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338 国家資格にそんな奥の手があったとは

 忙しいんじゃよ……忙しいんじゃ、我がマインドが!

 今日いろんなことあり過ぎでしょ……朝はリラが思ってたよりしっかりしてるって新発見して、そのあとファビウス先輩と恥ずか死ぬ事件があり、昼食はむっちゃ美味しくて、ハルちゃん様とのびっくり再会からの魔王復活予告っぽいものを受けて呪文初発動して依存症の危険性を知り、なんじゃそりゃー! ってなってからの――夕食会?


 無理!


「一日に詰め込み過ぎだと思うんだよね……」

「魔王復活情報とやらの信憑性は、どれくらいなんだ?」


 食堂に向かうわたしに、リートが尋ねる。


「考えたくない問題第一位だよ。食事の前に訊かないでほしいわ……。消化悪くなりそう」

「消化が悪い方が太らなくていいんじゃないか?」


 ……くっそ腹立つぅ!


「うるさいわね。知りたきゃジェレンス先生に訊いて。一緒にいたんだから」

「ジェレンス先生を捕まえるのは難しいからな。今目の前にいる君に訊く方が早い」


 あーなんか既視感! エルフ校長に説明させるより、わたしに吐かせた方がずっといいってジェレンス先生がいってたよな、なんなのもう。わたしってチョロいと思われてるの?

 ……まぁチョロいな。無理もないな。


「あんまり説明できないのよ。校長先生に口止めされてる問題があって」

「口止めされたからといって義理堅く守る必要もあるまい」

「わたしは義理堅いの。諦めて」

「俺は知っておく必要がある。聖女の親衛隊の隊長なんだからな」


 そういわれると、たしかになぁ……。リートだって、心の準備もしたいだろう。もちろん、ナヴァト忍者も。


「……明日にでも校長先生に確認するよ。親衛隊には話してもいいか、って。それまで待って」

「いいだろう」


 結論。やっぱ、わたしはチョロい。

 そんなことを話してるあいだに食堂に到着。どのテーブルに向かえばいいかは……一目瞭然だわぁ。

 皆の視線が向かっている、華やかな一団。伯爵令嬢たちも表情がキラッキラしてる――そのキラキラの眼がみつめているのは、もちろん! さすファビ先輩である。

 そのファビウス先輩はといえば、さっとこちらを見て手をふった。


「ルルベル、こっちだよ」


 ……目敏いにもほどがあるんじゃないの?

 ていうか、注目の的が手をふったせいで、わたしも注目の的に! ああー、視線が痛い……。

 しかたない。わたしは腹に力を入れ、看板娘スマイルを顔に貼りつけた。


「ファビウス様――それに皆様、わたしもご一緒してもかまいませんか?」

「もちろんですわ、ルルベル嬢! 最近、あまりお話しする機会がなくて寂しいと思っていたんですの」


 ぐいぐい来るのは、やっぱりシデロア嬢だ。

 隣のアリアン嬢はといえば、クールに謎めいた笑みを浮かべている。そのアリアン嬢が自分の隣の空席を示したので、わたしはそこに座ることになった。反対隣はファビウス先輩である。


「親衛隊の皆も、いいですか?」


 ただでさえリートは機嫌が悪いのだ。空腹をかさねたら、激・不機嫌になるのが目に見えている。見えている地雷は避けるに越したことはない。


「もちろん。皆様、ちょっと詰めていただける? 椅子を置く場所を空けなくちゃ」

「僕も詰めるよ」


 と、ファビウス先輩がすかさず椅子を移動させて、わたしの隣にぴったりくっついた。

 んぎゃー!

 こんなん緊張してちゃんと食事できないかもしれないじゃん……いや、なにを今さらって感じだけどほら……今日は恥ずか死ぬ事件があったばかりだし……ああああ。


「どうしたの、ルルベル?」


 顔を! 覗き込まないでくださいぃ!


「どうもしません。リート、椅子を持って来て。一緒に食べましょう」

「ご配慮、感謝します」


 ナヴァト忍者も誘いたいが……命令でもしない限りは無理かなぁ。

 こういう場面で声をかけないっていうのも落ち着かないけど、姿が見えてない相手に声をかけるのも変よね。周りの皆さんを動揺させそう。

 ……よし、リートを経由しよう!


「リート、ナヴァトは?」

「心配しなくて大丈夫です」


 放っておけという意味だと解釈して、わたしはうなずいた。

 というわけで、伯爵令嬢たちとシスコとリラ、ファビウス先輩とリート……という、かなり女子多めの席が出来上がった。


「先にいただいてたんだ。ごめんね?」

「いえ、わたしが遅刻してしまって……」

「放課後の特訓が大変だった?」

「まぁ……そうですね」


 それ以外にも、いろいろいろいろいろいろあったんですよ……。

 ううう、相談したい。慰めてほしい。だが、今ジャナイ。今ジャナイなー!


「ルルベル? 疲れてるんじゃない?」


 ファビウス先輩の察しがよ過ぎである。


「そう見えます? ちょっと……すごかったんですよ」


 わたしは頭の中で作戦を練った。なにがどうすごかった? 午前の部を持ち出すのはもちろん却下として、昼食事件も駄目だろう。ジェレンス先生に遠くまで連れてってもらったとか……なんかズルっぽい気がするし。

 消去法で、呪文の訓練の話になるが……まぁいいか、これにするか。


「はじめて、呪文を唱え切ることができたんです」

「えっ! 呪文? ……って、なに?」


 シデロア嬢! そこからですかーッ!


「魔法を発動させる手法のひとつよ。かなり古い手法で、今はほとんど使われることはないわ」


 アリアン嬢すげぇ……。

 ファビウス先輩も、わずかに眉を上げている。お、これは感心してる表情だ。


「さすがだね、アリアン嬢」

「……我が家は魔法使い一族ですから」


 アリアン嬢はクールに答えたけど、少しだけ頬に赤みがさしてる。ファビウス先輩に褒められて嬉しいんだろうな。うんうん、わかるぞぉ。


「どんな手法なの?」

「音声で魔法を制御するのよ。ルルベル嬢も、いったでしょう――唱え切る、って」

「まぁ。声で魔法を使えるということ?」

「そのはずよ。でも……呪文を教わってるって、校長先生からでしょう? 稀有な体験だわね。あまり羨ましくはないけれど」


 アリアン嬢すげぇ……。

 おそらく魔法知識から類推したんだろう。エルフである校長先生を除いて、呪文を教えることが可能な魔法使いなど存在しない、って。


「アリアンったら。素直におっしゃいよ、珍しい魔法には興味がある、って」

「やめてよ。魔法に興味なんて、ないんだから」


 いや興味ないって顔じゃなかったぞ……。

 シデロア嬢が、アリアン嬢越しにわたしを覗いて、それにしてもと話をつづける。


「呪文って、どんなものなの?」

「えーっと……まったくご存じないですか?」

「ええ。アリアンの家みたいな魔法使い一族なら、一般では話題にのぼらないような魔法の知識もあるだろうけど。わたしは駄目、なんにも知らないわ」

「なるほど……」


 わたしの方が無知だったに違いないが、前世知識で呪文という概念には親しんでたからなぁ。

 しかし、伯爵令嬢たちの押しが強いから、シスコとリラが完全に無音の構えになっているのを、なんとかしなきゃ……と思ったまさにその瞬間。


「シスコ嬢は、知ってるんじゃない? 呪文ってものについて」


 と、ファビウス先輩が無茶振りをした!

 そしてシスコが。


「あの……はい」


 無茶振りをキャッチ! えっ、マジで?


「シスコは知ってたの?」

「うん……でも呪文自体を知ってるわけじゃないの」


 そりゃそうやろな、とわたしも思ったけど。アリアン嬢も同意見だったようだ。


「当然でしょう。呪文の知識があったら、それだけで研究員に推挙されるに違いないわ。つまり、国家試験の合否なんて心配せずとも魔法使いよ。それで、あなたは呪文のなにを知っているの?」


 ……国家資格にそんな奥の手があったとは、と驚嘆するのに忙しかったわたしは、アリアン嬢のいつもの感じ――クールで、聞きようによっては刺々しい質問のフォローをするのが遅れた。

 でも、シスコは怯まなかった。


「小説で使われているんです。『魔法使いの輪舞』という、エルフの大魔法使いを主人公にしたシリーズがあって……魔法考証もかなり厳密なので、著者はたぶん学園の卒業生ではないかと思うんですけど」

「……たしかに。同意見だわ。著者はきっと、この学園を卒業しているでしょうね」


 え? 今なんて?

 わたしはぽかんとしたが、シスコは前のめりになった。


「……お読みになってるんですか?」

「魔法使いを主人公にした近年の小説の中では、出色の出来だと思うわ。きちんとした知識の裏付けがある上で、物語を面白くするための脚色があって」

「面白いですよね。魔法の描写に説得力があって、共感できます」

「そうね。呪文については、一章を割いていたんじゃなかったかしら?」


 ……これ、意気投合してない?


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