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379 存在自体が心臓の敵といってもよいのでは?

 腸詰めは結局、三本食べた。ナヴァト忍者が確保してくれたのである……。

 リートから腸詰めを三本も奪うの、けっこうな難易度だと思うんだけど。すごすぎる。さすが忍者。


「よし、ルルベルはもう調子よさそうだな?」


 エルフ校長との密談を終えたらしいジェレンス先生に問いかけられ、わたしは首をかしげた。


「べつに調子が悪かったりは――」

「倒れてたことを忘れたのか」


 ……忘れてました! そういえば、倒れたんだった!


「――魔力切れが原因で倒れたわけではないですし、大丈夫です」


 冷静に考えると、呪文トリップで倒れる方が怖い気もしないでもないけどね。

 なんか、幸せな夢をみてた気がするんだよなぁ……。あれ、なんだったんだろう。


「じゃ、やることやってもらうかな」

「やること……?」

「魔力玉作りだ。魔力切れがないように気をつけながら、小さいのを少しずつ作るんだ」


 なるほど。

 わたしの魔力は残置性が高いから、魔力玉を早めに作ることにちゃんと意義がある。

 魔力切れにならないように、回復する自分の魔力残量に合わせて作っていけるし、残置性が高いから減衰も少ないし、せっせと作れば本来の総魔力量を上回る魔力玉を準備できるのだ。

 元が元だから、それでも大した量じゃないけどね。


「小さいって、どれくらいでしょう?」

「この樹を作るのにリートが使ったくらいの量でいい」

「わかりました」


 おまかせあれ! 魔力感知ができなかった時期ならともかく、今のわたしは魔力量を自分で把握できるので!


「で、リートは校長と種子づくりだ」

「かまいませんが、俺が助手に入る必要ありますか?」

「育てやすいように、あらかじめ魔力を馴染ませるんだとよ」

「では、発動も俺が?」

「正しくは、おまえもってことだ。一部はまかせる」

「わかりました」


 で、とジェレンス先生はナヴァト忍者に向き直った。


「ナヴァトよ、おまえは現地に先乗りだ」

「聖女様のおそばを離れるわけには参りません」

「今回は別だ。ここにいる限り、ルルベルは安全だ。だが、明日は戦地に出る。だいたいは俺が連れ回すだけだが、いざというときのために、第二案が必要だろ。そこでルルベルの安全を担うのは、おまえの役だ。状況が変わったから、伯母上とも少し打ち合わせる必要がある」

「地形や逃走経路の確認ということですか」

「理解が早いな。あとは、下準備だ」

「……ですが、できれば直前まで聖女様とご一緒したいところです」

「感心な態度だが、常時隣にいるだけが親衛隊の仕事じゃねぇって話だよ。じゃ、校長、少したのみます」


 ひゅうっ、と空気が抜けるような音がして、ジェレンス先生と――ナヴァト忍者が消えた。

 ……気の毒に。


「ルルベル、なにをぼうっとしている。早く魔力玉を作りはじめろ。一瞬でも早く、多く作りたまえ」

「……わかってますぅ〜」


 実は、これからはじめる作業のことなんか、頭から吹っ飛んでたけどな!

 目の前で虚無移動されるのって、けっこうな衝撃なんだよ。ジェレンス先生って心臓に悪い。存在自体が心臓の敵といってもよいのでは?


「リート、君はこっちです。種子の準備をしますから、手伝ってください」

「はい」


 エルフ校長の前では、リートはまぁまぁ従順だ。雇用主だからだろうな……。

 ふたりがはじめた作業も気になるけど。わたしはわたしで、やるべきことをやらないと。


「小屋を使っていいですか?」

「どうぞ。僕らは戸外の方が都合がいいですから」

「ちょっと集中したいので……助かります」


 単純作業とはいえ、いやだからこそ、気が散るとぐだぐだになっちゃう。それが、魔力玉作りである。

 畳んだ寝袋の上に座り、わたしは自分の中の魔力を意識した。

 そのまま両手を膝の上に、てのひらを上に向けてくぼみを作り、両手のあいだに魔力を練る。

 ある程度練って、わりと密度が高めの、ピンポン玉にしては小さいけど平均的なビー玉よりは大きいかな、くらいの魔力玉を生成。できた魔力玉は、床に並べる。

 すぐにそれは機械的にできるようになって、なんていうか、脳がフリーになった。

 あるじゃない? なにも考えずにできることを延々やってると、思考が自由にさまよいだす状態。アレ。


 魔力感知が戻った――というより強化されたせいで、以前とは世界の見えかたが違うな、って思う。注意を向ければ向けるだけ、いろんな魔力を感じるのだ。

 もちろん今は、小屋の外にいるエルフ校長やリートの魔力も感じるけど……まぁぶっちゃけ、癒しの大樹がすべてを圧倒してるね!

 ……あれほんとにわたしが作ったの?

 あんなものが作れちゃったのは、エルフ校長の不思議な種と、呪文の相乗効果があったせいだろう。人間の魔法とは違う体系に属するエルフの魔法、そして呪文、さらには稀少な聖属性魔法――今の時代においてはレアなものが、かさなっちゃったんだな。

 呪文って、凡人が手を出してはいけないものなんじゃないだろうか……。


 癒しの大樹の圧倒的な聖属性魔力の壁の向こうに、ぼんやりと、飛竜たちの魔力も感じる。

 わたしは魔力の種類まではわからないけど、飛竜にも魔力の属性ってあるんだろうか。

 ……あっ、火か! ナクンバ様を見る限り、たぶん火だな……それか、エルフ魔法みたいに独自の体系なのかもしれない。飛竜魔法?

 そういうの研究したひと、いるのかなぁ……昔はいたんだろうなぁ……。

 昔……それこそナクンバ様がもっと大きくて、賢くて、エルフにも認められるような存在だった頃……。


 いつから、飛竜は今みたいなサイズになったんだろう。

 そうなってから、誰も意思の疎通をこころみなかったのかな?

 聖属性でないと認めてもらえないにしても、これまでだって、ずっと存在はしてたんだよ? 飛竜もだし、聖属性魔法使いだってそうだ。一代に何人もはいなくても、代替わりで生まれて、魔法使いとして世界に知られたり、そうでもなかったりしていたわけで……。

 だけど、そうか。そもそも飛竜に遭遇しなかったら、無理かぁ。

 わたしだって、今回の一件でジェレンス先生が「ちょうどいい避難場所」として飛竜の生息地をチョイスしてなければ、飛竜と遭遇しないまま一生を終えてた可能性あるよな。


 そんなことを考えながら黙々と作業しているあいだに、魔力の残量が危険域に達した。

 わたしは作業をやめて、つぶやいた。


「……世界って、広いなぁ」


 わたしの知らないことで、いっぱいだ。

 これでも、下町のパン屋の看板娘時代に比べたら、ずいぶん知識は増えたと思うんだよね。

 ご近所さんと常連さんと売上のことしか考えてなかった時代、わたしの世界は、ほんとに狭かった。下町の一部の地区だけしか認識してなかったといっても過言じゃない。

 今はずいぶん広がったけど……でも、それでもまだ狭いんだなって実感する。


 そもそも、わたしが意識してるのって央国ラグスタリアを含めた三つの国だけだけど、人類の版図ってそんなに狭いんだろうか。

 エルフ校長の親戚、漂泊者……なんだっけ、あのひとだって海の向こうへ消えたって話だよな?

 海の向こうにはほかの島々や大陸があるんじゃない? そこにはやっぱり人間も住んでて、独自の魔法とか発展してたりするんじゃないの?

 そっちには、魔王は出現しないんだろうか。

 聖属性魔法使いも、いないのかな?

 いや、まず魔法がどれだけ発展してるかって問題があるな……前世みたいに、ほかの技術が発展してる可能性がある。エネルギー源だって、蒸気か、電気か……なにかそういったものが採用されてるのかも。


 ……こういう話、ファビウス先輩としたいなぁ。

 エネルギー源みたいな前世知識のところは、ぼかすしかないけど……でも、きっと面白がってくれる。

 いや自分をごまかすな、話題はどうでもなんでもかんでもファビウス先輩と話したい。会いたい。

 これが恋ってやつか!

 あと、正直また女子欠乏症に陥りつつあるので、シスコに会いたい。エーディリア様とか……。

 エーディリア様、久しくお話ししてないけど、こういうときパッと頭に浮かぶんだよなぁ。好きなのかしら。

 ……たぶん恋じゃないと思うけど、憧れてはいるんだな。


 魔力が戻ってきたのを感じて、わたしはちょっと首をかしげる。はっや。おかしくない?

 いや……そうか。癒しの大樹だ!

 そもそも、魔力も回復できるんじゃないかと思って呪文を唱えたんだしな。おかしくもなんともないわ。狙った方向性のものができたけど、効果の強さが想定外ってだけのことだ。


 ……これ。思った以上に大量の魔力玉が作れちゃうのでは?


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