表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
462/524

462 自分のせいだと思うなら、考えてくれ

「君が声をかけろ」


 校長室の前で、リートに命じられる。

 なんでそんなに偉そうなんだ……でもまぁ、ここはナヴァト忍者に倣っておこうか。

 命令には疑問で返さず、とりあえず実行!


「校長先生!」


 呼ぶだけでは弱いかと思ったので、ドアを叩いてみた。拳で。

 反応は、ない。

 ……それくらいは覚悟の上だ。頑張れ、ルルベル!


「校長先生、ルルベルです! 先ほどは失礼しました! もっとお話をしたいです! お願いします! 校長先生!」


 ドンドンドン! ドンドンドン! 校長先生!

 って感じでやってたら、リートに手を掴まれた。つまり、ドアを叩くのを止められた。


「うるさい」

「おしとやかでいるべき場面じゃないでしょ、ここは」

「もういい。たぶん、いない」


 はい?


「……いない? どういうこと?」

「そのままの意味だ。この部屋の中に、校長はいない」


 真顔で告げるリートと、中を窺い知ることのできない閉じたドアを見比べて。


「なんでわかるの? 返事がないから?」

「それもある。君がこれだけ呼びかけて無反応なのは、考えづらい」

「でも、それは……さっき、わたしが校長先生に見捨てられた、から……で」


 自分で口にしておいて、微妙にダメージ食らったな……。


「それでも、これだけ騒げばなにかあるだろう。だが、ない。それに、気配がしないんだ」

「は? ……なにそれ?」


 きょとん顔になってしまったわたしに、リートはものすごく嫌そうに答えた。


「エルフの気配だ」

「エルフの気配」


 なんだそりゃという顔で復唱しちゃってから、気がついた。

 あ〜、エルフ同士で気配を感じるとか、そういうの? そういうのでしょ、エルフの血をひいてる話をするのが地雷だから嫌そうな顔してるんでしょ、わかったわかった!

 わかったけど、これはスルーできないわ。


「そういうの、わかるの?」

「なんとなくだが……俺はエルフじゃないからな」


 はいはい、と口にしなかった自分を褒めたい。


「じゃあ、はじめに校長室の方から歩いてきたとき、なんか変だったのも、校長先生の気配がないのに気づいてたから?」

「気づいたというほど明確ではないが、違和感はあった。そこに君があらわれたから、校長が同行しているか確認しようとしたんだが」


 なるほどなぁ。


「今はお留守ってことかぁ。じゃあ、しょうがないな……」

「しょうがないで済む話じゃない」

「いやだって……しょうがなくない? どこに行ったかわからないけど、気配がないっていうほどなら遠くでしょ。エルフの里とか? とにかく、ここで騒いでもなんにもならないじゃない」

「まったく監視の目を置かずに立ち去るとも思えない」

「だからって、ここに座り込んで校長先生が戻るのを待つとか、嫌だよ? エルフと根比べなんて、負けるに決まってるもの」


 エルフ校長が室内にいるなら、やってもいい。なんか効果ありそうだもん。

 でも、本格的な逃避行動に出て、校長室どころか学園内部にさえいない――リートの雰囲気からして、たぶんそういうことだろう――なら、無駄過ぎない?

 相手はエルフだ。寿命も長いけど気も長い。耐久勝負は勝ち目がない。

 自分でいってたもんなぁ。逃げる、隠れる、遠ざけるを選択しがちだって。今、まさにその状況だよね? 逃げて、隠れて、わたしとわたしにまつわる面倒なこと、ぜんぶ遠ざけちゃったのよ。


 ……そう考えると、なんかイラッとするな。


「だが、エルフの里に入る方法もない。ここなら、なんらかのかたちで観察をつづけてるはずだから、戻ってきてほしければここで頑張るしかないだろう」

「エルフの里? 校長先生がエルフの里にいるって確証があるの?」

「人間を相手にするのが面倒になったのだから、当然、同胞のもとに戻るだろう」

「そういうもの? うーん、よくわからないけどエルフに詳しいリートがそういうなら……」

「詳しいわけじゃない」


 はいはいはいはい。めんどくさいな、もう!


「わたしより詳しいでしょ。……いや、それはどうでもいいとして、校長先生がエルフの里にいるなら、それこそ打つ手なしじゃない。さっきもいったけど、ここで騒いだくらいじゃ戻ってこないと思うよ」


 エルフ心はよくわかんないけど、急いで戻って来たりはしなくない? さすがに、その程度の覚悟でわたしを閉め出したりしないでしょ。


「だが……」


 少し、リートは迷っているようだった。なんか珍しい。


「なによ?」

「校長が手を引いてしまうと、この学園の存続自体があやしい」


 うん? なるほど?

 たしかに、この土地自体が初代陛下からエルフ校長に贈られたものだって話してたし、学園の運営もまぁ……頑張ってたんだろうなと思う。校長室にはいつも書類が山盛りだったし、ちょっと前に聞いた話だって印象深かったよね。男女別にせず、両方受け入れるために尽力したっていう。

 でも……それこそ、気長に頑張った結果が一日や二日でくつがえったりする?


「そう簡単には変わらないでしょ。さすがに何日かしたら機嫌を直して帰って――」


 リートがものすごく深刻な表情になった。あのリートが、である。

 ……あ、これガチでヤバいやつ? と思ったら、口から出かけていた言葉が方針転換してた。


「――こないの?」

「その可能性もあると思う。気配が消えるのは……本人がいない、というだけの話じゃない」

「気配って、なんなの?」

「エルフのことは、うまく説明できんのだが……エルフと土地には、絆が生じる。互いを守護しあうといえば、いいのか……それもまた少し違う気がするが、俺も自分が体験しているわけじゃないからな」

「うん。大雑把なところでいいから、教えて」


 リートは、ため息をついた。いつもみたいに、わたしに呆れたって感じのじゃなくて。ほんとに深刻そうなやつ。


「気配が消えるとは、エルフがその土地を捨てたということだ」

「えっ」


 ちょ。ま。まー! 想像以上にガチでヤバい!


「それ、たしかなの? ほんとに校長先生の気配、なくなっちゃったの?」

「だから、俺はエルフじゃないから詳しいことはわからん。それでも、今朝までとは……あきらかに違う」


 ……どうしよう。


「わたしのせいだ……」


 えらいことになってしまった。

 エルフ校長は、わたしに呪文を教えたことを後悔していた。もう教えないといって、閉め出した。そして姿を消した――間違いなく、わたしのせいだ。それはもう、ずっと思ってたけど。

 でも、本格的にいなくなるなんて!

 ちょっと口をきいてくれなくなるとか、今後もう親切にはしてくれないかもとか、そういうことは思った。だけど、学園からいなくなるなんて思わないじゃん!


「自分のせいだと思うなら、考えてくれ。校長を呼び戻す方法を」

「そんなの……エルフの里まで行くくらいしか思いつかないよ。……行っても会ってもらえないかもだけど」

「エルフの里か……やはりそれしかないか」

「急がないとまずい? その、土地との絆とかが……本格的に消えちゃうとか、なにかそういうのある?」

「わからん。俺は――」


 リートはまた、ため息をついた。今度は、なにかを諦めたようだ。


「――俺自身はそういうことができない。土地の加護を得たり、逆にその土地を守ったりするような力はないんだ。だから、自分には関係ないと思っていた」


 詳しくない、ということか。


「でも、放置もできないよね……エルフの里に行く方法、ある?」

「延々と時間がかかってよければ、場所はわかる」

「どれくらい?」

「馬車を都合できても、二十日以上だな」


 思った以上だ!

 馬車なら、ファビウス先輩にお願いすればなんとかなるだろうけど……二十日ってさー。

 あーくそスマホほしい〜。エルフ校長に電話したい。メッセージを送るのでもいい。SNSに投稿して、拡散希望です、エルトゥルーデス氏を探していますってやりたい。


「……そうだ、ナクンバ様!」


 世界の果てまででも飛べるんだったら、エルフの里くらいチョロいだろう。馬車より断然高速のはずだ。


「どうしたルルベル」

「エルフの里に連れてってくださいってお願いしたら、できます?」

「待て、ルルベル。行ければいいというものじゃない。中に入れるかはわからんぞ」


 どゆこと? と思ってリートを見ると、渋いものを食べたみたいな顔をしていた。


「……エルフの里は、基本的に閉じている。魔法で、覆われているんだ」

「じゃあ、竜に乗ろうが馬車を使おうが……」

「許可がなければ、無理だ。竜は脅威判定されて、そもそも対話もできないかも」


 愕然とするわたしの手首から、ナクンバ様のそわそわした――つまり期待に満ちた声がした。


「燃やすか?」

「燃やさないでください!」


 様式美過ぎる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNSで先行連載中です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ