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508 変装してても、さすファビ!

 シュルージュ様は城内にはいらっしゃらないので、ウィブル先生の信じられない長距離通信で確認をとった上で、城内に残っている幕僚に話を通しに行った。リートが。

 いやしかし、ウィブル先生のこの魔法、どうなん? ねぇ、どうなん?

 スマホがなくてもウィブル先生がいたらそれでよくない? あっでも写真撮れないな……さすがのウィブル先生も、写真みたいな魔法は使えないだろう。……網膜に焼き付けておこうかって提案されそうな気はするけども。


 くだらないことを考えているあいだに、リートが許可をもぎ取って戻ってきた。

 護衛隊の皆さんも、ついて来ることになったよ……人数は絞ってもらったけど。ちゃっかりファビウス先輩が含まれているのを確認して、少し気もちが上向いたことは、許してほしい。


 というわけで、行きたくないけど行くことになりました、巨人のところへ!


「皆さん、集まってください。大丈夫ですね?」


 どういう理屈か知らないけど――エルフの魔法だからマジわからん――エルフ校長がいうには、接触なくても範囲にいれば平気とのこと。

 集まったのは、聖女つまりわたしと親衛隊メンバーにプラスして、護衛隊の各陣営から一名ずつ。東国セレンダーラからはファランスって名前のファビウス先輩、西国ノーレタリアからは騎士一名、央国ラグスタリアからも騎士一名、そしてトゥリアージェからはウィブル先生である。

 エルフ校長を入れて八名、偵察に行ったことがあるという央国の騎士の記憶を読んで――どうやって? エルフの魔法、マジわからん!――移動先を固定、では参りますよ、と。

 しゅっ!

 虚無がない、瞬間移動の完了である。


「うっ」


 空気の悪さに思わず声が出たけど、全員似たようなものだったから、まぁ……そんなもんだろう。

 三匹の巨人で、いちばん近い場所にいる個体のところに移動したわけだが。


「すごい瘴気……。これ、アタシの魔法じゃどうにもできないわ」


 ウィブル先生、いきなりの敗北宣言。

 まぁ、呼吸器をいじっても、そもそも綺麗な空気というものがございませんので……疑似的な防毒マスクを魔法で生成するにしても、巨人が生じさせる穢れというやつを、どう定義するかって時点からスタートだろうしなぁ……。うまく定義できたとして、それを無効化する手段があるかっていうと、厳しそう。

 だから聖属性が必要なわけだし。


 これは例の杖の使いどころか? と、エルフの里のお宝を取り出しかけたけど、ちょっと待て。

 杖は強い。使ってないけど強いはずだ。それはいいけど、わたしの魔力は乏しいのである。

 本命に使う前に魔力切れを起こしていては、話にならない。自重だ自重!


「柵の方に行きましょう」


 聖属性呪符をべったべたに貼った、巨人追い込み用の柵を発見し、わたしが指示。皆ぞろぞろとついて来るけど、顔色が……さっきまで健康そうだった皆さんの顔色が! 灰色に!

 エルフ校長でさえ、なんか萎れてる。

 わたしも灰色になってるのかもしれないけど、あんまりそんな感じはしない……こ、これが聖属性パワーってやつ?


「呪符の消耗がひどい」


 一瞥いちべつして、ファ……ファランスだけどファビウス先輩がつぶやく。あ〜、久しぶりのお声〜!

 なんてのはともかく、近寄って確認すると、たしかに……。せっかく描いた紋様が欠けたり、なんだろう……焼き切れたっていうか? 火が出てるわけでもないのに、焦げたみたいになって図形が乱れている。

 つまり、きちんと性能発揮できてないんだ。


「校長先生」

「どうしました?」

「この柵、木製ですよね。これに呪文かけて生き生きとさせる……って、可能ですか?」


 エルフ校長は眼をしばたたいて、ちょっと考えるようにした。

 ……なんか珍しいものを見た気がする。


「そうですね、やってみる価値はあるかもしれません」

「じゃあ、やってみます。監督お願いします」

「ルルベル、君の信じるままに。万一のことがあれば僕が止めますし、引き戻します」


 叔父さんの力は借りませんって感じの宣言、心強いですね!

 では。久しぶりだけど、飽きるほど唱えたからちゃんと覚えてるぞ。


「皆様は、少し距離をとってください」


 念のため。呪文を使うこと自体は問題ないけど、万象の杖が反応してなにか起きたりしても困るからね……わたし、ちゃんと考えて偉い!


 まずは気もちをととのえて――ここが気を抜くと吐きそうなほど空気が悪い場所だなんてことは考えず、でもそれも認めて、世界はわたしで、わたしが世界で、空を流れゆく雲も、地面のどこかで枯れ朽ちていく草の根も、なにもかも――あるがまま。

 どこまでも広がっていく……。


   消えた子どもはどこに?

   消えてはいないよ、ここに

   流れた涙はどれくらい?

   流れてなどいないよ、少しも

   失われた血は、どうしたの?

   失われてなどいないよ、はじめから


 魔力が世界に馴染んでいくのがわかる。その逆も。

 自分というものがなくなって、わたしはすべてを知る。吹く風も、その風が運ぶ空気も、その中に含まれるすべてを理解する。なにもかもが、わかる。

 わかってしまう――。


 気づくと、わたしは呪文を唱え終えていた。

 さんざん訓練したから、文言もんごんを勝手に変更したりはしていない……はず。

 身体がやけに重く感じたし、自分がここにいることが当然のような、そうではないような微妙な気分だったけど、でも。


 そんなの、どうでもいい。


 空気は綺麗になり、聖属性呪符を貼った防護柵は……わっさわさになっていた。緑の葉が茂ってる!

 根は生やしていないかと、まずそれが心配になって地面を確認する――視認できる範囲ではなさそうだけど、大丈夫? かな? なら、移動も可能そう。

 鉢植えの植物ではなく、植物から造られた柵本体を成長させるという謎展開ではあるが……少なくとも、空気清浄機能はあるみたい。成功してよかった〜! どれだけ保つかは不明だけど、当面はこれでいいよね。

 魔力もそんなに使い過ぎた感じはしない。あれだけ訓練したんだから当然かもしれないけど、ちょっと嬉しい。

 呪符が貼ってある場所は葉っぱも茂らなかったらしいけど、図形が受けたダメージが修復されていたりはしない。まぁさすがに、そこまでは無理か……そんなこと望んでなかったしなぁ。


「聖女様……」


 ふり返ると、騎士のひとりと目があった。護衛隊の……えっと、どっちかの国の騎士だ。たしか西国?

 騎士はさっとマントを――そう、黄色いマントだから間違いない、西国の騎士だ。派手な色だなと思ったんだよね――跳ね上げるような動作をし、その場で跪いた。

 ……はい?

 と、もうひとりの騎士――これは我が国の騎士ですな――も、それにつづいた。

 ……なんで?


 当惑するわたしに、ナヴァトがさりげなく小声で教えてくれた。


「聖女様に二心ふたごころなくお仕えすることを誓っているようです」

「え、なんで」

「本物だと思い知ったのかと」


 あー……。

 そうか、わたしってば王宮に呼び出されて、属性判定受けさせられるとこだったんだもんな。そりゃ、我が国から派遣された騎士には、胡散臭い小娘に見えていたことでしょうよ……。そして、西国の方も同じだったと。まぁそうね。たぶんそう。

 わかるわ〜。胡散臭いよね!

 わたしだって、君らの立場ならたぶん疑う! 見た目はこう……普通だしな。愛嬌はあると思うよ。看板娘やってたから。でも、それも聖女のイメージじゃないよねー。


「立たせてあげたいんだけど、なにか作法ある?」


 ナヴァト忍者が答えるより先に、ファビウス先輩が動いた。ファビウス先輩扮するファランスくんは魔法使い枠であり、騎士みたいな所作はしない……と思う。


「聖女様、素晴らしいお手並でいらっしゃる。感服いたしました」

「いえ、そんな」

「あなた様のお手助けをすることができて、光栄です」


 にっこりされて、わたしもにっこりを返す。

 ……実はファビウス先輩だって知ってるから、なんかこう! なんかモゾモゾするッ!


「聖女様の御為おんために、我ら一同、微力を尽くす所存です」

「ありがとうございます」


 ファビウス先輩が、なにげなく騎士たちに視線を向けて、ふたりを立ち上がらせた。

 変装してても、さすファビ! 久しぶりにいったわ!

 騎士たちが待機の姿勢に戻ったところで、さすファビ先輩は話を切り替えた。


「早速ですが、そちらの柵の状況をあらためさせていただいても? 呪符魔術には、少々心得がございますので――」

「はい、よろしくお願いします!」


 茶番劇を! さっさと終わらせないと、わたしの演技力が保たない!


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