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471 ジェレンス先生が知識に貪欲過ぎる

 ファビウス先輩に退屈そうだねといわれ、エルフ校長には教室に行っていいですよと許可された。

 午前の残りは少ないけど、まぁ……教室に行っていいなら行こうかな、ということで。わたしは校長室を出た。

 外には、ナヴァト忍者が待っていた。


「あれ、リートは?」

「チェリア嬢関連で仕事があるそうです。仔細は聞かされておりません」

「また? 熱心ねぇ……」


 わたしの中の乙女心が一瞬……ほんの一瞬だけど、もしかしてラブが芽生えたとか? と考えた。そして、即座に却下。

 リートだしな。

 もちろん、チェリア嬢がとびきり美味しい串焼き肉を譲ってくれた可能性はある。とはいえ、それで芽生える愛がどこまで信じられるかは、謎だ。


「まぁいいや。教室行こう。行っていい、っていわれたし」

「わかりました。ファビウス様は、まだご用事が?」

「うん。わたしの位置情報を送信する腕輪に、エルフの魔法も仕込めないかって……なんか難しくて長そうな話になってる」

「なるほど。通信に使えるのでしょうか?」

「なんの話をしてるか、ぜんっぜん、わからなかったんだよね……。魔法使いとしての知識が乏しいことを、思い知らされた感じ」

「あのおふたりが、特別なのでは」


 何百年も生きててなにも忘れないエルフと、飛び級天才少年の魔法発明家であるファビウス先輩。そりゃ当然、一級の知識をお持ちなんだろうけどさ。


「それはそうでも、あまりにも置き去りで。情けないとは思っちゃうな。もっと頑張らないと……」


 そこまで話して、思いだした。

 ……実技試験!


「そういえば、忙しくて考える暇なかったんだけど……実技試験、どうしよう」

「隊長か俺が組んで受ける案ですね。俺も、すっかり忘れていました」


 つまり、ナヴァト忍者もまだなにも思いついていないということか……。


「どうしようね……遠隔で作れる強みをアピールしないと話にならないし……遠隔での作成がどこまで安定するかって話もあるし。あのときも、けっこうギリギリな感じではあったもん。練習する必要があるね」

「はい。しかし、遠隔の強み……俺も遠隔で操作する、とかでしょうか?」

「うーん、どうだろう」

「そもそもの話、聖女様の魔力玉の存在自体が特異です。物理干渉や残置性の高さ……それだけでも、唯一無二の高評価だと思いますが」


 たしかにな! って感じではあるけど。一概に同意もできないのが、正直なところだ。


「でも、試験としてはどうなの? ってことじゃないかな。ただ魔力玉を作れます、で合格点がもらえると思う? 無理じゃない? 実際、ジェレンス先生が工夫しろ、って助言してくださったんだし」

「……そうですが、釈然としません。聖女様の魔力は、特別なのに」


 ナヴァト忍者はなんていうか……強火担だよな、聖女の。

 だから犬っぽいって感じるのかぁ。犬って飼い主の強火担だよね、だいたいは。

 もちろん、あんまり強火じゃない犬もいるけど……友だちの家の芝犬とか、すっごい可愛かったけど、独立独歩の姿勢が強過ぎて犬みが薄いっていわれてた。まぁ、友だちは、そこがまた良いのよ〜とか完全に飼い主馬鹿になってたなぁ、なんてことも思いだした。

 でも、友だちの名前も、顔も、思いだせないなぁ……前世の記憶、曖昧過ぎる。

 そして、実技試験の役に立つような内容じゃない! もっとなにか、発想を刺激するようなことを思いだしてくれ。


「魔力試験じゃないからね。実技試験だから」

「……はい」


 いろいろ思うことはあるような雰囲気だけど、ナヴァト忍者はそれを飲み込んだらしい。

 ふと、思っちゃうよね。

 これでもし、わたしが前世の記憶持ちだなんて知ったら、どうなっちゃうんだろう……って。

 今でも特別視されてるっぽいのに、さらにこう……すごいことにならない?

 だいたい、なんで特別視されてるのかが、いまいちわからんよな……。聖女様はやさしいとか努力家とかいうけど、努力家なんて、たくさんいるでしょ。やさしいひとだってさ……シスコなんか、天使じゃん! わたしなどお呼びもつかないレベルだよ。

 ……と、わたしもいろいろ思うことはあるけども、それを飲み込むことにした。

 ナヴァト忍者は実直で、優秀だ。親衛隊員として文句のつけようがない。なんか妙に崇拝されてる気はするけど、だからなに? って話よ。うむ。


「とにかく、頑張って考えよう。なにか思いついたら、すぐ教えて? わたしもそうするから」

「わかりました」


 というわけで、わたしたちは実技試験について話しながら教室に向かったわけだが。

 教室に入ったら、例によって生徒たちのあいだを歩いていたジェレンス先生が、カッ! と目をみはった。

 え、なに、怖いよ。


「ルルベル!」


 ずいずい来る。すごい勢いで来る。

 再放送になるけど、いわせてほしい。え、なに、怖い!

 流れるような動きで、ナヴァト忍者がわたしの前に進み出た。

 ……すごい! 助かる! ありがとう! たのもしい!


「おまえ、知ってるか」


 ジェレンス先生は、わたしに話しかけた。ナヴァト忍者はガン無視である。わたしはナヴァト忍者の背後に隠れて覗いているのだが、覗かなければよかったのかもしれない。


「……なにをでしょう?」

「ハルの呼びだし方法だよ。安心しろ、ほかのやつらには聞こえねぇから」


 一応、ハルちゃん様の話題がトップ・シークレットだということは認識してるんだな。


「わたしは教えてもらってないです」

「校長がおまえをあそこに連れてったのは、それを教えるためじゃなかったのか?」

「そうですけど……先生、詰め寄らないでください、なんか怖いです」

「じゃあ知ってんだろ」

「知りません。ハル様に拒否されたので」

「はぁ? なんでだよ」


 知るか!


「気分の問題じゃないですか?」


 適当なことを答えたのに、ジェレンス先生は感心したようにうなずいた。


「あぁ、そうだな。そうかもな。あいつ、そういうとこあるよな」


 あいつ……。なぜだろう、ハルちゃん様の扱いが軽いの、なんかイラッとするな!

 ハルちゃん様に気分屋な面があるのも否定はできないけど――性格がわかるほどのおつきあいはないが、滲み出るものはあるからね――ジェレンス先生は、どうなのよ。思いつきとノリと勢いで行動しがちの雑な人間に、『そういうとこあるよな』なんていわれたくないよね?

 要は、おまえがいうなスペシャルだよ。


「とにかく、ハル様の話題はあまり持ち出さないでください。ご本人が、世間から忘れ去られたいとおっしゃってるんですから」

「もう忘れられてんだろ、期待通りに。……俺も調べてみたんだが、さっぱり見当たらんぞ。どの文献も、ハルが載ってるどころか存在を匂わせてすらいない。なにをどうすれば、ここまで痕跡を消せるんだよ。大暗黒期の前でもあるまいし」


 調べたんだ……。


「それは、わたしにはわかりませんけど……。とにかく、呼び出しの方法は知りません」

「くっそ……」


 真面目に答えてあげたのに、なんだよその返し。

 ……でもまぁ、リートだったらここで「使えんな」とか評しかねないから、それと比べたらマシかぁ。それこそ、だからなに? 案件だけどな。だいたいのひとは、リートよりマシだから。


「じゃあ、校長に訊いてくれよ」

「ご自分でどうぞ」

「もう訊いたよ。教えてくれねぇんだよな」


 行動が早い! さすがジェレンス先生である。


「なら、諦めるしかないんじゃないですか?」

「おまえが訊けば、教えてくれるかもしれねぇだろ。校長はおまえに甘いんだから」

「……見捨てられそうになったばかりなので、あやしいです」

「いやいや、逆にこう考えろよ。見捨てかけたことへの罪悪感から、今ならいつも以上に甘いはずだ、と」


 それは、ありそうで怖い。

 ありそうで怖いが、それよりジェレンス先生が怖い。


「先生、なんでそんなに必死なんですか? なにか、ハル様のご助力が必要なことでも?」

「助力? ああ、必要だとも。いくらでもな! あいつなら、大暗黒期前の情報にも手が届くんだぞ!」


 ……あー。なるほどね。

 ハルちゃん様の時空魔法で時代を飛び越えれば、大暗黒期前にも行けるわけだ。失われる前の稀覯本も読めるし、今は忘れられてしまった知識をいくらでも探すことができる。

 そりゃ、ジェレンス先生も仲良くしたいだろう。

 だが、しかし!


「ハル様がジェレンス先生に必要だと思われた知識は、髭が伸びるくらいの時間で詰め込んでくださったんじゃないですか?」

「いろいろ教わったが、まだたりねぇんだよ。あいつ、中途半端なとこで逃げやがって……」


 ジェレンス先生が知識に貪欲過ぎる。そのギラギラした視線、わたしに向けられても困ります!


更新が滞っておりますが、この状況、もう少しつづくと思います。

SNSをご覧のかたはご存じでしょうが、FANBOX のリクエストSSを書きはじめたら、なんだか長くなってしまい……これもう「SS」の長さじゃないのでは? と思いながらまだ書きつづけている状態なのです。

そっちも書きつつ、ガチ乙転も忘れられない程度には更新をつづけたいと考えております。

……全体的に、頑張ります。

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