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514 君が覚悟を決めるなら、僕が支える

 頭が興奮してて、眠れるか不安だったけど……なんということでしょう!

 横になったとたんに寝てしまい、気がついたら朝でした! ……もしかして、わたしって図太い?


 身支度をととのえて隣室に顔を出すと、真正面の椅子に腰掛けていたエルフ校長が、真っ先に気づいて微笑んだ。……アッ、まぶしい。復調なさってますね、コレ!


「おはよう、ルルベル。よく休めたようですね」

「はい……校長先生も?」

「もちろん。ファビウスは、もう半日は安静にしていた方がいいでしょうね。魔力を使い切りそうになっていたので、無茶は禁止です」


 えっ。なんで……ああ、巨人が投げてきた岩に耐えられるほどの身体強化か! 呪符に魔力を全振りしたんだな。


「禁止されちゃった」


 そう口にしたのはファビウス先輩本人だ。ソファの肘掛けにクッションを当て、少しだけ上半身を起こしている。


「当然ですよ」

「早く呪符を修正したいんだよね。寝てるあいだに、もっと強力なのを思いついて」


 転んでもただで起きないどころか、岩でつぶされかけ気を失っても、なにか掴んで目覚める天才! どうかしとる!


「メモだけなら、お手伝いします。でも、描くのはまだ駄目です。ですよね、校長先生」

「人間は書き留めておかねばならないのが大変ですね」


 ……くっ。なにも忘れないエルフらしい反応!


「ところでリートとナヴァトは?」

「ナヴァトは寝ています。僕とファビウスがどちらも弱体化していたので、徹夜で見ていてくれたんですよ」

「大丈夫なんですか」

「本人はまだ起きていられると主張していましたし、嘘ではないでしょう。でも、この先の気力と体力を養っておいてもらう必要があるのでね。説得して、寝てもらいました。リートは我々の食事を取りに行ったので、そろそろ戻って来る頃でしょう」

「リートはちゃんと寝たんですか?」

「あれは、そういう割り切りが得意ですからね。先に寝ると宣言して、さっさと寝ました。君たちも、そこは見習ってください。今後も、睡眠・休憩・食事を忘れないように」

「はい」


 ファビウス先輩とわたしが揃って返事をしたところで、扉が開いた。

 リート 〜ほかほかの食事が載ったワゴンを添えて〜


「おはようリート」


 わたしは立ち上がり、リートとともに食事の準備をととのえた。


「状況は?」


 エルフ校長が短く問うと、リートは眉根を寄せた。


「まだ魔王復活の確証がないので、各国が戦力を出し惜しみしていますね」


 そう答えてから、リートはわたしに尋ねた。


「あまり国同士の揉めごとには言及しなければ、軍議の状況を話してもいいか? よくなければ、隣室にこもってくれ」

「……大丈夫。聞かせて」


 わたしが答えると、リートはなにごともなかったかのように話をつづけた。


「報告によれば、眷属の動きがあきらかに変化しています。俺としては、すでに復活しているといわれた方がマシですね。どちらにせよ、戦力の逐次投入は下策としか思えませんが、現状、さらに兵を出すという話は決まっていません。東国セレンダーラは兵力増強を提案してはいます」


 各国のアレな話に突入する前にとでも思ったのか、リートはそこで言葉を切った。

 エルフ校長が尋ねる。


「被害は」

「巨人の残り二体は、移動をはじめています。具体的な攻撃行動も見せていて、聖属性呪符の柵は破壊されました。荒地に滞留していた個体は、ただ進みたい方へ進んだだけです。それでも被害は出たんですが、まずいのは、沢沿いに追い込んでいた個体の方ですね。あたりに生えていた木を引っこ抜いて、手当たり次第に投げてきたそうです。守備隊に火魔法の得意な魔法使いがいて、燃やして対抗したので人的な被害はほとんどありません。ただ、そこから山火事になってしまって」


 なんという二次災害!


「消火は?」

「したそうです。結果、消火作業で手一杯になってしまい、その巨人の制御は完全になくなりました。居場所は探せばわかるはずです、あれだけの巨体ですから。しかし、そこまで手が回っていません。もう一体は、守備隊が追うかたちで位置だけはわかっています。しかし、制御はできていません。防護柵を破壊されています。ジェレンス先生とトゥリアージェ伯が投入されている主戦場には、眷属が湧きまくっているそうで、追加の派兵の要請があるそうです」

「あのふたりをもってしても、殲滅が難しい量ということですか」

「そういう報告でした。兵を追加してほしさに多少盛ってる可能性はあります」


 あのふたりが揃っていても無理な状況が思いつきません、とリートは話を締め括った。

 そうか……追加兵力ほしさに盛ってしまうのか……。

 盛られるのも困るけど、プライドを守るために情報を歪められるパターンなんかもありそうだよなぁ。そっちの方が、困る度が高そう。

 それはそれとして、ジェレンス先生とシュルージュ様への信頼度の高さよ……!


「眷属が活性化しているなら、殲滅は難しいんじゃない?」

「それはな。だが、あのひとたち――殊にジェレンス先生の魔法は殲滅向きだ。雑だし」


 えっ。仮にも当代最強魔法使い様を捕まえて、雑とか! ……いやまぁ、ジェレンス先生に雑なところがあるのは認めざるを得ないけども。


「たしかに、数を頼みにした敵を相手取るなら、ジェレンスは最強でしょう。シュルージュは多少、相性がありますが」


 血が流れていない相手だと、彼女の得意わざが使いづらいですからね、とエルフ校長。

 ああ……〈真紅〉様だもんね……。


「盛ってるかどうかは別として、敵が多いのは事実だろうね」


 話をまとめたのは、ファビウス先輩だった。なにか考えてるようだけど、あなた死にかけたんですからね! 安静にっていうのは、頭も休めるってことだと思うよ、わたしは!

 リートが肩をすくめて答えた。


「それはそうでしょうね」

「やはり、魔王の封印がとけたと見て次を考えるべきだと思うよ」


 全然安静にしてないね!


「もちろんです」


 あっ、リートが張り合ってる。気がする。それくらい自分も考えてますよ〜、的な?


「聖女への要請はなかったのですか?」


 エルフ校長の質問に、リートは顔をしかめて答えた。


「ありません。紛糾してるんですよ。温存すべき派と、主戦場に投入すべき派、昨日一定の成果を上げてるんだから巨人対策の遊撃隊として出すべき派、などなど。なにに関しても、意見がまとまらないままです」


 なるほど。つまり、求心力が高いというか、リーダーシップがとれる人物がいないんだな!

 各国間のパワー・バランスの問題もあるんだろうけど……。


「……シュルージュに戻ってもらう方がいいかもしれないですね。話をまとめられる人物がいないのなら」


 いやでも、シュルージュ様とジェレンス先生がいる主戦場って、そのふたりが揃ってても厳しいって話なのでは?

 ……なんてことは、全員が理解しているわけで。

 暫しの沈黙。あーもう、役に立つこと考えられない自分が不甲斐ない! でもぶっちゃけ、軍の動かしかたも人心の統率のしかたも習ってないし、無理!


「ルルベル」


 わたしの名を呼んだのは、ファビウス先輩だった。


「……はい?」

「やってみようか、軍議」

「……はいぃ?」


 ちょっと変な返事になってしまったのは、許してほしい。

 常時冷静なリートが、真っ当な反論を述べた。


「ルルベルには無理です。各国間の調整などの話は聞かせないことになっています。やる気維持のために」

「うん。でも『聖女様』が出るのがいいんだ。その調整のためにもね。一応、央国ラグスタリアの人間ではあるけども、王宮であらためて属性判定を求められたって話はすでに知られている。ハーペンス師も、その周りも知っていたくらいだ」


 ……そんな話を知られているのもいかがなものかと思います! 諜報活動ですか? いやべつに隠されてる話じゃなかったしな……そうか……チェリア嬢が呼び出し予告を受けたのは何日か前だから、そっからもう漏れてるのか……。

 そんなに頑張らなくても諜報員が手に入れられる情報だった!

 今のこの状況で、聖女の真贋に興味ない国、ないよね……。

 聖女護衛隊の騎士さんたちが、あんな風に……あらためて忠誠を誓うようなことしたの、そういう流れでしょ、とはいわれてたけど! マジでそうなのかー!


「つまり、自国の最高権力との関係は、あまりよろしくないと見られている」

「……実際、よろしくはないです」

「それが使える。公正に判断した結果です、と押し切れる。巨人と戦ったときの印象も、よかったはずだよ。あの場にいた兵の話は、じわじわと広がっているだろうね。つまり、ルルベルには現場からの人望と、間違いなく聖女だという信頼が集まりつつあると見ていい」


 ファビウス様は視線を上げて、わたしもみつめた。


「君が覚悟を決めるなら、僕が支える。意見をどうまとめるかについては、まかせてくれていい。……これが最善手だと思うけど、どう?」


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