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410 わたしは今、悪魔を解きはなちました!

 待て待て待て待て。

 考えろ!

 窮余の策を、ひねり出せ!


「質問……質問できるんだよね?」

「質問? ああ、生徒会にか。できるんだろうな、今、告知があったくらいだ」

「とりあえず、わたしたちが試技を辞退したら、アリアン嬢のチームにその回数を譲れるか訊いてきて! ナヴァト!」

「はい」


 こういうときは、まぜっ返さないナヴァトにたのむに限る。

 もちろん、ナヴァトはすぐに走って行った。


「貴重な試行を他人に譲る気か」


 ほら、リートはこうだもん。


「そうだよ。だって今すぐには、どうやって的を狙うか思いつかないでしょ。リートとナヴァトはどっちも魔法で容器を撃ち落とすことはできないわけだし……わたしは聖属性魔法をぶっぱなすくらいはできるけど、あの枠内のひとつだけを狙うなんて操作はできないよ。確実に、無理」


 魔力感知はできても、操作が向上したわけじゃない。

 わかるんだよね……感知ができるから、わかるようになっちゃったんだよ。自分の全力ぶっぱなしがどれだけ絞れてなくて、無駄に拡散していくものか。


「……で、恩を売ろうと?」

「せめてアリアンの班が勝たないと、シデロアが納得しないでしょ。伯爵令嬢の機嫌をそこねるのは嫌じゃない?」


 リートは、ため息をついた。


「君は馬鹿か? その結果、王太女殿下の機嫌をそこねるんだぞ?」

「だって、その伯爵令嬢は友だちなのよ? 王太女殿下のご機嫌よりも、友だちの機嫌の方がだいじだよ。それを馬鹿というなら、もうぜんぜん馬鹿でいいよ」

「了解した」


 了解すんなよー!

 と、ツッコミたいところを堪える。ああいえばこういう大魔王のリートのことだ、なにをいっても無駄である。了解してくれた今、この話はやめた方がいい。


「ご質問がありましたので、ご報告します。各班には持ち時間が与えられ、その時間内に的に挑んでいただきます。魔法を使う回数や、消費する魔力量の制限などはありません」


 生徒会役員、どんどん突っ込まれてるな……。

 直前まで、なにも発表しない方が悪いのだ。同情はしない。


「ざわついておるし、喋ってもいいか?」


 制服の袖口から声が聞こえて、わたしはギョッとした。ナクンバ様である……いや腕輪型で同行してるのは当然知ってるけど、ちょっと意識から抜けてたわ!


「少しなら。なにかご用ですか?」

「我なら、的まで飛んで行ける。必要なものを持って戻ることもな」


 ……あっ。

 なるほどそうだわ。それはそうだ……ナヴァト忍者に光学迷彩を頑張ってもらえば、少なくとも肉眼では見えない状態にできる……。


「我は存在自体が魔法ゆえ、道具を使うことにはならんだろう」


 ちょっと考えてから、わたしは答えた。


「でも、ナクンバ様は魔法学園の生徒じゃないですからね。やめておきましょう」

「生徒でなければ参加不可とは、告知されていなかったと思うぞ」

「そうですけど、班員として申請もしてません。その状態でナクンバ様にお願いするのって、道具を使うみたいなものでしょう。なんかズルみたいじゃないですか。だから、駄目です」

「持ち得る力のすべてを使うのは、ズルなのか?」

「誰かの命がかかってる問題だったら、奥の手でもなんでも使います。でも、これはお遊びですもん」


 これは面子めんつをかけた遊戯だ。成績にすら関係しないんだから。

 聖女としての権力も名誉も――一応、気にはしてるけど。あれば危急の折に便利かもっていわれたら、否定できないから、ってだけのことで。

 本来、どぉーでもいいものなんだよねー。むしろ邪魔っていうか? そんなの口にしたら、リートに君は馬鹿かを連打されるに決まってるから、黙ってるけども。


「こんなことでナクンバ様の存在が周りに知れるのも、もったいない」


 リートの発言も、もっともだ。


「そうですよ。ナヴァトにたのめば見えなくはできますけど、魔力感知が得意な生徒もたくさんいます。竜型のなにかが飛んでった、って看破かんぱされたら困りますよ。ナクンバ様には、こんな学生の小競り合いなんかじゃない、もっとふさわしい場面がありますから。今はどうぞ、お静かに」


 なんて具合に、ひそひそとナクンバ様を宥めているあいだに、司会進行役からまた案内が追加された。


「試技を遠慮する班が、試技の回数をほかの班に譲る行為は、認められません。試技をおこなわない場合、それは単なる権利の放棄と見做みなします」


 やっぱそうかぁ。

 戻ってきたナヴァト忍者は、申しわけありませんと頭を下げた。


「ナヴァトの責任じゃないから大丈夫。駄目で元々って感じだからね。それより今度はリート、食らいついてきてよ」

「なんのことだ」

「紙吹雪の大規模な排除ってやつの、『大規模』の具体的な数? なんかそういうの」

「時間稼ぎか。……悪くない考えだな、引き受けよう。君はその調子で妙案をひねり出せ」

「頑張るよ。そっちは、やり過ぎて失格にならないようにね」


 にやり、と。すごく悪い顔をして、リートは役員の方へ向かった……ああ、役員さんごめんね! わたしは今、悪魔を解きはなちました!

 でも、これが今打てる一手だ。行けっ、リート!


「聖女様、ほかになにか……できることはありますか?」

「ちょっと待って、わたしは今、物理最強を活かす方法を考え――」

「物理最強?」


 はっ。

 思いついたわ。ていうか、おっそ! はじめから、わかってたじゃん!


「後ろの紙は破れちゃう気がするけど、的に当てるだけならできるよ、リートとナヴァトがいれば」

「はい」

「気がついた?」

「いえ」


 ただの相槌か!


「魔力玉だよ」


 ナヴァト忍者は眼をしばたたいて、はっ、という表情になった。


「……聖女様の」

「そう。わたしの魔力玉」

「物理干渉の力が高い」

「残置性も高い」

「投げられるよね?」

「投げられます。それに、吸血鬼騒動で練習したので、変形も……魔力操作の要領で勢いを止めて、球体だけ回収できるかもしれません。あの物理干渉があれば、容器を包んで持ち帰ることも可能です」


 あっそうか。そういえば、親衛隊は魔力玉の扱いに習熟するために、けっこう練習してたな……。エルフ校長なんか、分割して針にして突き立てたりしてたな……。

 すっかり忘れてたけど、魔力操作だけでいろんなことができるんだよ。わたしはできないけど、親衛隊は優秀だから可能!


「でかした、ナヴァト!」

「いえ、俺はまだなにも……。すべて聖女様の発想と実力です」

「だって、わたしにはできないよ。魔力玉を作れても、あそこまで投げるの自体が無理だし」


 すでに定位置に吊り下げられた枠は、あまりに遠い……この実習室、無駄に天井高いよなー。


「じゃあ、試技は参加しよう。魔力玉を作るね」

「お願いします」

「大きさはどれくらいがいい? あと、密度は?」

「聖女様の魔力は、どれくらいありますか? 特訓で消耗してらっしゃいませんか」

「あー……」


 その問題があったか。

 今日も午前中は校長室で特訓を受けている。午後の特訓は、おやすみ――実演会に参加するためだ。エルフ校長は不服そうな顔をしてたけど、それでも許してくれた。

 これは憶測だけど……特訓に時間を使っているせいで、エルフ校長、タスクが山積みなんじゃないかと思う。校長室の机にある書類の山が、徐々に存在感を増してきてるんだよね……。


「通しで唱える練習をしたから、多少は減ってると思うけど……でも、巨大魔力玉を作るのでもない限り、大丈夫だよ」

「でしたら、握りやすい大きさでお願いできますか」

「投げやすいようにね? 了解」

「問題は紙吹雪ですね……あれがどれくらい、魔力操作に干渉するか……」

「魔力操作? 感知じゃなくて?」

「申しわけありません、今は操作のことだけ考えていました。もちろん両方ですが、感知が阻害されると操作に影響しますので」

「あー……それはそうだよね。うーん、勢いよく魔力玉を飛ばしたら、紙吹雪も吹き飛ばせたりするんじゃない?」


 両手をくぼませた中に魔力玉を作りつつ、いってみた。

 でも、ナヴァト忍者は否定的だ。


「紙吹雪の動きは呪符で操作しているようですから、あまり影響はないのでは?」

「やってみるしかないね。試技でわかるでしょ。思いっきり投げてみて」

「そうですね。全力で投げて、紙吹雪を吹き飛ばせるかと同時に、どれだけ急制動をかけられるか試してみます」

「紙吹雪といえば――」

「追加の告知がないですね」

「リートが本領発揮してるんだろうな……」


 おお、悪魔を差し向けた聖女をお許しください!

 ……いやそれ、どんな聖女?


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