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407 リートに指図できると思うか?

 午後の特訓が終わっても、リートは戻らなかった。

 ナクンバ様とナヴァト忍者は戻って来た。ただし、ナヴァト忍者は疲れが倍増しになっている……大丈夫なのか。

 護衛がひとり、しかもこの状況であることを心配したエルフ校長が、食堂まで同行してくれることになった――もちろん、ナクンバ様が「我がおる」と主張したけど、ビーム的なものを発射されても困るしね。


 ところでわたし、エルフ校長と日常的に接し過ぎてて、まったく意識してなかったんだけど。

 実は、エルフ校長って! ほかの生徒さんたちにはレア・キャラなのね!


「校長だ……」

「なんだか神秘的……」


 食堂に足を踏み入れたとたん、そんなささやきが聞こえてきて気がついた。

 そういや、エルフ校長がほかの生徒さんにかまってるの……見たことないわ。交流あるのって、わたし、そしておまけで親衛隊! 以上! って感じじゃない?

 そりゃレア・キャラになるわね。しかもエルフだし。

 入学時から当然のようにそこにいるわけだけど、エルフ自体がレアなのだ。人間社会に積極的にかかわろうとしてるエルフって、エルフ校長以外に誰か……いるのだろうか?


「リートは、もう来ていますね」

「え? ……うわ」


 周りの反応に気をとられて、親衛隊長を探してなかったんだけど。

 うわ、で通じてしまっただろうか。うわ、という相手がリートと同じ卓を囲んでいるのである。つまり――。


「あ、ルルベル!」


 こっちを見てニコッとしたのは、二番煎じ……違う、チェリア嬢である。


「ごきげんよう、チェリア嬢」

「リートって面白いね!」


 どういう意味の「面白い」かによるが、まぁ異論はない。

 わたしは曖昧な笑顔で応えた。どうしよう。このまま会話をつづけていると、並んで食事をする必要が生じてしまう。

 あんまり……いや、正直にいおう。

 嫌だ。


「ルルベル、こちらに席をご用意してありましてよ」


 そこで臆さず声をあげてくれたのが、アリアン嬢である。助かるぅ。

 フレに呼ばれたので抜けますね!


「僕は失礼しても大丈夫ですか?」

「もちろんです。今日もありがとうございました、校長先生」

「ルルベルこそ今日もよく頑張りましたね。明日も待っていますよ」

「はい、よろしくお願いします」


 チェリア嬢の大きな声が聞こえた――「あのひと誰?」

 リートがなんと答えたかは聞こえなかったが、チェリア嬢の方は「えーっ、そうなんだ!」と、丸聞こえである。席を立ってエルフ校長を追いかけたりしないか心配で、ようすを窺っていたが、チェリア嬢はとくに執着することもなく食事に戻った。

 ほっとして呼ばれた席に座ったわたしに、シデロア嬢が耳打ちした。


「あのかた、あなたの親衛隊長と、やたらと親しげにふるまってらっしゃいますのよ。きっと、見せびらかしたいんでしょう」

「あー……えー? リートと?」


 なんにも羨ましくはないし、わたしは察した。

 リートは情報収集中だ。全力だ。

 あの、目立つわけではないが実はととのっている顔立ちと、その気になれば高めの社交力を発揮して、チェリア嬢の口を軽くさせようとしているのだろう。

 そこまで頑張っちゃうのかぁ……というのが、正直な感想である。

 なんとなく見てると、チェリア嬢がこちらにチラッと視線を投げてから、くすくす笑った……リートがなにかいったから、わたしの悪口ではないか? きっとそうだろう。

 イラッとするぅ!


「リートは情報収集してるんだと思う……」


 あと、リートなりにストレス発散もしてるかもな! わたしのお守りから解放されて、楽しんでるのかも!


「まぁ……そういうことなの?」

「たぶんそう。情報を集めるために、チェリア嬢の周りに探りを入れる……って出て行ったし」


 テーブルを囲んだ友人たちが、なるほど、とうなずく中。


「でも、なんか嫌だな」


 正直な感想を漏らしたのは、リルリラだった。

 口にしてしまってから、あっ、って顔をしたから、無意識の発言だったんだろう。本人はあわててるみたいだけど、わたしは気が楽になった。


「うん。そう。わたしもそう思う」


 なんか嫌だなって思ったんだ。言語化できなかったけど。

 そう思うことは、正しいわけじゃないだろう。でも、同じように感じてくれる友だちがいるって、いいな。


「それでもリートを信じてあげられるルルベルは、素晴らしいわね」


 エーディリア様が褒めてくださったけど、これに関しては微妙な笑顔にしかなれない。

 わたしとリートのあいだにあるのは美しい信頼関係ではなく……理解と諦めである。


 リートは自分の得になることしかやらないし、今のところエルフ校長とファビウス先輩に雇われているし。

 買収される危険性はあるが、まぁ……そのときはそのときだ。わたしには、買収し返すほどの財力はないんだから、どうしようもないし。

 ファビウス先輩は……ありそうだなぁ。国家予算規模の財産を持つというスタダンス様の侯爵家以外の相手だったら、ファビウス先輩とシェリリア殿下が負ける気がしないし、なんならそこが相手でも勝てる勝負に持って行きそう……。

 わたしのファビウス先輩への信頼感が、無限大! これ、つまりその……す……す、だからでしょうか? 欲目? なんか照れる。


 ……いやいや、照れてないで会話のキャッチボールに参加しないと! わたしとリートのあいだに美しい絆があるみたいな感じで皆に納得されてまう!


「リートにもリートの考えがあるでしょうから、まかせておくしかないってだけです」


 超訳:リートに指図できると思うか? 無理!


「さすがねルルベル」


 シデロア様に感心されちゃったけど、なにがさすが?


「情報収集なら、わたしたちも頑張ってるの」

「えっ。シスコも?」

「そうよ。生徒会に内通者がいて」

「な……!」


 もうちょっとで、内通者ぁ! って叫ぶところだった。あぶない。第二のチェリア嬢になるところである。


「まぁ、スタダンス様なんだけど」

「ああ……」


 なるほどね。スタダンス様と王子は、ウフィネージュ殿下に逆らえない。けど、第二の聖女推しを善しとしてるわけでもないだろう……とは、なんとなく思ってた。

 我々には地獄の試験勉強でつちかった友情があるのだ! たぶん。


「ただ、王太女殿下が今回とても秘密主義でいらして、生徒会にもあまり情報が流れて来ないんですって」

「なるほど」


 ウフィネージュ殿下はアホではない。弟君とスタダンス様が無条件に従順だと思い込んでくれたりしない。よって、情報の流れは制限される……。


「上級生の従姉妹に聞いたんだけど……生徒会の最上級生に風属性の達人がいて、的を動かす練習をしていたらしいわ」


 アリアン嬢も情報収集してる! 情報収集がブームになってるぞ!


「あの……関係あるか、わからないんだけど」

「まぁ、なんでもおっしゃって? 皆で考えましょう」


 おずおずと声をあげたリラを、シデロア嬢が励ました。


「うん。あのね……うちの店の隣に、学園に納品してる紙屋があるんだけど」


 ここで一応申し述べておくと、この世界では、紙はまぁまぁ高価である。上流階級の皆さんは高価とは思わないが、庶民にとっては高価! ってレベルの高価かな。安い紙でも安いとは思えない感じ。

 学園に納品してる紙屋なんて、庶民とは無関係な次元の店なのは間違いない。


「……そこが、生徒会から大量発注を受けたって。最近の学生さんたちは、自主性があってすごいねぇ、って」


 我々は顔を見合わせた。紙の大量発注? なんだそりゃ。


「どう使うのかしら……」

「競技に使うとは限らないんじゃない?」


 わたしは気楽にそういったけど、シデロア嬢は眉根を寄せている。


「いいえ。生徒会が大量に紙を使う理由が、ほかにないもの。アリアン、なにか知っていて?」

「シデロアが思いつかないことを、わたしが知るわけないでしょう。エーディリア、あなたはどう?」

「考えてますけれど、現時点ではなにも思いつきませんわ」

「……なら、やはり実演会に使うのよ」


 シデロア嬢が結論づけたけど、訊いてもいいかな。


「でも、実演会にどう使うの?」


 誰もなにも思い浮かばない。


「……とにかく食事しない? さっきから、誰もなにも食べてないわ」


 シスコの現実的な提案に、我々は深くうなずいた。


「そうね。空腹だと、頭の回転も悪くなるよ。食べよ食べよ!」


 食事はだいじ!


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