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460 今が誘いどき、よね?

 結局、すべては推論に過ぎないわけで。


「妥当性の判断が難しい……」


 珍しく、ナヴァト忍者が考え込んでしまった。

 なんかいつもと違うなって思ったけど、理由はすぐわかった。リート隊長がいないからだわ。

 最優先にすべき命令をくだす立場の隊長は不在、肝心の聖女はわけわかんない呪文だの世界の果てだのについて、ぽやぽやしたことを口走ってるだけ。

 そりゃ、率先して考えるし、意見もする。とるべき方針も考えるよね。

 安心させてあげなきゃ!


「まぁ、危険だってことはわかったから。今後は気をつけるよ」


 なぜかナヴァト忍者は無言である。

 どうしよう、わたしの「気をつける」という言葉が羽のように軽く流されてる気がする!


「あの……ほんとに気をつけるよ? わたしも、あんな苦しいの嫌だし」

「聖女様がそのおつもりなのは、わかっています。ですが……」

「ですが?」

「先ほど、その『あちら側』とやらに行くおつもりで、校長先生の魔法に割り込まれましたか?」

「いや、そのときは呪文とかエルフの魔法とかが『あちら側』に行くものだって意識もなかったし……」

「無自覚にできてしまうことを、自覚的に抑えるのは難しいのではないでしょうか」


 おぅ……。


「いわれてみれば、そうかも……。うん、ほんとに気をつけないとね」


 我ながら、具体性もなにもない「ほんとに気をつける」を連発するだけだな……。こんなの「明るい社会を作りましょう」的なふわっとした表現しか選挙公報に載せてない政治家みたいじゃん。具体策を書け! おまえのイメージする明るい社会はどんな社会なんだよ、選挙民のイメージと違うかもしれないぞ。まさか照明はすべてLEDにしましょう的なことをいいださないだろうな?

 ……いや選挙公報は忘れろ。話がずれる。

 とにかく、信頼されなくても無理はない気がしてきた!


「なんかごめん」

「……いえ、聖女様が本気で考えてくださっているのは理解しています。大丈夫です」


 ああ、リートと違う!

 リートだったら、君が本気かどうかが結果に関係するのか? くらいのこと、ほざくよね。もっとキツいこともいうだろう。リートだから。

 明るい社会の選挙公報とかも、鼻で笑いそう。……聞こえてくるようだぞ。


「今後のことを考えると、先ほどの推論が正しいかや、聖女様に危険をしらせた存在はなんだったのかなど、はっきりさせたいです」

「うん」

「やはり、識者の判断を仰ぎたいところです」

「でも、呪文のことを知ってるのは校長先生だけだと思う」


 はい行き止まり。


「校長先生のほかに、エルフの知人は?」

「いないことはないけど……会ったことがある、程度の関係だし」

「誰です?」

「校長先生の親御さんとか」


 ナヴァト忍者が、なんともいえない顔になった。


「一応うかがいますが、エルフの里に行かねばお会いできない感じですか?」

「うん。校長先生以外のエルフって、そこでしか会ったことがないよ。あまり里から出ることはないって話だし」


 もちろん、エルフ校長の親戚の漂泊者さんとか、恋多き男らしいリートの親とか? アグレッシヴに外に出ていく例外エルフもいることはいるらしいけど……どっちも知り合いじゃないしなぁ。

 漂泊者さんは、もし協力願えればすごいと思うよ? なにしろ万物融解アイテムが作れるんだもん……それこそ、あちら側のスペシャリストである可能性が高い。ただ、どう考えても行方不明っぽいよね。コンタクト不能だろう。

 リートの親御さんは……たのめばリートがつないでくれる可能性が少し……少しあるけど、地雷中の地雷だからなぁ。リートのお父さんに、呪文やエルフの魔法について教えてもらいたいんだけど、連絡できる? なんて話をふったが最後、なにが起きるかわからない。今でさえリートってひどいのに。もっとひどくなる恐れしかない。この路線は却下!


「……うん。考えてみたけど、会って相談できそうなエルフはいないかな」

「しかたがありませんね。では……ジェレンス先生?」

「ジェレンス先生も、エルフの魔法には詳しくなさそうだけど……あと、話すとめんどくさいことになりそうな気がする」

「めんどくさい? どういう意味ですか?」

「よしわからん、じゃあエルフの里に行くかーッ! ってなって、抱えられて虚無移動……とか?」


 ナヴァト忍者が、あぁ、という顔になった。

 経験者なら、わかる。虚無移動の恐怖。


「まぁ……エルフの里に行けるなら、それはそれで相談に乗ってもらえるのでは?」


 経験者なのに! 恐怖を乗り越えただと!?


「そういう問題じゃないのよ……」

「そうですか?」

「知ってる? エルフの里って、エルフがたくさんいるの」

「たくさん……まぁ、エルフの里にエルフがいなかったら残念ですが」

「エルフってね、聖属性大好きなの」

「協力してもらえそうですね」

「エルフの里から出してもらえなくなる勢いなの」

「……駄目ですね」

「駄目なのよ」


 ようやく根本的な理解を得た。


「ですが聖女様、ここにいても、なにも解決しないと申しますか」

「それ! そこからおかしいんだよ。そんなパパッと解決するような問題じゃなくない?」

「……そうですね」

「今すぐ解決しなくても大丈夫。エルフの魔法に関与するとか呪文を唱えるとかしなければ、平気なんだし」

「ルルベル」


 ここで、ナクンバ様が割って入った。なんだろう? またなにか燃やすとかじゃないだろうな……そうだったとしても、あまり邪険に扱わないようにしなきゃ。


「なんですか、ナクンバ様」

「寒いのではないか? さっきから、ふるえておる」


 ナヴァト忍者が、はっ! って顔になった。


「申しわけありませんでした、聖女様」

「え、なに?」

「こんな寒空に長いあいだ留まらせてしまいました。お身体のことも考えず」


 ナクンバ様の次の台詞に身構えていたせいで――ほら、我があたためてやろう→炎発射! とか、ありそうじゃん――ナヴァト忍者に気を遣う余裕がなかったが、そりゃそうなるわ。ナヴァト忍者なら!


「いやまぁ……外に出ようっていったのは、わたしなんだし。ナヴァトは寒くないの?」

「俺は平気です」


 こえーよ。寒さ感じろよ!


「鍛えてるから?」

「騎士団の訓練で――いや、そういう話もあとにしましょう。とにかく屋内へ」


 というわけで、我々はもっとも手近の校舎に入った。

 校舎内ならどこでもホカホカってほどじゃないんだけど、一応、ゆるく暖房が入っている。あと、外に比べたら百倍マシ。

 正直、ナクンバ様が指摘してくれてよかったな……やばい、鼻水たれそう。乙女として……一応乙女として、学校の廊下で鼻水たらすのは避けたい。


「……どうしましょう」


 そしてナヴァト忍者はまた当惑している。

 うん、ごめんよ。目的がないと困るタイプだって、よくわかったわ。ついて行くべきご主人様=わたしが、しっかりしなきゃ!


「とりあえず、校長室に戻ろう」


 決めた! という口調で告げると、ナヴァト忍者はうなずいた。

 これでいいんだ。

 ……いいんだけど、すぐまた校長室に戻るのが正解なのかは不明だね。

 まぁ、人生の正解なんて! わかんなくて当然だし!

 さりげなく鼻をすすりながら歩きはじめたわたしの手首で、ナクンバ様がつぶやいた。


「しかし、あのエルフは強情そうだな」

「あー……なんか、本人も自覚あるみたいなこと話してたのを、聞いたことがあるような気がします。エルフは頑固なんですって」


 忘れないからなぁ……。頑固って話してたのって、いつだっけ?

 あっ、あのときか。ハルちゃん様に紹介してくれたとき、お互いに頑固合戦してた気がする!

 それで思いついたけど、もしかして、ハルちゃん様ならわたしの疑問に答えられるかも。神魔法使いだし。エルフにも詳しそうだったし。魔王との戦いに巻き込む以外のことなら、わりと協力的な感じだったし。

 しかし残念ながら、ハルちゃん様の呼び出し方法は不明である。あのとき、教えてもらえなかったからなぁ……まぁ、それはそれでいいんだけど。


「頑固だから、こうと決めたら折れないかもしれないですけど……でもね、わたし、宣言したことがあるんですよ。校長先生のこと、何回でも誘いますからって」

「……そんな宣言を?」


 思わずといった感じで口をだしたナヴァト忍者に、わたしは笑ってうなずいた。


「うん!」


 思いだしたわ。そうだった。

 今の立場から逃げることならいくらでも協力するけど、魔王との戦いには乗り気じゃないエルフ校長に、あのとき、いったんだ――同じルル仲間として、校長先生にも支えてほしいって。断られても、気が変わるかもしれないからまた誘うって。

 今が誘いどき、よね?


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