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463 墓前に花でも咲かせに行くかもしれんな

 ナクンバ様の発言って、どこまで本気かわからなくて困るし、だいたい本気っぽいのがもっと困る。とにかく燃やすのは、やめていただいて……。

 なんか前世でエルフの村といえば燃やされるものみたいな概念あった気がするな、と脈絡なく思いだしてみたが、竜の炎に焼かれていたわけではない……気がする。あれ元ネタなんだっけ?

 まぁ、とにかく。竜の接近は、警戒するのが正解だね。今まさに「燃やそうか」発言してたもん。そりゃ警戒するわ。むしろ警戒していただきたい。わたしは村を燃やす側にはなりたくないので……。


「じゃあ馬車? でも、二十日も留守にするの、怖いなぁ」

「……たしかにな。魔王復活の正確な時期がわかればいいんだが」


 だよなぁ。

 エルフ校長が天岩戸あめのいわとよろしく引きこもっているなら、すぐ会えるとは限らない。その間に魔王が復活しちゃったら困るのはもちろん、眷属が活性化している今、ナクンバ様は貴重な航空戦力だ。いつ必要とされるか、わからない。それこそジェレンス先生案件で――。


「ジェレンス先生は?」


 本人に聞かれたら、教師を足に使う気かと呆れられそうだけど、足としては最高に優秀では? 勝手に連れ回されてるツケを支払ってもらうべきでは?


「あの不気味な瞬間移動は、さすがに場所を知らないと無理だろう」

「そっちじゃなくて、飛行もできるじゃない? 超高速の」

「……それなら、俺が場所を指示すれば行けるかもしれんが……ジェレンス先生に里の場所を明かすのは、抵抗感があるな」

「え、なんで?」

「危険人物だろう」


 危険人物……。


「さすがに、エルフの里で悪さはしないんじゃ……」


 絶対にしない、と断言できないあたりがなぁ。だってジェレンス先生だし。


「そういう問題じゃない。エルフは変化を嫌う。人間の社会は、保守と革新のあいだで揺れ動きながら均衡をたもつが、エルフは違う。ずっと保守だ。無論、たまに変わり者は出る。しかし、そういう者は里にいられない」

「ああ……漂泊者、とか?」

「ジェレンス先生は常識外れの革新そのものだ。エルフの里とは合わない」


 なるほど……なるほどね!

 エルフ校長はともかく、里の住人とは確実に揉めそうね……理解理解。


「でも、それだったら校長先生は里に帰ってはいないんじゃない?」

「校長は、あちらにも足場を残しているからな」

「あー……」


 校長室がエルフの里に直結してるくらいだもんな。ご親戚の漂泊者氏と比較すれば、里帰りもそれなりの頻度でやってるんだろう。


「もう人間とはかかわらないと決意したら、里に帰るだろう。立場もある」

「あー……」


 エルフ校長って、エルフの里の里長の息子なんだもんな。いわば、エルフの王子様である。そりゃ、里に戻った方が周囲も安心するだろう。 

 逆にいえば、エルフの王子様がよくまぁ今まで頑張ってくれていたというか……人間社会に揉まれながら生きるの、かなり大変だったんじゃないだろうか? たとえエルフとしては革新寄りの性質だったとしても。


「君は『あー……』しか意見がないのか」

「……でも、やっぱり校長先生がエルフの里に帰ったとは限らなくない?」


 エルフ校長にも意地はあるだろう。

 自分は人間の世界で生きるのだと頑張っていたのである。やっぱり無理でしたと素直に帰るだろうか? いずれ帰らざるを得ないにしても、当日すぐ帰郷して引きこもるか?

 ……そうはならない気がする。

 たしかにエルフは三階の住人かもしれないけど、エルフ校長は階段を下りて地面を歩いてくれるひとだ。それはきっと、地面を愛しているからだ。見捨てたくても、容易には見捨てられないはずだ。


「なら、どこにいると思うんだ」

「親しいひとに会いに行くとか? 愚痴をいったりさ」


 それで気が晴れて戻って来てくれたら助かるけど、そううまくはいかないよなぁ。


「校長の友人に心当たりがあるか?」

「えっ。えっと……建国王? 魔王封印のときの仲間とか」

「墓参りか。なるほど……人間社会をはなれる前に、墓前に花でも咲かせに行くかもしれんな」


 花を供えるんじゃなく咲かせるのね……エルフ校長ならやりそう。


「初代陛下のお墓ってどこだっけ?」

「王家の霊廟は王宮の中だ。一般人は立ち入り禁止だな。校長ならなんとかなるかもしれん」

「でも、王宮に……いるかなぁ? いなさそう……」


 なんか違う気がする。エルフ校長って、今の王家大嫌いだし。


「君がいいだしたんだぞ、友人の墓参りをするだろうとか。魔王封印の仲間とか」


 いや墓参りはリートがいったんだぞ。そりゃ経過時間的に皆さんお墓に入ってらっしゃる――


「……あっ!」

「どうした」

「ひらめいた!」

「なにをだ」

「校長先生が会いたそうな相手。隠居しちゃう前に、愚痴を語りたいひと」

「いるのか」

「条件ぴったりなの! 魔王封印のときの――」


 わたしはそこで少し迷った。

 秘密にするようにたのまれている情報である。……とはいえ、リートは口は固い。金銭がからまなければ。ナヴァト忍者においては、いうまでもないだろう。たぶん。


「――この話、他言無用でお願いできる?」

「必要なら」

「必要なんだよ。ナヴァトもお願い」

「はい」


 そういうわけで、わたしは話した――ハルちゃん様について。

 ナヴァト忍者はシンプルにマジかって顔になった。

 リートは眉根を寄せ、真剣に考えてる風だ。


「人間なんだろう。生きているはずがない」

「一般的な時間経過が無意味なんだよ。時空魔法で転移? を頻繁にしてて、自分が何歳かもよくわからないって話してらしたよ」


 説明せざるを得なかったので、時空魔法の達人で、自分の存在をさりげなく消している話もした。

 ジェレンス先生と遭遇したときの話もした。以前は曖昧な説明しかできなかった、魔王復活を匂わせた人物。それがハルちゃん様である――そう説明すれば、ふたりともなんとなく納得したようだった。


「あれがそいつだったのか」

「そいつ呼ばわり、やめてくださいます?」

「校長に口止めされてたんだったな」

「ことがことだから、ジェレンス先生には話したけど……許可をもらって」


 今は許可もなにもないね!

 根に持つ長命種との約束を破ったことになるけど、気にしてる場合じゃないもんな。

 へたすると、二度と会えないかもしれないんだし……そこまでの事態かはわからないけど、一応、最悪を見越しておかねばならない。


「だが、そいつはどこにいるんだ?」

「呼び出せる場所があるのよ……わたし行けないんだけど」

「はぁ?」

「場所もよくわかんない」

「おい」


 リートの声が氷点下である。

 ……うん、我ながらね! 氷点下モードになられてもしかたないことをしてるとは思う!

 わたしはあわてて、思いだせる限りの情報をつけたした。


「校長先生に連れて行かれたことがあって……珍しい形の岩とか……なんか石の乙女伝説があるって地元のひとが話してた気がする。あと、美味しいワインと名物料理……あっそうだ、校長先生が看板を光らせてた! 魔法で。なんか精霊に手伝ってもらったとかいってた」

「よくそんなに役に立たないことばかり……」

「み……店の名前は『エルフの盃』だった! と思うけど、ちょっと自信ない……ワインが特徴的だったはずだよ。耕作に向かない土地なんだけど、葡萄は適したのがあって、その葡萄で作ったワインが……あっ、あとそうだ、葡萄の葉で蒸した肉だ! 名物料理!」

「それは食べてみたいな。……よし、ちょうどいいのが来たぞ」


 リートが、ひょいと肩越しに後ろをふり返った。

 つられて、わたしもそちらを見る。


「おい、おまえらなにやってる」


 ジェレンス先生が、大股にこっちへ歩いて来るところだった!

 ……ちょうどいいのって、もしかして。

 わたしはリートを見上げたが、まったく視線が合わない。なぜなら、完全にジェレンス先生の方に向き直ってしまっているからだ。


「校長先生がどこに消えたかについて、話し合っていました」

「はぁ? 校長消えたのか。俺も会いに来たんだがな。で、どこに行ったかわかったのか」


 軽い軽い! 軽い!


「可能性が高いのは、ルルベルが連れて行かれたことがあるという場所なんですが、いったいどこなのか、はっきりしなくて。是非、ジェレンス先生のお知恵を拝借したいところです」

「いってみろ」

「石の乙女の伝説がある山の中の村で、特徴的なワインと葡萄の葉で蒸した肉の料理を出す居酒屋を知りませんか。店の名は『エルフの盃』です」

「おぅ、そこなら知ってるぜ。あのワイン、ちょっと酸味が強いが味が深いんだよなぁ……」


 知ってたー!


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