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418 従順になる気はないんですね

 挑戦者は、すぐにあらわれた。

 三番手のチームが、まず金の標的を落としに行ったのだ。


 構成は、風属性三人。全員で、標的を風で包んで引っ張るという手法を使っていた――重たい金も、三人がかりで支える作戦だったようだ。

 で、どうなったかというと、身構えていたせいか、アリアン嬢のときほどは暴れなかった。枠も、ぐらぐらになったりはしないようだ。

 このチームは、とても着実に標的を回収したと思う。スパーン! ってやらないから、中身も安全……と、いいたいところだが。じっくりやり過ぎて若干の水漏れが発生したり、火が消えたりしてしまったらしい。あと、風魔法で標的をくるむ過程で、障子は無惨なことになってた。

 花は無傷だったらしく、合計点は七十点。うまくやったように見えたけど、現時点では最下位だ。


「今のは、金の次に腐を狙いに行ってなかったら、さらに減点されていただろうな。しかし、全体に時間をかけ過ぎだ」


 リートの評価って、上から目線だよね……。


「速度、そんなに重要なの?」

「水漏れも、火が消えたのも、速度の問題だ」

「でも、ゆっくりやったから花は散ってなかったみたい」

「あれだけ丁寧にやっても散るようなら、課題を準備する側に悪意しかないといっていいだろう」


 うーん。まぁなんか……うーん。


「結局、これって楽しんでるのかな、皆さん?」

「ひとによるだろうな。こういうのが楽しい者もいる、そうでない者もいる――尋ねるからには、君は楽しくないんだな?」

「あーうん……まぁ、そうね……」

「もともと君は向いていないからな。勝負や競争といったことには」

「……チェリア嬢の実力を知らしめるための大会! なら、よかったんだ。でも、どっちかというと、わたしを貶めるためって雰囲気ない? くじ引きも完全にグレーだったし」


 一番を引かされそうになったの、衝撃よね……。

 わたしはなんにも疑ってなかったけど、アリアン嬢は疑惑の目で見ていたわけで。ほかの参加者はどうか知らないけど、あれ以降はもう、純粋には楽しめないんじゃないかな、って。そう思っちゃう。


「くじ引きに関しては、あの役員が王太女殿下のご機嫌を取ろうと勝手に忖度した可能性が高いな」

「……そうなの?」

「小物が考えそうなことだろう。あれもこれも小細工ばかり、しかも雑だ」


 おい。他人様を小物呼ばわりすんな! 失礼だぞ!


「そういうの、よくないよ? 人様のこと、小物とかいうの」

「小物は小物だ。大物なら、もっと堂々と陥れる」


 他人を陥れないのが大物だと思いたいなぁ!


「王太女殿下が、細部まで調整なさったわけではない……と、いうこと?」

「当然そうだろう。学園内の臨時の催しだ。チェリアが多少失敗しても挽回の機会はいくらでもあるし、優先順位はさほど高くない。さっきエーディリアが言及していたように、殿下は魔法の研究には真摯に向き合っておいでだし、最終学年は研究で忙しいんだ。その上、王太女という立場上、ほかにも山盛り仕事があるはずだ。魔王復活は、国家間の関係も複雑にする。トゥリアージェ魔法伯からも報告が上がって来ているだろう――魔王の復活地点が国内かもしれん、という話はな」


 いわれてみれば、たしかにそうだ。

 ニンゲン、トテモ、愚カ……って気分にはなるけど、国のトップとしては、国境も守らなきゃいけないだろう。魔王が出現したら、それに乗じて攻め込まれる可能性だってあるわけだし……。なんの備えもしないわけにもいかないよなぁ。

 ニンゲン、トテモ、愚カだからね……しかたないね……。


「王太女殿下は、すでに国政にも深くかかわっているという話だからな。こんなお遊び、気の利いた取り巻きにまかせるのが正解だ」

「なるほど……」

「問題は、担当した取り巻きが無能だったという点にある」


 小物よりひどくなったぞ……。


「無能って」

「だが、それ自体が殿下の落ち度といえなくもない」


 ディスりが王太女殿下の方までシフトした! リートだから大丈夫なんだろうけど、本来、こんな大っぴらに語れる話題じゃないからな! 気をつけてくれよ! わたしの神経が保たないぞ!


「ちゃんと細部を見なかったから?」

「違う。まかせる相手を間違った。そもそも、まかせられるような人材を周りに置いていない」

「……そうなの?」

「殿下は優秀過ぎる。すべて自分でやろうとしてしまうんだ」

「でも、今回のこれは誰かにまかせたって話でしょ?」

「そうだ。今説明したばかりだぞ。殿下はお忙しい。すべてご自分で采配なさりたかったとしても、どうしても手が回らないことはある――今回のようにな。しかし、誰かにまかせることが少ないから、ふだん『殿下のお考えは素晴らしいです、さすがです』とおもねるのが自分の仕事だと思い込んでいるような無能しか、周りにいない……と、いうことになる」


 わぁ……。

 妙に説得力あるじゃん! でも最悪じゃん! 次期女王陛下は幕僚に恵まれないぞって話でしょ。


「おかげで、この状態だ。規則はゆるゆる、運営はぐだぐだ。なにかというと、王太女殿下に伝令を立てて確認する――殿下も、さぞ苛立っていることだろう。多少の不手際があったとしても、チェリア嬢が一位を取れればいいはずだったが、もはやそれも無理になっている」


 ……アリアン嬢のチームが本気出して、得点で上回っちゃったからなぁ!


「王太女殿下も大変だねぇ」

「君はまたそうやって、誰にでも同情するのをやめろ」

「……いや、だってさ……」


 リートはわたしを睨んだ。あっ、これはかなり苛立ってますね!


「いっただろう、学園内の臨時の催しだ。これが失敗しても、周りの評価はそこまで落ちない。『なんかうまくいかなかったね、殿下もお忙しかったみたいだから、生徒会がやったんだろうね』と皆が納得する」

「……ねぇ、わたしの声を真似てない?」


 男性の声帯から出していい声じゃねぇぞ! しかも喋りかたが絶妙に阿呆っぽいの、悪意しか感じないぞ!


「『王太女殿下も大変ね』……君ほど反射的にではなくとも、だいたいの生徒がこんな感じに認識するだろう」


 顔色も変えず、声帯模写第二弾! うわーやめてー。


「そこ、無駄にリアルな声色を使う必要あるの? ねぇ?」


 わたしもちゃんと機嫌の悪い声を出したが、リートにはガン無視された。


「だから、今回の失敗で理解して、きちんとした取り巻きを選び直せばいいんだ。卒業後もこの状況だと、話にならん。だからこそ、今は失敗を噛み締めるべきだ」


 失敗から成長すべき、ってことかぁ。なるほどなぁ!

 なんだ、リートもなかなか良いこというじゃん、と思ったわたしが浅はかだった。


「俺たちは、やはり完全勝利すべきだ。叩きのめして、思い知らせてやろう」


 いやいやいや!


「思い知らせるって、そんな。そういうの、いいから!」

「シュガの実でも絞って来るか」

「魔力切れてないよ!?」


 それとも、これから魔力切れギリギリまで頑張らせるって宣言?


「君には、シスコの期待も背負っているということを思いだしてもらわねばならん」


 ……あ! わかった。

 わたしが勝負のやる気を失ったんじゃないかと思ったんだな。

 なーんだ。リートもちゃんと、見誤るじゃん!


「大丈夫、同情はするけど勝つことは勝つよ」


 ぐだぐだの運営をせざるを得ない生徒会にも、そんなぐだぐだを見守るしかないウフィネージュ殿下にも、同情はする。リートの解説がほんとに合ってるかはともかく、どっちもストレスを抱えてるのは明白だもん。

 気の毒にね。

 でも、それは他人を陥れようとしたからだよ。


「わたしはね。チェリア嬢とわたしのどっちが上とか、殿下の権威とか……そういうの、お好きになさってどうぞ、って思ってる。ただ、聖属性は特別なもので、失うわけにはいかない――とにかく魔王復活が近い今だけは、絶対に失えない。その事実は、理解してもらう必要があるよね」


 チェリア嬢が第二の聖女として有能なら、それこそ「第二の聖女」ポジションで推せばよくない?

 聖属性魔法使いの人数が増えても、悪いことないでしょ。聖女二名体制をととのえれば、それでいいじゃん。なのに、わざわざわたしを蹴落とそうとするところが、おかしいっつーの。


「従順じゃない魔法使いは必要ないと思われてるなら、それを覆す程度には力があることを示さなきゃ」

「従順になる気はないんですね」


 思わず、といった感じのナヴァト忍者のつぶやきに、わたしは笑顔で応じた。そんなの当然だよ。言葉にするまでもなくない?


「なんだ、君も思い知らせる気じゃないか」

「リートは殿下をぶちのめしたいだけでしょ。わたしは、魔法使いを尊重してほしいんだよ」

「結果が同じなら、差異は認めんな」


 リートに認められるかどうかなんて、どぉーでもええわい!


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