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480 綺麗な言葉で言い換えなくていいよ!

「はい。わたしも、そう思います」


 迷うことなく肯定の返事をすると、エルフ校長もうなずいて、言葉をつづけた。


「殿下は呪文には向いていないですね」


 ……えっ? 似てないポイント、そこ?

 いやまぁ、エルフ校長にとって重要なのは、そこなんだろう。デフォルトで浮かべてる微笑を消して、真剣につづけるほどだから。


「魔力がないと呪文は使えませんが、魔力がある人間は自我が肥大しがちなのです。おのずと、世界と一体化することを求められる呪文とは相性が悪くなる――ルルベル、君は理想的な呪文の使い手なのですよ」


 ……なるほど?

 イメージが重要な魔法使いの世界って、自分を信じられる超ポジティヴ・シンキング人間の方が向いてて、必然的に自信過剰野郎――つまり、ジェレンス先生やリートのようなタイプ――が、実力派になるわけだ。

 魔力がある子どもは、そのルートに乗るように教育を受けるんだろうな。

 だけど、平民で魔力の種類どころか有無さえ曖昧なまま育ってしまったわたしは、自信なんてない。それが今、呪文という技術への適性として評価されている……。

 わたしのようなタイプ、実は希少価値が高いのか。

 平民組は、リラを筆頭に自信少なめの生徒も多いけど、貴族の皆さんは自信満々だもん……。そういう風に見せなきゃいけない、という教育も受けてるのかもしれないけど。


「自分の魔法に自信がない方が、呪文には向いているということですか?」

「端的にいえば、そうなりますね」

「だったら……シスコも行けそうなのかな……」


 少々失礼なことを、思わずつぶやいたけど。すかさず、エルフ校長に釘を刺された。


「僕が呪文を教えるのは、君だけですよ」

「あ、はい……」

「それと、シスコ嬢は最近、徐々に自信を持ちはじめています」

「はい……」


 友人をかろんじる発言をするつもりでは! なかったんだ!

 ……でも、つもりがなかった方が、罪深い気がするな。ナチュラルな感覚ってことだし。ううう。

 それはそれとして、最近のシスコの様子をあんまり知らないんだなということも、思い知ったよね。やはり昨晩、寮に遊びに行くべきだったのか! どうせファビウス先輩、いなかったんだし。心配させるどころか、わたしが心配してるんだし。


「ルルベル、君はもう呪文に入り込むことができています。ですから、次は自信が必要なのですよ」

「え?」

「魔力の制御ができる、という自信です」

「はぁ……」


 たしかに。

 呪文を唱えられる、効果を期待できる――ここまでは、もうわかってる。

 でも、魔力のコントロールに関しては、全然だ。

 ……全然ダメダメって感覚してるうちは、うまくいくこともないって話かぁ。

 でもでもでも! ダメなものはダメなんだもん! 魔力制御、昔よりはできてるはずだけど。あくまで、完全ノーコンだった昔よりは、ってレベルだと思うし。


「では、午後も頑張りましょう」

「はい……」

「急に自信を持てといわれても無理でしょうから、回数をこなして感覚を掴みましょう。そのための特訓です」

「はい……」


 そういう感じで、午後もわたしはお花畑の作成にいそしむことになった。

 出力低めで安定させるという課題をもらったせいもあり、花畑はさほど拡張せずに済んだので、少々ほっとしたよね。終わったときにさ!

 昨日は絶望的な聖属性植樹祭をヤッチマッタからな! 目立たないはずの植樹が、悪目立ち聖属性空間になっちゃった事件……。

 エルフ校長も気にしていたらしく、今日は結果にご満悦のようだ。


「これなら、環境の変化もあまりないでしょうね」

「昨日の木立って、評判になったりはしてないですか?」

「人間のあいだでは、まったく。人が近づくような場所ではありませんから」


 たしかに、人間が立ち入った形跡はほとんどなかったけども……。


「でも、人間が来たからエルフが去った、みたいなことじゃなかったんですか? 里がなくなったのって」

「あの場所は違います。大暗黒期に魔王の勢力が強くなり過ぎたため、移住を余儀なくされたのです」


 お、おぅ……。大暗黒期かぁ。

 聖属性の奪い合いになったせいだもんな、ニンゲン、愚かでゴメンナサイの巻だな……。


「エルフには、聖属性の魔法使いは生まれないんですか?」

「エルフは属性魔法の概念とは別枠ですからね」


 あーそうか。エルフの魔法って独自魔法だった……。


「それでも、魔族とは戦えるんですよね?」

「はい。ですが、魔王封印は不可能です。それは、聖属性のみが可能な魔法ですから」

「その封印魔法って、どんな魔法なんですか?」


 もっと前にちゃんと確認しておくべきだった気がするけど、ちょうどいいので訊いてみる。

 と、エルフ校長は少し憐れむような眼差しをわたしに向けた。

 ……えっ。なにこれ?


「それは、聖属性魔法使いひとりひとりで違うものなのです」

「え? なんですか、それ」

「ひとりひとり、違うのですよ」


 くり返されても、わかんないもんはわかんないですが?

 宇宙猫とまではいわないが、けっこうそれに近い顔をしているであろう生徒を、憐れんだらしく。エルフ校長は、もう少し詳しい説明をしてくれた。


「封印は、魔王と世界の関係を一時的に断ち切るものです。それをどう観想するかは、聖属性魔法使いそれぞれの個性、ものの見かたに依存します。結果、封印魔法も個々人の想念に従い、独自のものとなるわけです」


 ……宇宙みが深くなった。

 いや、宇宙みなんて言葉があるのか知らんけど。でも深まった!


「あの……」

「はい」

「つまり、なにか決まったものがあるわけではなく」

「はい」

「毎回、聖属性魔法使いが適当に?」

「臨機応変に」

「思いつきで?」

「心のおもむくままに」


 綺麗な言葉で言い換えなくていいよ!


「適当に……」


 わたしはお花畑を眺め、まだ見ぬ魔王を想った。

 魔王ってどんなカタチしてるんだろう。

 乙女ゲームとかだと、たぶん美形。万が一、一見するとそうじゃなくても実は美形。二周目は攻略対象、とかそんなんじゃないの? 少なくとも、前世でわたしが読んだ小説ではそうだった。

 でも、この世界に二周目は存在しないだろう。

 魔王は攻略対象にはならないし、美形でも美形じゃなくても関係ない。

 ……なにを考えてるんだ。逃避してる逃避してる!


「適当……」


 そういうのさぁ。苦手なのよ。

 いやね? わたしも適当なことやるわよ? やるけど、それって自分がわかってることに関してじゃん。

 レシピとかでさ、「塩適量」みたいに書いてあると、わっかんねーよ! ってならない? 今生ではレシピなんか見ないけどさ。親からの口伝くでんかなんかだけどさ。

 いや、いいたいことはレシピじゃないの。

 そのそれ。「わかるだろ、シスター」みたいなやつ!

 わ……っかんねぇぇぇよ!


「ルルベル、難しく考えることはありません。直感に身をゆだねるのです」


 そんな不確かなことで魔王と対峙せよと?


「……自信ありません」


 自信がない、ということに関しては自信がある。

 自分が魔法使いである、魔法が使えるということへの自信。そんなもの、ごく最近芽生えはじめたわけで、せいぜい「魔力捏ねは得意になってきた」とか「全力ぶっぱは可能」とか、そういうレベルだ。

 それで魔王を封印しろと?

 えっ……無理では?

 どうしよう、聖属性魔法使いは存命中なのに大暗黒期襲来! みたいなことになったら。


「だから、練習しているのではないですか?」


 エルフ校長が、わたしの肩にそっと手をかける。ふれた場所から花が咲いてきたらどうしようと不安になるほどの、芸術的な仕草で。


「それは……」

「練習が育てるのは技術だけではありません。心も育てるのですよ」


 そうかもしれんけど。そうかもしれんけども!


2024年最後の更新です。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

来年もぼちぼち更新して参ります!

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