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317 今日を大好き記念日に認定する!

「どういう理屈でそうなるの?」


 なにかひとつでも、シスコに落ち度がある? なくない?

 わたしには理解できなかったけど、シスコは本気でそう思っているようだった。


「ルルベルは、リラがわたしを下に見てるっていったけど。わたしもリラを下に見ようとしてたのよ――はじめにルルベルに近づいたとき、そうだったみたいに。面倒をみてあげなきゃいけない、って」

「その通りじゃない。リラもだけど、わたしもシスコに面倒みてもらわないとなにもできない分野が多いんだし、それはそれで問題なくない?」

「でも――」

「こういうのってね、『やらぬ善よりやる偽善』っていうの」

「――なにそれ?」

「えっと……誰かがいってた台詞!」


 前世のネットで流行してたフレーズだけどさ!


「やらぬ善より……」

「心の中では善人だったとしても、実際になんの行動も起こさないんじゃ意味ないでしょ。逆に、『良い人に見られたい』一心での偽善的な行為でも、それで助けられてるひとがいたら、結果的には善行だよね。……シスコの今の悩みって、そのへんじゃない? 自分の動機が美しくないって感じてるんでしょ?」


 俯いてしまったシスコを、わたしはそっと抱きしめた。

 そんなことで思い詰めるなんて。シスコって、ほんとにシスコだと思う。でも――これも、シスコにとっては本気の悩みなんだ。


「シスコ……わたしはね、シスコがほんとに好き。そういう真面目なところも。だけど、それでそんなに苦しむなら、わたしのいい加減なところを少し貸し出してあげる」

「いい加減の……貸し出し?」

「うん。次にリラがなにかいってきたら、貸し出したのを使ってよ。いい加減に答えるの。『まぁ、早くできるようになるといいわね!』って」

「ルルベル……」

「あっ、そんなことできないっていわないで。できるから。もし必要なら、初回は特別に! わたし本体がやってあげる」


 わたしの腕の中で、シスコの身体がふるえた。

 あっ……これは……!


「ちょっとシスコ、笑ってるわね?」

「だってルルベル……いい加減の貸し出しって……それに本体……」

「その代わり、シスコの真面目なところも貸し出してね。あとねぇ、わたしにたりてない知識も貸してほしいな……どうせまたドレスが必要になるから見立ててほしいし、お肌のお手入れとかも……あっ、香水も! わたし、そのへんの知見が全然なくてさぁ――」

「ルルベル」

「――うん?」

「大好き」


 かーっ!

 シスコの大好き、いただきましたーッ! 今日を大好き記念日に認定する!


「わたしもだよ。あっ、さっき告白済みだったか」

「うん」

「まぁ当面はこれで、やってみよ? リラのことはさ。で、なにか変化があったら、都度相談しようよ。ね?」

「……うん」

「校長先生がおっしゃってたんだけどさ。人間って全員、所詮は若造だから。経験がたりなくて、なんでも間違うんだって。だから、間違うことについてはもう諦めろ、ですって!」


 ふっ、とシスコがまた笑って、顔を上げた。

 うんうん……いいね、笑顔。思い詰めた深刻な表情でも、シスコは可愛かったけど。でもやっぱり、笑顔の方がいい。


「諦めちゃうの?」

「うん。そういうもんだし、しかたないって。それでも前へ進もうとする人間は勇敢だね、って」

「……わたしは、自分を勇敢だと感じたことはないけれど」

「なにいってるの! シスコは勇敢だよ。わたしと友だちになってくれたってだけで、もうすっごい勇敢!」

「どうして?」

「わたしたちは両方とも平民だけど、あきらかに階層が違うじゃない? 身分に差があると思うんだよね。でもシスコは――たとえ、わたしを気の毒がって同情してくれたからとか、そういう理由があったにしても――わたしと友だちになろうとしてくれたじゃない。自分から、その差を乗り越えたんだよ。それって、すごく勇敢だよ」


 聖女として認められてから声をかけてきた伯爵令嬢たちとは、ちょっと違う。

 もちろん、彼女たちを悪くいうつもりはない。むしろ、あれが通常の対応ってやつだ。同じ階級に属するようになったから、声をかけた――ごくごく正常。

 平民は平民でも限りなく上流寄りなのに、上流ってなんですか的な位置で暮らしてるわたしと仲良くしようとしてくれたシスコの方が、イレギュラーなのだ。


「……とにかく! シスコがどう思ってても、わたしはシスコの友だちだからね。なにか間違ってもわたしが許すし。あっ、校長先生も許してくれると思うよ!」

「校長先生のことまで、勝手に約束しちゃ駄目よ」

「大丈夫、校長先生が教えてくれたんだもん。間違いは諦めて、受け入れろって」

「……そっか」

「そうだよ」


 わたしたちは顔を見合わせて、笑った。

 ……まぁ、これで完全に解決とはいかないだろう。リラがどう出るかって問題もあるし……あの子だって、学園でうまくやっていってほしいし。助力が必要なら、ある程度は手を貸すべきだと思うし。

 ただ、シスコがすべての面倒を見させられてるって現状は、駄目。


 とりあえず、シスコが久しぶりにちゃんと笑ってくれて嬉しい……いや、久しぶりっていっても、吸血鬼が捕縛されてからだから……えっ、ほとんど日数経ってないな?

 そんなわずかなあいだでさえ、シスコの笑顔がないとつらいことを実感したわぁ。こんなの、わたしが病んじゃうよ!


「よし! 帰ろ帰ろ。そろそろ動かないと風邪ひいちゃうし、うちの親衛隊もきっとイライラしながら待ってると思う」

「……あっ」


 シスコはリートの存在を完全に忘れていたらしい。ナヴァト忍者は、まぁ……見えてないからそもそも意識してないだろうけど。


「わかってるなら、早く歩け。寒い」

「ごめんなさい、リート」

「謝罪も含めて言葉はいらん。行動で示してくれ」


 通常営業なリートに追い立てられて、わたしたちは寮へ向かった。

 男子禁制の女子寮の入り口まで早足に進んだところで、一応、わたしも謝っておく。シスコと違って、わたしはリートとナヴァト忍者の存在を考えなくもなかったんだよね……でも、シスコを優先しちゃったからなぁ。


「ほんと寒いのに待たせてごめん。なにか埋め合わせできることがあったら、するわ」

「それなら」


 えっ、音速で返事するじゃん。なによ?


「なにかあるの?」

「魔力玉が欲しいな」


 あー……。研究所を出たから、聖属性呪符の大量生産も、親衛隊や実働部隊用の魔力玉の供出も、停止しちゃったんだよな。


「いいけど、監視なしで作ったらファビウス様に叱られそうな気がする。魔力切れを起こしかねないとかいって」

「今日は、魔力は消費していないだろう?」

「どうだろう……呪文の練習で吸い取られる感じあるんだけど、今日はそれもあんまりしてないし……大丈夫かなぁ」


 リートは難しい顔をした。


「よし」

「なにが『よし』?」

「研究室に行こう」

「はぁ?」

「リート、いくらなんでも非常識よ。こんな時間から出かけるなんて」


 シスコが庇ってくれたが、リートはもちろん気にしない。


「君は早く屋内に入りたまえ。ルルベルと違って体調を崩しやすそうだからな。ルルベルも、シスコにはそうしてほしいだろう?」

「えっ? そりゃまぁ……」

「というわけで、君は部屋に戻れ。俺はルルベルと研究室に行ってくる」

「こんな夜遅い時間に、女の子が出歩いていいわけないわ。明日じゃ駄目なの?」

「明日であっても、結局同じくらいの時間になるだろう。放課後は校長の補習があるし、そのあと食事に行って、友人関係でぐだぐだ悩む。ほら、同じだ。それに、まだ夜遅くはない。宵の内だ。男のところに云々という問題を気にしているなら、ファビウスの研究室は今さらだろう。何日泊まり込んだと思っている」


 うっ……社会的な評価で死を迎えそうな案件を、思いだしてしまった。

 シスコがすごい顔でリートを睨んでいる……。


「リート、あなたってほんと、もののいいかたを知らないわね」

「どう表現しようと同じだろう。結婚前の若い女が男の家で連泊するなど、良識がないとそしられてもしかたがないことだ」


 あうあうあうー!

 現実を突きつけられ過ぎて、言語能力が崩壊しそうだよ! あうー!


「家じゃないわ。それに、しかたのない事情があったんだから。許されるわよ」

「しかたのない事情があっても許さないのが、世間というやつだ。ルルベルは、今後の活躍をもって世間に迎合されるしかないだろうな」


 世間に迎合される、て。


「聖女様のなさることなら、なんでも最高……みたいな感じに?」

「わかっているなら話が早い。それを目指せ。幸い、魔王の眷属の活動は活発だ。君が評価される機会は、いくらでもある」


 なくていいよ! わたしが評価される機会って、危険なやつばっかりだろ!


明日の更新はお休みとなります。

FANBOX 用の書き下ろし小説に手をつける暇がなくてですね……おもに帯状疱疹ワクチンの副反応で動けなくなっていたせいですが。


2023年10月現在で FANBOX にしか掲載していない小説『いつか君が僕を殺してしまう前に』の第一部は、全体公開でどなたでもお読みいただけます。

よろしかったら、どうぞ。

https://usagiya.fanbox.cc/posts/2149093

(連載初期は題名未定となっております)

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