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389 趣味で魔将軍に勝っちゃうの?

 大樹に着いてナクンバ様の背からすべり降りたら、リートが出迎えてくれた。


「遅い」


 第一声からリートっぽさを堪能できちゃったなぁ!

 リートといると、心が鍛えられる気はするよね。べつに鍛えたいわけじゃないけどさ。


「瞬間移動に合わせるわけにいかないでしょ。ところで無事? 怪我とかしてない?」

「怪我はしたが、治療済みだ」

「えっ……大丈夫なの? 見せて」

「なぜ見せる必要があるんだ。君に見せても意味がないだろう」


 ぐっ……。たしかに、見てもなんにもできないけども!


「気になるの!」

「君の好奇心に応える義務はない。心配なら不要だ。都合よく、ここにいると治りが早くなるしな」


 あー。癒しの大樹ね!


「それはよかったけど……つまり、生属性魔法の治療だけじゃ、治りきらなかったってことよね?」

「無駄にするどいな。その通りだが、治療が間に合っていなかった原因は、傷の深さではない。周りの面倒をみる必要があったせいで、時間をかけられなかった。それだけだ」


 わたしは戦場のようすを思いだした。

 ……忘れよう。見なかった! 見なかったぞ、ヨシ!

 とにかく、リートは元気に減らず口を叩いてるわけだし。……あれ?


「ナヴァトは?」

「あいつなら、食料を調達しに行った」

「食料? このへんに村とかあったっけ?」


 ナクンバ様の背中から下を眺めてたんだけど、集落っぽいものは見えなかったよ?


「狩猟と採取だ」


 世界史の教科書の最初の章のタイトルみたいな返事キター!


「え、そんな道具とか持ってたっけ?」

「ナヴァトの一族は、野外で食料を調達する訓練をしているそうだ。戦場で糧食が尽きたら最悪だからな。そして現在、ジェレンス先生のせいで俺たちは最悪の状態に置かれている」


 ……あっ。またリートの中でジェレンス先生へのヘイトのレベルが上がってる気がする!

 いやまぁそれはそれとして、だ。


「えっと……どうしよう」

「なにがだ」

「ナクンバ様の食事」


 ナヴァト忍者のサバイバル能力が高いのは理解したが、さすがに竜の食事までは準備できないのでは?

 リートはじろっとわたしの背後を見た。


「なにを食べるんだ」

「なんでも、っていわれた」

「自分で探せないのか?」

「……どうだろう。ナクンバ様、食事はご自分でなんとかできますか?」

「率直にいって、諾、であるな」


 ナクンバ様が答えて、リートが目をみはった。

 ……あっ、そうか。リートもナクンバ様が喋るとは知らなかったか!


「今、ナクンバ様が喋ったのか?」


 様ついてる! さすが機を見るに敏! 粗略な扱いをしたらヤバそうな相手には、ちゃんと敬意を払えるタイプの不作法者!


「うん、そう」

「喋れるのか……こっちの話も理解してるんだな」


 わたしが答える前に、ナクンバ様がブシュッと鼻を鳴らした。


「無論だ、小僧」

「では直接、お伺いしても?」


 リートの立ち直りが早い! さすが過ぎる。


「許そう」

「食事に関してですが、俺たちは自分の食べるものさえ手に入っていない状態です。ナクンバ様のように身体の大きなかたの食べるものを準備するなど、手に余ります」

「そうだろうな。案ずるな、必要となったら自分で狩る」

「助かります」

「正味、ルルベルとともにいれば困ることはない」

「……えっ?」

「魔力だ」


 ナクンバ様は、なんてことなさそうに返したが。

 魔力って……食料になるの?


「それでお腹がふくれるんですか?」

「我の本質は魔力だからな。聖属性魔力さえ潤沢に浴びていれば、現身うつしみを維持する程度、たやすいことよ」

「でも、お腹が減ったらつらくないですか?」

「案じてくれるのか、ルルベル。やさしい子だな」


 いやー……今現在進行形で自分が空腹でキューッとなってるから、なんだがな!


「一応、希望として申し上げておきたいんですけど」

「人間は食うな、であろう」

「はい。家畜も避けていただきたいです。揉めごとの原因になりますから」

「なるほど。わかった」


 わかってくれたー! これで、ひと安心。

 気が抜けたところにナヴァト忍者が戻って来た。

 なにか……すでに下処理された肉っぽいものを持っているぞ……いうなれば、スーパーの精肉売り場に並んでそうな見た目の。


「聖女様。ご無事でいらっしゃいましたか」


 ナクンバ様にも目線は投げてたけど、まずわたしの無事を問うあたりがナヴァト忍者だぁ……。


「うん。ナクンバ様が、ぜんぶやっつけてくれて」

「少し見えましたが、すごかったです」

「あ、見えてたんだね。そういえば、ナヴァトはどのへんにいたの?」

「シュルージュ様の本隊に追随して動いていました」

「お強かった?」

「はい」


 力強くうなずかれて、そっかー……って思った。ジェレンス先生をして、戦いたくないといわしめる戦闘型魔法使いだもんな。

 なんだっけ……血まみれ? いや、そこまで物騒じゃないけど、そういうイメージの二つ名があったような……。


「さすが〈真紅〉です」

「あ、それ。シュルージュ様の二つ名だよね?」

「はい。魔将軍と対峙したのですが、シュルージュ様の強さは圧倒的でした」

「あーそれ! それも知りたかったんだ。結局、魔将軍ってどんなだったの? 種族っていうか――」

水精ウェンディラだという話でした」

「水精? それって、ふつうは川とかにいるやつじゃないの?」

「はい。ふつうはそうです。ただ、年を経て力を持った水精は、あらゆる水を支配するようになるそうです」


 あらゆる水……。


「空に浮かぶ雲も、地中を流れる地下水も、果ては生きとし生けるものすべての体内に存在する水分も、すべて……ということだ」


 解説してくれたのは、ナクンバ様である。

 なるほど……なるほど? えっ、マジ強くない? ヤバくない?


「そんな相手と戦って、どうやって勝てたの?」


 それこそ、ナクンバ様クラスの熱戦でジュワッと一気にやっちゃうのでもないと、無理じゃない?


「戦場が血だらけになっていたという話は、聖女様もご存じですよね?」

「え、うん。たしか……聞いたはず」

「それも魔将軍のしわざだったのです。兵士の体内の血をあやつって――」

「あっごめん、あんまり具体的な話は聞きたくないかも」


 グロそうなので、即座にお願いする。ナヴァト忍者はうなずいて、話をつづけた。


「――では、簡単に。その血の支配権をシュルージュ様が奪取なさったのです。生属性魔法使いでいらっしゃいますから、血の構成物の一部にしか力を及ぼせない魔将軍より、シュルージュ様の方が有利でした」


 つまり、血で戦場を支配していた魔将軍の天敵みたいなものだったわけか……。

 植物の中に含まれる水も生属性魔法の範疇と考えると、魔将軍と競り合えるフィールドが多い! やっぱ生属性最強では?


「シュルージュ様は、血で薔薇をおつくりになるんです」

「……はい?」

「薔薇です。それが敵に向かって矢のように飛んでいくんですが――あんなに禍々しくも美しいものを、俺は見たことがありません」

「わざわざ薔薇の形にするの?」

「そうです。その手間が強度にも通じているのだろうとは思いますが、大部分は趣味でしょうね」

「趣味」


 趣味で魔将軍に勝っちゃうの? 強過ぎん?


「聖女様、お差し支えなければ調理に移っても?」


 ……あ! そういえばナヴァト忍者、肉をぶら下げてるんだった!


さっそく休んでしまいましたが、確定申告とは関係なく……急に寒くなったせいか眠気がものすごくて、とても小説を書ける状態ではなかったという体たらくでございました。

確定申告は、まだ終わっておりません。

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