396 そういうご趣味なんですか?
SNS連載400回記念のリクエストSS、投票が始まっております。
エントリーしたのは、この6組!
1 ジェレンス先生とデイナル様
2 ウィブル先生とシュルージュ様
3 ナヴァト忍者と元主君
4 ファビウス様とリート(弟じゃない方)
5 シスコと片思いの本屋の君
6 エルフ校長とジェレンス先生
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お茶会は結局、マジな話にもつれこんだ。例の、第二の聖女問題だ。
「避けては通れないと思うから、ざっと説明しておくね」
第二の聖女は東国との国境付近の出身だそうで、あちらの国にも親戚がいるとか。我が国の常識みたいなものにとらわれず――つまり、田舎過ぎる上に隣国の影響を受けているせいで常識が通用せず、我が国の貴族子女なら魔力判定を受ける時期も形式も完全スルー、家族が生属性だからこの子も生属性だろう、くらいの感覚だったそうだ。
本人も生属性だと思い込んで、単に使うのがヘタクソという認識だったらしい。それでも必要なときに必要なことができるから、困ってはいなかった――つまり、最近増えて来ている弱い魔物に遭遇したら、吹っ飛ばしていた、と。
……ワイルド!
こういう話を聞くと、所詮わたしって都会の子なんだと思うね……。
魔法学園できちんと教わらなければ、魔法を使うどころか魔力感知さえできず、素質倒れに終わりかねなかった。魔物に遭遇しても、吹っ飛ばすわけがない。
「すごいですね……」
「一族が皆、あまり意識せずに魔法を使っているそうだ。それで彼女も、とくに疑問を抱かず魔法に目覚めて、使えるときは使うって感じの成長をしたらしい。おそらく、理論面は全滅だろうな」
ううむ。すると、次のペーパー・テストで大変な思いをするのではなかろうか……。
「学生生活に馴染むのは、難しそうですね」
「担任は別だから安心して。君と同じ教室にいたりはしない」
誰かが教室にいないことを安心するって、なんか変な気がするな。
でも、実際――そういわれて、ほっとしてる自分もいる。
教室に行ったとき、皆が第二の聖女ちゃんと親しくなってて、自分だけ仲間はずれみたいになったら嫌だな、って。どうしても、そんなことは思ってしまうし。
こんなに教室にいない生徒、忘れ去られようが見捨てられようが、しかたないけど!
「周りはだいたい貴族だから、適当に距離を置かれてるみたいだ。今のところはね」
「ご本人も貴族でいらしたんじゃ? たしか、男爵令嬢でいらっしゃると聞きました」
「田舎の男爵だから」
さらっとファビウス先輩がおっしゃって、ああ……と、わたしは思った。
ああ、そゆこと。貴族の中の階級問題ってやつね。第二の聖女ちゃんのお家って、田舎、男爵、特に家名が高いわけでもない、親戚関係もぱっとしない、影響力が低いのだろう。貴族の中では下の下。
なんか、嫌だけど。ありそうだな、ってのはわかる。
しかもねぇ、学園にはすでに、わたしという聖女が存在するわけで。そこに、第二の聖女ですって新顔が来たら……貴族の坊ちゃん嬢ちゃんたちは、いろいろお考えにならなきゃいけないことがあるでしょうよ。どっちを盛り立てるのか決意する必要あるじゃん? 家の立場も考えなきゃだろうし。派閥とかさ。
微妙そう〜! 平民でよかった!
「大変な思いをなさっていなければ、いいんですけど」
わたしがいうと、ファビウス先輩は苦笑した。
「ルルベル、僕は君のそういうところが好きだけど、あまり油断しないでね。世の中には、被害者を装うのがうまい人間もいるから」
「……どうやって見分ければ? ほんとうに苦労なさってるなら、見捨てたくはないです」
「君は見捨てないよ」
……え、なんて?
ファビウス先輩は微笑んで、しぜ〜んに、なめらか〜に、わたしの顎に手を添えた。……あっ、これ顎クイッてやつじゃない?
「君は見捨てない。まず救いに行く。大丈夫、君は信じるようにふるまっていい」
「あの……」
この顎クイッについては……?
わたし、意識がそこに集中しちゃって、なにも考えられないんですけどぉー?
ファビウス先輩は、灯火を映してキラキラの眼で、わたしをみつめて。吐息のように、そっとつぶやいた。
「なにがあっても、僕がかならず、なんとかするから」
「な……なにもないよう、努力します!」
反射的に返すと、ファビウス先輩はわずかに眼をほそめた。
「いいんだよ、なにかあっても。いい感じに解決したら、ルルベルがますます僕をたよってくれるだろう?」
「そんな計画を?」
「計画的な方だって、知ってるよね?」
知ってるわぁ。
「わたしは無計画な方です」
「うん。計画にとらわれがちな僕の世界を、突き崩していくんだ。君の突拍子もない行動が」
……たいへんご迷惑をおかけいたしております、以外の感想がないですね。
でも、ファビウス先輩は微笑んでいる。魔性全開やぁ〜! あやしい魅力の玉手箱やでぇ〜!
「それが楽しいんだよね」
「……え、そういうご趣味なんですか?」
「君だからだよ、ルルベル」
そういって、ファビウス先輩はさらに顔を近づけた。
……いやいやいやいや近い近い近い近い!
とっさに手が出て、ファビウス先輩の口を押さえた自分をどう評価すればいいか、わからない!
く……くちびるの感触がこう……手に……! 手に!
「あっ……その……しっ、失礼を……」
ファビウス先輩は、まったく動じなかった。くすっと笑ったと思ったら。
ぺろっ。
「な……」
舐められたーッ! てのひら! 舐められたーッ!
思わず手を引っ込めたけど、ヒィッと叫ぶのを我慢したのは褒められていい! 褒めて!
「ルルベルは、ガードが固いなぁ」
舐められたーッ! で、頭がいっぱいである。
なんかいってる、くらいしか耳に入ってこない。
「そういうところも好きなんだけど、つらいな」
「……わ、わたしもう、寝……寝ます……」
「うん。その方がいいと思うよ。僕もまだナヴァトに殺されたくないし」
いわれて廊下を見たら、ナヴァト忍者の表情が虚無から怒りに変わっ……。あああああ!
見られてたの、マジでほんとに! 嫌ァア!
「ファビウス様……駄目ですよ! もっとお行儀よくなさらないと!」
赤面しつつ、思わず叱ってしまう。もっと可愛らしい反応とかできないのか、わたしよ。
冷静に考えるとむっちゃ残念な子じゃない? いや今の自分が冷静だとはとても思えないが! 思えないが、最大限冷静に考えて、好きなひとを相手にお行儀を説くのはアウトじゃない?
顎にあてられていたファビウス先輩の手が、そっと頬に移動する。
「熱いね……真っ赤になってる」
なんて、ささやかれても! 誰が! こうさせたと! 思ってやがるんですか!
「失礼します!」
混乱したわたしは勢いよく立ち上がり、廊下に向かった。
……あ、お茶の片付け……いやでもさすがに戻って回収するのもどうなのか!
もういいもういい、ファビウス先輩にまかせるか、万が一放置されてたら明日の朝なんとかしよう!
今夜はもう営業終了です、無理無理!
中庭から廊下に飛び出すと、ナヴァト忍者がまた無の表情になった。……なんか、さすがだ。
「ファ……ファビウス様は、悪くないからね。なにも、起きなかったし!」
念のために擁護しておくと、ナヴァト忍者は横目でわたしを見て、尋ねた。
「俺の感想を申し上げても?」
「き……聞きたくないです」
イチャイチャを目撃されるだけでも恥ずかしいのに、感想を申し述べられるとか、オーバー・キルじゃん!
「でしたら、弁解もなさらなくて結構です」
「……はい」
わぁー、もう無理!
部屋に飛び込むと、ナクンバ様がタオルの中から顔を上げてわたしを見た。よほどゴロンゴロンしたのだろう、タオルがぐっちゃぐちゃである……。
「起こしてしまいました? ごめんなさい、タオルを敷き直しましょうか」
「うむ。良いものだ」
「ちょっと出ていただけますか。すぐに綺麗にしますから」
タオルを広げてからたたみ直し、ナクンバ様にどうぞどうぞする。
ぐるぐる回ってよさそうな場所に身体を落ち着けたナクンバ様の背に、追いタオル。
「さらに良い」
お気に召したようだ。
「わたしももう休みますね」
「あの者が不埒なおこないに出るようなら、我が塵ひとつ残さず始末してくれるぞ。いつでもな」
……いちばんヤバいの、ここにいたー!
なんで知ってんのなにを知ってんの塵は残してください、いや違う本体まるごと残してくれなきゃ困りますっていうかなんで知ってんのー! と思うわたしをよそに、ナクンバ様はスピーと鼻から息を吹いて眠ってしまった……。
おかげで、第二の聖女問題は完全にうやむやになってしまったのである!




