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419 皆が理解してくれれば嬉しく思う

 粛々と、競技は進んでいく。

 紙吹雪だけでも、対策はいろいろだった。風属性で、シスコみたいに紙吹雪の渦巻きを作ろうとしてみた――なんてのは、序の口。火属性魔法を弱く使って上昇気流を生み出そうとしたり、水属性で空気の湿度を上げて紙吹雪の動きを止めようとしたり。

 よく考えるなぁ! って感心するよね。

 だいたいは失敗だったけど、ぶっつけ本番だし、しかたないかな。

 それを思うと、シスコは素晴らしかった! わたしのシスコ、ほんとにすごい。


 なお、点数の方はあまりふるわない。

 たぶん皆、開き直っちゃったんじゃないかな。点数稼ごうとしてる感じじゃないもの。なんかこう……攻略っていうか、研究? あるいは、独自性の追求。

 学園のイベントとしては、良い方向性かもしれないね……生徒会が狙ったものとは違いそうだけど。

 皆がいろいろやるから、シンプルに射抜いただけのチェリア嬢、とっても地味って印象になっちゃったよ。


「あ、次は生徒会だね」

「スタダンスが紙吹雪をすべて落としたら面白いな」

「……それはさすがに、失格でしょ?」

「ふわふわ運営が、王太女殿下の弟君の班を失格にすると思うか?」

「えー。そこまで露骨なことするかな?」

「熱心な無能だからな」


 評価が下落していくこと、限りなし!


「ほんと失礼よ? ……あれっ。王子が前に立ってるね」


 試技では、スタダンス様が枠ごと落とすという雑な芸当を見せてくれたわけだけど。……本番で王子? ノーコン大火力の王子がこんな閉鎖空間で魔法使うとか、怖いんですけど?

 ほぼ無意識に後ずさったわたしに、すかさずリートが突っ込んだ。


「君も今、かなり失礼なことを考えているだろう」

「危機意識が仕事しただけだよ」

「仕事が雑だな。殿下は最近、かなり腕を上げたぞ」

「いや、そうなんだろうけど……もとの印象が強くて」


 エーディリア様がお役御免になるくらいだし、王子もかなり頑張ってはいるんだろう。そうは思うが、やはりこう……ノーコンという先入観が根強くて!

 ……いや待て。

 そういえば、さっき王子がなんか宣言してたよな……。あれは結局、なんなんだろう?


「さっき、リートがチェリア嬢のところに行ってたときに、ローデンス様がいらしたんだけど」

「そうなのか?」

「はい」


 なぜナヴァト忍者に確認するのか!

 さすがのリートも全力で演技しながらこっちの状況を把握する、なんて芸当はできなかったんだな……。それはいいけど、わたしの言葉も信じてくれんかのぅ?


「なにがあった」

「スタダンス様からの伝言を届けに来た、っておっしゃってた。わたしを勝たせてくれるって」

「ずいぶん難しいことを宣言するんだな」

「で、ローデンス様ご自身も……たしか『姉には勝たせない』って、いってた」

「そっちもそっちで、面倒なことを目論んでいるな」

「どういうことか、わかる?」


 的の前に立つ王子は、ふわふわきらきらの夢の王子様そのものだ。少しカールがかかった金髪が、雰囲気づくりに大いに寄与してると思う。

 でも今は、表情が真剣。……ガチのマジ、って顔だ。


「いや。具体的になにをやるかは、それだけじゃわからんな。ただ、姉姫に逆らうことになるのは間違いない。思い切ったな」


 ……そうだよな。

 そうだよ。

 王子はウフィネージュ殿下には逆らわないタイプだったはずなんだよ。だから、びっくりしたんだ。だって、だいじなお姉様を勝たせないって……わたしの知ってる王子じゃないもの。


「おふたりにご迷惑がかかるようなことは望んでないって、そう伝えたんだけど」

「無駄だろうな。かれらの決意や行為は、君のためであって君のためじゃない。自分の自尊心を満たすための行為で、ある種の自己満足なんだ――もちろん、認めてもらいたいとは思っているだろうが、だからって誰かに止められてやめるようなことじゃない」

「なにそれ……」

「あの年頃の男子なら、よくあることだ」


 リートだって同級生じゃん……と思ったが、そういえばコイツたしか、同い年じゃないっていってたな。

 エルフの血が混ざってるんだから、見た目が若いのは納得せざるを得ないけど……実際、何歳なんだろう?

 ……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて!


「どうしよう」

「どうにもならん。……なんでそんなに心配するんだ、かれらが勝手にやることだ」

「なにをやるかわからないのが心配なんだよ。決まってるでしょ!」

「止められないんだから、心配するだけ無駄だ。……はじまるぞ」


 王子が、あたりを見回した。完璧なロイヤル・スマイル。誰もが「自分を見てくれた!」と感じるような目線配り――アイドルに転職しても、やっていけそう。


「では」


 一声を発したそのとき、動いたのは王子ではなく。スタダンス様だった。

 紙吹雪がすべて、完全に落下する。

 ……えっ。重力魔法で処しちゃったの?

 でもこれ……失格あるいは大減点でしょ?

 だけど、王子は微塵も動じることなく。


「見よ、魔力の流れを」


 たしかに、紙吹雪が強制落下を食らった今なら、魔力の流れはよくわかる。吊り下げられた木枠と標的のあいだに、微弱な魔力が循環しているのも……感じ取れる。

 あんな微妙な力で支えてるのか! すごいな……よくあれで落ちないな。

 全員が息を呑み、静まり返る中。つづいて、枠が揺さぶられた。……あれも重力魔法?

 だけど、その単純な――さほど強くもない揺さぶりだけで、標的はぽんぽん枠から飛び出して――落ちた。


 えっ。うっそ!

 あれだけのことで落ちちゃうの?


 床を転がって来た標的のひとつを、王子は拾った。


「ここまでの競技を観覧したなら、わかるだろう。勢いよく的を抜こうとも、隣の的がはずれることなど、なかった。枠が揺れても、なにも落ちなかった。だが、今回は――ご覧の通りだ。簡単に点が取れるよう細工されているとのそしりを受けても、無理のない調整ではないだろうか?」


 王子は生徒会の運営チームの方に視線をやった……と思う。

 わたしが立っている位置からは、ふわふわ金髪後ろ頭しか見えない。だけど、気の毒な司会担当が、ヒッ! って顔になったからね……。


「僕は、こんなことで勝ち点を得ても嬉しくはない。良かれと思って調整したであろう者たちに、ねぎらいの言葉をかける気にもなれない。これは、生徒会の公明性に疑問を抱かせ、主催した我が姉の名を汚すものだ。……僕が伝えたいのは、それだけだ」


 王子はまた、全員に目線を配った――いやもうプロだな! ファンサのプロ!

 うっとりするような笑顔を見せてから、王子は言葉をつづける。


「とはいえ、出場した者は皆、それぞれの最善を尽くしてくれたと思う。創意工夫を凝らした実技に、感嘆の念を覚えなかった者がいるだろうか。全力で取り組んだ生徒たちには、敬意を表したい。そして、この先も――次の的がどのように調整されるか、僕は知るところではないが――たとえ結果がどうなろうとも、参加者に責はない。皆が理解してくれれば嬉しく思う」


 理解してくれれば嬉しく思う……って、ロイヤルな感じ〜! 庶民は、こんな言い回しはしないでしょ。少なくとも、わたしは使わないよ!

 ともあれ、王子の出番は終わったようだ。


「悪くない対応だったな」


 リートが相変わらず、上から〜!

 相手は王族だというのに、完全に上から〜!


「このあと、すっごいやりづらいけどね」

「なぜだ。全力を出すだけだろう」

「いや、それはそうだけど……」


 イカサマ疑惑がガツンと公開された以上、いい点とれてもとれなくても、あんまり意味はない……のかもしれない。

 皆、好きなように解釈するだろうな。

 わたしたちは! なんもズルはしませんけどもー!


「これで、勝敗にそこまで意味がなくなった。俺たちがすべきことは、得点をとることじゃない」

「……うん、まぁ」

「聖女の力を圧倒的に見せつけることだ」


 ……はぁ?


「圧倒的な力なんて、ないんですけど?」

「聖女の力の特異性を見せつける、といえばわかるか? 物理干渉力、残置性……そうだな、魔の標的でなにかできればいいんだが」

「特異性……っていえば特異性なんだろうけど」


 まず、きちんと標的を包めるか問題が残ってるんだけどな!


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