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40 魔法使いにとって重要な臓器は肝臓、飲酒は控えめに

昨日は、結果的に二回更新でした!

投稿予約しようとして日時指定を忘れ、夕方にうっかりもう一回更新してしまいまったのが原因です。


 翌日も、午前中から図書館だった……ねぇ、友だちできても会えなくない?

 昼食? 昼食はね……今日は身体検査っていうか健康診断? なんかそういう流れでウィブル先生とご一緒する予定だよ……ねぇ、わたしの昼食どうなってるの? いつまでつづくの、このボス連戦みたいな流れ。


「ルルベルちゃん、元気ないわね。大丈夫?」

「疲れがとれてなくて……。先生は今日もきらきらですね」

「そう? 視界から元気を注入できるといいわね」


 ほんとにね。

 とにかく、図書館に迎えに来てもらうのはウィブル先生の方がいいことがわかった。ジェレンス先生はアカン。あれはダメ、ゼッタイ。


「魔力の消耗は、体力と関連性が深いの。それは知ってる?」

「実感はしてます……。あとリートに、もっと食えっていわれました」

「そうね。食べられたら食べるのは正解よ。だけど、魔力は魔力であって、体力とは別。今日はルルベルちゃんに、そのへんを解説するわね」

「身体検査じゃないんですか?」

「解説しながら進めるから大丈夫よ」


 このへんで、前世の経験からイメージする身体検査とは違うのかな、という予感がしたことは否めない。

 なお、ルルベルの人生にはこれまで、身体検査なるものは存在しなかった。近所の私塾じゃ、身体検査なんてしない。下町の庶民は、定期健康診断もしない。お貴族様がどうかは知らん。

 保健室は、前世イメージと近い設計だ。広い部屋に、カーテンで仕切られた寝台がいくつか並んでいる。ウィブル先生は窓辺に寄せた机の前に座っていて、わたしはその横に置かれた椅子に腰掛けている。教師と生徒というより、医者と患者って感じ?

 机に置かれた書類をぱらぱらめくりながら、ウィブル先生は確認した。


「一応、再確認するんだけど。昨日、魔力を使い切った?」

「はい」

「今日は、魔力の回復速度を調べるために来てもらったの。魔力生成速度ともいうわね。これがね、ひとによって全然違うのよ」

「魔力量に比例したりしないんですか?」


 ウィブル先生は、きらきらの眼をしばたたいた。長い睫毛が迫力である。


「その着眼点、素晴らしいわね! そう、その傾向は強いの」


 傾向が強い、だけなのか。つまり、膨大な魔力があっても回復が遅いひともいれば、魔力ちょびっとでも回復が速いって場合もあるんだな……へぇぇ。


「ジェレンス先生は回復力もすごそう……」

「あいつは化け物だから、気にしなくていいわよ。あんなの参考にしてたら、一般論がおかしくなるわ」


 そこまでか。さすが〈無二〉。


「魔力を使い切った状態から一晩寝れば、八割から九割は回復すると、標準的な回復率よ。あ、回復率っていうのは、魔力量に対しての回復速度の話をするときに使う言葉」

「なるほど……ひとりずつ違うからですね」

「そう! 理解が早くて助かるわ」


 ウィブル先生は上機嫌で手を叩いた。相変わらず指輪とかブレスレットとかジャラジャラしてるけど、その過剰さが妙に似合うのがウィブル先生である。もちろん羽毛ストールを含む。


「回復力は、どうやって調べるんですか?」

「ん〜、もう調べました」

「……はい?」


 え。なんもしてないけど?

 と思ったのが顔に出ていたのだろう。ウィブル先生は、ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ルルベルちゃん、肝臓って知ってる?」

「あ、はい。なんとなくは」


 あってよかった前世知識! 下町育ちは「肝臓? 知らんがな」である。


「魔力生成は、実は肝臓でおこなわれてます。なので、肝臓のはたらきを調べると、魔力回復速度はだいたいわかるのね」


 初耳です、先生。肝臓ってそんな重要な仕事してたの。え、ほかにもいろいろやってるんじゃないの? 魔力まで担当して大丈夫なの、肝臓。ていうか、ジェレンス先生の肝臓とか過重労働で瀕死なんじゃないの?

 ていうか肝臓の検査、いつのまに! 魔法か! 魔法だな。


「ルルベルちゃんの肝臓は健康そのものよ。特に異常はないし、魔力回復速度は標準値の範囲内に入ってるわ」

「なんか……意外です」

「肝臓って不思議な臓器なのよねぇ。ヒトから取り出した肝臓は魔力を生成しないことがわかっていて、だから、魔力生成には肝臓以外のなにかも関与してるだろう、とはいわれてるんだけど」


 取り出さないでほしい。


「知らなかったです、なにもかも」

「魔法使いにとっては、だいじな臓器よ。肝臓がやられると、魔力がぐっと減るの。あと、肝臓に余分な仕事をさせると魔力回復速度も鈍ります。飲酒は控えめにね。アルコールを分解する方が優先されて、魔力が生成されなくなるから。覚えておいてね」


 なんてこった。魔王封印まで、勧められても絶対禁酒だな、これ。

 なお、未成年には飲酒禁止みたいな法律は特にない。あるかもしれんけど、下町では気にしてない。常識として子どもには飲ませない、ってのはあるよ! わたしくらいの年齢だと、もう飲みたきゃ飲めって感じ。はたらいてるからね。

 わたし自身は、お祭りのとき麦酒ビールをちょっと舐めさせてもらっては苦くて後悔する程度の飲酒経験しかない。美味しそうに飲んでるから家族にちょっと舐めさせてもらって、やっぱり苦い、ってなるやつだ。

 苦味を受け付けなかったおかげで、魔法使いにとって重要な臓器が守られていた。ラッキー!


「覚えておきます!」

「約束よ? で、魔力の回復速度がわかっても総量がわからないと、回復率は不明なままなわけ」

「昨日ジェレンス先生に、まぁまぁ標準くらいじゃないかといわれました」

「そうなの? じゃあ、総量はちょっと多めかもしれないわね」

「え」


 うふっ、とウィブル先生はいつものアレをやった。ほら、羽毛ストールにちょっと顎のあたりが埋まるやつだ。


「ジェレンスが『まぁまぁ標準』っていうなら、多めだと思うわ。……ってことは、まだ八割も戻ってないかもしれないわね。今日の訓練、昨日と同じペースでやったら、もっと早く魔力切れが起きるかも」


 またかぁ……。昨日の、おなかすいてるのにきもちわるい状態は、けっこう大変だった。でも、魔力に負荷をかけるのが魔力を増やすために有効だっていうしなぁ……。ん?


「先生、質問いいですか?」

「もちろんよ。なぁに?」

「魔力の回復速度って、なんらかの訓練で上げられたりするんですか?」

「ああ……それね、俗説はいろいろあるけど、きっちり立証された方法はないの。だから、回復速度は上がらないものと考えて、翌日に引きずらない限度を想定して魔法を使うことになるわね、将来的には」


 正式に魔法使いとして認定されるときには、魔力量や回復速度も数値化するらしい。そのへんは研究所が作った装置で可能になったそうだが、変化するものだからあんまり気にしてもね、というのがウィブル先生の意見。生属性魔法でわかる範囲でじゅうぶんでしょ、とのこと。


「生属性魔法って、傷とか病気を治すだけの魔法だと思ってました」

「ん〜、結局、知識がないと自分が魔法で感じとったものがなんなのか、正体がわからないままなのね。だから、生属性魔法をどこまで使えるかは、その魔法使いの知識と技術次第よ。あたしは入学した生徒全員をみてるから、今日の検査なんかは慣れたものよ。ルルベルちゃんの検査を今日にしたのは、一回使い切った状態の方が、肝臓のはたらきがはっきりするからなのよね。一年生は、初参加した総演会の翌日やるのが定例ね、本来は」


 ああ……わたしは実技を実施する段階になかったからね!


「……じゃあ、リートは昨日やったんですか?」

「リートは知ってるもの、今さら検査する必要ないわ。あの子、回復力すごいのよ」

「えっ、そうなんですか」

「そうなの。魔力の総量は平均以下なんだけど、とにかく即回復するのね。だから、もう無理って状況にならないのよ、滅多なことでは。ある意味、ものすごい才能の持ち主よ」

「いいですね、総量が低くても即回復って。忌憚なく魔法が使えそう」

「そうなんだけど、総量が低いって、いわゆる大魔法が使えないってことだから」


 すとーん、と納得が落ちてきた。そうか、それで魔力量を上げるのに熱心なのか。なんかそういう印象あるよなぁ。詳しく話を聞いたことがあるわけじゃないけど。


「今まで考えたことなかったです……魔力が回復する速度とか。限界とか」

「魔法使いには重要なことよ。ジェレンスは『継戦能力』って表現するわね」


 物騒だな、やっぱり!


「負荷をかけると魔力が増えるっていうのは、信じていいんですか?」

「それは、きちんとした研究があるから大丈夫よ。ただ、伸び率は個々人によるし、限界もあるの。どんなに頑張っても突破できない、上限の壁みたいなものね。それに突き当たって、魔法使いの道を諦める生徒も多いわ」


 ちょっとしんみりした口調でウィブル先生が語ったのを聞いて、なぜかわたしはシスコのことを思いだしてしまった。こらこら、こんなことで連想するんじゃない!


「そういえば先生、わたし、クラスに友だちができたんですよ」

「まぁ、素敵! よかったじゃないの」

「はい!」

「誰?」

「シスコです」

「あぁ……なるほど、平民仲間ってわけね?」


 ちょっと考えるようにしてから、ウィブル先生はいった。


「そうだ、よかったらお昼に誘ってみれば? 職員専用のバルコニー席を予約してるけど、ひとりくらいなら増やせるわよ」

「いいんですか?」

「もちろんよ」


 と、ウィブル先生はウィンクした。ウィブル先生万歳!


未成年者によるアルコールの摂取ですが、この世界の下町基準なら「働き手」になっていればもう飲むだろうな、という考えで設定しました。

現代日本ではもちろん、16歳での飲酒は認められません(2022年現在)。


ついでに書いておきますと、世界ではさまざまな基準があり、現代でも一概に何歳からとはいえません。禁酒が求められる宗教が支配的な地域では、年齢にかかわらずアルコール厳禁の場合もあります。

歴史をさかのぼれば、さらにバリエーションが増えるかと思います。

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