの魔法を使ったらどれくらい魔力を消費する……ってところまで、経験的に知ってる必要がありそう。


 そういうの、ハーペンス師は得意そうだな、と。なんとなく、そう思った。

 ジェレンス先生は……不得意とまではいわなくても、あんまり適性なさそうな気がする。偏見かもだけど、ジェレンス先生って強過ぎるじゃない? 自分でなんでもガッ! とか、バッ! みたいな感じで終わらせちゃいそう。知識と経験はあるんだろうし、指導も実はうまいけど……実戦だと、他人を使うより自分が行くのが早い、ってならない? なるでしょ。


 なんてことを考えてるあいだに、お城に到着。今回はエルフ校長移動じゃないので、部屋に直接というわけにはいかない。

 見てるひとたちに聖女スマイルをふりまきつつ部屋に戻るわけだけど、疲れるね、これ……。

 前世でなんとなく見てた芸能人とか皇族の皆さんとか、マジですごかったんだな! スマイルを崩さないって、大変だよ。


 部屋に戻って落ち着く暇もなく――つまり、リートやナヴァトが報告に赴く前に――ハーペンス師、襲来。


「聖女殿、首尾は?」

「校長……エルトゥルーデス様の活躍で、巨人を一体、倒しました。エルトゥルーデス様はそのまま、もう一体の様子を見に行かれました」

「なるほど。しかし、いくら彼がエルフで有能な魔法使いであっても、ひとりで倒せたわけではないでしょう」

「微力ながら、わたしもお力添えを」


 わたしは微力なお手伝いしかしてないよ。強力だったのは、ナクンバ様なのでな!

 ハーペンス師は、ふうんって顔をしている……信じてなさそう。

 いやまぁ、それはいいわ。ちょうどいいから、風属性魔法使いの件を相談しよう。


「ところで移動についてなのですが……」


 わたしが懸念を伝えると、ハーペンス師は笑顔で答えた。


「ファランスですね。奴は魔力総量と回復力が、信じられないほど高い。だから、平気ですよ」

「……ファランス?」


 それはファビウス先輩の偽名じゃなかったっけ?


「彼が、ほんものです。名前を貸さなくてよくなったので、さっさと入れ替わりました」


 な、なるほど……。いわれてみれば、背格好とかファビウス先輩に似てるかも。髪色も、変装してたときの色と同じだし。


「でしたら、安心しておまかせしますね」

「そうですね……運ばねばならない人数を考えると、もうひとりいた方が便利だろうとは思います。必要なときは、補助要員を遣りましょう。おっしゃってください」

「わかりました」


 ハーペンス師の言葉遣いが丁寧過ぎて、なんかこう……むずがゆい。どうせリートとナヴァトしかいないんだから、もっとふつうに喋ってもらっていいのにな。

 ……と、そこへエルフ校長が帰還をキメた。エルフの空間移動、ほんと無法!


「先生! 大丈夫でしたか?」

「僕は平気ですが、現場はまずいですね」


 ちょうどいい、とエルフ校長はハーペンス師に視線をやった。


「部隊の入れ替えをしないと、保たないかもしれません。手配を」

「何人いました?」

「戦闘可能なのは五十四名。医官は健在ですが、助手が生属性魔力を使い切ってしまっていて――」


 そこで、エルフ校長は言葉を切った。扉の方に、かるく顎を動かしてみせる。


「――本営で話しましょうか。ここで話しても、二度手間になりかねませんしね」

「わかりました。では、巨人討伐の話もついでに報告願えますか」

「問題ありません」


 ちら、とエルフ校長はわたしを見て、微笑んだ。大丈夫ですよ、というように。

 そのまま、大人ふたりは部屋を出て行ってしまい、わたしはソファに腰を落とした。もうね、腰掛けるっていうより、がっくりいった感じ。


 疲れた……。

 戦力にはなったと思う。今日のわたしはよくやった。自分で自分を褒めていい。


 ……でも。

 こんなのが何日もつづいたとして、やっていける?


「ナクンバ様、魔力の残量はどんな感じですか?」

「ふむ? そうだな、巨人を燃やす前の半分といったところか」


 半分。

 残った巨人をまたビームで焼き尽くしたとして、そのあとは?

 わたしたちが戦わねばならない相手は、巨人だけじゃない。それに、巨人だってまた増えるかもしれないんだ。

 もっと、考えなきゃ。考えて、考えて、考え尽くして……長く戦える方法を、みつけなきゃ。


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