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322 レベルの高い、ストロング・スタイル

 もちろん来たよ。ファビウス先輩。

 さすファビだなーと思ったのは、リートがなぜかファビウス先輩の護衛みたいな顔して後ろに立ってるところとか、本人まったく焦った顔をしてないところとか、はじめから覚悟決まってそうなところとか……。


「失礼します」

「いらっしゃい、ファビウス。待ってたわ」


 迎え撃つウィブル先生はといえば、ラメの入ったホワイトの羽毛ストールに顎先を埋めて、意味深な笑みをたたえている――もちろん空気はヒリついてるぜ!

 エルフ校長は、室内をゆっくり歩き回っている。なに考えてるかは不明。


 ……エルフはエルフだからともかく、残りふたりの考えがサッパリわからん。

 この部屋でわかりやすいの、三位がリート(少なくともわたしにとっては)、二位がナヴァト忍者でしょ。

 もちろん一位はわたしだよ……なにを考えてもだいたい読まれてる気しかしないし! ワンチャン、ナヴァト忍者には勝てる可能性があるけど、やつは消えればなにも読めなくなるからな……。


「なにが起きたかは、把握してるわね?」


 まずウィブル先生のジャブ! 口調はソフトに。


「はい。ルルベルに渡してあった魔道具を――ウィブル先生が取り上げたと考えてかまいませんか?」


 さすファビが即応! わかってることを敢えて質問していくスタイル。


「その通りよ。その魔道具について話したいことがあるわ。……まぁ、こっちに来て座ってちょうだい。リート、椅子がたりないから持って来て」


 さりげなくリートをファビウス先輩の後ろから引き剥がしていく、さすがウィブル先生。

 その間、エルフ校長は静寂の構え。

 ……まぁね、エルフは三階の住人だし。なに考えてるか、わかんないしな!


 リートが椅子を持って来て、会談のセッティング完了。

 ウィブル先生はいつもの椅子に座り、その向かいにわたし――治療されてたときの位置関係、そのまんまである――ファビウス先輩用の椅子を、リートはウィブル先生とわたしのあいだに置いた。微妙〜に、わたし寄り? すごく微妙に。

 ウィブル先生の椅子は、座面が回転する。椅子の脚にキャスターがついてたりはしないから動かしづらいけど、座面が回転するだけでも便利だよなぁ。

 まぁとにかく。その回転が有効利用され、さっきまではわたしの方を向いていたのが、今は斜めに角度をつけてファビウス先輩を正面にとらえている。


 なお、わたしの椅子の座面は回転しない。

 椅子を動かすと、絶対に音がして全員がわたしに注目するだろうから、わたしは座面の上で自分のお尻を動かして、ファビウス先輩も見えるように向きを変えた。肘掛けがないタイプの椅子だから、これができる。

 で、向きを変えてみたら、リートがちゃっかりファビウス先輩の後ろに戻ってることがわかった。結局またその位置に立つってことは、想像通り、なんらかの取引がなされてるっぽいよね。

 視線が合うと、ファビウス先輩はにこりとした。大丈夫だよって顔だ。それから、心配そうにわたしの手を見る。今度は、わたしが大丈夫って請け合う番だ。


「手は平気です。ウィブル先生が治してくださいました」

「よかった……」


 うん、よかった。

 しかし、これは我々がみつめあうための集まりではないのである。


「ルルベルから聞いたけど、位置情報を発信する魔道具なんですってね?」

「強い衝撃を受ける、指からはずされる、それと――心拍数に異常が見られた場合も通知が来る仕掛けです」


 心拍数! 初耳だよ。

 ……えっなにそれ、ドキドキしてたらわかっちゃうの? えーっ!


「縮小を使っても、そんなに詰め込めるもの?」

「すべて簡易的なものです。位置情報はそれなりの精度がありますが、ほかは雑ですよ。衝撃は、段階分けがありません。僕が勘で設定した数値を超えたら通知が来ます。指からはずれるのは、複雑にしようがないですが。心拍数は知識不足もあって、有無くらいしか判定できません」


 ……有無、って。心拍停止か! えっ、そっち!?


「それにしても、多いわ」

「安全保障としては、まだまだ理想にほど遠いですが。それでも、僕にできる限りのものです」

「あなたの『できる限り』は国宝級よね」

「ご理解いただけましたか? ルルベルからあれを取り上げるのは、安全保障上、認めがたいことです」


 あーそっか。わかっちゃった。

 ファビウス先輩はきっと、安全保障上の理由で必要なアイテムだ、ってリートを説得したに違いない。リートは一応、聖女の親衛隊隊長なわけだし。そりゃ、わたしの現在地は把握できる方が助かると思うだろう。もちろん、報酬も出してるのかもだけど。


「安全保障ねぇ……。ま、それは意義あることだと思うけど、指輪は駄目だって思わなかったの?」

「常時身につけていてもらいたかったので。ペンダントも考えましたが、不可視にするだけでは存在を隠しきれないので、指輪が最善だろうと判断したまでです」

「でも指輪は社会的な意味が強過ぎるでしょ」

「存在に気づかれないのが前提ですから」

「そもそも、アタシたちには教えておくべきよ。リート、あんたも初耳だったんじゃないの?」


 話をふられたリートは、さらっと答えた。


「そうですね。なにか指にはめてるなとは思ってましたが、それこそ社会的な意味を隠してるんだろうと思い込んでいました」


 気づいてたのか!

 ていうか、聞き捨てならないことを……。なにそれ。


「わたしがファビウス様と結婚気分に浸ってるとでも思ったの?」

「そんなところだ」

「そん……っなこと、するわけないでしょー!」


 そこまでおめでたくないわ! だいたい、やるなら小指からだろ……婚約の指! いきなり結婚とかレベルの高いストロング・スタイルって感じだよ。


「ルルベルは嫌がったんです。責任は僕にあります」


 ファビウス先輩が、ビシッと話を戻した上に庇ってくれた。

 庇われたままってわけにいく? いかないだろ!


「いえ、受け入れたのはわたしです。責任は、わたしにもあります」


 まぁ……たしかにね? 指輪と聞いて、はじめはビビったよ。どの指にはめるかも、すごく悩んだし。

 でもさ……最近はちょっとね、嬉しかったのよ。ストロング・スタイルで薬指なのはちょっと……アレだし、できれば小指がよかったけども。でも、ほかの指に比べたら、断然嬉しかった。

 ファビウス先輩にもらった指輪をしてるって、幸せなことじゃん……。


「そうね、ルルベルちゃんにも責任はあるわ。発見したのがアタシで、この場所だったからよかったけど。偶然どこかでみつかっちゃった場合、どう逃れるつもり?」


 返す言葉に窮するとは、このことだった。

 みつからないように、薬指を選んだ。でも……みつかっちゃう場合も考えないといけないのか。そりゃそうか。危機意識だ。安全保障だ。


「聖女は秘密の結婚をしていた、なんて話になりかねないのよ? わかってる?」


 わかってない。

 たとえば、王宮でご挨拶的なイベントや舞踏会。考えたくはないけど、今後増えていくであろうそういう社交的な場のどこでも――左手の薬指の指輪がバレたら?

 不可視だったことは、後ろめたさの象徴と受け取られかねない……。


「……そこまで考えてませんでした」


 ウィブル先生は、わたしを見て困った顔をした。


「ルルベルちゃんはね、素直過ぎ。ファビウスがはかってるかもしれないってことは、考えた?」

「謀ってる……?」

「実際、居場所がわかる魔道具は便利よ。作って渡した理由は間違いなくそこにもあるだろうけど、指輪である必要はないでしょ。指輪にしたのは、意味を持たせるためだって疑わなかった?」


 意味……? えっとつまり……?


「結婚とか……婚約とかって意味、ですか?」

「そう。ルルベルちゃんとの関係を、社会的に揺るぎないものにするための布石よ。偶然発見されてもいいし、なんなら効果的な場面を選んで発見されるように誘導してもいい。それでルルベルちゃんが『ファビウス様が、くださったんです』とでも口走れば、もう万全じゃない?」


 えー。いや、それは……ないでしょ?


「ウィブル先生、考え過ぎじゃないですか?」

「ルルベルちゃんが単純なのよ。……恋愛はいいわ。そんなの、止めてもどうしようもないものなんだから。アタシは関与しない。むしろ応援するくらいよ。だけど、これは駄目。社会的な評価がさだまりかねないものを、しれっと身につけさせるなんて。騙し討ちも同然よ」


 ……あ。そういう「駄目」なの? 激おこの理由、そこ?


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