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444 逃げる、隠れる、遠ざける

 保護者は、わたしが抱えているタスクを整理してくれた。


●魔王封印

 ・魔王出現地はトゥリアージェ領ないしその近辺と推測されている

 ・トゥリアージェの現当主は協力的、できる範囲で当主のサポートをする意識で

●呪文

 ・見顕しの呪文の完成

●聖属性呪符作成

 ・今後の需要を鑑み、余裕があるときに作り貯めておく

 ・聖属性呪符の存在が直接の関係者以外にも広まるのは時間の問題

 ・情報制御は困難なので、広まったのちについての準備

  ・呪符さえあれば聖女は不要、という論調にならないよう制御

  ・呪符を最高強度で運用するには聖属性魔法使いであるルルベルが必要なことを強調

●サル

 ・ルルベルは、無理のない範囲でシデロア嬢の話を聞く

  ・サルの調査結果が出るまで「聞く」以外のことはしないよう注意

○王太女殿下より下賜された宝石

 ・腕輪の発注完了/十日ほどで完成、現物を確認して問題なければ納品

 ・生徒会の動向に注意

 ・現段階で、ルルベルができることはない

○第二の聖女問題

 ・リートは任務を継続、第二の聖女陣営の動向を注視

 ・現段階で、ルルベルができることはない

  ・接触があった場合は、新たな誤解を生まないよう配慮


 ……ちゃんと、サルなんとか伯爵まで盛り込んでくれたよね。さすファビ。

 たぶん「聞く」以外のことはしないっていうのは、家同士の事情まで調べた段階で、これは婚姻避けがたし、という判断になったとき困らないように――ってことだろう。

 噂話だけで盛り上がってもよくないし……サルなんとか伯爵にも、なにか事情があるのかもだしね。

 前妻さんが追い出された事情だって、面白おかしくいわれてるだけって可能性はある。噂って、面白さが第一じゃん。誰も信憑性なんて気にしないんだよ。……いや、誰もってことはないか。ほとんどのひとは、ってところかな。

 聞き込んだ話をいちいち裏取りするのも大変だしね。だいたいは、そうなんだ〜、へぇ〜! で、面白ければ自分もそれを話す側にまわっちゃうわけよ。

 こういうとこは、上流の皆さんでも下町庶民でも、変わらないよな。


 やることいっぱいだなーと思ったけど、整理してみれば、そこまで複雑でもない。

 聖属性魔法使いとしては、魔王封印が第一の目標だし。

 手札を増やすために、呪文はどんどん覚えた方がいいっていうのはね……わかってるんだけども。わかってるんだけども、なんか難しいんだよなぁ、見顕しの呪文!

 今日も、エルフ校長の指導を受けて頑張ってはみるが……まったく呪文が呪文として機能する気配がない。

 さすがに言葉自体は覚えたんだけど、読み上げてるってだけなんだよね。魔法にならない。


「思うんですが」


 エルフ校長、相変わらず憂いを帯びた顔が美しい……。初対面のときはイケオジ枠かなと思ってたけど、ちょっと違うんだよなぁ。イケ年齢不詳枠なんだよなぁ。


「なんでしょう?」

「ルルベルは、見顕したくないのでは?」

「……はい?」


 見顕したくない……。

 初耳ですね。そんなの考えたこともなかったわ。

 少し休憩にしましょう、とエルフ校長はお茶を淹れはじめたので、わたしもお茶をいただくときに座る応接セットに移動する。芸術的な椅子Aから芸術的な椅子Bへの移動だよ。


「治癒の呪文は、ルルベル自身が学びたいといって選んだものですよね」

「はい、そうです」

「見顕しは、そうではない――いわば押し付けられた課題です」


 それはそうだな。


「でも、わたしは納得して学んでいるつもりです」

「つもり、なのでしょう。呪文は世界との対話ですからね。心の表層でだけ考えているようでは通じません。芯からそれを必要で、実現したいと感じていなければ、世界と相対あいたいすることができないのです」

「対話の座に着けない、ということですか?」

「そうですね……対話を求めていることさえ伝わらない、と表現する方が適切でしょうか」

「なるほど……」


 なるほどなるほど、なるほどー。

 なるほどボタンがあったら連打してたわ。なんかしっくり来るわ。

 次は見顕しといわれても、全然ピンと来てなかったもん。使えれば便利だといわれたら、そうなんだろうなぁ……くらいで。使えるようになった自分がどうなるか、と想像することさえ難しい。


「ここまでやっても前進が見られないのですから、見顕しの呪文は一旦保留にすることも考えています」

「でも先生、わたしに必要そうだという理由で選んでくださったんですよね?」

「そうですね……」


 その必要度が、本人に刺さってないから使えるようにならないのなら。解決すべきは、そこなのでは?

 芸術的なティー・カップを受け取りながら、わたしは提案してみた。


「だったら、どのように必要なのか、もっと具体的にわからせてくださるのはどうでしょう? つまり、見顕しの呪文が使えたらこんなことができるよとか。使えないと、こういうときに困るとか。わたしが使いたいと思えるようになれば、習得も進むのではないでしょうか」


 ここで諦めるの、もったいない気がするんだよねぇ。せっかく、あんな複雑な呪文を覚えたんだから!


「ああ……それもそうですね。僕はすぐ諦めることを考えてしまいがちです」

「そうなんですか?」

「エルフは、あまり立ち向かうことを好まない傾向があります。ですから、逃げる、隠れる、遠ざける――といった対策を選んでしまうのですよ」


 はい、なるほどボタンの連打タイムー!

 そういやエルフ校長、学園から逃してあげましょうとかエルフの里で匿いますとか、そういう提案ばっかするわ! なるほどなるほど、種族的な傾向だったのか!


「どうしてなんでしょう? エルフの皆さんなら、その……能力も高いわけですし、立ち向かっても勝てそうなのに」

「面倒になってしまうんですよね」

「面倒……」

「昔から似たようなことを何回もやっている、という意識がありますから。またやるのか、と思うと」


 なるほど……。しかも、忘れないんだもんな。

 大変そうだなぁ、長命種。


「同じことをやるの、めんどくさいですよね」

「そうですね。情けない話です」

「え? いやっ、その……校長先生を責めたりする意図はなくて」

「大丈夫、わかっていますよ。僕が僕を情けないと感じているだけですから、お気になさらず。そうですね……見顕しの呪文の効果については、どう説明すればわかってもらえるでしょうね……」


 エルフ校長は、自分のカップをテーブルに置いて立ち上がり、ドアの方へ行った。


「ナヴァト、入ってください」


 そして、なぜかナヴァト忍者を校長室に招き入れた。


「失礼します。……隊長がおりませんので、扉の警護がなくなってしまいますが、かまいませんでしょうか」

「無論」


 リートはたぶん、チェリア嬢のところに行ってるんだろう……。けっこう熱心に通ってるのだ。ほんとにあっちの親衛隊になっちゃったりしないだろうな。

 なーんて考えているわたしの前で、エルフ校長がナヴァト忍者に告げた。


「いつものように、姿を隠して潜伏してください。この部屋の中であれば、どこでもかまいません」

「はい」


 なにも訊き返さず命令に従うのが、ナヴァト忍者である。

 たちまち姿が見えなくなった――移動したのかどうかさえ、わからない。ふかふかの絨毯に、足の踏み跡が見えたりもしないし……もちろん、音もしない。

 まさに忍者。

 エルフ校長はにっこりして、わたしの方に向き直った。


「では、今から見顕しの呪文を実際に僕が使ってみせましょう」


 いきなり実演販売来た! いや販売じゃないけども……。

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