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414 聖女チーム終了のおしらせじゃん

「魔力を固めたものも、道具と看做みなします」


 生徒会の――っていうか、ウフィネージュ殿下の結論は、そういうことのようだった。

 えー……これ、聖女チーム終了のおしらせじゃん。

 せっかく、いい方法を思いついたのに。駄目な方法にされてしまった!


「どうしよう……」

「どうもこうもあるか。勝つぞ」

「そりゃ……まぁ、できればそのつもりだったけど」


 まさに手も足も出ないとはこのこと! って状況なのだが?

 ナヴァト忍者も鎮痛な面持ちだ。


「俺が、はしゃぎ過ぎたせいです」

「それはないでしょ」

「反射で慰めるな。ただ投げるだけなら、ここまで警戒されなかったはずだ」

「はい……」

「いやいや、なりふりかまわず潰しに来てる感じじゃない? もう、どうやっても無理だったと思う」

「そんなことは、どうでもいい」


 よくねぇよ。

 ……と、返しかけたわたしの前に、リートは自分の手を突き出した。両手をあわせて、なにかをすくうみたいな形。


「この手の中に、魔力玉を作れるか?」

「え? どうだろう……できると思うけど」

「やってみろ」


 なんでまだ魔力玉よ……と思いつつ、いわれるままに魔力玉を作ってみる。自分の手に作るより、ちょっと抵抗感? なんだろう、引っかかりというか……スムーズじゃない感覚はあるんだけど、でもまぁ、できるもんはできる。慣れてるからなぁ。


「できたよ」


 どや顔してもいいところ? ていうか、なんでこんなことさせられてんの?


「これができるなら、標的を直接包むこともできるんじゃないか」

「……は?」


 考えたこともなかった。

 魔力玉といえば、ファビウス先輩の実験で作ったときはいきなり机とか、器具の上にとか出したけど、だいたいは自分の手の中で作ってて、そういうもんだと。いやもう、手の中に作る、って思い込んでたね!

 もうほんと、慣れって怖い。固定観念って怖いね!

 ……わたしにも、全力ぶっぱなし以外のことができるかもしれないんだ。

 一瞬、希望が湧いて――でも、ほんとに一瞬のことだった。


「いきなり、あんな遠くに焦点合わせるなんて、無理じゃない?」


 現実的に考えて、魔力操作がそんなに得意じゃないわたしが、そう簡単にできるはずないと思うんだよね。しかも、魔力感知を混乱させる紙吹雪だらけの環境でさ……。せっかく感知だけは上等になったけど! だからこそ、逆につらい。


「幸い、順番は最後だからな。アリアンと……そうだな、スタダンスにも依頼しよう」

「なにを?」

「時間稼ぎだ。運営側におもねるために参加している生徒ならともかく、そうでないなら、さっきのでかなり批判的な評価に傾いていても不思議じゃない」

「……つまり?」

「協力してくれるだろう、ということだ。聖女ルルベルのために」

「いやだから、無理だって」

「やればできる」


 ビシッと断言すると、リートは少し遠くを見るような目つきをした――あーこれもうアレだわ、誰かと連絡とってるんだわ。生属性ほんとヤバくない? ねぇ?


「無理ならいつでも我が燃やしてやるぞ」


 ナクンバ様がウキウキと口を挟むので、つい。


「いえ、無理とは限らないですから。頑張ってみます」


 ……ああー! 墓穴!

 しかもリートがこっちを見て、悪い顔してるぅ! 君はそういうと思ってた、って顔だろ、これ!

 読まれてるの、むっちゃムカつく!


「練習しましょう」


 ナヴァト忍者にいわれて、はっとした。

 そうだ、ムカついてる場合じゃない。練習しなきゃ。


「うん。……少しずつ距離を伸ばせばいいかな?」

「そうだな。ナヴァト、一歩退がれ。ルルベル、ナヴァトの肩を狙え」

「肩? なんで肩?」

「上を狙う練習だ。ナヴァト、魔力玉ができる気配がしたら、光魔法で見えなくしろ。できるな?」

「はい。……注目されづらいよう、全体に『見えづらい』感じにしておきます」

「手法はまかせる。こうなると、紙吹雪が逆にありがたいな。なにをやってるか見られたら、どんな難癖をつけられるかわからん」


 リートの危機意識が仕事してるなぁ!

 まぁ、そういうのはリートにまかせておくことにして、わたしは魔力玉を遠くで作る練習だ。

 ナヴァト忍者の肩狙いは、一発では成功しなかった。当然だろう。こんな距離感で魔力玉を作ったことないもんね!

 相談して、はじめは距離同じで手の中に作らせてもらう。それはすぐ成功したから、やはりイメージの問題っぽい。肩に魔力玉を作るのは、手の中に作るよりイメージしづらいってことだ。

 ……うーん。


「本番は、容器を包んでこっちに引っ張る感じよね?」

「そうなるな。引っ張る方は、俺たちも協力できる。というより、魔力玉を生成したら、その時点で制御は俺かナヴァトに委ねてくれ」


 あらそう? そりゃ助かるわ! ノーコンとまではいわないが……いやまぁ、わりとノーコンだもんな。練習してないんだもん、魔力操作。

 冷静に考えたら、魔力玉の生成だって魔力操作の一種なんだよなぁ。まるめてるだけ、だけど。

 魔力まるめ職人としては、それなりに自信あるよ。うん、大丈夫。遠くでもできるはず! いや、絶対できる!


「包むものがある方が、たぶん、やりやすいんじゃないかな……」

「それもそうだな。余った容器をちょろまかしてこよう」

「ちょろ……って! いや、失格に――」


 なったら困る、という前にリートの姿は消えた。

 ……消えるなよ!


「聖女様、隊長のことは放っておきましょう」

「え、ひどくない?」

「適材適所です。この難局をしのぐため、全員が、それぞれのできることを全力でやるしかありません。隊長も俺も、あの頭上に浮かんだ的を魔法で動かすことはできないんですから……聖女様は、今は魔力玉を遠隔で作ることに集中なさってください」

「……はい」


 諭されてしまった!


 また少し距離を伸ばして、ナヴァト忍者の手の中に魔力玉を生成――成功。

 うん、距離はけっこう行ける。行けるな!

 魔法ってこういう達成感が重要だ。自分ができるって確信が、そのまま結果に通じるから……わたしは進んでる。着実に、今までできなかったことが、できるようになってると信じて。


「これを使おう」


 戻って来たリートは、使用済み空容器らしきものを持っていた。


「……ほんとにちょろまかしてきたの」

「俺は宣言したことはやる。容器をちょろまかすといえばちょろまかすし、勝つといえば勝つ」


 ブレない!


「そして、魔力玉が余ったら寄越せってなるのね……」

「悪くない考えだが、今は課題をこなせ。前進しろ。君は、これまでの君じゃなくなるんだ」

「……いやそれどういう意味よ」

「少し前に、俺がいったことを覚えているか。君は魔法が使えない、ただ聖属性の魔力を持っているだけだ、と」


 あー。魔力の全力ぶっぱしかできないくせに、魔法使いを名告るとは烏滸おこがましい……みたいな? 原文ママでは覚えてないけど、印象はバッチリガッチリ残ってるよ!


「遠隔で、思い描いた場所に聖属性魔力を生じさせることができるようになれば、ただの『魔力を持っているだけの人間』じゃない。立派な魔法使いだ」

「……なるほど?」

「君は今日、生まれ変わる。魔法使いになるんだ。魔法使いになれ」


 あやしい意識啓発系サイド・ビジネスの勧めみたいになってきたが……魔法はイメージだからな!

 ここはメンターとしてリートを信じ……いやぁ、メンターにするのはどうなのって人選だけど。でも、少し距離を置いて容器を掲げたリートを、今は信じるべきなんだろう。


「ウィブル先生は、もうずっと前にわたしのことを『魔法使いになったのよ』っておっしゃってたけどね」


 ものの見かたや考えかたが、魔法使いだよって。そういう意味の言葉だったと思う。

 そういう意味では、わたしはもう魔法使いにはなってたんだ。そうなんだよ。

 あの容器を包む――そうだな、今ではもう無意識にできる魔力覆いと、魔力玉生成の感覚を組み合わせるといいのかも。

 無から有を。

 輪郭に沿って覆いを。


 ――わたしは世界で、世界はわたしで、だからわたしの意思に世界は従う。


 謎の全能感に満ち溢れた瞬間、バチッとすべてが噛み合う感覚がして。


「……よし、できたな」


 リートの手にした容器は、わたしの聖属性魔力に覆われていた。


最近、休みがちで申しわけありません。

気温や気圧の変化で簡単にダウンしてしまう傾向が強まっているようで……無理はしない方針でやっております。

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