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517 タイパにうるさいタイプか!

 というわけで、巨人の穢れ除去及び追跡の作戦行動は、翌日出立となった。

 一体は現在の居場所が不明なのと、本体がいなくなっても蓄積された穢れは残ってて、呪符では浄化しきれてないから、まずは巨人を見失った場所、に行くことになる。

 二体の内の一体だけでも、すぐ確保したいよね……。

 なお、エルフ校長が拘束した巨人の確認もしなきゃいけない。あの魔法、そこそこの永続性はあるけど、魔王復活で活性化した巨人だと抑えきれない可能性がある、って話なので。


 お供は親衛隊と護衛隊だ。

 ファビウス先輩は護衛隊を抜けたので、代わりに東国セレンダーラの魔法使いが入った。ハーペンス師の門下生だそうで、風属性と水属性が使えるとのこと。実力も、ハーペンス師のお墨付き。

 そこで、その魔法使いにたのんで、わたしはまず二体目の巨人を留めていた場所へ。エルフ校長は単独で、拘束済みの巨人の居場所を確認したのち、合流することになった。


「うわ……」


 例の、巨人に火属性魔法を使った結果、山火事になった現場に到着。

 惨憺たる状況……ただでさえ穢れの蓄積で状況がよくなかった森林が、火事の影響ですっかり弱ってるのを感じる……なんとも説明しがたいけど、感じる、としかいえない。


「浄化します」


 火属性魔法でも燃やし尽くすことができなかった穢れの蓄積を、まず浄化。今日は演出家のファビウス先輩がいないから、見た目にはわからないと思うけど……魔法使いには魔力の流れがわかるらしくて、素晴らしい、とお褒めの言葉をいただいた。

 ……ぶっぱなしてるだけ、なんだけどね。


 リートは聖属性呪符が貼ってある柵の確認と、効果切れになってる呪符の交換を担当――もちろん、ナヴァトはわたしの近くで警護にあたっている――してたんだけど、ものすごく渋い顔で戻って来た。


「全取っ替えだ」

「みんな使い切ってたの?」

「火で炙られて、水をかけられてるからな」

「あー。理解したわ」


 そりゃ、しかたないね。呪符だって、ただの紙だもの。


「穢れの処理は終わりか?」

「分厚いところは消したけど、残りは呪符にまかせようと思う。いけるかな?」


 リートはあたりを見回し、尊大にうなずいた。


「いいだろう。では追跡に入るか」


 わたしはうなずいて、腕輪に擬態しているナクンバ様をそっと撫でた。

 ここで解説しておくと、巨人はたしかに穢れを量産するとはいえ、高速で移動されると、穢れだけで後を追うのは難しくなってしまうのだ。巨人が高速移動ってイメージしづらいけど、あの大きさだからね……一歩が大きいのよ、すでに。ふつうに歩くだけでも、人間にとっては高速移動で間違いない。

 だから、山火事騒ぎなんかあったらもう、どっちに行ったか不明としか報告のしようがない状態なわけ。


 完全ではないけど浄化も進めたし、巨人がどっちに行ったのかを探るのは困難。

 ……そこで、ナクンバ様の出番である。聖属性大好き竜のナクンバ様は、魔王の眷属大嫌い竜でもあり、感知能力が高いらしいのだ。

 ただ、もちろん腕輪の擬態はつづけてほしいので……今、あなたの心に、直接話しかけています……方式を採用した。

 そんなことできるの? できるんだよね〜。ナクンバ様ってすごいんだわ。だいたい寝てるけど。

 心の中で、わたしは呼びかける。


 ――ナクンバ様、ナクンバ様。巨人が去った方向、わかりますか?

 ――無論。我がその方向にルルベルの腕を挙げるゆえ、ルルベルはこういうがよい。


「巨人がいるのは、あちらです」


 ナクンバ様に指示されるがまま、わたしは自分の手が示す方向を見た。

 ……山じゃん! むっちゃ山! しかも途中まで焼け焦げてる……。倒木が邪魔なのはもちろんだけど、焼け焦げて傾いた木がいつ倒れてくるかもわからないから、危険マシマシだよね。まぁ、これだけ焼けてると、魔王の眷属が潜んでるってことはなさそうだけど……いやしかし。

 どうすんだ、これ。


「飛びましょう」


 ……魔法があったね、我々には! つい忘れるわ……。

 例のハーペンス師推薦の魔法使い以外にも、護衛隊には魔法使いがいる。今回、護衛隊は三名を残して――念のため、ハーペンス師の行動は聖女も支持してますよ、と示すために留まってもらったのだ――全員来てるから、そこそこ大所帯。そのぶん、とれる戦術も増えてはいるんだけど。

 全員飛ばすのは……ここまで来るのだって魔法使いは人員を分けて二往復してくれてるし、魔力の残量どうなんだろう? ふだん化け物級のジェレンス先生とか、よくわからないエルフ校長とかに移動を補助してもらってるから、ふつうの魔法使いがどうなのかはわからないけど……そう何度も往復するのは難しいのでは?


「距離も不明だし、まず最低限の人数で行った方がいいだろうな」

「わたしは行くよね? もちろん」


 リートは少し渋い顔をして答えた。


「その通りといいたいところだが、校長が来るのを待ってもらいたい」

「方向を示すのは、わたししかできないよ」

「では、校長先生が合流されるまで暫し待ってはどうでしょうか」


 ナヴァト忍者が折衷案を提示してくれたので、それに乗ることにした。たしかに、なにかあったときにエルフ校長がいるかいないかでは……まるで違いそうな気がする。


「じゃあ、呪符に聖属性を上乗せしてくる」

「魔力を使い過ぎないように注意しろ」

「……リートはさぁ、聖女様を尊重する親衛隊長のふりは、やめたの?」


 一応ここ、護衛隊もいるんだけど?

 あと、柵を守るために兵隊さんも五人くらいは残ってるんだけど……まぁかれらは少々遠いから、リートの偉そうな言動が聞こえないとしても、だ。

 わたしの質問に、リートは少し顔をしかめて答えた。


「それどころじゃないからな。丁寧なものいいをするのは、時間がもったいない」


 時短主義か! タイパにうるさいタイプか! ……まぁ今までの実績からして、当然か。

 なんとなく納得したわたしに、リートはビシッと宣言した。


「俺は穢れの方を調査してくる」


 わたしの仕事が信用できないわけですね? 危機意識が確認しろと囁いてるのね? はいはい。


「じゃ、そっちはお願い」


 ナヴァトと護衛隊の数名を引き連れて、わたしは防護柵を確認した。

 近くに控えていた――つまり、この場所に元からいた兵隊さんに、ついでのように尋ねてみる。


「巨人が暴れたときから、ここに?」

「……はい」


 あらやだ……顔色悪いし、まともに食べてない? それとも穢れの影響を受けてる?

 ちょっと考えて、わたしは決断した。


「軽くですが、治癒をかけます。本営に連絡して交代要員をお願いしますが、すぐ、というわけには参りませんし」


 あっちも手一杯で、ここに残した兵のことまで頭がまわってない可能性あるからな。


「え、聖女様……?」


 などと兵隊さんたちがざわついたが、構っている暇はない。わたしは呪文を唱えはじめた――魔力量は少なめで、応急処置くらいの感覚にしよう。

 それなりに回数をかさねた結果、少しはコントロールできるようになったのだ。

 わたしが意味不明な――要は一般人が知らない言語を唱えはじめたので、皆が神妙な面持ちになる。

 薄く、薄く……と意識した結果、なんか広範囲に広がって、焼け焦げた木がちょっと復活したような気はするが……コントロールできるようになってないのかもしれないが……まぁ! 兵隊さんたちの顔色はよくなったから、結果オーライということで!


「身体が……軽くなりました」

「よかったです」


 誰かの役に立つって、実に気もちがいいことだよね!

 にっこりしてると、リートが戻って来た。……あっ、エルフ校長もいる。


「校長先生、あちらはどうでしたか?」

「まだ平気そうです。今日中にもう一体を捕捉できる可能性もありますから、あちらは放置で来ました」

「防護柵は?」

「呪符は保ってましたね。昨日、かなり強化されていたようです」


 ファビウス先輩がなんかやってたからか……それとも、わたしとエルフ校長がばんばん魔法を使ったせいか?

 まぁ、あっちに気をとられなくていいなら好都合というものである。


「山の向こうだそうですね。僕がルルベルとナヴァトを運びましょう」

「助かります」

「手分けしてもう何人かは……でも全員を一気には無理だな」


 リートが組み分けを考えはじめたところで、思いついた。


「運べないぶんは、伝令に行ってもらったらどうかな? このひとたち、巨人の襲撃があったときから居っぱなしみたいだから」

「そうなのか」


 たぶん忘れられてるんじゃ……という思いが一致した結果、双方とも口をつぐむという連携が発生した。

 少し考えてから、リートはうなずいた。


「交替か撤収か、なんにせよ上に指示を仰ぐ必要はあるな。本営までは遠過ぎるが、前線基地があったはずだ。そこまでの地理を把握している者はいるか?」


 聖女護衛隊から、二名ほどが名乗り出た。どちらも、トゥリアージェ領の出身――つまり、地元民だ。

 ひとりは魔法使いで、副属性で生属性魔法も多少は使えるとのことで、ふたりを安心して送り出すことになった。


「あの……ありがとうございます、聖女様」


 兵隊さんのお礼に、いえいえ当然のことですよ、と笑顔を返したところ。

 ザッ、と音がしたよね。気がついたら、兵隊さんが全員、ビシッと並んでる!


「聖女様に、敬礼!」


 いやこれどうすれば……と思ったけど。できることなんて、たったひとつ。

 唸れ、聖女スマイル!

 ……前線で一目置かれる聖女にならなきゃ。皆の士気を上げるためにも。


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