310 昭和の特撮みたいな名前じゃない?
んでまぁ、コースがメインに突入してから話も本題に入ったんだけど。
「魔物の群れですか」
例の、西国で出現したらしき魔物の話だった。思ったより早く、情報が入ったらしい。
「かなり統制がとれた群れだから、魔将軍が出たと考えられるそうよ」
魔将軍?
……昭和の特撮みたいな名前じゃない? でも誰にいっても通じない、せつない!
「初耳だろ。魔物の群れの規模と動きで、人間側が勝手に位階をつけてるんだ。大雑把に、上から魔元帥、魔大将、魔中将……それ以下は特段の呼び名はない」
ジェレンス先生が特撮敵キャラについて解説してくれた。説明しよう! ってやつだな。でも……あれっ?
「先生、今のご説明に、魔将軍がいません」
「そうだな。魔将軍てのは、雑にぜんぶひっくるめての呼び名だ。魔物が統率のとれた動きをしはじめると、魔将軍が出たな、って察するわけだよ。それから実態を評価して、今回は中将くらいだなとか、大将級だとか決めるわけさ。ま、今の世にそんなの正当に評価できる人間、いやしねぇけどな」
なにしろ魔王や眷属とまともに戦った経験がある者がいないんだし、とのこと。そりゃそうかぁ。魔物だって断続的に噂は聞くけど、統制がとれた群れ、なんてのがイレギュラーよね。今までは。
……これからは、それが当たり前になるのかな。想像したら、背筋がぞくっとした。寒い季節に、これ以上の寒気は遠慮したい! 勘弁して!
「それって、西国から報せが来たんですか? つまり、正式に?」
エルフ校長の情報は、たぶんエルフ独自ルートだから……そうじゃないってことは、国同士の話なのかと思いきや。
「いや、俺の実家。正確には本家筋」
「本家……」
ジェレンス先生の実家事情などサッパリ承知していないわたしに、ウィブル先生が解説してくれる。
「北西の国境近いところに領地があってね。国境の向こうも含めた近隣の領主とはつきあいが深いんですって。だから、困ったことがあると国境の向こうからでも助けを求められるらしいわ。非公式の情報も、けっこう届くそうよ」
「問題解決を助けてくれるのは、遠くの王様より近くの強い魔法使いってことだな」
「武闘派なのよ、ジェレンスの家って。魔法系武闘派」
……ジェレンス先生みたいな規格外がたくさんいるってことかな。
「いい加減なこというなよ」
「いい加減じゃないでしょ?」
「おまえの俺の一族への評価の基準は、伯母上だろ。あのひとは歩く災厄みたいなもんだが、ほかはそうでもないぞ」
ぇー。ジェレンス先生をして、歩く災厄とまでいわしめる伯母上って。怖さしかないじゃん。
「ジェレンス先生の伯母様って、どんなかたなんですか?」
「いっただろ。歩く災厄だ」
ウィブル先生が笑ったので、そちらを見る。先生、教えてください――と、視線でお願いしたのが通じたらしく。
「生属性魔法の第一人者ね。わたしが心の師匠と勝手に思っているかたよ」
「生属性なんですか」
「戦場から血まみれで帰還するから、二つ名を〈真紅〉っていうんだ。純粋に魔法でいえば、俺の方が強いぞ? でもなぁ……伯母上には『殺すぞ』って圧があるんだよなぁ……」
……うんまぁ、もういいや。聞くと怖くなりそうな気がしてきた!
急いで話題を変えよう!
「話を逸らしてしまって、すみません。気になったんですけど、最近、西国が起点になってる件が多くないですか? 吸血鬼も西国から入って来たそうですし」
「それだよな。単純に考えると、魔王の復活地がそっちかも、って話になる」
だよなぁ。わたしも真っ先にそう思ったもん。
「単純じゃなく考えることもできるんですか?」
「ああ。たとえば、魔王が出現する方に魔物が集まろうとしてる、とか」
「引き寄せられて移動中ってことですか。なるほど……じゃあ、東国で復活を?」
「とは限らない。うちの国かもしれねぇだろ」
おっと、そうだった。無意識に、通過されるつもりになってた!
「東国に出た巨人が目指してたのは……?」
「このままだと東国の首都の方へ……って話だったが、方角としては、うちの国といってもまぁ間違いじゃないな」
考えたくない感じになってきたぞ。
「魔王の出現場所って、まだわからないんでしょうか」
「ファビウスが計算してるらしいが、情報がたりないとかいってたぞ」
「たしか……吸血鬼からと、巨人からと、それぞれ魔王へ向かう絆が伸びてるはずだから……交点を割り出せばいいって話でしたよね?」
「それなんだが、一定の方角に出てないらしいんだよな。少なくとも、吸血鬼連中のは」
えーっ。なんだそれ!
「それじゃ、まともに計算できないってことですか?」
「今、研究所には吸血鬼が二匹いるわけだが、これが互いに反対方向に出したりしてるし……それも意図してやってるんじゃなく、不随意に生じてる可能性が高いらしい」
「魔王が出現するギリギリまで物理的な位置が確定しないせいじゃないか、って説もあるのよねぇ」
ウィブル先生が肩をすくめ、ジェレンス先生が顔をしかめる。
「俺は、魔王が操作してる説を推したいな」
「え。吸血鬼じゃなくて、魔王ですか?」
「吸血鬼ってのは、そんなに献身的な存在じゃねぇんだよ。魔王より我が身が可愛いんだ。研究所でギリギリまで攻めた実験されても隠し通したりはしねぇだろうな」
ギリギリまで攻める……。なにをやってるの、研究所!
「……世の中、怖いことばかりですね」
血まみれの武闘派魔法使いとか、ギリギリまで攻めてる研究所とか!
あれ? 魔王や眷属より人間の方が怖くないか?
「平和な世の中であってほしいわねぇ」
しみじみとした口調でそういったのは、ウィブル先生だ。
ジェレンス先生が、胡散臭いものを見るような目でそっちを見る。その視線に気づいたウィブル先生は、形よくととのえた眉を上げた。
「なによ?」
「……いやぁ、おまえの口から出ると、どうも信用ならねぇなって」
「どういう意味よ。失礼ね」
「だっておまえ、昔は国なんかぜんぶ滅びてしまえばいいとか――」
「ちょっと! 若者の大袈裟発言は忘れてよ!」
「――いや、忘れらんねぇだろ、これは」
「それをいうなら、ジェレンスだって相当だったわよ?」
「あっ悪かった、もう黙れ。たのむ」
相当だったらしいな……まぁ想像に難くないけど。ウィブル先生の方は、ちょっと意外だわ〜。
でもそうだな、先生たちにも若い頃があったんだよな。
「話を戻しますけど」
「はい」
ふたり同時に神妙な顔つきで答えられ、吹き出すのをこらえるのに苦労した。
教師はそっちだぞ! なんで叱られたような雰囲気を醸し出してんの!
「その、西国に魔将軍が出たらしいという話が事実なら、今後、どうなります? つまり、東国のときみたいに駆けつけるのか、とか……」
「それは西国次第だな」
「そうなんですか?」
「どこに、どう連絡が来るかって話ね。たとえば、国王陛下に連絡をとってきたら、国軍が動くわよね。いにしえの盟約があるんだし、魔王がらみなら助力するしかないだろうし。ジェレンスなんかはご指名で協力を請われるかもしれない」
「断れないお願いってやつだな」
ジェレンス先生がぼやく。形式的には命令じゃないけど、実質は命令かぁ。
「ルルベルちゃんも、断れないお願いをされる可能性があるわ」
「……まぁ、そうですよね」
わたしは聖女として国に認められてしまった。
前世でいえば、国家公務員みたいなもの? 試験を受けた記憶はないし、資格もとってないけど……聖属性魔法が使えるという一点突破で、知らぬ間にそうなっているわけだ。
そりゃ、駆り出されると考えておいた方がいいだろう。
「うちの本家に話が来て、内々に助力を請われるってことも、あり得る」
「その場合は――」
「敵の規模や状況にもよるが、俺がおまえを連れて行くな。東国の案件と同様だ」
結局、どう転んでも出動かぁ。……心構えをしておけよって話なんだね、この夕食会って。そうだよな?
「西国側があくまで国内で始末をつけようと目論めば、そういうの、なにも起きないかもしれないわ」
「……できるんですか? えっと……つまり、ジェレンス先生ほどではなくても、まぁ使える魔法使いがいて、戦えるっていうか……?」
「魔法使いはいるだろうが、西国では魔法は教養だからなぁ」
「教養?」
「実用じゃないってこと。戦闘訓練みたいなものを、しないのよね。ただ、理論研究って意味では、うちの国より進んでるわよ。進んでるけど、それも戦闘ですぐ役に立つものじゃないかも」
「え、なんでです?」
「西国の上流階級の文化だから、としかいえないわね。わかりやすく役に立つものを蔑む傾向があるのよ。難解で実利から遠いものに価値を置くの。だから、軍はだいたい平民で構成されてるし、当然、魔力が高い者は滅多にいない」
そんな文化もあるのか……。




