400 わたしたちが一位をとっても許してね
どんどこどーん、連載400回でございます。
こんな長い話を読んでくださる皆様に、心からの感謝を捧げます。
楽しんでいただけてますように!
うちのクラスからは二チームが出場することに決まった。
聖女チームは動かしようがなく決定済みとして、もう一チームは読書家チームである。アリアン嬢をリーダーに、シスコとエーディリア様の三人がチームを組んだ。
……意外性しかない組み合わせ!
わたしが西国で揉まれてるあいだに、シスコとアリアン嬢は読書友だちになっていた。
……そこまでは想定内として、エーディリア様だよ!
なんでも、王子のお守り――とは表現しなかったけど、まぁそういうことよね――をしなくてよくなったら時間ができたので、これまで読みたくても読めなかった通俗小説――って表現してた!――を読みはじめたらハマっちゃって、徹夜で読み切ってフラフラしてうっかり本を落としたそうだ。それをシデロア嬢に拾われて、あらこれアリアンとシスコがハマってる本じゃない?――で、紹介されたらしい。
感想戦から、次はこれを読むといい、あれはもう読んだのか――で、友情が深まったとか。エーディリア様曰く、友人というよりは師匠がふたりもできた印象ですわ、だそうだけど。
なんていうか、シデロア嬢さすが。自分はチームに入ってないのにチーム結成のキー・パースンってあたりが、らしいわ〜!
そのシデロア嬢は、相変わらず本気である。ガチマジである。
「まさかローデンス殿下が生徒会からの出場で別枠扱いだなんて思わなかったわ。スタダンス様もそう。あのかたがたは敵だと思ってかかるのよ、ルルベル。いいわね!」
スタダンス様はともかく、王子は敵じゃないと思う。もともとノーコンで有名だし。
どっちかというと、ノーコン王子のコントロールを長年請け負っていた実績があるエーディリア様こそが優勝候補では?
「読書家チームは聖女チームのフォローをしてくれるってことなの?」
「もちろん違うわ。僅差の二位をもぎ取って、一位・二位を独占する予定よ」
無茶振りするのに自分は出場しないあたりも、シデロア嬢、さすがだわ……。
「わたしたちが一位をとっても許してね」
そして、無茶振りされたアリアン嬢がクールだわ……。
魔力制御の鬼・エーディリア様がいらっしゃるんだから、そうなるよなぁ。はい優勝!
そのエーディリア様は、控えめに微笑んでおいでだ。あんまり感情を見せないかただけど、これはわかるよ。楽しんでる! きっと、クラスの催しに皆と参加するの、すっごく楽しいんだ。
……なんか、よかったなぁ。うん、よかった! わたしも嬉しい!
「わたしは許す、ぜんぜん許すし一位とっちゃって!」
「駄目よ、ルルベルが一位って計画なんだから」
シデロア嬢は、ブレないな……。
「でもさ、魔法を当てて枠を抜くだけなら、三人もいらないよね? どういうことなんだろう」
「王太女殿下のお考えになることよ? 下々には理解しがたい、深淵なご計画がおありなんでしょう。さし招かれたくもない深みへ臣民をはまらせるのが、お好きなんですもの」
……えっ、シデロア嬢のウフィネージュ様理解って、そういう感じなの?
思わずエーディリア様を見てしまったら、とても綺麗な笑顔でうなずかれた。
「殿下は、策士でいらっしゃいますもの。なにかお考えなのでなければ、おどろきますわ」
おどろきますか……それはまぁ、同意かな。
「早く仔細を知りたいところだが……」
例によって、飲むように食べ終わったリートが話に入って来た。
そう、我々はまた食堂にいるのである。わたしが相変わらずエルフ校長と特訓モードなので、話し合いは必然、このタイミングになるのよね……。
いつになったら教室に戻れるのか! もう卒業までずっとこうなのか!
「二番煎じと組む生徒が誰かは、わかりましてよ」
「誰なんだ?」
貴族のご令嬢相手だというのに、リートは愛想もなければ敬意もない。もう猫をかぶるのはやめたのか。
シデロア嬢の方も、まったく動じない。さすが過ぎる。
「ザイレンスとウィラニアよ。属性は知っていて?」
「資料で読んだ。ただ、入学時から更新していないから、少し情報が古い可能性はある」
「ザイレンスは風属性で、学園内でも随一の腕前だといわれているわ」
「……ザイレンスは入学前とさほど変わっていないだろう。あそこまで育っていると、容易には成長しないものだ」
ひどい!
けどまぁ、なんかわかる。
コツコツ積み重ねてレベルを上げて……レベルが高くなればなるほど、次のレベル・アップまでが遠いのよねぇ。ゲームで学んだ事実だけど、現実もだいたいそんな感じある。
「ウィラニアは水属性。魔力量が多くて有名よ」
「制御はうまくない」
「人並みにはできるはずだけど、たしかにそうね。針の穴を通すほどじゃないわ」
魔法で針の穴は通さないでくれ!
あーでもエーディリア様ならやれそう……。
「人並みか……。魔力量の多い水属性なら、エーディリア嬢と近い」
エーディリア様の属性は、水と木だ。そしてたしかに、魔力量も多い。
「近いと、なにかあるの?」
「話しただろう。第二の聖女が有利になるような条件を追加される可能性が高いんだ。あちらと同じ属性が使える面子で組めば、その条件で同じように優位に立てる」
「なるほど……。えっ、わたしたちは駄目ってこと? わたしと彼女は聖属性だとしても……」
ただし、第二の聖女ちゃんは聖属性ではない……と、エルフ校長が話してたからなぁ。同じってことになってるけど、同じじゃないんだろうな。
……ややこしいな!
「そうだな。ナヴァトがいる以上、同じ属性で揃える方が難しい」
「光属性は珍しいもんね」
「多少なにかあっても、ナヴァトなら実力で差を埋めてくるはずだ」
……おお! 隊長が隊員を信頼している! えー、高評価いいなぁ。羨ましい〜。
ナヴァト忍者も、滅多にない褒められ発生に誇らしげである。
今日は同じテーブルにいるのだ。ナクンバ腕輪を隠す関係か姿をあらわしてるので、わたしが誘ったのである。昨日は知らん顔して別のテーブル囲んでたからな!
「隊長のご期待にそむかぬよう、尽力します」
「いざとなったら姿を消して物理で殴れ」
「はい」
それってルール違反じゃないの?
第一、なにを殴るの……。
いや考えない、考えないぞわたしは。今のはそう、単に檄を飛ばしただけだろう。修辞的な表現であり、なんらかの比喩であって、そのままの意味にとってはいけないのだ。勧められてもぶぶ漬けは食べたらいけないみたいなものだ。
……いや、それはなんか違うか。
「ところで――」
と、リートが話を変えようとしたそのときである。
「あっ、こちらにいらっしゃったんですね!」
すごくハキハキとした大きな声がした。
なんの説明も受けていないのに、これアレじゃないの? とわたしの直感がささやいた――二番煎じちゃんじゃないの?
……まずい、シデロア嬢の表現が伝染した。さすがに、二番煎じは失礼だ。
「あなたですよね、聖女ルルベル!」
失礼……なのはどっちだーい!
えっ、初対面の相手への呼びかけとして、ちょっとどうなの? と、当惑したところに追撃!
「こんばんは、はじめまして!」
いやいや、返事も待たず、勝手に決めつけて挨拶?
わたしはまだ顔を上げてもいないし、距離けっこうあるし、喋りながら近づいて来てるっぽいけど食堂静まり返っちゃったし、横でアリアン嬢が舌打ちしたのハッキリ聞こえちゃったし……。
やめて、アリアン嬢の舌打ちとか、解釈違いだからやめて!
「聖女ルルベル?」
しかたなく、わたしは立ち上がった――声の方を向くには、椅子ごと方向を変えないといけないくらいだったのだ。真後ろからの声かけ事案だったのでね!
相手はまだ足を止めない。それだけ距離を残しての呼びかけだったわけで、やはり非常識……。
田舎ってそんな感じなのかなと思ってしまったのも、失礼かもしれないけど。でも、思っちゃうよ!
「はい、わたしがルルベルです。どちら様ですか?」
ここでようやく、相手は足を止めた。
「聖女チェリアです!」
わぁ……。聖女を名告ったぞ!
申しわけありませんが、連載不安定状態、まだつづくかもしれません。
休んでたら「あ〜、頑張りきれなかったのね〜」と思ってください。




