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32 ただ負けたりはしないはずだったが無理だった

 その後、ジェレンス先生の部屋――本来のお住まいは王都内のどこかにあるらしいけど、ほとんど帰ってないそうだ――に行って、『眷属大図鑑』を貸してもらった。『聖魔大戦録』は持ち出し禁止だったので途中までしか読めていないと報告したところ、じゃあ俺の蔵書で適当なのを貸すから早く読め、ということになったのだ。

 持ち出し禁止だと説明したとたん、


「あ〜、禁帯出か。ほんっと、使えねぇな、図書館。いつもこれだ」


 などとほざいたので、ジェレンス先生の名前を出したとたんに司書さんの笑顔がピキッとした原因の一端を知れた気がした。絶対この調子でなんかやってるよね……。

 失礼が服を着て歩いてるようなものだからな、激やば教師。

 だが、今のわたしにとって、ジェレンス先生は味方だ。そう、王子からガードしてもらうのだ。魔性先輩は、ひょっとするとエルフ校長じゃないと無理なのかもだけど、王子はジェレンス先生でいける。さすが当代一の魔法使い!


 そういうわけで、翌日、わたしは憂いなく寮を出た。もちろん、リートはさりげなく同行している。見かけ上、我々はとっても仲良しだ。同日入学の平民コンビなので、不自然さもないだろう。


「おはよう、リート」

「……」

「挨拶くらいしようよ」

「今、誰も見てないからな」

「誰かが見てるかどうかで態度を変えるなんて、最低だよ」


 ふん、とリートは根性悪そうな笑みを浮かべた。数日で少しは気を許してくれたのか、この表情、二回め……。でも、こういう方向性で気を許されてもな。見たくない、この笑顔。


「図書館に行くのか」

「うん。先生にいわれてるしね」


 ジェレンス先生に借りた『眷属大図鑑』は、大図鑑を標榜する割には薄かった。本の厚みも、内容も。先に『聖魔大戦録』を見ていたせいもあるかもしれない。あれと比べると……しょぼい。

 本の所有者であるジェレンス先生も、もちろん、そこは把握済みだろう。だから、午前中は図書館で禁帯出の『聖魔大戦録』を読み、まずは魔法なしでも可能そうな対策について考えてみろ、といわれている。

 なお、ジェレンス先生は昼前に、これから新入生の特訓に付き添うから今日はもう戻らない、よって午後はおまえら自習だ、と宣言してくれるそうだ。

 事実だからな、とのこと。

 ……まぁね。うん。魔王はもう強い眷属を生み出せるレベルだからね! ルルベルも聖属性魔法使いとしてのレベルを上げないとね! 全力で上げないと、対処できないよね……。

 ところで、わたしのお昼ご飯はどうなるんだろうか? そこがまだ決まっていない。


「俺は教室だ」

「護衛しなくていいの?」

「図書館はガードが固いから問題ない」


 そういえば、昨日もさらっと席を外してたな……なるほど。


「でも、生徒会役員とか来たじゃない?」

「校長の許可があれば、誰も止められない」

「じゃあ、校長先生の侵入禁止令をもらって図書館に立てこもれば安全……!」

「図書館は飲食禁止だ」


 なかなかうまい具合にいかないものだな、現実とは!


「あーあ。うちのパンが食べたい……」


 飲食禁止という言葉から、つい連想してしまった。焼きたてのパン。皮はカリッカリで、中はふわっふわの……熱くて火傷しそうなくらいのやつを、はふはふ食べたい。


「ああ、じゃあ昼は外出するか」


 すぐ後ろから声が聞こえたと思った瞬間、リートに腕を引かれ、かばわれていた。えっ、はや。なにが起きたのかわからん……わからんなりにリートの脇から覗いてみると、そこに立っていたのはジェレンス先生だった。

 えっ?

 誰もいなかったと思うけど、なんで?


「なんだ、今頃身構えても遅いぞ。俺がその気なら、とっくに消し炭だ」


 これはアレだ。失礼とかじゃない。敵を作る装置が服を着て歩いて教師をやってるって感じだ!

 リートの背中からは、もう緊張が抜けている。


「まったく察知できませんでした」

「そうだろうな。今のが察知できたなら、おまえの属性診断はやり直しだ。で、ルルベル、実家に顔見せに行きたいか?」

「えっ? あっ……えっと?」


 家族に会いたいわけではなくパンが食べたい……いや、家族に会いたいのかな? 具体的に顔を見たいとか話したいとかより、なんかこう……あの、釜が熱くなってる感じとか、パンが並んでるところとか、いろいろ……。

 ああ、簡単にいうと、こうだ。


「ちょっと……家に帰りたいです」

「そうか」

「でも、今帰るとその……体裁が悪いです。もう帰って来たのか、みたいな。……わたし、ご近所さんの希望の星なので」


 なにしろ、ルルベル入学祝いパンまで売ってるレベルだからね! すぐに帰ったら、金返せとまではいわれないだろうが、まぁそういう目で見られるよ。絶対。わたしは知っている。こういうことには詳しいのだ。ちょっと昼ごはんのパンを調達しに来た、なんて説明して回るだけで大変なのだ。退学に違いないという誤解からスタートするからね!


「希望の星ねぇ。なるほど、じゃあ変装が必要だな」

「いや、あの、そんな大げさなことまでしていただかなくても」

「転移陣を設置するついでだからな、やることはやるさ」

「てん……はいぃ?」


 転移って……転移って、瞬間移動用の設置魔法だよね? つまり呪符魔法だけど、おいそれと使えるものじゃないよね? ただのパン屋には、荷が重いのでは? エルフ公爵校長の校長室なら、まぁそれくらいあるかな、で済むけども!


「保険だよ。いざというとき、学園から逃がすのに適当な場所だ。おまえを知ってて、守ろうとしてくれる人間がたくさんいるんだろ」

「いざというとき、って……」

「聖属性魔法使いってのは、逃げ場所の確保が重要なんだ」


 物騒! もうほんと、物騒!


「というわけでリート、おまえは午前の授業が終わったら校長に報告しといてくれ」

「はい」


 すごい。リートがおとなしい。

 わたしの中で、校長→ジェレンス先生→リートというヒエラルキーが完成したが、考えてみたら当然だった……。そりゃ、校長→教師→生徒だよな。下の立場のふたりがヤンチャなせいで、常識を見失いかけていた。


「誰もおまえを知らない場所もセットする必要があるが、今日はまずパン屋だ。ついでに昼食を都合する」

「先生にはお安くできます。サービスしちゃいますよ!」


 ジェレンス先生は、苦笑した。


「おまえ、パンの話になると生き生きするな。昨日、歓迎会について説明してたときも、パンのことだけ妙に詳しかったぞ」

「そんな……そんなはずは……」


 淡々と、王子が困るという話をしただけだったつもりなのに!


「ま、好きなものがあるってのは、いいことだ。そのために頑張れるからな。じゃ、あとで」


 そういうと、ジェレンス先生の姿は消えた。

 ……消えた?


「えーっ!」

「反応が遅い」

「だって……えっ? なにこれ? 消える魔法ってなに?」

「知らん」


 リートの機嫌が悪い。そりゃそうか……ただ負ける気はない相手に、ただ負けたからな! はっはっはっ! とても愉快な気分である。ジェレンス先生万歳!


「えー、でもなんで? 不思議」

「確信はないが、時属性魔法の可能性はある」

「ああ……えっと? 時間を進めたり戻したりして消えてるって感じ?」

「稀少属性だから、既知の情報が少ない。今はジェレンス先生がみずから研究をしているらしいが、当然のことながら、自分の弱点になりそうな情報は外には出さない。つまり、誰も詳しいことを知らない」

「なるほど」

「それに、ジェレンス先生には未公表属性もある。今の出現と消失が、その魔法を利用したものでないとは断言できない。火・水・風をうまく組み合わせれば、幻影魔法も実施可能だから、ジェレンス先生なら、俺が察知できないレベルの幻影をつくれるのかもしれない……いや、それは違うか……」


 リートは真面目な顔で考え込んでしまった。

 いやしかし、ほんとにチートだね、ジェレンス先生!


「ま、これからは気をつけた方がいいね、リート」

「あんなもの、気をつけようがない」

「そうじゃなくて。誰も見てないから挨拶しなくてもいいとか、そっちだよ」

「……俺が挨拶しようがするまいが、ジェレンス先生は気にしないだろう」


 いや、どうだろう。挨拶はきちんとしろよー、ってやりそうだぞ。


「不可視の魔法を使えるのがジェレンス先生だけとは限らなくない?」

「俺に認識されないレベルとなると、相当限られるだろうがな……それより、早く図書館へ行こう。俺が遅刻してしまう」


 そっちの都合かい!


毎日更新頑張っちゃうぞ!

(意訳:twitter では39話まで公開済みなので、ストックはじゅうぶんだ! うっかり予約を忘れない限り!)

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