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439 シスコが天使! 知ってた!

「腕輪のデザインを、わたしが?」


 シスコに当惑気味に問われて、わたしは笑顔でうなずく。


「うん」

「そういうのは、ファビウス様におまかせして大丈夫なんじゃないの?」

「ファビウス様にも、ちゃんとご相談したの」


 わたしは流行に疎いので、そのへん詳しそうなシスコに相談したい、と。ファビウス先輩に訴えたら、苦笑気味に、いいんじゃない? と、いってくれた。

 というわけで、朝イチで女子寮から出てきたシスコを捕まえたところだ。

 もちろん、宝石が下賜されたときの状況はシスコも把握しているから、その先の話である。


「わたしで力になれるなら……でも、アリアン嬢やシデロア嬢の方が、参考になる意見をくださるんじゃないかしら」


 まっとうな意見をもらってしまったので、正直に答えることにした。


「うん、そうかもだけど、シスコと話したいの!」

「……ルルベルったら」

「シスコと! 話したいの!」

「そんな大声出さなくても、わかったわ。放課後、時間を空けておけばいい? それとも後日?」

「急ぐように、とはいわれてる」


 さっさと作って献呈しないと、生徒会が腕輪禁止などの方針を打ち出しかねないからね!


「じゃあ、できたら今日ね。わたしは大丈夫よ」

「……今日は絶対、ジェレンス先生に攫われないようにしなきゃ」


 こぶしを握りしめるわたしを見て、シスコはなにか察するところがあったらしい。

 眉尻を下げ、困ったようにつぶやいた。


「いろいろあったのね、なにか」

「うん、いろいろあった。時間があったら、話すね」

「そうね……時間があったらね」


 お互い、遠い目になってしまう。

 時間がなさ過ぎて、昨日は夕食も一緒にとれなかったし。


「……寮に戻れないか、相談してみようかなぁ」


 また、毎晩お互いの部屋に――まぁ、ほぼシスコの部屋だったんだけどね! インテリアがととのってたし――行って、眠くなるまでおしゃべりしたい。


「それより、わたしが家族を説得するわ」


 キリッと宣言したシスコは凛々しくて惚れ直しちゃうけど、たぶん無理だと思うわ……。


「ご家族にご心配をおかけするのも、よくないよ」

「でも、女子寮じゃルルベルを守りきれないわ。親衛隊も中に入れないし」


 それなー。なんのかんのいって、親衛隊の存在ってデカいのよね。わたしが学園内をある程度自由にうろつけるのって、親衛隊が引っ付いてるからだ。

 でも、それがまた鬱陶しく感じることもあるのよ……わかってるよ、知ってる! すっごい贅沢な愚痴だよ! いなくなったら困る! それはほんと。


「……もう王都に吸血鬼はいないはずだから、大丈夫だと思うけどな」

「あれが最後の吸血鬼とは限らないでしょ」


 やめてくれぇ。あれが最後であってほしい……複数種の眷属が出現したけど、吸血鬼がいちばん面倒だった! なんていうかこう……情報戦とか心理戦みたいになるのが、ほんとめんどくさかった……。


「とにかく、もう行くわ。上流階級で人気のデザインも探らないとだし」

「ごめんねシスコ……」

「やだルルベル。わたし、やる気に満ちてるのよ? 興味もあるし、ルルベルと一緒の時間を過ごせるのも嬉しいわ。それに、わたしに声をかけてくれたことも」


 シスコが天使! 知ってた!


「親衛隊に迎えに行ってもらうから、教室で待ってて」

「わかった」


 天使は微笑んで、きびきびと食堂の方へ歩いて行った――これから、朝ごはんを食べるのだろう。

 わたしはそれを見送って、はぁ、と息を吐いた。わたしはもう食べてきたので、このまま校長室へ行かねばならない。しまった、朝食もシスコと食べることにすればよかった。失敗した。


 とぼとぼと校長室へ向かう。もちろん、エルフ校長は待ち構えていた。


「あのあと、ジェレンスは来ましたか?」

「え? いえ、先生にはお会いしてません」

「ではまだトゥリアージェ領にいるのでしょうね……まぁ彼の場合、今現在どこにいるかという話は、あまり問題にならないのですが」


 そりゃな。虚無移動で自由自在に居場所を変えちゃうのが最強なのは当然として、転移陣も自分で描けるし、空を飛ぶのも鬼速いもんな……。

 ここかと思えばまたあちら、を超長距離でやってのける。それがジェレンス先生だ。


「なにかジェレンス先生にご用事が?」

「いえ、シュルージュが一族をうまく説得できたかを知りたいだけです」

「それは……シュルージュ様でしたら、ご自分が望まれるようになさったのでは?」


 わたしには、シュルージュ様への全幅の信頼がある。なんでもできそうっていうか? だって、そういうひとじゃん。

 でも……そっか。

 エルフ校長にとって、シュルージュ様ってまだ生徒なんだろうな、きっと。無鉄砲なお転婆娘で、放っておけないというか、目を離すとヤバい系の……。


「配下を抑えかねているようでしたからね。心配なんです」

「……大きな樹は、シュルージュ様ご自身は求めてらっしゃらなかったんですよね?」

「そうです。ルルベルを先にやってから、少し話したのですが……どうやら、魔王復活にあたって当主が女では不安だという声があるらしくて」

「はぁ?」


 これは険悪な感じの「はぁ?」である。

 はぁ? なに寝ぼけたこといってんの? シュルージュ様は〈真紅〉の二つ名を持つ我が国最強の生属性魔法使いだぞ。どれくらい最強かっていうと、ジェレンス先生がへこへこ従うレベルだぞ。

 単に魔法が強いだけじゃなく、なんていうかこう……強い。

 ああ、表現力! 語彙! どっちもたりない!


「それって、誰かシュルージュ様を追い落として当主の座に着きたいひとがいる、ってことですか」

「そうですね。それが誰かまでは、シュルージュは話しませんでしたが……」

「トゥリアージェって、完全な実力主義じゃないんですか?」


 わたしが聞いた感じでは、トゥリアージェの一族って皆が「殴られる前に殴れ」系のパワー・イズ・正義! なタイプって印象だったんだけど……穏やかそうなデイナル様でさえ、あんなだったし。

 でも、エルフ校長は吐息を漏らし、憂いを帯びた顔でこう答えた。


「ルルベル、なにごとにも完全を求めるのは難しいものです」


 実力主義は、建前の部分もあるってことか……。

 となると、あれだけお強いシュルージュ様であっても、当主の座を得るのも維持するのも大変、と。


「魔王復活が近いからこそ、ちゃんと実力があるひとが当主になるべきなのに」

「ええ、ほんとうに」


 つぶやいて、エルフ校長はますます憂いを深めた。

 くっ……このひと、いやこのエルフ、ちょっと寂しげな顔してるときがいちばんアレだな! 逆魅了の魔法が消えてない? 大丈夫?


「僕が見たところ、シュルージュはただ魔法使いとして優秀なだけでなく、集団を牽引する力もあります。多少……いや、かなり強引なところはありますが、上に立つ者としては悪くありません」

「そうですね。ジェレンス先生を意のままに使えるというだけでも、すごくないですか? シュルージュ様を蹴落としたがっているひとは、それができるんでしょうか」

「無理でしょう」


 即答! まぁ、デスヨネー……。

 シュルージュ様以外の誰かに、ジェレンス先生が「はい」しかいわなくなるの、想像できない。


「はぁ……。どこもかしこも、めんどくさいことばかりですね……」

「それ、我が友もよくつぶやいていましたよ」


 我が友って、初代陛下かぁ。初代陛下も、いろいろご苦労なさったんだろうなぁ。


「時代が変わっても、そこは変わらないんですね」

「ええ……そうですね」

「あ、めんどくさいで思いだしました! ウフィネージュ殿下にいただいた宝石のことなんですけど――」


 不敬きわまりない連想だけど、実際めんどくさいのでな……。

 わたしはエルフ校長にざっと事情を説明し、学校側から生徒の腕輪着用禁止処分がくだされないよう、事前にお願いしておくことにした。

 もちろん、ファビウス先輩の入れ知恵である。

 ルルベルに不利になることを、校長先生は絶対しないはず――だけど、直接お願いしておけば盤石ばんじゃくだからね、といわれたのだ。

 話を聞いたエルフ校長は、わたしの願いを快諾してくれた。ついでに、生徒会の動きにも注意しておくと約束してくれた。


 腕輪作戦の進捗は予定通りだが、呪文の訓練は今日もあまり進まなかった。

 見顕しの呪文、難易度高いなぁ……。


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