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348 誰彼かまわず正論で殴りつけるリートよ……

「くだらないって……どういうことよ」


 腹の底から声が出てしまい、おおっと……さすがに聖女らしさが皆無どころかマイナスに踏み込んでない?

 でも、リートの鉄面皮はなんら影響を受けることなく。


「優先順位を見失っている」

「優先順位?」

「君は、自分は聖属性魔法使いだから魔王をなんとかしたいという。つねづね、そこは見上げた心がけだと感心しなくもない。さしたる魔力もなく制御もまともにできないばかりか、魔力感知さえ失っても、君の考えは変わらなかった」

「そりゃ――」


 だって、聖属性魔法使いって、同時に何人も出現したりはしないらしいじゃない。少なくとも、過去にそういう例はないわけよ。

 わたしがやるしか、ないじゃない。


「力不足でも、できる限りのことはする。そういう姿勢だと認識していたが、俺は間違っているか?」

「違わない」

「なら、見栄は捨てろ」

「……見栄?」

「なんで君は試験にこだわるんだ? あらかじめ課題を決めるのは、珍しいことではない。なんとしても留年したくない生徒とさせたくない教師が、できそうな課題を設定することもだ」

「他人様のなさることに口出しする気はないけど、本来なら、それもおかしいと思う。魔法学園で学んでる意味がないじゃない」

「そうだな。だが、君が魔法学園に来たのは、聖属性魔法使いだからだ。魔王を封印するためだし、そのために少しでも技術を鍛え、知識を得るためだ。進級するためでも、卒業するためでも、国家試験に受かるためでもない」


 漫画だったら、ここで「ずばーん!」と、描き文字演出だな……。

 なんてことを考える程度には、ショックである。

 そりゃ……そうだけど。そうだけど!


「聖女だから特別扱いされていると陰口を叩かれることを気にしているのか? だったら、無駄なことに意識を割くな、という話だ。君の落ち度を探して嘲笑おうとするやつがいるかと訊かれたら、いるに決まってると答えるしかない。だが、そんなのは浅ましい愚か者だ。相手にするだけ人生の無駄遣いだ。それに、君の見栄に過ぎないだろう? 自分はふつうの生徒と同じに頑張ってます、というのは」


 見栄?

 これ、見栄なの? そうなの? わからない……わからないけど、でも!


「……でも嫌なんだよ、特別扱い」

「それくらい承知している。聖女としての活動に支障をきたさない限り、いくらでも嫌えばいい。だが、今の君の『特別扱いされたくない』願望は、聖女として正しいか? 『魔王対策のために効率よく学園を利用する』と割り切るべきではないのか」


 せ……正論ぶっぱされたー!

 うわーん、おうちに帰るぅ……。


「先生がたもです。ルルベルに振り回されず、もっと冷静にお考えいただきたいですね」


 エルフ校長とウィブル先生が、漫画だったら「がび〜ん」ってなる感じの表情で正論砲を受け止めている……。

 ジェレンス先生だけは俺様っぽい笑顔を返してるのは、さすが当代最強っていうべきところ? 我が強いって特徴が出てるんじゃないの、これ。


「そういうなよ。俺たちは、丸く収まる方法を模索してただけだ。本人のやる気だって重要なんだ、ああすべき、こうすべきで誰かにいわれてやるのと、自分でやりたいと思ってやるのとでは違うだろ」

「魔王の復活が間近だといわれている状況で、優先すべきことではないと思いますね」


 リートよ……誰彼かまわず正論で殴りつけるリートよ……。

 なんかもう、すげーな。


「わかった。見栄っていうなら、それは捨てる。本来の目的を最優先すべきだよね」

「そういうことだ」

「じゃあ、試験は延期してもらう。だって、実戦で役に立つ呪文を覚える以上に優先すべきことなんてないし、それを試験に使うのは無理なんだから。延期ができないなら、退学でもいいです」

「ルルベル……退学なんて、そんな」


 エルフ校長を動揺させてしまった……すごい、マジでふるえてる。そんなショック?


「こうなったらもう、とことん特別扱いしてください。対魔王で役に立つようなことだけ学びに来たって体裁にしてくださってもいいですし……単科履修生とか、なにかそういうのないです?」

「過去に二例だけありますが……」


 あるんだ。いってみるもんだな……そしてエルフ校長がなにも忘れない長命種で助かった!

 そうでなきゃ「過去に二例」なんて情報、すぐ出てこないよね……。


「じゃあ、それでいきましょう。ほかに、もっといい方法あります?」

「特例で試験の実施を遅らせるって方法もあるんじゃねぇかな」

「そんな便利な特例、使えるんですか?」

「そっちは毎年のようにあります」


 ……えっ。マジで?


「便利だから、よく使われるんだよ。試験の日程を優先できない家の事情……ってやつが、いろいろあるからな。筆記試験ならともかく、実技試験は融通が利くんだ」

「なるほど……」

「ルルベル、退学はしませんよね?」


 エルフ校長は、まだそこに引っかかっているようだ。そんなにショック?


「しなくて済むなら、しません」

「よかった……」

「ルルベルちゃんは、たまに勢いよく突っ走るわよね……。でもごめんなさい、アタシもなんとかうまくまとめようとし過ぎて、本来もっと考えるべきことを失念してたわ。まだまだね」


 ウィブル先生が反省してる……! このへん、ジェレンス先生とは大違いだな。


「いえ、そんな」

「ただね、成長促進と治癒は近いの。少なくとも生属性魔法においてはね。なぜって、治癒には人間の身体の成長する力を使うから。……ほら、総合魔法実技演習会で、リートが豆を育ててたでしょ」


 ……そういえば!


「アタシは呪文がどういう機序で作用するかまでは知らないから、そっちでも関係が深いかはわからないけど……校長、どうなんです?」

「関係ありますよ。あるから候補にしたのです。成長促進の呪文には、いくつか種類があります。範囲を絞って強い効果をあげるものから広範囲に作用する豊穣の祈りのようなものまで、幅広く。一部を書き換えると、そのまま治癒に使えるのです」

「え……」


 ちょっと待て。それを! 早く! 教えてくれ!


「書き換えに危険はないんですか」


 素早く突っ込んだのは、ジェレンス先生である。なるほど重要ポイント! さすが先生!


「なんの代償もない魔法など、この世に存在しませんが……書き換えという表現がよくありませんね。呪文としては、成長促進と治癒で一部共通の内容がある、と説明すればいいでしょうか。ごく単純にいえば、『あなたは生命力が強く、よく育つ』と『あなたは生命力が強く、よく治る』といったことです。たとえば豊穣の祈りと共通する部分が多い治癒呪文は、広範囲に気力・体力が少しずつ回復する効果を与えることができたりします」


 広範囲リジェネだと!?

 えっ、それ覚えるしかないやつだ。便利に決まってる。


「校長先生、それ教わりたいです」

「……ルルベルには、まだちょっと早いですね。もう少し簡単なものから教えます」


 アッ、そうですか。ハイ……。

 ……いや、教えられない呪文について説明するのもやめていただけないですか? ふくらんだ期待が一瞬で叩き潰されるの、あんまり趣味じゃないんですが!


「生属性でもできればいいんだけど……広範囲は得意分野じゃないのよね」


 ウィブル先生が、なんだか悔しそう。

 ってことは、国一番の生属性魔法使いでも、広範囲リジェネは難しいってことかぁ。


「生属性は、生体の状態を把握した上で操作する魔法ですからね。広範囲なんていう雑な指定とは、相性最悪でしょう」


 リートがしれっと呪文をディスってる気がするが……まぁリートだしな。

 そして、飲むように食べていたリートに限らず、全員のお皿がだいたい空になる頃合いである。


「じゃ、ルルベルは午後も呪文の修行を頑張れ」

「はい……」

「なにしょんぼりしてんだ。そんなに実技試験を受けたかったのか?」


 ジェレンス先生が頭をワシャワシャやりそうな予感がしたので、わたしはさりげなく椅子を引いて立ち上がった。

 ……ほらやっぱり! 手が泳いでる!


「そういうわけじゃないです。呪文は……頑張ります」


 試験を受けたいわけじゃないんだよ。

 ただ……ほかの皆と同じように、学園生活を送りたかったな〜、って。

 それだけ。


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