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422 耐えられるのは一部の変態だけなの

 気がついたら、薄暗い場所で寝ていた。

 あれっ? ここどこ? えっと?

 ……ああそうか、魔力切れで気絶したのか。たしか、リートが保健室へ運べって命令してたはずだから……ここは保健室?

 シンプルな天井とカーテン。そうだ保健室だと思って眺めていると、シャッ、と。そのカーテンが開いた。


「ルルベルちゃん、どう? 気もち悪さは残ってる?」

「あ、はい。……いや、はいじゃなくて……平気です!」


 って叫んだら自分の声が頭に響いて、んっ……! って顔になってしまった。

 カーテンのあいだから覗いたウィブル先生は、いつもの羽毛ストールにちょっと顎を埋めて、困り顔でわたしを見下ろしている。背後の明かりで輪郭がかがやいていて、なんだか幻みたい。


「なにがあったかは、覚えてる?」

「えっと……標的が光って……魔力で覆ったんですけど、中身が吸血鬼の血のサンプルだと聞いていたので、危ないことがないように浄化したら、ちょっと力をこめ過ぎて、魔力切れを起こしました。……で、リートがナヴァトにわたしを保健室に運ぶように、って」

「だいたい把握できてるわね。よかった」

「魔力切れは、慣れてますから」


 そう返したら、ウィブル先生が眉をひそめた。


「駄目よ、そんなもの慣れちゃ」

「……はい」

「頻繁な魔力切れに耐えられるのは一部の変態だけなの。ルルベルちゃんは、そんなの慣れちゃ駄目。不健康よ」

「不健康」


 思わずリピートしちゃったよ。


「そ。不健康! 肝臓にかかる負担を考えてちょうだい」

「肝臓……」

「教えたでしょ? 魔力をつくるのは肝臓よ。魔力切れを起こすと、肝臓はそれを取り返そうと、いつもより魔力生成の機能を上げるわけ。それがあるから、魔力量を増やすには魔力切れを起こすのがいいっていわれてるのね。でも、肝臓が担ってるのは魔力の生成だけじゃない。だから、身体機能に影響が出かねないの。肝臓って不調がわかりづらい臓器なのよ。いつのまにか弱ってて、もう手の打ちようがない、なんてことも起き得るわ。わかる?」


 ……わたし、ガチ説教されてない?


「はい。気をつけます」

「ルルベルちゃんは、ただでさえ何回も倒れてるんだから。そろそろ、本気で気をつけてほしいわ。もう魔力感知も戻ったんだし、自分の魔力量も把握しないと」


 返す言葉もないとは、このことでございますね!


「はい……」


 わたしが萎れたのを見てとってか、ウィブル先生は肩をすくめた。


「自分の魔力量が枯渇しかけてるのに気づくのって、それなりに難しいのよね。魔法を使ってる最中って、魔力感知が魔法自体に集中しちゃうから。自分の中身がスカスカになりそうだなんて、意識できなくなっちゃうの」

「そうなんですね」

「そうなのよ。だから、初心者ならしかたがないことでもあるの。だけど、意識しない限り、ずっとこのままなのよ」


 うっ。


「つまり……使い切って倒れてしまう?」

「そういうこと」


 なるほど、そういう仕組みか……。


「わかりました。意識を向けるように心がけます」

「ええ、そうしてちょうだい」

「ところで先生、あの……会場でなにか問題は起きませんでしたか? 怪我人とか」


 浄化はできたっぽいんだよな。それは、気を失う前にリートに確認したはず。

 だけど、浄化できればそれでいいって話じゃないし。そもそも、あの視界が真っ白になるような状況、混雑した現場――誰かがパニックを起こしてしまえば、連鎖的に被害が広がってもおかしくはなかった。


「大丈夫よ。倒れたのはルルベルちゃんだけだし、だから保健室も貸し切りよ。今のところ、面会謝絶にしてあるわ」

「すみません……」

「なんで謝るの。ルルベルちゃんは、頑張ったんでしょ?」

「でも、あんなことになるとは予想もしてなくて」


 結果的に浄化はしたけど、当初はほかの標的と同じ扱いをするはずだった。つまり、包んで運ぶだけのつもりだったのだ。


「それねぇ……。標的になにか仕掛けがあったのかもしれないけど、もう完全に浄化されちゃったから、検証が難しいのよね」


 物証が消えたわけか! 消し飛ばしたのが自分なので諦めもつくというものだ。


「被害が出てないなら、そこはどうでも」

「よくないわよ。ルルベルちゃんを狙っての犯行なら、きちんと調べないと」


 ええー。わたしは大事おおごとにしたくないよ!


「いや、平気ですよ。魔属性って、わたしの敵じゃないんで……」

「駄目よ。こんなことをした子が見過ごされていいはずがないわ。ちゃんと現実に直面させて、性根を叩き直さないと。ちょっとした嫌がらせのつもりだったのかもしれないし、純粋な手違いかもしれない。だけど、誰がなにをやったかは、今後のためにあきらかにしないとね」

「はぁ……」

「魔法って、危険なものなんだから。扱いには気をつける必要があるし、それをわきまえない生徒は教育し直す必要があるの」


 ウィブル先生、口調はいつも通りだけど……実は、怒ってらっしゃる?


「先生」

「なぁに?」

「正直なところ、誰がなにをやったかについては興味があります。だって、ほかの標的はなんともなかったですし、あるいは――同じ魔の標的でも、ほかの班ではなにも起きなかったですよね。だけど、わたしの浄化が効果あったんなら、中身はやっぱり魔属性のなにかだったんでしょうし」

「そうね……そこは調査中よ。校長が」


 えっ。


「こ……校長先生が?」

「ええ、そうよ」


 なんか……わたしが関係すると自動的にポンコツ……いや、ポンコツはひどいか、ひどいけど適当な表現なにかある? とにかく、おかしくなるエルフに、調査がまかされてるって。ヤバくない?


「でも、校長先生の魔法って、そういうことの調査に効果があったりするんですか?」

「なんでも、昔手に入れたすごい魔道具があるんですって」

「魔道具?」

「ええ。過去に遡って観察できる? とかなんとか」


 ……それ絶対、ハルちゃん様のお手製とかだろ? なぁ! たぶん天才魔法使いが作った国宝級のなんかだぞ!


「使用回数に制限があったりするんじゃないんですか?」

「そこまでは聞いてないけど……」


 ウィブル先生はわたしを見て、くすっと笑った。

 そして、告げた。


「今のルルベルちゃん、『わたしのために、そんな貴重なものを使うなんて』って顔してる」

「そりゃそうですよ……」

「でも、考えてもみて。魔属性は敵じゃない、なんて口にしても嘘にならないの、ルルベルちゃん以外にいないのよ?」


 貴重でしょ? と、ウィブル先生はわたしを見下ろして告げた。

 そのまま視線を後ろにやって、ねぇ? と、同意を求める。


「はい」


 この声は、ナヴァト忍者か! ずっと付き添ってくれてたのかな。


「ナヴァトはなんともないんですか?」

「なんともないわよ。いったでしょ、倒れたのはルルベルちゃんだけだって」

「なら、よかったです。でもほんとに、わたしの魔力切れ以外の被害が出なかったんなら――」

「ダーメ。魔法にかかわる以上、いい加減なことをしちゃ駄目なの。今回の催しだって、一応は教師が仕様を確認して許可してるのよ? その仕様に沿わないことをしたなら、罰されなきゃいけない」

「……はい」

「まぁいいわ。喉が渇いたでしょ、シュガの実のジュースを用意してあるから飲んでて。アタシは現場に行ってみるわ」

「えっ?」

「だってルルベルちゃん、気になってるんでしょ? 誰かが怪我をしてないか、とか。だったら確認してくるわよ」


 ひぃー!


「す、すみません! 先生にそんなことをしていただくわけには」

「なにいってるの。養護教諭の仕事よ、仕事。すぐ戻るわ。どうせ皆、無事なんだから」


 ウィブル先生は保健室を出て行き、ナヴァト忍者がジュースを持って来てくれた。


「ありがとう。ナヴァトはほんとに平気?」

「俺はなんとも」

「ねぇ……」

「はい?」

「あの標的、なにかおかしかったと思う?」

「光を発するまで、とくに異常は感じませんでした」

「だよねぇ……」


 標的になにか仕込まれてたっていうより、魔属性の魔力にわたしの聖属性が過剰に反応したっていう説は……ないんだろうか。

 でもなぁ、今まで吸血鬼と対峙したり、巨人に呪符を貼ったり、いろいろしたけど……あんな風に光ったこと、なかったもんなぁ。

 求む! 真相!


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