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454 我も役に立ちたいと思うがゆえに

 昼食は、ジェレンス先生に誘われて職員用のスペースに行った。

 当然のようにワインを飲むジェレンス先生だが、いいのか肝臓? まぁ……このひとの場合、ちょっと肝臓が弱ってもあんまり影響なさそうだよな。そもそもの魔力量が、信じられないほど多そうだし。


「おーいウィブル、いっしょに食おうぜ」


 遅れて食堂に来たウィブル先生を認めて、ジェレンス先生が声をかける。ウィブル先生は、同じテーブルを囲んでいるナヴァト忍者とわたしを見て、あら? という顔をした。

 そのままこっちに来て、椅子を引きつつ。


「リートは? っていうか、校長はどうしたの? ナヴァトだけにルルベルちゃんの護衛をまかせやしないだろうし、ジェレンスが校長室まで迎えに行くわけないし……」


 エルフ校長は近くにいると思うけど、わたしにはわからない。ナヴァト忍者はわかるだろうけど、答えさせるわけにもいかない……気がする。

 つまり、話題を変えたい。


「ウィブル先生、聞いてください。久しぶりに教室に行ったんですよ、わたし」

「そうなの? 校長と特訓じゃないの?」


 ……あっ、駄目じゃん。話題変わらないじゃん!


「今日は、ふつうの学生生活を送るようにと、指示をいただきまして」

「どういう風の吹き回しかしらね……。なんにせよ、よかったわ。心配してたのよ」

「え、なにをですか?」

「ずっと囲い込まれっぱなしでしょ、ルルベルちゃん。昼は校長、夜はファビウス。……これね、特殊な状況だからね? 慣れちゃってて、意識できてないんだろうけど」


 特殊な状況……。たしかに!

 でも、どっちも事情があるからなぁ。呪文は学びたいし……研究室に寝泊まりするのは、女子寮よりも安全だからだ。


「そうですね。教室に入るのに、ちょっと勇気がいりました」

「……よくないわよねぇ、そういうの。ねぇジェレンス、校長の特訓って毎日じゃないといけないの?」

「俺が知るか」

「あんたのそういう態度も、よくないわよぉ」

「俺はルルベルの保護者じゃねぇし、校長の考えてることなんざ理解不能だ、理解不能。相手はエルフだぞ? それより、おまえもちょっと相談乗れよ」

「え、なに?」


 ジェレンス先生も、見えないエルフ校長がそのへんにいることは意識してるっぽく。話題を、共同作業で実技試験を受けるにはどうすればいいか、という方に捻じ曲げてくれた。

 さすがジェレンス先生! たまには強引さが良い仕事をするね!


「あー……うーん……なるほどね、魔力玉を任意の場所で生成できるようになったのね?」

「発表会でやったときは、うまくいきました。そのあと練習していないので、どれくらい安定しているかは不明なんですけど」

「ルルベルちゃんに求められるのは、再現度の高さ、距離、精度……といったところね。それと、パートナーとの連携。魔力玉の処理に独創性がほしいわ。それは、ひとりで考えなくてもいいんだけど」


 再現度、距離、精度、連携……なるほどなぁ。

 感心するわたしの横で、ジェレンス先生が少しだけ前のめりになる。


「ルルベルはそれでいいとして、だ。いっしょにやるならリートかナヴァトだと思うんだよ。日程の問題があるからな」

「日程の問題?」

「ほら、ルルベルは魔王が復活したらそっち行かなきゃならねぇだろ。試験の日程が聖女の仕事に左右される可能性が高い。どうせ同行するしかない親衛隊にやらせるのがいいだろうと思うんだ」

「たしかに……。ルルベルちゃんには悪いけど、どうしても魔王や眷属への対応を優先してもらう必要はあるし……」


 ウィブル先生がいかにも残念そうな表情をしたので、あわててフォローする。


「それは、もちろんです。ちゃんと、やります!」

「ごめんなさいね。生徒の力なんか借りなくたって、大人がなんとかしてやるよ……って、いえればよかったんだけど」

「なに今さらな話してんだ。ルルベルは、そこの覚悟はもうできてんだろ。それよりな、俺が聞きたいのは、リートだったらどう協力できるか、ってとこだ。たよりにしてんだよ、生属性」


 ジェレンス先生の雑な割り込みに、ウィブル先生は眉根を寄せたけど――まぁ、聖属性魔法使いとしての使命はね。どうしようもないし。わたし自身、ちゃんと優先するつもりはあるから問題ないんだ。

 だけど、実技試験をきちんとできるかは、重要だよ。聖女だからって贔屓されたと周りに思われたくないもん。この考えを、リートには鼻で笑われたわけだけど……でも、そうなんだもん。


「リートは器用だから……魔力操作で変形はできると思うわ。だけど、それが生属性独自のものかって話になると、駄目ねぇ」

「なんとかならねぇのか。ナヴァトだって、状況は変わらねぇんだ。魔力操作は巧みだが、それが光属性独自のものかっていえば」

「駄目でしょうね」

「我が燃やそう」


 突然、ナクンバ様が話に入ってきた。燃やしてどうするんだ……。


「ナクンバ様、なんでも燃やせばいいってものじゃないんですよ」

「てぇか、試験だからな。学生以外の参加は認められん」

「参加させませんよ!」

「我の炎であれば、ルルベルの魔力と反応するぞ」


 教師陣が、瞬時に真顔になった。なんか……ガチの顔?


「どういう意味だ」

「我はルルベルの聖属性魔力で幻獣としての本分を取り戻した。ゆえに、ルルベルの魔力との連携は、たやすい」

「燃やせる範囲が増えるとか、時間が長くなるとか?」

「炎に聖属性をまとわせることが可能だ。浄化の炎とでも考えればよかろう」


 は・つ・み・み〜!


「ナクンバ様、そういうのは早めに教えてくださらないと……」

「ルルベルには『燃やさないでください』、あるいは『燃やせばいいってものじゃない』と、いわれてばかりだったからな。そうか、と思って」

「そうかと思った割には、しょっちゅう提案してたじゃないですか!」


 今だって、提案したばっかりだぞ!


「……我も役に立ちたいと思うがゆえに」


 腕輪に擬態したままのナクンバ様だけど、そのときはなんだか、しょんぼりしてるのがわかった。

 いつも、冷たくし過ぎたかな……って。はじめて、気がついたよね。


「ナクンバ様は役に立ってますよ。魔将軍との戦いのときだって、すごかったし。……あれも、わたしの魔力と呼応してたりするんですか?」

「いや、特にはしておらん。我の炎は、そのままでも多少は浄化寄りではある。だが、ルルベルが魔力を使ったり、それこそ魔力玉を預けてくれたりすれば、その特性がもっと強化されるはずだ」


 黙っていたジェレンス先生が、口をひらいた。


「それは、ルルベルが直接聖属性魔力をぶっぱなすより、竜の炎に乗せた方が強力になる……ってことで、あってるか?」

「そうなるだろう。我の魔力が加算されるゆえに」

「……加算以上の効果があるか、ってことを訊いてる。つまり、乗算されるのか?」


 ナクンバ様は、ぱちりと眼をしばたたいた。


「聖属性魔力の総量が増えるか否かを問うているのか?」

「そうだ」

「であれば、その推論は正しい」


 なんだってー! は・つ・み・み、第二回!


「じゃあ、聖属性呪符を描くときにナクンバ様になんかこう、かかわってもらったら……」

「我の手は呪符を描くのには向いておらん」

「それはそうかもだけど、こう……なんとかして」

「なんとかしかたを思いついたら、提案するがよい」


 うーん……呪符の効果が高まれば、いろいろ便利そうだけどなぁ。

 わたしの魔力をナクンバ様が使うことで、増幅? みたいな現象が起きるんだとしたら、なにかうまい使いかたがあってほしい。でも、呪符を燃やすんじゃ意味ないし……。


「……まぁ、はっきりしてるところをいえば、試験は無理だな」

「そうね、生徒じゃないものね」

「魔王や眷属と戦うときには、いろいろ応用がききそうだ」

「異論はないわ。魔王の復活前に、そのへん詰めておいた方がいいわね」


 教師ふたりのガチマジ顔が、ゆるまない……。

 というか、わたしの試験はどうなるの?


「……聖女様」


 突然、それまで沈黙を守っていたナヴァト忍者が口をひらいた。


「なに?」

「聖女様の魔力と親しくふれあう時間が長ければ、ナクンバ様に限らず、その相乗効果? のようなものが出せるのではないでしょうか」

「……どうだろう?」


 わたしはガチマジ顔の教師たちを見たが、答えはあいまいだった。


「そんな話は聞いたことがないが、可能性がないとはいいきれん……ってやつだな」

「なにか心当たりでもあるの?」

「はっきりそうとは、いいがたいのですが。前回のその魔将軍との戦いの折り、俺の魔法が少し、変だったかもしれないのです」

「変だった、とは?」

「報告するには確度が低かったことは、ご承知おきください。それくらい『なんとなく』でしかないものだと。ただ、体感で眷属への殺傷力が想定より高かったですし、いつもの不可視の魔法に眷属の魔法を遮断する効果があったように感じました。ごく微量ですが」


 今頃になって、爆弾発言きたぞぉ……。


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