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386 やっぱり見なきゃよかったーッ!

「来るぞ、ルルベル」


 ナクンバ様による宣告――重々しい声に答えるには、もっとふさわしい態度があるだろうと思うんだけど。


「え」


 わたしの喉から出たのは軽薄な一音節である。

 なのに、ナクンバ様はさらに追い討ちをかけてくる。


「飛べる魔物は、こっちに来る」

「え!」

「まぁ安心しておれ」

「ええーっ!」


 わたしの叫び声に尾を引かせるように、ナクンバ様は急上昇した。

 上昇したからといって魔物が諦めるわけもない。どんどん来る……下を見るのが怖いのに、どうしても見てしまう。

 頭が尖った黒いやつが、いちばん速い。そして、多い。翼みたいなのがあるわけでもないのに、ぐいぐい飛んで来る。あれも魔法で飛んでるのか……尖った頭の先端がパコっと折れるように開き、その内側にギザギザの歯が二重に並んでいるのが見えた。

 ……見たくなかったーッ!

 ていうか、なんなのその構造! メカか! 先端がパコッと折れて変形するとか、生き物っぽくなさ過ぎだろ!

 見直してみたけど、やっぱり先端は折れてるし、胴体につづくいびつな円形の……口? 口だよな? って感じの部分は、二重にぐるりと歯が並んでいた。見間違いじゃない。そして、なんかその……血にまみれているような……?

 ……やっぱり見なきゃよかったーッ!

 そのとき、ぱぱっと乾いた音がして、視界の隅でなにか散ったのが見えた。


「え……」


 さっきから「え」しか発声できていないが、言葉が出ないのである。思考が現実に追いつかず、上等な反応ができないのだ。

 また、音が聞こえる。

 ぱぱっ、ぱぱぱっ。

 火花が散って、わたしは確信した――火の玉みたいな魔法を撃たれてる! ほんとに火の玉かはわかんないけど……とにかく、あのメカっぽい魔物より下の方から、ヒューッと飛んでくるのは攻撃魔法に違いない。近くで、はじけてるんだ。

 わたしたちはもう、かなり高いところにいる。雲の上に突き抜けたらしくて、地上のようすは見えないくらいだから、攻撃してきたやつもナクンバ様のいう「飛べる魔物」なんだろう。ナクンバ様について来れるほど速くは飛べないだけで。

 あの先端パコッてやつは、追いついて物理攻撃するつもりなんだろうな……速いもんな……。


「案ずるでない。あのようなもの、意識を向けるまでもなく防ぎ得る」


 オートガードですか? よくわかりませんが、わたしも安全なんですか、それ?

 お願いしますよナクンバ様、わたしまだ死にたくないです! 大暗黒期の再来の原因になるのも嫌ですが、個人の欲求として! まだ生きていたいですぅぅ!

 こっちに来た魔物のぶん、地上の皆さんが楽になってるんだろうなって前向きに考えたいけど!

 けど! 怖いぃい!


「落としはせぬが、掴まっておれよ。その方が、安心だろう」

「はい!」


 安心じゃないけど掴まります!


「良い返事だ」


 ジェレンス先生ならニカッとするところだろうが、ナクンバ様は鼻息をブシュッと。

 そして、ふわっ……と、空中に留まった。

 急上昇していたナクンバ様が完全に停止したせいで、先端パコッの魔物が勢い余って我々を通過する。わたしは見てないけど、一部の魔物はバリア的なものに激突してつぶれたと思う。なんかそういう雰囲気の音がした。これはナクンバ様のお腹の下で起きていることなので、わたしからは見えないのだ。

 見えなくてよかった……。


 上を見ると、魔物たちも急制動をかけ、こちらに落下して来るようだが――それを見上げたナクンバ様が、グワッ! と。魔物の口なんか可愛らしいものでございました、と謝りたくなるような、大きな口を開けて。

 え、まさかあれを食べるおつもり? なんか嫌だ!

 そんなことを思ったけど、誤解でございました。


「うわ……」


 ナクンバ様の口が開かれたのは、魔物を食べるためではなかった。ビーム的なものを発するためだったのだ。

 熱線? 光線? たぶん熱線かなぁ……。

 赤みを帯びた黄金色の線が、上空を薙ぎ払う――と、一瞬遅れて魔物たちは膨張し、はじけた。粉々に、消し飛んだ。

 圧倒的じゃないか……というフレーズが脳裏に浮かんだ。たぶん前世で有名なアニメの名台詞だと思うが、ほかに表現のしようがない。

 圧倒的じゃないか! 我が竜は!


「ナクンバ様、すごいです」

「これなら、人間を焼き払わずに済む」


 ……なるほど! だから上昇したのね!


「さすがです。ありがとうございます、お気遣いいただいて……」

「聖なる乙女ルルベルの、たっての願いだろうからな」


 たっての……。また日常で使うことのない表現来たな!

 まぁ、たっての願いで間違いない。乗って来た竜が味方ごと敵を薙ぎ払いました――って、地獄展開過ぎる。


「それにしても、すごいです……。びっくりしました」

「ほれ、遅いのが追いついて来たぞ。位置取りをし直すから、少し、口を閉じていろ。彼奴きゃつらの攻撃は防いでくれようが、舌を噛むのはどうしようもない」


 わたしは急いで口を閉じた。

 宣言通り、ナクンバ様はぐいぐい飛んだ。つまり、右に左に、上へ下へと。ちょっと想像がつかない方向にキュッと曲がったり。ふわっと上がったかと思えば、飛ぶための魔力を切ったんじゃないかと思う勢いで落下したり。

 まぁ簡単にいって――酔うよね! わたしの三半規管はもう限界よ!

 でも、へたに喋ると舌を噛みかねないのも事実だったので、わたしは無言でナクンバ様にしがみついた。

 もはや魔物を観察する元気もない……早く終われ……相変わらず散発的に魔法がバリアに当たって無効化されてる音もするけど……たまに連続ヒットして音が派手になったりもするけど……それよりなにより気もち悪い。

 もうほんと無理ぃ!


 カッ! と、あたりが明るくなる。

 これはナクンバ様がビーム吐いてるやつ……たぶん。

 魔法で攻撃して来る敵は、遅い割にちょこまか移動するのは得意みたい。パコッと変形魔物が一掃されたのを見て、用心してるのもあるんだろうけど、それにしても……それにしても時間がかかる!

 姿も、はっきりとは見えないのよね。認識阻害とか、そういう魔法かなぁ……。

 それでナクンバ様も苦労してるのかもだけど、体感では永遠とも思える時間が過ぎ。限界って突破してもまだ先があるんだねという悟りの境地に至ったあたりで。

 ついに、ナクンバ様が動きを止めた。


「終わったな」

「……はい」

「地上の方も、掃討戦に入っておるようだ」

「そうとうせん……」


 つまり、人間側が勝ったということでいいのかな? いや、遠足が家に帰るまでのように、戦闘だって気を抜いちゃ駄目なんだろうけど。

 地上部隊がけっこう苦労してたんだから、魔将軍は強いんだろうな……。

 どんな相手なんだろうという好奇心もないわけじゃないけど、今は考えたくないな、あんまり。

 ……なんかもう、疲れた。


 疲れたっていう権利、あるのかな。

 わたし、なんにもしてないけど。


 リートあたりには馬鹿を見るときの顔をされるだろう。ナクンバ様を呼び出したのは、わたしなんだし。包囲網を完成させるための呪文を唱えたのも、わたしだ。

 でも、戦ったって気はしない……。


「ナクンバ様、わたしたちが無事なことを皆に報せないと」

「案ずるまでもない。先ほど、あの男が来ておった」

「あの男?」

「ほれ……ジェレンスとかいう」

「はい? え?」

「一瞬ここに来て、すぐ消えた。ルルベルの無事を確認しに来たのであろう」


 ……声くらいかけない? ねぇ?


「じゃあ、ジェレンス先生も無事なんですね」

「そうだな。しかし、あれはなかなか……」

「なかなか?」

「魔法使いとして、かなりの実力があるだろう。ここにいる魔物風情に、倒されることはあるまい」


 ナクンバ様から見ても、ジェレンス先生は強いのか……。


「でも、まさかってことがありますから。無事ってわかってるなら、よかったです」

「ルルベルは、やさしいな」

「……ふつうですよ」


 わたしはふつうの女の子――そう主張しても、やっぱりリートには鼻で笑われるだろうな。

 でも、わたしはふつうの女の子なんだよ。

 早く学園に戻って、実技試験は結局どうするんだって悩んだり、シスコと恋話こいバナに花を咲かせたり、そういう……そういう、ふつうの生活に戻りたいよ……。


残念なお知らせです。

確定申告の作業がまったく終わっていないので、来週は!

ちょっと気合を入れる必要があり、もし連載を休んだら、察してやってください……。

好き放題に裏金つくってる政治家もいるというのに、庶民はつらいですわね。

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