表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/523

49 はじめて行った街でソーセージをいただく

 結局、食事は知らない街でとることになった。

 知らない。街。つまり、王都じゃない!

 王都を出るのは、はじめてだ。いや、厳密にいえば数日前にエルフ校長によってエルフの里に拉致された体験があるが、あれは部屋から出てないからカウント外ということで……。学園内判定にしておきたい。なんかこう、気もち的に?

 まぁ、現在地である。

 その街は川沿いにあった。丘の上には古めかしいお城。誰も住んでなさそうっていうか、崩れている部分もあって、ほぼ廃墟。街の方は、聖なる神を祀るための聖堂が目立つ以外、小ぶりな建物が多い。高くても三階、四階建てくらいかな。だいたいは二階建て。川向こうにも市街地があって、大きくて優美な橋がつないでいる。


「ここは、ルレンドルという街です」


 ラ行が多い。うちの両親が好きそうな名前だ。


「綺麗な街ですね」


 そう。率直にいって、王都よりずっと小綺麗なのだ。清潔で、さっぱりしてる。王都って、人が多いせいだと思うんだけど、ごみも多い。汚いところは、ほんとに汚い。でも、この街にはそういう場所がないようだった――上空から眺めているので間違いない。


西国ノーレタリアでは、かなり歴史の古い街ですね」


 はい? 西国っておっしゃいました?

 ……皆様ご存じだろうか。我が母国は央国ラグスタリアである。西国って……外国じゃん!

 はじめて王都を出たどころか、出国までしちゃったよ! えっ、エルフ校長、昼食の場所選びが自由過ぎない?

 エルフ校長とわたしは、橋の上に降りた。通行人に注目されてないのが不思議……なんらかの魔法を使ってるのかもしれないけど、それよりなにより、今の問題は!

 膝が笑っちゃって、まともに立つのが難しいということだ!


「大丈夫ですか、ルルベル」

「大丈夫です、すぐ慣れます!」


 そういわないと、アレだろ。どうせ三回めのお姫様抱っこくるだろ! もういいから。ほんと、もう! いいから! たしかに皆様イケメンでいらっしゃるけど、べつに恋愛関係でもなんでもないイケメンに抱っこされる趣味、ないから!

 エルフ校長は、そういうことなら、と見守りモードに入ってくれた。このへん、年の功だよな……。さすが、ご長寿さんである。


「この橋の上で食事をするのが、気もちよくてね」

「え、橋の上で?」

「ほら、店が出ているんですよ」


 いわれてみれば、橋の複数箇所に四阿あずまやのような構造物があって、その周りにテーブルや椅子が並んでいる。オシャレなカフェっぽい。


「この街は、ワインの生産でも有名でね。ここに来ると、それが楽しみなんですよ。ああ、あなたには勧めませんが」

「魔法使いは肝臓に気をつけるように、ウィブル先生にご指導いただきました! 校長先生は……?」

「人間は気をつけないとね。でも、僕はエルフだから」


 そういって、エルフ校長は悪戯っぽく笑った。

 えっ、そういうものなの?


「エルフは違うんですか。さすがですね」

「いや、違わないみたいですよ」


 ……ひょっとして今のは、軽い冗談かなんかでした?

 愕然としたわたしに、エルフ校長はさらに笑みを深めた。


「信じやすいですね、ルルベルは」

「だって、校長先生がおっしゃることだから……」

「僕を信じてくれるのは、嬉しいことですが。でも、心配になってしまうな」


 そういって、エルフ校長はわたしの顔を覗き込んだ。ぐっ……そんな距離詰められると、どうしたらいいのかわからない!


「大丈夫です! 騙されても踏まれても立ち上がりますから!」

「僕としては、騙されたり踏まれたりされてほしくないです」


 エルフ校長の手が、わたしの頬を撫でた。そのまま顎に……えっ、これ顎クイッってやつじゃない? なんでこうなる。なんでこうなる!


「校長先生、元気に立ち上がるためには、そろそろ腹に物を入れる必要があります!」


 わたしが主張すると、エルフ校長はわずかに眼をみはり、それから笑った。


「そうですね。そうしましょう。エスコートさせてください」


 ええ……エスコートくらいなら、喜んで。ていうか、まだ若干、足元がおぼつかないので、たのみます。これ、マジきつい。

 さっきまで誰にも見られていなかったのに、もうそうではないようだ。そう考える根拠は複数あるけど、わかりやすいのは、エルフ校長に見惚れてる男女がいることじゃないかな!

 どうぞと椅子を引いて座らせてくれた席は、とても眺めがよかった。料理もエルフ校長が適当に選んでくれて、なんていうか……慣れてるよなぁ。そりゃ何百年も生きてらっしゃるんだから、当然なんだろうけど。どこにいても揺るがない感じが、うらやましい。

 有言実行でワインのグラスを傾けつつ、エルフ校長は微笑む。


「このあたりは、葡萄がよく育つのですよ。日当たりのよい斜面に、ゆたかな水。水が多いと気温が安定するのは知っていますか?」

「土より水の方が温度が変化しづらいとか……そういうのですか?」


 前世知識によれば、大陸がある南極の方が、海しかない北極より寒いはずだ。陸と海で差が出るのである。


「そうです。さらに――」


 エルフ校長は、ワイングラスを目の前に掲げた。蜜のような色合いの白ワインが、ゆらりと揺れる。


「――この土地には、エルフの恵みがある」


 わたしは眼をしばたたいた。なんて?


「ここ、エルフの街なんですか?」

「まさか。人間の街ですよ。近くに、エルフの里があるのです」


 ……そういうことか!


「エルフの里が近いと、農産物に影響が出たりするんですか?」

「農産物に限りません。我々の種族が暮らしているというだけで、自然の恵みが強くなる。植物はよく育ち、風は清らか、気候はおだやか……といったことが起きるわけです」

「じゃあ、学園内もなにかこう……あるんですか?」

「学園内?」

「校長先生が、いらっしゃるから」


 エルフ校長は、小さく笑った。子どもの勘違いを微笑ましく見守る大人の笑いだ。


「僕ひとりでは変化など、なにも」

「校長先生といると、なんか安心するので……エルフ効果なのかと思いました」

「空を飛んでいても?」

「それは無理です」


 即答したら、それがまた面白かったらしい。エルフ校長は、屈託のない笑みを見せてくれた。こういう笑顔は、いいなぁと思う。いいなぁとは思うが……恋愛感情じゃないんだからね! そういう雰囲気じゃないからね!

 そこへ料理が運ばれてきて、さらに、そんな雰囲気ではなくなった。


「ここのソーセージは、とても美味しいそうですよ」

「校長先生は、お食べにならないんですか?」

「僕は、避けられるときは肉は食べない方ですね」

「エルフだからですか?」

「大雑把にいえば、そんなところです。ただ、エルフが肉を食べないというのは誤解ですけどね。もちろん、あなたは遠慮せず食べてください」


 ありがたく、焼きたてのソーセージをいただく。炭火で焼いているのが見えていて、もう匂いがたまらなかったんだけど、いやぁ……アツアツのジュウジュウでハッフハフだよ! やばいこれ! 怖い思いをして初出国した甲斐がある美味しさ!

 付け合わせの焼き野菜も、いい。塩がふってあるだけなんだけど、すごくいい。これも近場の栽培? エルフの里効果なんじゃないの? 野菜ってこんなに美味しかったっけ?

 あとパンね、もちろん。かるく炙ってから、すなわち焼きたてっぽい状態で出てくるんだよ、最高か!


「食べながら、聞いてください。央国の王族は、あなたを取り込みたがっています。これはもう、間違いなく」


 ……食べ終わるまで、そういう話は待っていただきたい気がしないでもない!


「そうなんですか」

「魔王の眷属が目撃された件について、まだかれらに報告はしていません。僕からはね。でも、眷属の動きが活発なので、かれらも気づいたようです」


 王族の問題より、眷属の動きが活発な方が気になるよ!

 まだ自分の身体を覆うのさえ完璧にはできてないんだけど……間に合うのか、わたし。


「ファビウス研究員を招いたのは、王族を牽制する意味もあったのですが……失策だったかもしれません」

「え?」

「彼が本来、東国セレンダーラの王子であることは知っていますか?」

「あ、はい……一応。友人に聞きました」

「央国と東国の関係が、悪化していることは?」


 ……ねぇ、ほんと、食事が終わってからにしてくれませんか!?


土・日は、なろうの更新はお休みです。

よい週末をお過ごしください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNSで先行連載中です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ