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367 危機意識が仕事をし過ぎている!

 いろいろ難しい状況だというのを把握したところで。今後の展開を知りたいんだけど!

 リート曰く、さっきの部屋での会話を盗み聞きするのは無理らしかった。


「この館の建材が、駄目だ」

「建材?」

「魔力を通しづらい。ただでさえ石は魔力と相性が悪いが、これは想像以上だ。加工してるのかもしれん。貫通させて直線距離を通すことはできないし、通路に沿わせて流しても減衰がひどい。とにかく、君の周辺に気を配っておくので精一杯だ。それすら、距離が開くとあやういと思う」

「そんなに?」

「ああ。ナヴァトはどうだ」

「姿を消して探って来れるか、ということですか? できなくはないですが、シュルージュ様のご性質ですと、見破られ次第成敗されそうです」


 ……そりゃそうか。隠れてコソコソしてたら曲者くせもの扱い一択だよな!


「うん、無理はやめよう。話し合いの結果は、共有してもらうのを待とう!」

「そうするしかないな」

「ほかに、なにか考えておくこととか……話しておいた方がいいこと、あるかな?」


 わたしの問いに、リートは即答した。


「さっきもいったように、俺の警戒可能範囲が普段より狭まっているのは意識してくれ。ナヴァトも隠形おんぎょうを使いづらいわけだし、君の護衛としては、やや不安がある」

「扉の前で番をします」

「どうせ姿を消せないなら、見せるって方針か。……そうだな。初手はそうしよう」

「この建物の中で、そんなに警戒する必要ある?」


 リートがいつもの君は馬鹿かという顔をした。


西国ノーレタリアの人間がいるんだぞ」

「だって、聖属性魔法使いは必要じゃない? そう簡単に命を狙ったりはしないでしょ」

「君が狙われるとして、誘拐という選択肢もあるんだぞ」


 お、おぅ……。そうか。


「俺だったら、トゥリアージェの庇護下にある人物に手を出したりはしませんが」

「主戦論者はやりかねんだろ」

「そうですね」


 そうなのか! ああもう、やだー……。おうち帰る!


「ルルベル、あれは作れるか。魔力玉」

「あー……」


 そういえば、魔力感知をできるようにするのが最優先という話をしたあと、忙し過ぎて魔力玉作成まで手が回ってなかった! リートもああ見えて遠慮してたらしいしな……。


「魔力玉もすぐ消えちゃうんじゃない?」

「とりあえず、作ってみてくれ。ただし、小さめで。君自身の余剰魔力も残しておくべきだ。近くに魔将軍がいるのだからな」

「はいはい、小さめね」


 わたしはビー玉くらいの魔力玉を作ってみた。

 すごいなぁ……魔力感知がしっかりできるようになったおかげで、大きさはもちろん、密度も自由自在だよ。魔力感知ってほんとに偉大。魔法の基礎なんだな。


「どうかな。少なくとも、すぐには消えなさそう?」


 見たところ、大きさも密度も変化はない。さすが聖属性魔力……ってことなのだろうか。


「そうだな。いつもより早く消えるかどうかは、ある程度時間を置いてみなければわからんが」

「この大きさなら負担じゃないし、ふたりに三つずつ作って渡そう。あとは……描いておいて使えそうな呪符とか……なにかあるかな?」

「俺たちが魔法を使いづらいということは、敵対する者も魔法を使いづらい可能性が高い」


 そこで可能性が高い、ってするのがリートだなぁ、と思う。

 わたしだったら、敵も魔法は使えないね! っていっちゃうよ。


「トゥリアージェの者なら、抜け道を用意している可能性もあります。魔力抵抗を消せるとか……優位に扱える手段が隠されているのでは?」

「俺もそう思う。魔法使いが、魔法を使えない館に住むはずがない」


 えーっと……なるほど?


「それは心配しなくていいんじゃない? だって、シュルージュ様は友好的なんだし」

「トゥリアージェに裏切り者がいないとも限らんからな。油断は禁物だ」


 たしかに……たしかにそうかもだけどさあ!

 危機意識が仕事をし過ぎている!


「もうちょっと気を抜きたい……」

「聖女様は、あまり難しくお考えにならずとも。我らがお守りします」


 キリッとした顔でナヴァト忍者が宣言してくれた。


「うん。ありがとね。自分でも、できるだけ気をつける」

「聖女様、俺たちは……それが仕事です」

「わかってる。たよりにしてます」


 自分の身の安全を他人に丸投げするのも、いかがなものかと思うけど。

 でも、わたしにできることなんてなぁ。ほとんどないし。

 魔力覆いは常時展開してるけど、人間相手には意味がない。あとは、例の反転魔力が込められた腕輪とか……? でもあれって一回しか使えないからなぁ。ラスト・エリクサー症候群気味でモッタイナイって思っちゃうわたしとしては、とっさに使えるか不安しかない。ていうか、使うべき場面が生じないでほしい。


「ジェレンス先生、今夜中に情報共有してくれると思う?」

「作戦次第だろうな。すぐ出るなら、説明もすぐだ。しかし、さすがに今夜このまま出発ということはないんじゃないか? そこまで切羽詰まっているにしては、食事に時間をとり過ぎだ」

「なるほど。……やることがないなら、わたしもお風呂を使って休もうかな」

「そうなさってください。俺たちが交代で扉の前に立ちます。ご安心ください」


 ナヴァト忍者、魔法もうまくて忘れがちだけど、転生コーディネイターいうところの物理最強枠だからな……。

 魔法が難しい館の中で、物理最強が守ってくれるって、万全では? 信じよう。信じて安心しよう。


「よし、そうする! じゃ、出てって出てって」


 男どもを部屋から追い出し、わたしはお風呂を使わせてもらうことにした。

 さすがに使い慣れたジャグジーの快適さには負けるけど、猫足バスタブは乙女の憧れだからねー! ゆったり浸からせてもらって、ぽっかぽかになる。

 ……うん、さっきまで緊張してたな。指先とか、冷えきってたもん。

 でも、今はもう平気。

 わたしは、見えない腕輪をそっと撫でてみる。

 恥ずかしいなんていわず、ファビウス先輩につけてもらえばよかったかな……。いや、やっぱ無理だな。無理! この、むちっとした二の腕は、服の下に隠しておきたい……さっきドレス着たとき、むき出しにせざるを得なかったけど。

 ふと、位置情報も発信できてないかもしれないと思いついた。

 壁や天井で魔力が減衰してしまうなら、わたしの居場所が伝わらなくなっているかも……。

 うわぁ、心配されてたらどうしよう。

 これ、どうすればいいの? 窓辺? 窓を開けたら大丈夫?


 気がついてしまったら放置することもできず、わたしは急いでお湯から上がり、夜着に着替えた。まだぽっかぽかだけど、ガウンを羽織って――窓を開く。

 すぐさま、戸外の冷気が流れ込んできた。小さい窓でも換気力は十分だ……べつに換気したいわけじゃないのに、すごく換気されるぅ!

 震え上がりつつ、わたしは腕輪をはめた方の手を窓の外に出してみた。

 ……この寒いのに窓を開けてるところを見られたら不審がられるのでは? と思うけど、まぁ……ファビウス先輩にとりあえず安心してもらうのが最優先!


「ファビウス様、わたしは無事です」


 王都の方を向いてつぶやいた――と、いいたいところだけど、方角が合っているのかはわからない。

 ファビウス先輩、今、なにしてるかな。腕輪の観測は、本人が見てなくても装置を使って常時継続してそう。

 ちゃんと眠ってくれるかな……まだ早いから、ぜったい起きてるだろうなぁ。

 ふと、出立のときのやりとりを思いだす――おまえの方こそ、うまくやっとけよ……。


「やっぱり、あれかなぁ……」


 学園で今後、なにか問題になりそうなことがあるとすれば――第二の聖女だ。聖属性かもしれない魔法を使い、王家のサポートを受けて入学して来る女の子。

 その対策を、うまくやれといわれてるんじゃないだろうか。

 どんな子なんだろう。

 どう立ち向かえばいいんだろう。

 手を取り合うことって、できるんだろうか……。


「……不安だな」


 わたしがつぶやいたときだった。


「なにがだよ。俺がいて不安なことあるか?」

「ジェ……」


 しっ、と口に指をあてたのはジェレンス先生で。当然のように、窓の外に浮かんでいた。


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