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381 伯母上にはこってり叱られるだろうが

 こうなっては飛竜を引き連れて戦場に赴くしかない。だって、連れて戻るわけにもいかないし。

 もう作戦行動に入ってるんだもの。予定を変更すると、味方に危険が及ぶかもしれない。勝手に来ちゃった竜より、味方の安全をとるべきだ――と思った、まさに、そのとき。


「ちょっと予定を変更するかぁ」


 かるい口調でジェレンス先生がいって、わたしは耳を疑った。


「は? そんなこと、していいんですか?」

「むしろ、予定変更しないでどうすんだ。こんなの引き連れてったら、目立つに決まってんだろ。高空を飛べば視認は難しいだろうが、これだけの魔力だ。絶対、勘づかれる」

「それは……」


 魔王の眷属の方が、人間よりずっと魔力に敏感だからな――と、いわれてみれば当然そうだろうなとは思うけど。


「だいたい、飛竜が来るかもなんて話、伯母上を含めた数人しか知らねぇんだ。急に連れてったら、混乱すること間違いなしだ。味方が飛竜に攻撃を向けたらどうするよ? 間違いなくめんどくせぇことになるぞ」

「予定を、どう変更するんですか」


 スパーンと尋ねたのはリートだ。さすがである。


「校長が、飛竜は聖属性寄りの存在だっていってただろ? ってことは、ルルベルの説得がちゃんと効いてて、自覚的に戦力として同行してるんじゃねぇかって仮定もできるんだよな。すると、戦場に連れてきゃ勝手に戦う可能性がある――こっちの味方が飛竜を攻撃しないよう、事前に連絡まわす必要があるがな」


 いろいろ説明したのも、ナクンバ様という謎現象に遭遇したのも、無駄だったのかな……と。がっかりしていたわたしにとって、ジェレンス先生のその説は、いやそんな都合のいいことないっしょ! って感じだった。


「同行してくれるなら、ナクンバ様が来てくださったんじゃないでしょうか」

「実体があるんだかないんだかわからねぇ中型の竜より、しっかりはっきり戦力になる小型の竜の群れの方が役に立つに決まってんだろ。ナクンバだって、それに気づいたんじゃねぇのか?」


 ……いや、どうだろ。わたしが話したときは、自分が出て行けばすべて解決、くらいの雰囲気だったけどなぁ。

 賛成も反対もできずにいると、リートがまたスパーンと割って入った。


「先生、話が逸れています。作戦を、どう変更するんですか」


 たしかにそうだ。わたしもジェレンス先生に目線で問い、先生は顔をしかめた。


「単純な話だ。あれを連れてくか、置き去りにするかの二択だよ。……ここで瞬間的に移動したら、飛竜はもといた場所に帰るよなぁ」

「たぶん……?」

「竜の考えることなど、エルフの考え以上にわかりませんね」


 淡々とした回答は、リートである。わからないという点では、わたしの「たぶん」と同じなのに、なぜかとても確実な答えに聞こえるよね……。


「まぁ、試す価値はあるだろ。瞬間移動で置き去り、あとは事前の計画通りに行動するってのが第一案だな」


 虚無かぁ〜……!


「それ、移動先で即座に魔法を使える気がしないです」

「即座じゃなくても間に合うから安心しろ。ふつうに飛んでくのと違って時間を使わないんだからな、着いた先で身を隠して休めるさ。まぁ……伯母上にはこってり叱られるだろうが、これが確実だろう。今回の作戦の要は、あの樹を戦場に育てることだ。飛竜は戦力にもなるだろうが、魔王の眷属と戦闘になったら、間違いなく俺たちも巻き込まれる。伯母上の陽動作戦も、霞んじまって意味をなさない。それじゃ、樹を育てるどころじゃなくなっちまう」


 おっしゃる通りですが……。


「そこをなんとか、ジェレンス先生のお力で我々を守っていただくとか」

「馬鹿いうな。逃げてもいいならやってみせるが、樹を育てるのに飛び回るわけにいかねぇだろ。樹が成長してから気づかれるならともかく、初手から狙われたら保証できん。それとも、飛竜を倒していいのか? 今後の関係は最悪になるだろうが」

「それは……駄目ですね……」

「だろ? ま、これがいちばんうまくいくだろうな。伯母上には絞られるがな……」


 またシュルージュ様を気にしてる。そこ、重要なんだな……。

 わたしはもうなにも思いつかないが、リートは違った。


「飛竜が聖属性に惹かれているだけなら、対処法はあると思いますが」

「おう、聞かせてみろ」

「ルルベルの魔力玉をあるだけ解放しながら移動すれば、竜はそっちを追うのでは? 影響の低い場所まで誘導したところで魔力の解放を停止すれば、そこに置き去りにできます。瞬間移動の必要もなくなり、ルルベルが使い物にならなくなる危険性を避けることも可能です」


 ……なるほど?


「それはいいが、おまえは飛べるわけじゃねぇだろ」


 なんでリートが実行役前提? いやまぁ……やりたそうだけど。


「人間は飛べるような構造ではありませんので。ただ、走ることは可能です」

「……うんと速く、か」

「うんと速く、です」


 リートは優秀な生属性魔法使いだ。とくに、自分の身体能力の調整には自信があるはず。その彼が、うんと速く走るというなら……うんと速く走れるんだろう。


「名案ではあるが、樹を育てるには別行動するわけにいかねぇだろ。……ってことは、俺が囮をつとめればいいのか」

「ジェレンス先生の鉄壁の防御を、ルルベルから剥がすわけにもいかないでしょう」

「そこは、親衛隊長がなんとかするって宣言するとこだろ」

「残念ながら、先生ほど全方位に隙がない魔法使いではないので」

「つまんねぇやつだな。なんとかしますって豪語するおまえを、俺がたしなめる流れだろうよ」

「そんな流れはないですね」


 ……君たち、なんの話をしてるんだ?


「どうするんですか、どんどん現場が近づいてますよ! 今、どのへんですか」

「まだ国境の内側だから、悩む時間はあるがな」

「……けっこう奥地だったんですね、飛竜の生息地」

「遠いから、瞬間的に移動してたんだよ」


 なるほどー……。

 それで瞬間移動を駆使してきた結果、ふつうに移動したときの飛竜の反応が読めなかった、と……? いやまぁジェレンス先生だけなら、飛竜もなんとも思わなかっただろう。ちょっと縄張り争いみたいなものは生じたかもしれないけど……。


「あっ。縄張りをおかされたと思って追って来てるって可能性は?」

「それだったら、縄張りを通過したらもう追って来ねぇよ。飛竜の生息地は、とっくに抜けてる」

「……じゃあ、やっぱりわたしを追って来てるってことですか」

「そうじゃないと思うのは、諦めろ」


 諦めたくないが、諦めるしかなさそうだ。

 ため息をつき、わたしはリートを見た。


「リートだけでも、樹は育てられるよね?」

「できるが、俺が育てるだけじゃ――」

「聖属性魔力も、こめられるよね? 魔力玉があるから」

「――おい、なにか変なことを考えていないだろうな」


 変なことかどうかは、わからないけども。


「先生、まだ時間的に猶予があるなら、リートに先行してもらうのはどうでしょう。囮ではなく」

「かまわねぇが、なにをする気だ?」

「ああして追って来てるんです。もう一回、ナクンバ様に呼びかけてみます――意思の疎通ができれば、こちらの計画に沿うように動いてもらえますよね?」

「……やっぱり変なことを」

「失礼ね。変なことじゃないでしょ、真面目に考えたのよ!」


 飛竜は戦力になる。でも、目立ってしまうし、魔王の眷属と――もしかすると人間とも――即戦闘になりかねない。それも、わたしとリートの近くで、だ。

 それじゃ、聖属性の樹をどんどん育てる作戦が実行できないし、今回の作戦のキモはそこなのだ。つまり、聖属性樹林というマップ兵器を短時間に出現させ、敵を囲い込むっていう。

 成功させるには、かなりの面積を埋めねばならない。だから、トゥリアージェの皆さんにも聖属性の魔力玉と種子を渡してある。

 だけど、呪文を唱えられるのは――わたしだけだ。

 そのわたしが目立ってしまうと、なにもかも台無しなのである。

 だったら、飛竜をコントロールできるかを試すのが順当じゃない? ふつうに交渉するのが無理だとわかってからでいいよ、別案は。


「種子を植えて、ある程度の魔力を流して成長を開始するところまで、広範囲に進めておいてよ。どうせ呪文の方が効果範囲は広いんだから、多少遅れた方が数が揃って都合がいいでしょ。説得もなにも無理だとわかったら、ジェレンス先生にその……素早く運んでもらえば振り切れるかもだし」

「俺は、瞬間移動を使ってでも竜を置き去りにすべきだと思うが。確実性の低い戦力は、味方になっても持て余す可能性が高い」


 反論はされたけど、おまえは馬鹿か顔はされなかった。要は、リートもわたしの提案にある程度の意義は認めてるってことだな。


「ジェレンス先生は、どう思います?」


 んー、とジェレンス先生は少しだけ考えて。それから、ニカッと笑った。


「面白そうだから、ルルベル案を試してみよう。多少時間がかかっても、瞬間移動を使えば簡単に追いつけるしな」

「……時間はかけないようにします!」


 あわてて、わたしは宣言した。虚無移動を避けるのは、重要なので!


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