表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
411/524

411 常識の範囲内でお願いします

「紙吹雪の排除について、追加します。常識の範囲内で対処してください。くり返します。常識の範囲内でお願いします。紙吹雪という障害物は、そこにあるものとして扱ってください。積極的な排除行動は、認めない方針です」


 常識の連呼を背中に聞きつつ戻って来たリートは、いつもの無表情だった。


「……相当問い詰めた?」

「王太女殿下のご意志を確認するために伝令を出させるところまで、問い詰めた」


 さすが過ぎる……。


「殿下はどこにいらっしゃるの?」

「二階の通路に席を作ってあるそうだ」


 高みの見物かー。

 見上げれば、二階の通路はけっこうな人だかりだ。これは、空いてるところに王太女殿下がいると見た。ある程度は人混みシャットアウトするはずだから……たぶん、的の真後ろあたりかな。


「あの位置、勢いよく突き抜けたら危なくない?」

「そんなもの、いくらでも防御手段があるだろう……それより、思いついたのか。魔力玉か。なるほど」


 わたしが手にしているものを見て、リートも即座に理解したようだ。


「うん、そう。理想としては、魔力操作で制御して、ターゲットの容器を包んで持ち帰る感じ?」

「いきなり魔力として扱うより、腕力で投げて勢いをつけてから操作する方がいいだろう。投げる方が想像しやすいからな」


 あー。魔法はイメージだから! スピードも求められるしなぁ。


「ゆっくりの方が、後ろの紙を破かなくて済むとは思うけど」

「腐る、漏れる、消える……このへんは最大限に速度が必要だろう。具体的にどれくらいの時間で中身が駄目になるかは不明だが、どうせ思ったより短時間に設定されているぞ」


 リートが語る見通しは、けっこう悲観的だ。これも危機管理の一種?


「優先順位も決めないとね」

「まずは試技だな。ナヴァトが投げろ。後ろの紙は破るつもりで行け。制動は、かけるな」

「はい、隊長」


 わたしはびっくりしてリートの顔を二度見した。……なんで?


「貴重な試技で、練習しないの?」

「へたに成功して見せると、時間制限の設定を短縮してくる危険性がある。現時点で、具体的な数字が告知されていないしな。はじめから、この設定でした――と、なりかねん」


 そ……そこまで? いやでも、そうか……自腹宝石がかかってるから、紙は破かせたくないかぁ。

 なんで自腹宝石なんて設定するかなぁ! 負けるもんかって決意? ウフィネージュ様、ご自分は参加なさらないのに……。


「制動の練習は手元でする。君は魔力玉を多めに作れ。本番で制限されるのは、時間だ。ふたりがかりで投げて、さっさと終わらせる作戦もありだろう。大きさと密度は、できるだけ揃えろ」

「わかった。均質にするのを心がける。でも、本格的に作り足すのは、試技を待ってからにしよう。大きさとか、密度とか、実際に投げてみての意見を聞きたいし」

「……そうだな。魔力は有限じゃない。作成速度は大丈夫だろうな?

「大丈夫だと思うよ。わたしも魔力玉は作り慣れてるから」


 まぁ、作って渡すだけの状況に慣れ過ぎちゃってて、使いみちを思いつかなかったんだけどね……。


「各班の代表者、集合してください。順番を決めるくじを引きます」


 親衛隊のふたりが、わたしを見た……。えっ、やっぱわたし?


「くじ運よくないんだけど」

「順番はどうでもいい。どうせ、俺たちの手法は誰にも真似できないし、俺たちも他の班の方法を真似することはできない」

「一番は引きたくないなぁ……」

「その困った顔でくじ引きに行け。打開策など思いついていないように見える、ちょうどいい」


 リートよ。正しいのかもしれないが、リートよ……!


 しかたがない。諦めて、くじ引きに参加することにした。まぁチームの代表者っていったら……わたしだよね。

 もちろん、チェリア嬢も代表者としてくじを引きに来ている。

 王子もいるけど、完全に気配を殺していた……僕はここにいない、僕はここにいない、って顔をしてる。大丈夫なの? 王太女殿下に無理難題を押し付けられてない?

 最終的に、参加するのは八チームになったようだ。一学年って今年は二クラスなんだけど――生徒数によって増減するらしい――それぞれのクラスから二チームずつ。あとは、二学年から一チーム、三学年から二チーム、生徒会から一チーム。最終学年である四学年からの参加はない。皆、卒業研究で手一杯なんだろうな。

 くじは、筒に入ってる棒を引くタイプのだった。わたしを見た例の生徒会役員は、にこりともせずに筒を差し出した。


「まず聖女様からどうぞ」


 えっ。ここで一番? ……いや、チェリア嬢に勧めたってこと?

 アリアン嬢が眉を上げた。


「そういうの、どうかと思いましてよ」

「そういうの……とは、なんのことでしょう」

「特定の誰かに、はじめの一本を引かせることですわ。おわかりでしょう? 皆様お上品でいらっしゃるから、口にはなさいませんけど……不正があるんじゃないかって、どうしても思ってしまいますもの」


 わぁ……喧嘩売ってる、喧嘩売ってる! あわてて、割って入った。


「不正なんかないと思いますよ、だって順番で有利不利なんてないでしょう?」

「あとからやると、真似ができるでしょう?」


 あ、なるほど。でも、うちのチームに限っては……真似できないだろうなぁ。


「わたしが引くわ」


 さっ、と手を伸ばしたチェリア嬢を止められる者など誰もおらず――生徒会役員が「あっ」と声をあげたところで、不正疑惑が高まったんだけど、まぁ……。

 もう引いちゃったし見せちゃったよね、チェリア嬢。


「一番。真似ができるなら、真似してくださってもいいですよ」


 堂々といいはなつチェリア嬢は、ちょっとかっこよかった。敵ながら天晴あっぱれである。

 そして、生徒会役員に笑顔で尋ねるアリアン嬢も――


「次は誰に引いてほしいのかしら?」


 ――怖い。クールが際立って氷点下!


「……お好きにどうぞ」

「じゃ、皆さん一緒に引きませんこと?」


 逆らえないわたしは、こくこくとうなずいた。残り七チームの代表者がそれぞれ手を伸ばして、適当に棒を選ぶ。

 アリアン嬢が、生徒会役員に確認した。


「これでよろしくて?」

「お好きにどうぞ」


 生徒会役員さんの語彙が消失してる!

 そりゃそうだよな……ずっと矢面に立ち、本気を出したリートの相手までさせられて、もうズタボロであろう。よく頑張ってると思う。


「では、一斉に」


 アリアン嬢の声かけで、ひと息に引き抜いた棒の先端に書かれていたのは!


「八番……」


 最後かぁ! 最後引いちゃった!

 役員さんにひとりずつ申告してメモってもらい、親衛隊がいる待機ゾーンに戻る。


「ただいま。チェリア嬢が一番を引いた。アリアン嬢は二番で、わたしは八番」

「チェリア嬢のくだりは聞こえたが……そうか、君は八番か。準備の時間が多くて結構だ」


 声が大きいチェリア嬢の台詞はともかく、ほかも聞こえたの? ――って、そりゃそうか。リートだったわ。聞こえるわな、自分の聴力を強化するだけだ。


「聴力の強化って指向性も持たせられるの? いっぺんにいろいろ聞こえて困ったりしない?」

「ある程度の指向性は持たせられる。いっぺんに聞こえて困ることはあるが、目的に意識を絞る訓練もするから問題ない……ところで、これは的抜きに関係する話なのか?」

「いや、ちょっと興味があって」

「無駄なことを訊くな」

「ウフィネージュ様、このくじ引きの結果をどうお思いなのかしら……って」


 リートは一瞬、眉をひそめた。


「そういう興味か。不正があったかどうかを知りたいのか?」

「よくわかるね」

「不正?」


 ナヴァト忍者が、おどろいた顔をした。聴覚を共有していなかったんだな。


「生徒会役員が、はじめに引いてくれって、わたしを指名したの。それをアリアン嬢が疑って、揉めてるあいだにチェリア嬢が引いちゃったのよ。一番を」

「……なるほど」

「王太女殿下は、声音ではご機嫌がわかりづらいかただが――」


 わたしがナヴァトに経緯を説明しているあいだに、リートが遠隔盗聴を開始、報告。


「だが?」

「――苛立ってるのは間違いないな」

「じゃあやっぱり、わたしに一番を引かせようとしてたってことなのかな」

「たぶんな。目論見は単純だろう。ほかを参考にさせないためだ」

「参考っていってもねぇ……」


 魔法の属性が違う以上、ほかのチームを参考にはできないんだけど。


「君が一番を引いていたら、順番が決定した直後にもう試技をはじめるとか、そういう流れだ。ではこのままどうぞ、だな」

「……たしかに、それは嫌だな」


 嫌がらせをできる隙は見逃さない、さすがウフィネージュ殿下!


予約したつもりで実は予約してなかったー!

というわけで、ちょっと更新時刻が遅れました……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNSで先行連載中です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ