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364 無理です、対戦ありがとうございました

 ジェレンス先生幼年期のエピソード暴露をまじえつつ、お茶とお菓子をいただいて。わたしたちは別の部屋に案内された――つまり、今夜お泊まりいただくお部屋、ってやつだ。

 すぐにも西国ノーレタリアに行くことになるのかと思ってたけど、違うんだな。

 で、そのお部屋に着替えが用意されていてですね……。


「なんでサイズ合うの?」


 思わず声が出たよね。だって、見た感じかなり余裕があるなと思ったドレス――シンプルだけど品のいい、クラシカルなデザインだ――が、着たらぴったりなんだもん。

 えっ、わたし太っ…………


「伸縮魔法だろうな」


 着替えが済んだところで合流したリートが、あっさり種明かしをしてくれた。


「伸縮魔法……そんなのあるんだ!」

「俺たちの服もそうだ。準備がいいな」


 なるほど……ジェレンス先生の「服は伯母上に用意してもらう」発言、根拠ないことじゃなかったのか。

 なお、リートとナヴァト忍者はパーティーに出ても問題なさそうなタキシード的なものを着用している。的ってなんだよと思われるかもしれないが、的は的だ。うろ覚えの前世知識を当てはめただけだ。

 庶民のわたしが! 上流階級の男性の衣服の正確な見分けを! できると思うかッ!

 無理です、対戦ありがとうございました。


「騎士団の制服も、はじめに支給されるのは伸縮魔法を使ったものです」

「そうなの?」

「ええ。任官されてすぐ着用するためです。仕立て上がりを待つ期間に使います」


 ナヴァト忍者の台詞で、なんとなく謎がとけた。気がする。

 上流階級の衣類は、一点ものお仕立て文化だ。そもそもサイズを合わせて作る。多少ならお直しするし、大きく変われば新たに仕立てるんだから、伸縮衣料の需要は低いはず。

 こんな雑で合理的なものを必要とするのは、軍属だろう。この魔法伯とやらの一族、体質的には文官じゃなくて武官なんだ。だから、伸縮魔法を使った服が常備されている。

 謎はすべて解けた!


「……それにしても、便利ねぇ」


 こういうの、庶民の方が必要としてるはずだけど、まぁ……お値段的に、手が出ないだろうな。いくらか知らんけど、安いと思えない。魔道具だもん。わたしが知らん時点でお察しだよ。

 勝手に納得したところで、リートが遠慮なくわたしを眺めていることに気がついた。


「リート、なに見てるの? なんかおかしい?」

「いや、女性の夜用ドレスは上腕がむき出しになるからな。腕輪が目につくかどうか、気になった」

「ああ……透明なんだから大丈夫でしょ?」

「伸縮魔法の調整が雑だと、食い込んで形がわかったりするんだ。だが、問題なさそうだな」

「調整したの、誰だと思ってんの……」


 さすファビだぞ! 雑の対極を生きてると思うよ。


「おーい、生徒どもー。着替えはすんだかー」


 そこへあらわれたのが、雑と勢いで生きてるようなジェレンス先生である。ジェレンス先生も、タキシード的なものを着ていた……置きタキシードなのか伸縮魔法の衣装なのかは不明だが、まぁ似合ってる。髪も撫でつけてるし、ぱっと見で「……誰?」って感じの仕上がりだ。


「飯食いに行くぞー。あー腹減った」


 喋ったとたん、誰かわかっちゃうけどな……。

 まぁ、通常営業のジェレンス先生がいるだけで心強い! と思うことにしよう。


「ルルベル、緊張してんのか? なんでだ」

「なんでって……礼儀作法に不安があるからです」


 わたしはド庶民なのでね! 夕食だからってドレスに着替えるようなお貴族様とは、つきあいがなかったわけよ! 最近、周りぐるっと貴族ってことも多いけど、ファビウス先輩の研究室では格式ばったことはなかったし、食堂もねぇ……飲むように食べるやつがいるから! わたしの作法なんか霞むよね!


「気にすることねぇぞ。魔法使いに問われるのは魔法の資質だけだ」

「そこまで割り切れませんよ……」

「聖女様、俺ができるだけ早く食器を手に取りますので、真似てください」

「ナヴァト……ありがとう!」


 さすが騎士! 騎士道! サンキュー!

 城館内は迷路のようで、案内役がいなければ速攻で迷子になりそうだった。歩いてるだけで威圧感すごいし……。もう日が暮れてしまったから暗いのは当然なんだけど、そもそも窓が少ない。はじめに案内された客間が、特別だったのかもれない。


「ジェレンス先生は、このお館に住んでらした時期があったんですか?」

「そうだ。まぁ、もうずいぶん前だな……学園に入学するとき、ここを出たんだ」

「先生も昔は生徒だったんですね」

「ああ。それも悪い生徒だったぜ?」


 なぜか得意げ……。いやほんとに、なぜ?


「でも優秀でいらしたんでしょう?」

「試験はてっぺん獲らねぇと、許されなかったんだ」

「え、一位じゃないと許されないんですか?」

「トゥリアージェだからな」


 なるほど……。魔法伯の一族だと、周囲の期待値も高いのか。


「ジェレンス、遅いぞ。久しぶりで迷ったか?」


 たどり着いた部屋では、デイナル様が苦笑して出迎えてくれた。


「まさか。この館の中なら目を閉じても歩けるさ」

「階段から足を踏み外すほうに賭ける」

「おう、受けて立つぜ」


 ここが食堂? ……の割にはテーブルもディナー・セットもないな……。キョロキョロしないように気をつけつつ観察をつづけるわたしに歩み寄って来たのは、シュルージュ様だ。

 ……おお。このポーズはエスコートしてくださるのよね? かすかに笑まれたその表情に、ぽわーっとなってしまいそう……イケメンは間に合っていたが、イケオバは……イケオバは不足していたのかもしれない!

 ファンクラブがあったら入りたい! なかったら作る! わたしが会員第一号!


「お待ちしておりました、聖女様。ではご一同、こちらへ」


 室内が薄暗くてわかりづらかったんだけど、シュルージュ様、デイナル様のほかにも、男性が三人ほどいらっしゃる。雰囲気からして使用人ではないし、トゥリアージェの一族のかたがた……?

 まぁ必要なら紹介されるだろうと踏んで、そのまま隣室へ移動。

 食堂も暗かった――すっかり魔道具の照明に慣れてしまったので、久しぶりにほんものの蝋燭! 蝋燭だ! という気分である。華麗な銀の燭台に揺れる炎、並んだお皿にカトラリー。美しく生けられた薔薇は、シュルージュ様の二つ名にあわせてか、深い赤。

 おおお……この雰囲気ますます緊張する……ガチですやん。ガチの貴族の食卓ですやん!

 ……ナヴァトはすぐ隣の席で、ヨシ! あとは騎士道精神に期待!


「まずは、食事を済ませましょう。難しい話は、後刻」


 と、当主が宣言して、我々は食事にとりかかった。順番にサーブされるコース料理……こんな本格的なの、ひょっとして……ひょっとしなくても、はじめて食べるぞ!

 しかも、肉が多い。

 肉! また肉! ……これリート狂喜乱舞じゃない? 初恋の人を上回る肉提供量じゃない?

 マナーの方は……骨つき肉を美しく食べることに失敗した気がする以外、そこまで大きな粗相はしていないと思う。

 大人組は、食べながら静かに会話もしている。どこそこの誰某が結婚するらしいとか……海辺に幻獣の死体が漂着したという噂があるとか。……いや死体の話は食事中はやめてくれんかな?

 幻獣っていうのは魔力をエネルギー源にする生物のことで、激レア。実在が疑われるレベルなので、いたんだ……って感じ。魔物との違いは、魔王の支配下にあるかどうか、ってことらしい。


「魔物にやられたのではないかと、もっぱらの噂だ」

「どなたか検分に行かれたのですか?」


 シュルージュ様の質問に首をふったのは、まだ紹介されていない紳士である。


「いや、今は海へ行ける状況ではありませんので」

「それもそうでしたね」


 海かぁ……。海……。

 我が国も海に面している土地はあるらしいけど、王都からは遠いんだよなぁ。

 わたし以外の王都っ子だったら、海? 海! みたいになってると思う。わたしはほら……前世で海に行った記憶があるからね。わたしの知ってる海は、幻獣が打ち上げられたりはしないけど!


「いよいよ陸路があやしくなって」

「ですが、お国には浮遊回廊がございますでしょう」

「それは無論。ですが、今は通行止めです。最近、空の魔物も増えて参りましたので」


 ……。

 いや待って。お国? お国ってつまりその……アレか。

 まだ紹介されてない男性陣、西国から来てるってことじゃないの?

 というか……だから逆に、ちゃんと紹介されてないってことかもしれぬー! わー!

 食後、紹介のターンが来たら、ファビウス先輩の外交資料を暗記してるはずのリートに頼るしかない。


 リートをチラ見したわたしは、心の中でつっこまざるを得なかった。

 飲むように食ってる場合かーッ!


ちょっとお休みが長くなってしまいました! ごめんなさい。


修善寺温泉の新井旅館に宿泊し、それはもう素晴らしい空間に浸って幸せな時間を過ごしたのですが、自分が思った以上に疲れていたらしくて、再起動に時間がかかってしまったのです。

体力がたりないですね……。


新井旅館で撮った写真は FANBOX の全体公開記事に、ある程度まとめたので、よかったらご覧くださいませ。

https://usagiya.fanbox.cc/posts/7316934

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