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453 生徒の嗜みってもんだぞ

 わしゃっ。

 頭を鷲掴みにされたわたしは、飛び上がらんばかりにおどろいた――けど、問題の手に頭を押さえられているので、実際には微動だにできなかった。


「おまえら、ぺらっぺらぺらっぺら喋りやがって。自習してる雰囲気くらいは偽装しろよな。生徒の嗜みってもんだぞ」


 もちろんジェレンス先生である。

 そして、今回はわりと正論な気はする……最終的に試験の話になったとはいえ、その直前は、狼伯爵のゴシップで盛り上がっていたわけだから。

 残念男の話で盛り上がったなんて、ちょっと忸怩じくじたるものはあるな。どっちかというと、アリアンのすごい叔母様について盛り上がったのだと主張したい。


「先生、わたしの実技試験ですけど」

「俺の話を聞けよ」

「アリアンとシスコが共同で実技試験を受けるって聞いたんです」

「あー……それはその方針で行くことにしたな。とくに変更はないだろ?」


 ジェレンス先生の問いに、アリアンとシスコがそれぞれ答えた。


「変更はありませんわ」

「はい、先生」

「……よし。で、ルルベルはなんだ? 自分もそこに混ざりたいってか?」


 混ざれるものなら、とは思わなくもないけど。でも、わたしが混ざってどうすんだって話だよね。魔力玉をつむじ風で回してもらう? なんか意味ある?

 ……ないよね。


「いえ、そうではなく。わたしも、共同で実技試験を受けられませんか?」

「誰とだよ」

「親衛隊の――たとえば、ナヴァトとか」

「ナヴァトか……まさか、ナヴァトに姿消しの魔法をかけてもらって、それで試験を済ませようなんて考えてるんじゃねぇだろうな?」


 その発想は、なかったわ!


「え、それって実技の課題として受理されるんですか?」

「されねぇよ」

「ですよね……。もちろん、そういう話をしてるんじゃないです。今、アリアンが提案してくれたんですよ、魔法実技発表会のときみたいに魔法を連携させればいいんじゃないかって」

「魔法実技発表会? なんだっけ……ああ、生徒会がなんかやるっていってたやつか」


 ジェレンス先生は留守がちだったから、こまかいことは知らんのか。知らなさそう!


「そうです、生徒会がなんかやったやつです」


 詳しく説明すると長くなるし、王子贔屓疑惑はもちろん、的や得点設定の酷さは端折って問題ないだろう。

 というわけで、自分のチームが発表会でやったことだけを説明した。ジェレンス先生もよくご存じの、魔力玉――あれの生成を遠隔でやって、ナヴァト忍者にコントロールをまかせた、と。まさに実技部分である。


「なるほどな。たしかに、おまえの魔力玉生成技術は珍しいし、安定してる。それを遠隔で出せるってなら、悪くない……が、たしかに単体では評価がしがたい。ほかと組み合わせる方が、運用としても評価できる。しかし、ナヴァトは魔力玉の制御だけか? ちょっと弱いな……」

「ですよね……。試験にふさわしい課題になるよう調整できないかな、って思うんですけど」

「そうだな、俺の方でも考えてみよう。どうせおまえ、ほかの生徒と同じにちゃんと試験を受けたいんだろ?」


 見透かされている!

 いやまぁ、自分でそういう主張したような気もするけどね……先生がたが飲酒、すなわち肝臓を痛めつけながら昼食をとってたときに。

 その願望は、リートに滅多斬りにされて終わったはずだ。よくは覚えてないけど、容赦などなかった。だってリートだしなぁ。容赦のなさへの信頼度なら、ウルトラMAXである。


「校長先生も、おっしゃったんですよ」

「へぇ、校長が? なんて?」

「学生として、ふつうに生活するように、って」


 エルフ校長の教育実習のため……だけど、まぁそんな感じのことを! いってたから!

 フーンって顔をしたあと、ジェレンス先生は机に手を付き、上体を前に倒した。……近い。


「音声切ってあるから、正直に答えろ。校長、今この教室にいるだろ」


 えっ、と声が出た時点で正直に答えたも同然であるが、ジェレンス先生はそれだけで許してくれそうではない。ん? どうなんだ? 早く白状しろや、という圧を感じる。

 ていうか、エルフ校長のお墨付きであるナヴァト忍者の光学迷彩をもってしても、ジェレンス先生はごまかせないってこと? これが〈無二〉の実力……!


「……いらっしゃいます」

「だろうなぁ。そう思ったんだ。音声切ったから、今、近寄って来てるだろうな」

「居場所を感知したわけじゃないんですか?」

「残念ながら、そこまではな」

「でも、すごいですね……」


 さすがジェレンス先生、と思ったのに。


「や、ナヴァトが姿を見せてるってことは、誰か隠してんだろうと思っただけだ」


 ……魔法で感知したわけじゃないのか!

 やっぱりナヴァト忍者の光学迷彩は最強なんだ。いやでもじゃあ……なんで?


「どうして、校長先生だとわかったんですか?」

「それはおまえ、リートがいねぇからだよ」

「……はい?」

「リートを隠す意味、なんかあるか? 見えない護衛はたしかに有効だが、それなら通常通り、ナヴァト本人が隠れてればいい。ってことは、隠されてるのはリート以外の誰かだろう。見えない誰かは、リートが信頼できる存在だ。もちろん、代理で護衛が可能な実力があり、教室にいると不自然――ファビウスって可能性もあるが、あいつは瞬発的な戦闘力がそこまで高くはない。となると、おまえの特訓やってるはずの校長が来てるんだろうな……と」


 はぁ〜……なるほど!


「さすがジェレンス先生ですね」


 さすがはさすがでも、方向性が思ってたのと少し違った。でも、さすがだなぁ。


「おぅ、どんどん褒めろ。俺の気分がよくなるからな」

「素晴らしいです」

「もうちょっと感情こめろよ……」

「いや、ほんとにすごいと思ってますよ? でも、そろそろ消音を切っていただかないと、校長先生が心配のあまり無謀な行為に出るんじゃないかと」

「あ、そりゃそうか。わかった、切るぞ」


 ……あっさり納得されて、突発的な密談タイムは終了した。


「共同で試験を受けるとしたら、親衛隊のどちらかに相方をたのめるといいな、と思うんですけど」


 テストの話をしてたよアピール発言してみる。ジェレンス先生も、話をあわせる方針のようだ。


「そうだな。ルルベルの場合、突発的な聖女業務で試験日程がずれこむ可能性もあるし、親衛隊以外を巻き込むのはやめた方がいいだろう」

「ですよね……」


 突発的な聖女業務、今まで何回あったことか。

 ……わりとジェレンス先生案件が多いのは、気のせいではないと思う。


「リートもナヴァトも、ひとりでも問題なく試験を受けられそうだし、つきあってもらうのも悪いんですけど」

「それは気にする必要ねぇだろ。あいつらも、おまえを放っておくわけにはいかねぇんだし、試験のための練習だったり、それ以前の合同案を出す話し合いだったり、有意義に時間を使えていいんじゃねぇか?」

「なるほど……」


 少なくとも、ファビウス先輩との痴話喧嘩というかなんかそういう……ね? アレを傍観されるよりは、ずっといいんだろうな……。

 ああ〜、ナヴァト忍者にあの一連の会話を聞かれてたの、マジで恥ずい! 消し去りたい。

 よぉーし、試験の話で上書きするぞ!


「わかりました。じゃあ、あとで相談してみます」

「今、行けばいいんじゃねぇか? 王子との雑談に苦戦してるようだぞ」


 雑談に苦戦?

 ふり返ってみると、ナヴァト忍者は前のめりの王子とスタダンス様に挟まれていた。

 あ〜……。王子にとってのナヴァトって、騎士団から差し回された護衛って認識だっただろうから。以前は、声をかけようという発想がなかった感じかもなぁ。

 上流のひとって、そうじゃん? 使用人なんか、視界に入らないっていうか……そこにいても人間扱いしてなかったり。見えるのも不快ってパターンもあるよね。シェリリア殿下が、たしかそうだ。

 今日、王子は急に認識したのかもしれない。ナヴァト忍者も人間で、同級生なんだ、って。

 スタダンス様は……スタダンス様だから、よくわからん。以上!


「いえ、あとにします。わたしはいつでも話せますけど……殿下やスタダンス様がナヴァトと話す機会は、滅多にないでしょうし」


 べつに見捨てたわけじゃない。王子やスタダンス様の相手をするのが面倒とか思って……思ってはいるけど、だからあっちに行かないってわけじゃないよ!

 そうじゃなくて……ナヴァト忍者にも、ふつうの学生生活を体験してもらわないとね。


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