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413 誰も君が貴族のご令嬢として育ったとはいっていない

 試技は順調に進んだ。

 うまく当たらない選手、あるいは当たっても落とすところまでいかない選手がつづいたりもして、成功率は半々というところ?

 生徒会の代表はスタダンス様だった……重力魔法ですね、ハイ。

 やはり、かけ声もなく、身振りもなく、ただスターン! と。容器が床に落ちたよね。紙どころか、枠も突き抜けてるわ……っていうか、枠も落ちてきた! いや強過ぎ!


「あれも、鬱憤を晴らす感じかな?」

「そうかもな。シスコに情報を流すくらいだから、相当苛立ちを抱えているだろう」


 あんまり気にしてなかったというか、気にするゆとりがなかったけど……スタダンス様のノーランディア侯爵家って、王家と折り合いがよくなかったような。


「侯爵家は最近、どうなの? そういえば」

「どう? 公職に復帰したかという意味なら、もちろんだ。吸血鬼捕縛の立役者だからな、吸血鬼被害を跳ね返したということで、評判も上がったはずだ」

「そっか……王家とうまくいってるならよかった」

「うまくいってると誰がいった。べつに、うまくはいっていない」


 わたしはリートの横顔を見上げた。


「うまくいってないって……深刻な話?」

「表向きは友好的にやっている。それ以上のことは知らん。必要なら調査するが」

「いや……わたしには必要かどうかがわからないから。リートが調べてないってことは、必要じゃないってことなんだよね?」

「優先順位の問題だな。ほかに、差し迫った用事があり過ぎる。ただ、西国に関しては以前より知識が増したから、その意味では、ノーランディア侯爵家のことも調べやすくはなった」

「そっか……西国との交流が深いんだっけ」

「そうだ。もともと財力があり過ぎて王家から危険視されていたわけだが、スタダンスがああだろう」


 枠ごと落として役員に叱られている――顔見知りのせいか、司会進行の役員さんも、遠慮なくぶっちゃけているようだ――スタダンス様を見ながら、わたしは尋ねた。


「ああ、ってどうよ?」

「貴族に向いていない男だ。単純で裏がない。強いていえば、既存の価値観を重んじるあたりは貴族らしいが。そのせいで王族は偉い、従うのが当然と思い込んで生徒会に入り、王太女殿下にも気に入られていたわけだが、今は違う」

「違うの?」

「違うな。ローデンス殿下もだが、君と親交を持ったことで価値観が揺らいだ。そこへ吸血鬼騒ぎとか、厳しいにもほどがある沙汰とか、いろいろあっただろう。単純素朴なスタダンスでさえ、王家は侯爵家の勢力を削ごうとしていることに気がつく。以前なら、それでも王家が望むなら理由があるのだと自分で勝手に納得するところだが、おかしいんじゃないかと思うようになってしまった」


 少し考えてから、わたしは尋ねた。


「それ、わたし関係ある?」

「ある」


 ノー・タイム! もうちょっと悩んでもいいんじゃないの?

 納得いかんと思うわたしに、リートは畳み掛ける。


「君は、平民ならではの価値観を、物怖ものおじすることなく貴族にぶつけることができる。ふつう、いくら聖属性魔法が使えるといっても、もう少しは世俗の権力に従うものだ。かなり珍しい存在といって間違いないだろう」

「いやそれは……そんなことは……」

「君の精神は、どこかおかしい。下町っ子らしい生命力と、庶民らしからぬ感覚が共存している。視点を切り替えて、常識を踏み倒してしまう」


 そこまでいってようやく、リートはわたしを見た。

 どうだ、と問われている気がしたけど、いやぁ……。


「……褒められてる気がしない」

「褒めてないからな。だが、貶してもいない。これはただの観察結果の分析だ」


 わりと真顔でいわれてしまった。

 これは、つまり……わたしが転生前の人格とか前世知識とかの影響を受けたルルベル・ヴァージョン2だということを……あれ、2だっけ? 3だった? いやそんなことはともかく! それを、見抜かれてるってこと?

 ……リートこわ! こっわ!

 たしかに。そう、たしかに何回も感じたよ。前世の記憶抜きに今のこの環境に放り込まれてたら、詰んでたな、って。

 身分制度ってなんじゃそりゃって感覚が根底にあるからこそ、上流階級の皆様とも適度におつきあいができてるわけで……下町のパン屋の娘としての常識しかなければ、もっといいように利用されてたと思う。それこそ、ウフィネージュ殿下あたりにさ。

 だって、逆らえないもん。

 ……つまり現状、けっこう逆らってるよね! うわ、こっわ! わたし大胆過ぎない?


「そりゃ……身分の高いかたにも反抗的にふるまうことは、あるけども。でも、間違いなく平民だよね、わたし?」

「誰も君が貴族のご令嬢として育ったとはいっていない。……ナヴァトの番だぞ」


 おっ。

 我らがナヴァト忍者、こう距離を置いて見ると……周りの学生より体格がよく、いかにも鍛えてますって感じの立ち姿……すごい目立つ。魔法学園の男子生徒って、筋肉ついてるタイプが少ないからなぁ。

 達人系のノー・モーションでは、もちろんなく。といって、かけ声をかけるわけでもなく。

 手にした魔力玉を、ナヴァト忍者は美しいモーションで――投げた。


「わっ……!」


 狙いがはずれたのか、魔力玉は容器ではなく、枠に当たった。

 枠がぐらぐら揺れている。なんかもう尋常じゃないくらい揺れて……あっ! 落ちた!

 スタダンス様につづいて第二回、枠落ち!


「引っ張ったな」

「うん」


 魔力玉は枠に当たったまま落ちてない。つまり、へばりついている。その魔力玉を操作して、枠を引っ張って落としたのだ……。


「操作をするなといっておいた方がよかったか」

「まぁ、べつにいいんじゃない?」


 それよりも、だ。


「道具の使用は禁止ですよ!」


 司会進行の役員さんが叫ぶ。静まり返った体育館に、ナヴァト忍者の返答が響いた。


「これは魔力です」

「……は?」

「魔力を球状にしたものです」


 そういって、ナヴァト忍者は予備の魔力玉を取り出した。

 一応、もう一個だけ持たせてあったのだ。なにかあると困るからね。こういう使いかたをするとは、思わなかったけど……。


「魔力? 魔力がそんな……投げられる魔力?」


 役員さんがバグりそうになってる。

 ……我々は、すっかり慣れちゃってるけど。でも、フツーじゃないんだよな、これ。


「魔力です。よくご覧ください」


 念を押して、ナヴァト忍者は予備の魔力玉を自分のてのひらの上に乗せた。そのまま操作して薄くして……どんどん薄く、紙みたいにひろげて、ひろげて……バッ! と。

 紙吹雪になって散った! ……かっこいい! ていうか生徒会が用意した紙吹雪に紛れた!


「このように、操作が可能です」


 役員さんは呆然とナヴァト忍者をみつめ――それから紙吹雪を見た。思いもよらぬものが追加されちゃったまま、ぐるんぐるん回ってる紙吹雪である。

 かっこよかったとは思うが……ちょっと……やり過ぎでは?


「協議のお時間をいただきます」

「道具ではありませんが?」

「協議です!」


 役員さんは、あたふたと駆け出した。

 ……あっこれウフィネージュ殿下に確認しに行く流れだな。そこまでか。


「やはり我が行った方がよかったのではないか」


 急に手首から声がして、わたしはギョッとした。


「ナクンバ様、おとなしくしていてくださらないと困ります」

「今からでも遅くないぞ。燃やしてやろう。すべて」

「駄目ですってば」


 紙吹雪、すでに何回か大量に駄目になってるからね……それでも追加がちゃんと出てくるの怖い。リラん家の近所の紙屋さん、大儲けだな。どんだけ買ったんだよ。そして、どんだけ呪符を描いたんだよ……。


「生徒会って、呪符魔法の達人いるの?」

「いる」


 いるんだ……。まぁそうだろうな。


「いなかったとしても、王宮の魔法使いにやらせれば済むことだ」


 公私混同ぅ!


「できれば生徒にやってほしいわ……」

「ズルじゃなくて、か?」

「そうね」

「むしろ、ズルをしてくれた方が楽かもしれんな」

「え?」

「君にも『相手がそう来るなら、こっちもこうだ!』が、できるようになる」


 真顔でそういうこといわんでほしい。


「いや、そんなことは――」

「燃やすか?」

「ナクンバ様は、おとなしく!」

「うるさいのは君だ」


 その通りだったので、わたしは口をつぐまざるを得なかった。

 ええい、葉っぱの口ぃ〜!


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