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504 それもう属性魔法の範疇超えてない?

 聖属性呪符を量産しながら、考える。

 皆で仲良くする封印……魔王にも納得してもらえる封印……むしろ幸せになる封印……?

 でも、魔王ってそんな簡単に幸せになるかな。と、いうか。魔王の幸せって、なに?

 眷属以外の存在を滅したがってるのは、わかる。過去の事例から、ニンゲン以外の生き物にもまったく容赦してないしね。むしろ、世界まるごと滅ぼしたいって感じだし。

 そんなのこっちは願い下げ! ってなると、落とし所がわからない……えー、どうすればいいの?

 誰かがわたしの思考を読んでいたら、まず魔王を幸せにするって考えを捨てろと助言してくれそうな気がするね。

 本質的には、WINーWINにしたいんだよな。……うぃんうぃん……うぃーん。


 イメージが重要なのはわかるけど、これって魔法を考える以前の段階では? つまり、魔王のイメージが曖昧過ぎるのでは?

 誰か、魔王に会ったことがあるひとに相談したい。

 相手のタイプとか……好みとか……全然わからないんだもん。敵を知らな過ぎるよ。

 頭を抱えたいところだけど、呪符作成をサボるわけにもいかないので、わたしは唸りながら手を動かした。

 聖属性呪符をばんばん貼ったら封印できる、なんてオイシイ展開はないだろうか? 呪符だけでなんとかならなくても、補助にはできるだろう……そうか、ジェレンス先生がいってた「手元に残しとけ」って、そういうことでもあるのか。


「ウィブル先生、魔王について書かれた本って、実はあまり読んだことがないんですけど……なにか良い参考書をご存じですか?」

「魔王について? あまり信憑性のあるものはないと思うわよ。魔王にもっとも近づけるのは聖属性魔法使いだけど、かれらの証言ってそんなに残ってないのよね」

「我が国の初代陛下の言行録とか回顧録みたいなものは?」

「回顧録はあるけど、魔王については書いてなかったと思うわ。ジェレンスの方が詳しいから、戻って来たときに訊いてみましょ。今つないでもいいけど、気を散らしてもよくないだろうし」


 ……ウィブル先生の生属性魔法で戦場全体通信できるの、マジだった。

 こっわ! それもう属性魔法の範疇超えてない? それこそ固有魔法だったりしない?

 こっそり怯えているところへ、リートが戻って来た。


「校長の意見も聞いた上、立ち会いのもとで、巨人を囲い込めないか試してみてはどうかという話になった。今のままだと、大量の呪符を防護柵にとられるからな……君が多少、呪符の作成を休むことになったとしても、うまくいけば今後のためになるかもしれないという判断だ。で、校長との連絡だが――君が迎えに行くのが早いだろう」

「迎えに?」


 えっ、なんの移動手段もないわたしがどうやって? ハーペンス師に術式組んでもらうとか?

 まぁ……わたしが迎えに行けば、エルフ校長は必ず来るだろうけどね! 人選としては適切だ!


「君が持たされている紙を使えばいい」

「あー……」


 ついうっかり忘れがちだけど、一方通行とはいえエルフ校長のところに行く手段は用意されてるんだった!


「ただ、ひとりでは心許こころもとない。ナヴァトを連れて行け」

「リートはどうするの?」

「俺は、なんらかの理由で君が即座に帰還できず、ごまかす必要が出た場合にそなえて残る」


 なるほど。さすがリート。危機意識の鬼!

 ウィブル先生が少し眉根を寄せた。


「校長の紙って、校長室とかに到着するの?」

「校長室っていうか……控室みたいなところです。そこに入室すると、自動的に校長先生に知らせが行くようになってると説明されました」


 校長室と続き部屋だけど、エルフの里に到着します! とは、ちょっと説明しづらい。なんか話が長くなりそう。


「アタシも同行する?」

「いや……ジェレンス先生と連絡をとる必要が出た場合にそなえて、留まってもらえると助かります」

「そうね。了解。校長と合流できるなら、まず問題ないでしょ。ナヴァト、たのんだわね」

「一命を賭してお守り申し上げます」

「そこまでしなくていいから」


 思わず、即座につっこんでしまった!


「そうそう、自分の命もだいじにね」


 ウィブル先生が加勢してくれて、ナヴァト忍者もうなずいたけど、まぁなんか……なんかねぇ。なんかあったら、ほんとに自分の命より聖女様の命! くらいの勢いありそうだよなぁ。

 つまり、わたしはなにもないように気をつけねばならぬのである!


「では、行って参ります」


 常時持ち歩いている例の紙を取り出し、便利アイテム過ぎるなーと思いながら手の上で広げて、たたみ直す。

 パン、とやる前に、ウィブル先生が。


「校長によろしく。……なにも知らせずに来てるから、叱られちゃうかも」

「えっ」

「王宮で揉めに揉めたらしくて、連絡とれなかったのよ。こっちも急いでたから」

「まさか、校長先生まだ学園に戻ってない、なんてことは……」

「あるかもしれないけど、さっきの説明通りの魔法がはたらくなら、問題ないと思うわよ。王宮の魔法防御も、エルフの魔法なら意味をなさないと思うし。ルルベルちゃんがどうしてるかは気にしてるはずだから、すぐ来るわよ。万が一、うまく合流できないとかあったら――」


 不意に、手首から声がした。


「我がルルベルを乗せ、飛んで戻ればよかろう」


 ナクンバ様! 最近とてもおとなしかったのは、静かにしてってお願いしてあったからだけど。王宮同様、ここでも「腕輪はただの装飾品」と皆に思っていてもらう方がいいだろうって、リートの判断で。

 でもそうか……そういやナクンバ様で移動できるんだ。実績あるもんな。……いや〜、すっごい派手なことになるな!

 リートが顔をしかめた。


「できれば最終手段で。出て行ったはずがない聖女が竜に乗って帰還するのは、説明をつけるのが面倒だ。とはいえ、あまりここを空けられるのも困るしな。万が一の場合、どうするかは君の判断にまかせる」

「え。それでいいの?」

「現場にいない者が、あらかじめ決めるべきことじゃない。なにが起きるかわからないんだからな」


 意外に自主性を尊重してくれたリートは、それでも不快そうではあった。危機意識がバリバリに警報を鳴らしているのだろう……気の毒に。

 わたしはリートほど危機意識が発達してなくてよかった!


「わかった。じゃあ、行ってきます、今度こそ」


 ナヴァト忍者に肘を持ってもらって、パン!

 はい、例の美し過ぎていたたまれない部屋に到着しました〜。いや〜、何回来ても馴染まんな!

 ナヴァト忍者は一瞬、硬直した。が、すぐ通常営業に戻って室内のチェック開始。……強い。あの芸術品家具を鑑賞ではなく検査してる。すごい。

 わたしはといえば、窓外にひろがる美しい緑の景色にすっかり心奪われていた。

 なんかさ〜、前よりわかるようになったというか? ただ植物が繁茂してるってだけじゃなくて、あ、エルフの領域だって感じがする。

 エルフの里があることを知ってるから、そう思うだけなのかな……。


「ルルベル!」


 いつもより勢いよく扉が開いて、エルフ校長が飛び込んできた。

 なんか久しぶりに会う気がするなぁ。そして久しぶりだと美形力が高……いやこれ外見劣化させる魔法がとけてない? まぶしっ!


「校長先生、お久しぶふぇ」


 語尾が乱れたのは、エルフ校長にハグされたからである。ハ……ハグ?

 ナヴァト忍者が止める暇さえなかったといえば、その高速ぶりが伝わるだろうか。そりゃ語尾もつぶれるわ。


「なにかありましたか。魔王はもう復活を遂げたのですか? 皆に無理をいわれたりはしていませんか?」


 ……あっ。逃げてきたと誤解されてる!


「いえ、魔王はまだだと思います。校長先生に伺いたいことがあって、お会いしに来ました」


 エルフ校長はわたしの両肩を掴み、身体をはなした。上から下までじっくり眺め、健康チェック中。

 ……健康ですよ。凄腕の生属性魔法使いがいるせいで、あれだけ呪符を描いても手が痛くなるような隙もないですよ!


「僕に? 時間の猶予はありますか?」

「何日も空けなければ大丈夫です。戻りは校長先生の魔法を期待したいんですけど……大丈夫です?」

「どこに」

「トゥリアージェのお城に部屋をいただいているので、できればそこに」


 ふむ、とエルフ校長は少し考えるようにしてから。


「リートはいますか?」

「外に出ることもありますけど、まぁいます。あと、ウィブル先生も」

「なるほど。リートに連絡をつければ、道をつくれるでしょう。問題ありません」


 ウィブル先生じゃなくて、リートなのか……。

 なにか、あらかじめ魔法をかけてあったりするのかな。もともと、リートってエルフ校長の依頼でわたしを見張ってたりしたんだもんな……今は報酬の関係で、すっかりファビウス先輩の密偵っぽくなってるが!


「それで、僕は君のために、なにをすれば?」


『嘘つき魔術師の、まことの言葉』に、イシュダヴァ視点の語り直しを追加中です。

SNSで先行連載して最後まで書いてあるものを、推敲・校正しつつ、こちらへ転載(連載)となります。


『嘘つき魔術師の、まことの言葉/嘘つき魔術師の、まことの心』

https://ncode.syosetu.com/n4998ko/

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SNSで先行連載中です
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