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356 陛下が想像以上に脳筋だった!

 朗報:流れる水になりきる課題が少しだけ進んだ!

 たぶん、あの古いワイン樽に思いを馳せたのがよかったんだと思う。

 もうちょっと訓練しないとだけど、うまくいけば「傷や病気がある程度治る」呪文を唱えられるようになる。

 漠然としてるよね……。生属性魔法だと、身体の構造を理解して再生の手助けをする……みたいなものだから、こんな雑な指定で治癒魔法が成功したりはしないんだろう。

 でも、呪文ってそうじゃないのね。「健康な状態になぁれ」みたいな効果が期待できるのだ。まさに魔法って感じしない? これと比べたら、生属性魔法って医術に近いというか……いやでもけっこう無茶苦茶か。血で拘束したりするもんな。

 いやまぁね、比較の問題よ! 比較!

 呪文による治癒は、それこそゲームで「HPヒット・ポイント減ったから回復薬を飲もう」ってやつに近い。


「わたしの魔力で、何回唱えられるんでしょうか」


 治癒対象がいない状態では通しで唱えることが禁じられているので、試してみることもできない。

 そう思って訊いてみたんだけど、エルフ校長の答えはこうだった。


「どれだけ魔力をこめるか次第ですよ。呪文自体に、消費魔力の規定があるわけではありませんから」

「じゃあ、持てる魔力をすべてこめたら……一回に決まってますね」

「そうですね」


 自分で口走っておいてなんだが、あまりにもくだらなかった!

 エルフ校長も、さすがにこの子は馬鹿だと思ったのでは……優雅にお菓子を食べるその姿からは、なにを考えているのか窺い知ることはできないけども。そもそもエルフがなに考えてるかなんて、マジわからんよ……。

 ……いやいや。そんなことどうでもよくて。


「全力で唱えたとしたら、どれくらい治るんでしょうか?」

「その場になってみないと、わかりませんね」

「えっと……命にかかわらないような……たとえば、転んで膝をすり向いたとか、刃物でちょっと指先を切ったとか、そういう日常的な傷を軽傷として――」


 例を挙げながら思ったけど、重傷ってどれくらいの傷をいうんだろう。……待てよ、そもそも重傷って命にかかわる傷のことをいうんじゃないっけ?

 ああ、HPみたいな概念がほしい……それなら数字でわかりやすいのに。


「――そういうのは治せるとしても、命にかかわるような傷は無理と考えておいた方がいいでしょうか?」

「基本的には無理だと考えておいた方がいいのですが、君は聖女ですからね」

「……はい?」

「聖属性は、奇跡を起こし得る魔法です。深い傷も、身体の欠損も、ひょっとすると死者さえも、癒すことができる可能性はあります。可能性だけですが」


 わたしはエルフ校長の発言をよくよく吟味した。自分が発言する内容についても、よく考えた。さっきみたいな、口にした端から後悔するような愚かな質問は、一日に一回でも多過ぎる。


「……では、魔力量と関係なく作用することもある、と?」

「そういうことも、あり得ます」

「でも、期待しない方が賢明でもある?」

「期待をしなければ、なにも起きませんよ。呪文とは、夢みる力ですからね。それを現実にするという強い意志がなければ、魔法としては作用しないのです」


 そういう話じゃなくて!


「なんでも治せる可能性はあるけど、その可能性が高いとはいえない?」

「そうですね」


 やっと妥当な答えを得たぞ!


「どのへんまでなら、可能性が高いといえるでしょうか」

「君がさっきいっていた、日常的な傷ですね。すり傷、切り傷……ある程度なら、即座に治せます」


 深い傷や欠損については、まぁ無理ってことか。いやしかし、それにしても……。


「死者をよみがえらせた例もあるんですか?」

「ありますよ」


 あるのか!


「え、それはやっぱり唱えたのはエルフなんですか?」

「よみがえりを実現したのは、僕が逃がした聖属性魔法使いです」


 僕が逃がした……って!


「魔法学園の生徒さんだったですか?」

「そうですよ。優秀な学生で、同性の女子にも人気がありました。懐かしいですね……」

「優秀だったんですか」


 同じ聖属性として、ちょっと羨ましいな。わたしのこと、優秀って表現するひとはいないと思うし。


「そうですね。ただ……聖属性魔法使いとしては、きっとルルベルの方が優秀ですよ」

「え」


 まさかの! 優秀って表現するひとが目の前に!


「彼女は、純粋な聖属性ではなかったのです。聖属性寄りの、生属性……といったところでしょうか」

「そんなこともあるんですか」

「魔王が封印されているあいだは、強い聖属性の魔力を持つ者があらわれることがない代わりに、そういう変わった魔力を持つ者が出てくることがあります。ごく稀にではありますが」


 ごく稀というと、人間の寿命では遭遇しないことの方が多そうな感じかな。

 なるほどと思いつつ、肝心のところがわからないので質問をかさねた。


「でも、どんな場面でそんな……平和な時代だったんですよね?」

「政争に巻き込まれたのですよ」


 ニンゲン、トテモ、オロカ……っていうフレーズが頭の中を流れていったことは、いうまでもない。


「聖属性魔法使いだからですか?」

「そういっても間違いではないでしょうね。だから、君にも早く逃げてほしかったんです」

「でも、政争っていっても……」


 我が国、それなりに平和なイメージがあるんだけどな。実はそうでもないの? 水面下では、貴族とか……あとは誰? ものすごくお金を持ってる商人とか? そういうのがこう……なんか戦ってるわけ?


「王子がふたりいて、下の王子の方が優秀だったのです」


 あっ。素人にもわかる、駄目になりやすいパターン……!


「だけど、どうして聖属性魔法使いが巻き込まれたんですか?」

「同年代だったのですよ。下の王子と。学園でともに学ぶうちに、親しくなってしまったのです――彼の護衛と」

「護衛」


 思わずリピートしてしまった。

 だって、この流れだったら王子と恋仲になったのかと思うじゃん! 思うよね?


「暗殺者の襲撃を凌いだ護衛は、王子の身代わりとなって毒の刃に倒れました。ひどい苦しみようだったといいます。間近で見ていた彼女は、なんの訓練も知識もないまま、治癒の奇跡を起こしたのです」


 政争に巻き込まれたって、そっち? ほんとに巻き込まれじゃん……。

 ていうか! まさかの、呪文無関係案件!?


「呪文を唱えたわけではないんですか」

「唱えてはいませんが、現象としては呪文によるものと同じですね。前にも説明しましたが、呪文は世界の書き換えです。奇跡も同じですが、純粋に『あり得べからざることが生じる』のが奇跡であるのに対し、呪文は『手順を踏んでかくあるべきと唱える』ものです」

「……えっと?」

「奇跡は、あり得ないからこそ奇跡。狙って起こせるものではありません。呪文はそうではないでしょう。狙って起こす、そのための訓練を君は今、つづけているのです」

「そうですけど、よくわかりません……」

「聖属性には、ことわりを破壊する力があります。だからこそ、専門的な知識もなく訓練も受けずとも、奇跡のような力に手が届きやすい。届きやすいといっても――可能性が皆無ではない、という程度のものです」


 まぁ……そりゃまぁ、いつでもどこでも再現性のある奇跡って、もはや奇跡でもなんでもないしな。魔法みたいな、手順さえ踏めば再現できる技術とは、まったく違うんだろう。

 でも、その奇跡と聖属性は親和性が高いってことだ……よね?

 すると……つまり……。


「もしかして、魔王の封印って奇跡なんですか?」

「奇跡ではありませんよ。奇跡だったら、もっと失敗率が高いでしょう」

「じゃあ、なんなんでしょう」

「魔法ですよ、ルルベル。自分を信じ、支えてくれる人々を信じ、この世界に生きるものすべてを信じてかける、聖属性魔法です」


 ……なるほど? それはいいんだけども。


「その魔法の使いかたって、どうやったら覚えられるんでしょう」

「誰かに教えてもらうことはできません。今の世に聖属性魔法使いは、ルルベル――君ひとりですから」

「でも、その……わたし、魔王の封印のしかたがわからないんですが」

「そのとき、その場に至ればわかります。わからなくても、なんとかなりますよ」


 雑ぅ! 雑過ぎる! こんなんリートでも許さないレベルだろ!


「わたしとしては、事前にもうちょっとこう……知っておきたいというか……。校長先生が同行されたときは、どんな感じだったんですか?」

「殴ってました」

「……はい?」

「魔王を殴って封印しました」


 ……陛下が想像以上に脳筋だった!


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