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421 チョロっチョロのチョロ! だよ!

「ルルベル、集中しろ」

「あ、うん!」


 標的が、発光したのだ。

 え、なにこれ? ほかのチームで、こんな風になったことあった? いや、わたしが見た範囲ではなかったぞ。

 なんだろう、運営さん渾身の仕掛け? だとしたら、光るだけじゃ意味ない……なにかあるかもしれない。

 わたしは気合を入れ直した。


「慎重に行こう。まず、しっかり覆うね」

「はい」


 この中身、なんだっけ……たしか、魔……吸血鬼の血のサンプルっていってた? それが嘘でないなら、わたしに負ける要素はないが。

 ……うんそうだ、負ける要素などない!


「いっそ浄化しちゃえばいいかな」


 ちょっと軽口を叩くつもりで、そういって。

 包み込んだ標的の内側に、なんとなく力をこめてみる。こう、押しつぶすっていうか?

 魔法での力のこめかたって、ふつうの身体感覚とはちょっと違うんだけど。敢えて近いものを探すと、そう。

 押しつぶす。

 とたん、標的からすさまじい光がはなたれ、視界が真っ白になった……!


「わ……」


 思わずたじろぐレベル……そりゃ当然だよね、だって! ホワイトアウトしたよ!

 リートの冷静な声が飛ぶ。


「制御を失うな、ルルベル!」

「……はいっ!」


 思わず全力で良い返事しちゃった……。

 すごいなリート。これで動じないの、なんで? 鉄の心臓だから?

 とはいえ、リートの指示は正しい。大した量じゃないし、わたしに負ける要素はないとはいえ、吸血鬼の血なんて危険物質である。

 逆にいえば、負ける要素がないわたしが、ちゃんと保持しなきゃいけないものだ。

 こんなの、目で見なきゃいいのよ――魔力感知でとらえれば、チョロっチョロのチョロ! だよ!

 魔力感知大得意人間に生まれ変わったわたしなら、視界消失恐るべからず! 紙吹雪が邪魔だけどな!

 ……とはいえ。


「ナヴァト、視界確保できる?」

「自分は、なんとかできます」


 さすが光属性。自分ひとりなら克服できるのか。リートは見えてんのかな。自分の視力をなんとかする方向で……。

 まぁ、ナヴァトに見えそうならそれだけでも問題ない。よし!


「じゃあ、見えてるものを教えて。わたしの感覚だと保持できてるんだけど、大丈夫?」

「はい。空中に浮いています。枠からは、ほとんど移動していません」

「標的以外は? つまり、観客とかに被害は出てない?」

「俺に見える範囲では、異常ありません」

「わかった。じゃあ、このまま浄化しちゃおう。リート、それでいい?」

「もちろんです、聖女様」


 ……急に態度変わったぞ! まぁ、いいけどね。リートのやること気にしてたら身がもたん。

 よし。


「てい!」


 思わず声が出ちゃってから、思う――なんか間抜けな感じだな、って。

 でも、聖女が聖属性魔力をぶっぱするときの声って、どういうのがいいんだろう……。

 ……あれかなぁ、ゲームでキャラクター設定するときに、声を選択できるシステムあるじゃん? サンプルを順番に聞いてくと、台詞だけじゃなく、元気なかけ声から、「うっ!」って感じの、あっダメージ食らってます? 的な声まで出てくるの。

 あれの、「やぁっ!」とか「ふんっ!」みたいなの? つまり、そのキャラが攻撃するときの声として録音されてるパターンに、ふさわしいのがありそう……。そうか、あれを思いだせばいいのか。設定で選びたくなるようなのを!

 まぁ、さっきの「てい!」は駄目だね。はいこの声チェンジ、ってなるね。

 ……いやいやいや、また意識が浮き上がってる! もっと集中、集中!


 わたしは全力で標的を包み――だって、魔属性が漏れて悪さをしたら困るじゃない?――動かないように、きっちり保持しつつ。同時に、自分の魔力を標的の内側に押し込むようにイメージした。

 残り少ない魔力だけど、べつに吸血鬼本体がここにいるわけじゃないんだし、制圧できるはず。

 今まで積もりに積もった、吸血鬼への苛立ちを! ぶつけてやる!

 おまえなんか、こうだ!

 ……いや、どうだか見えないけど!

 でも、こうしてやる! ギュッとして、パーッ! だッ!


 魔力を球体の内側へ向けると、そこに「ある」のがわかる。

 それがなにかは、わからないけど……わからないけど、わかる。

 聖属性に反するもの。相容あいいれないもの。

 ここにあってはならないもの。

 世界はわたしで、わたしは世界なのだとしたら――この世界に存在すべきではないもの。

 消えろ。

 なくなれ。

 はじめから、存在しなかったくらいに。

 非在のものとなれ!


 パシッ! ……と。音がして。

 わたしには、わかった――終わったな、って。

 浄化も終わったけど、わたしの体力っていうか魔力残量も終わった。こんなに使わなくてよかった。全力出し過ぎた。リートがこっち見てる……定番の、君は馬鹿か目線をいただきましたー!

 ……いらんわ!


「ナヴァト、後始末は俺がやる。聖女様を、保健室へ」

「はい、隊長」

「え、だいじょ……ぶ……」

「どこも大丈夫じゃない。どうしても大丈夫だと主張したいなら、保健室でウィブル先生にしろ。俺は聞く耳持たん」


 横暴!

 ていうかそうか、ホワイトアウトが終わってるな……。よくわからなかったけど、聴覚もちょっとおかしくなってた? 今は、皆のざわめきが聞こえる……誰か走って来たけど、止められた。シスコ? シスコだな、焦点合わないけどわかるよ!


「では失礼します、聖女様」


 おぅ……久しぶりにお姫様抱っこだぜ……。

 ていうか、まぁ……たしかに大丈夫じゃなかったようで、ナヴァト忍者が素早く支えてくれなければ、そのままぶっ倒れていたかもしれなかった。

 もう踏ん張りが効かないというか……あの……つまり、やっちまったわ。

 魔力切れ。

 ぎぼぢわどぅい……ギボヂ……うん、カタカナだな。

 ギボヂワドゥイィィィィイイイ!


「リート」

「なんだ?」

「魔、の、標的は?」

「君が破壊した。中身はない」


 そっか。じゃあもう安心だ……うん、大丈夫。


「あとは、まかせた」

「なにを今さら」


 渾身の「いつだって君の面倒ごとは俺が始末しているんだぞ」顔をされてしまった……たぶん読み間違ってないと思う。

 まぁねぇ、うん、よろしくたのむわぁ……。

 で、ナヴァト忍者に運ばれながら、わたしは安心しちゃったのか――気を失ってしまったんだと思う。


 たぶん。


 ……たぶんっていうのは。

 わたしはぐったりと、身体を動かすこともできないし、目も閉じている。それはわかる。わかっちゃうのである。

 おかしくない?

 気を失ったらそんなのわかんないでしょ、でもわかるのだ。

 なんだこれ?

 それこそ魔力感知だけが忙しく仕事してるみたいな……うおお、あそこにある大魔力は誰だ、王子か。王子だ。マジであの子、魔力量だけは化け物じゃん。スタダンス様もかなりのものだ……なんてことが、わかっちゃうのだ。

 なお、ナヴァト忍者もちょっと常人離れしてるね……いろいろ活躍したあとだから目減りしてるけど。

 だけど、感知する限りでは危険なものはなさそうだ。

 ……危険なものって、なに? 魔属性?


 ――困った子だね。


 誰かの声が聞こえた気がした。いやでも今、耳も聞こえないんだよ。わたし、気を失ってるから!

 気を失ってる……んだよね?


 ――危ないよ。戻りなさい。


 また聞こえた!

 返事をしたくても、もちろん口を動かすことも声を出すこともできない……。

 あっそうか、念じればいいんだ。


 ――誰ですか?


 でも、答えはなくて。その代わり、今度こそわたしは完全に気を失ったのである。

 たぶん。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 謎の御方再登場ですね。気になります。 [一言] 更新ありがとうございますm(_ _)m
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