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515 無理やりレッドにするのはどうかな

 覚悟……。


「それはつまり、その……『ニンゲン、トテモ愚カ……滅ビテモ良イノデハ……?』って気もちになっても幻滅せず、頑張って聖女として活動するぞ! っていう覚悟でしょうか」


 わたしの問いに、ファビウス先輩は少し眼をみはってから、笑って答えた。


「うん。そう、それもあるね」


 正解じゃなかったっぽい。

 ……でも、よかった。ファビウス先輩が、笑ってくれて。元気で……ここにいてくれて。


「それも……ということは、いろいろあるんですか?」

「聖女様って存在は、すでに象徴として崇められかねない位置づけだけど、それをもう一歩、推し進める覚悟が必要かな。それ以外のことは、僕や周囲にまかせればいい」

「それ以外?」

「たとえばだけど、象徴となった君が邪魔で排除しに来る、なんて勢力もあるかもしれないだろう? でも、そこは覚悟しなくていい。僕らにまかせてくれれば大丈夫。そういえるだけの人材が、揃っているからね」

「なるほど……」


 危機意識の鬼、リート!

 物理最強忍者、ナヴァト!

 根回しの天才、ファビウス!

 長生きエルフ、校長先生!


 ……五人いれば戦隊風にレッドとかブルーとかいいたくなるところだけど、四人だからなぁ。というか、このメンバーってレッドいなくない? どうでもいいけどレッドいないよね?

 ジェレンス先生を引っ張ってきて無理やりレッドにするのはどうかな。


 いや、これ現実逃避!


「校長先生も、引き続きこちらに滞在していただけるんですか?」


 親衛隊とファビウス先輩はまぁ、常時戦力としてカウントできるだろうけど。エルフ校長は、どうなの? だって、校長業務とかあるじゃん。

 それに、なんとな〜くだけど……前に、もう対魔王戦には関与したくない、みたいな話を聞いたことがあるような……ないような……。

 ごめんね校長先生、わたしニンゲンだからちゃんと覚えてないです! でも、なんかそんな話あった気がする!


「そうですね。できる限りは、ルルベルに助力したいと思います。ですが、僕があまり前に出るのもよくないでしょう。央国ラグスタリア勢力が強過ぎます」


 あー……そういうことか。


西国ノーレタリアから誰か、引き込んだ方がいいんでしょうか」


 わたしの問いに答えてくれたのは、ファビウス先輩だった。


「友好的に接してくれそうな相手はいるけど、だからといって全幅の信頼を置くわけにはいかないかな。ルルベルを物理的に守るのは親衛隊にまかせるとして、政治交渉はだいたい僕が担当するし、いざとなったらシュルージュ様とジェレンス先生も使えるだろう」

「央国の人間なのに、ですか?」

「問題が起きている領地の領主一族だからね。しかも、ふたりとも強力な魔法使いだ。……いざとなったらというのは『力を使ってでも黙らせる』ということだよ」


 なるほど過ぎる。たしかに、敵に回したくないよな〜。わたしだって嫌だよ。


「もちろん、聖女の魔法も強く求められると思う。それこそ、君を攫ってでも自分の陣営に引き込みたいと考える奴らもいるだろう」

「でも、そんな相手のいうことなんて――」


 聞くはずない、と反論しかけて……わたしは思いだした。人質をとられたら、おしまいだということを。


「――そうですね。たしかに」

「だからまず、強く出たい。君が簡単には動かせない人物であると、知らしめた方がいい」


 ……わたし、わりと簡単に動いちゃってる気がするけども!

 まぁ、そうじゃないと勘違いしていただく方が、たしかに都合はいいんだろう……事実がどうかなんて、関係ないんだ。


「ええと……リートはどう思う?」

「君の『ニンゲン、トテモ愚カ……滅ビテモ良イノデハ……?』がなんとかなるなら、という大前提がある」

「……正確に復唱しないでいただけます?」

「大意をとって、『君がやる気を失わないか』と換言すればいいか?」


 そっちでお願いします。そっちで!


「ある程度は……頑張れると思う」

「それでは駄目だ。頑張り抜けないと、中途半端に終わって、余計に面倒なことになる」


 具体的にどう面倒なのかは、訊かないことにした。なんとな〜く、理屈はわかるしね……。


「ナヴァトは?」

「聖女様のおぼし次第かと。自分は、聖女様をお守りするだけです」


 こら、自意識を持て!


「そうじゃなくて、ナヴァトはどう思うかを訊いてるの」

「……正直なところ、隊長と同意見です。聖女様は、おやさしくていらっしゃるので」


 やさしい? いや、それがニンゲン愚カ展開とどうつながるの?


「自分が特別にやさしいとは思わないけど……それが問題?」

「はい。戦略を立てるときは、非情に切り捨てねばならない要素も多いです。それだけでも、聖女様には苦痛でしょう。しかも、各国の思惑で最善の策が次善へ、あるいは下策へと切り替えられてしまう場合も」


 あ〜……。ニンゲン、トテモ! 愚カ!

 なんか納得したところで、ファビウス先輩が口を開いた。


「その『各国の思惑』を調整できる存在に、なってみようよ……という提案なんだ」


 わたしはファビウス先輩を見た。


「できると思われますか?」

「やるんだよ。でないと、このままでは防衛もままならないだろう。巨人一体で、あの騒ぎだ」


 ……そう。そうだよな……巨人一体だけで、死ぬかと思ったし。あの場にエルフ校長がいなければ、実際、限りなく全滅路線に近かった気がする。

 考え込んでしまったわたしに、ファビウス先輩はやわらかな声で告げた。


「無理なら、やらなくていいんだ。リートがいうように、中途半端にかかわるのはよくない。君が確信をもてないなら、やめておこう。次善についても、考えてはいるから」


 わたしは顔を上げて、答えた。


「……いいえ。やりましょう。それが最善だと、わたしも思います」


 やるしかないんだ。超法規的というか、国境に縛られない存在になれるのは誰かっていったら、わたしだ。

 もちろん、央国出身であることは隠せないけど。王宮との関係がよろしくないことも、すでに知られているみたいだし。逆に、好都合なのでは?

 ファビウス先輩は当然、そこも勘案してるんだろう。


「無理は……することになると思うけど、絶対に、支えるから」

「はい」


 そこにリートが口を挟んだ。


「とはいえ、今日からは駄目だ。ファビウスがまだ本調子ではないし、情報収集も万全とはいかないからな」

「情報収集……」

「各国がどれくらいの兵力を出し惜しんでいるか、追加投入できそうな兵力が近場にいるか、移動するなら何日くらいかかるか……それから、魔法使いの名簿が必要だな」

「ハーペンス師が持ってる。僕の名前を出せば借りられるし、そうだな……央国一辺倒の印象を崩すためにも、ハーペンス師には協力してもらいたいな。それとなく話して、意向を探る必要がある」

「わかった。俺が行こう」


 さっと出て行ったリートを見送って、わたしは尋ねた。


「ファビウス先輩がいるのに、さらにハーペンス師の後ろ盾も匂わせる必要があるんですか?」

「僕は無名の『ファランス』だからね。さらにいえば、正体が割れた場合は央国勢力と認識されると思うよ。母国の王位継承権は返上したから、内情をよく知らない人間から見れば、関係が悪いと思われていそうだし。逆に、姉である央国の元王太子妃との関係は、悪くない……といった風に見えているだろう。央国では研究者として名があるしね」


 そういやそうだった。このひと、現在は研究所のトップクラス研究員なんだった。

 自分の研究室という名の素敵別荘みたいなところにいることが多いのは、助手が必要ない呪符の研究がメインだから、って話である。リート情報。


「それなら、基本的には『ファランス』として表に出る感じですか」

「うん。極力、目立たないようにね。君に耳打ちするだけの係だ」


 耳打ちかぁ……なんかちょっと……恥ずかしいが、しかし。


「それって、生属性魔法で伝声するんですよね?」

「そこが気になるの? まぁそうだね、その方が秘匿性が高いから、リートに頑張ってもらおう。ハーペンス師がいれば風魔法でもある程度はできるけど、生属性の方が内容が漏れづらい」

「ところで、だが」


 わたしの手首で声がした。ナクンバ様である。


「どうかなさいましたか、ナクンバ様」

「そやつがおるということは、ふわふわの寝床を期待してもよいのか?」


 ……ああ! ファビウス先輩=絶妙に肌触りが良い布って認識か!

 ていうか、あれそんなに気に入ってたのかぁ。……気に入ってたなぁ。持って来てあげればよかった。


「いや、えっと……」


 あれを持って来てるかは、わたしにはわからない。

 困ってファビウス先輩に視線をやると、にっこりされた。


「ナクンバ様は、腕輪に擬態したままルルベルの腕にいていただけませんか? もしものとき、頼れるのはナクンバ様です。できる限り、ルルベルに寄り添っていただければ、と」

「ふむ。……そうか」


 ナクンバ様は納得したようだけど、これ……ごまかされたんじゃないかな……。


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