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301 困り顔なんて、たまに見るだけでいいんだ

 ……侯爵家のティー・パーティーは、まだマシだったことを実感中です、コンバンハ。

 わたしはそれなりに注目を浴びたけど、シェリリア殿下という怖い後ろ盾が同じ場所にいらして、ご機嫌を損じたいと思うひとはいなかったからね。侯爵家が厳選した招待客の皆さんは、わたしをかろんじはしなかった。

 でも、この場にシェリリア殿下はいない。魔法学園の生徒たちにも、わたしが聖女だってことはまぁ……それなりに知られてるだろうけど、同時にパッとしない平民出の一年生って意識も根強いだろう。

 ファビウス先輩はといえば、魔性の美貌を誇る飛び級天才少年である。一緒にいるだけで、視線が痛い……イタタタタ。

 このひとと、その……おつきあいするっていうのは! これに耐えるということだ!


「押しかけて、ごめんね。皆で食事をするのに慣れてしまったせいか、ひとりで研究室にいると寂しくて」


 ファビウス先輩も、ほらー! ほんとに寂しそうな顔するの、やめてくれません? 声が届かない距離の生徒にも、その顔は見えちゃうんですよ? あっちこっちでノックアウトされてる生徒がいると思うわ……絶対だよ。

 ああもう、頑張れルルベル。鍛え抜いた看板娘スマイルで乗り切れ!


「わかります。食事は賑やかな方が楽しいですよね!」

「うん。実感してるところだよ」


 儚げに微笑むなーッ!

 わたしもノックアウトされちゃうだろ、そんな何回もノックアウトしなくていいんですよ間に合ってますマジで!


「ルルベルと一緒にいると、楽しいですよね」

「うん、そう。……わかってるな、シスコ嬢は」


 シスコはファビウス先輩の儚げ魔性にも動じることなく、ふふっと笑った。


「だってわたし、吸血鬼にも認められる、ルルベルの親友なんですもの」

「それはすごいな」


 いや〜、吸血鬼に認められる必要なんてないと思うぞぉ〜!

 視線を逸らしたら視界にリートが入って来たのだが――案の定、リートはさらりと出現し、当然のように同じテーブルを囲んでいる――我々の会話を完全に無視して、飲むように肉を食べていた。

 あのメンタル、羨ましい。マジで。


「あの……」

「なに?」


 おずおずと口を挟むと、ファビウス先輩はすぐに反応した。はっや!


「いや、その……ほんとに食事だけですか?」

「ルルベルと食事をしたいと思っちゃ、駄目なの?」

「いえ、そういうわけでは。ただ、ほかにご用件がおありなのかなって」

「そうだなぁ」


 ファビウス先輩は頬杖をついて、わたしを見た。……うっ。久々に魔性魔性してるぅ!


「内密に話したいことがあるって口実で、君を連れ出したいな……って思うくらいは自由だよね?」


 そりゃ思うのは! 自由だけども!

 視線で押されてたじろぎつつも、わたしは踏ん張った。


「自由ではありますが、今夜はシスコと久しぶりにたくさんお話がしたいので、手短に」

「……つれないな、僕の恋人は」


 くっ……。わたしの顔の血流を限界突破させて、頭をふっとばす気かッ!

 なぜかシスコもダメージを食らって、顔が真っ赤になってる。ああっ、わたしの天使が危ない!


「楽しんでらっしゃるでしょう、ファビウス様」

「うん。君と会話するのは、とても楽しい。いつだってね」

「……そうじゃなくて」

「そりゃ、少しは意地悪もしたくなるよ。じゃ、これで! みたいに出て行かれたら」


 やっぱソレかぁ〜!

 うん、まぁ……悪かった気もするけど、でもさぁ!


「だって、ずっとお世話になりっぱなしというわけには、いかないです」

「僕はそうしてほしいけどな。……ま、このへんにしておくよ。君を困らせるのも本意じゃないし……困り顔なんて、たまに見るだけでいいんだ」


 たまには見るのか!


「……ファビウス様、少しお変わりになりましたね」


 シスコがしみじみと口にする。

 むしろ逆では? そういえばファビウス先輩ってこういう感じだったわぁ! ってなってるんだけど、わたしは。

 だけど、本人は面白がるような笑顔で答えた。


「ルルベルの薫陶くんとうよろしきを得てね。……で、率直なところを明かすと、王家避けだよ」


 そういや、そんな話もあったなぁ! すっかり忘れてたけど。


「でも、夕食の時間はわりと危険性低くないです?」

「いったよね。園遊会に出席してた生徒は学園預かりになって、王子も王宮に帰れなくなってる……って」


 あー。そういえば、王宮と揉めてるって話だった! 護衛の熊が学園の方が守りやすいって主張してるとかも聞いたわ。


「おっしゃってましたね」

「吸血鬼は捕縛されたから、今夜は王宮に戻るだろうけど、夕飯まではここで済ませる可能性がある」

「え、そうなんですか?」

「君がいるからね。今のうちに、君を取り込もうとする動きがあっても不思議はない。もちろん、王家に限らないよ? 今日の一件が社交界にしっかり広まるまでは、シェリリア殿下が君の後ろ盾についたって話も、まだ不確定な噂に過ぎないんだから。あわよくば保護者面したいって家はいくらでもある。後ろ盾が確定したとしても、今度はその後ろ盾ごとお近づきになりたいと夢みる馬鹿も発生するだろうね」


 まさかそんな。と、いいたいところだけど……すでにチャチャフの襲撃を体験してるからなぁ。ご挨拶を是非、お招きしたい、お話を伺いたい、あーだこーだよろしく! ってやつ。


「ですけど、ふつうの生徒さんでしたらお断りできますし、王子殿下はもう慣れたというか」

「弟を口実にして、姉姫の方が割り込んでくる可能性もある。彼女も学園に来てはいるんだし」

「なるほど……」


 シェリリア殿下との因縁の深さを知った今、かなり本気で近寄りたくない人物ではあるよね、ウフィネージュ様。

 ……あれ、でも待って?


「じゃあ、明日からの昼食も?」

「昼食は先生がたの誰かがつきあってくれるはずだよ。迂闊にひとりで食堂に来ないように注意して。夕食は僕かスタダンスが来る。どっちも来ないときは、リートでもナヴァトでも使って呼んでほしい。ほら、僕はひとりで放っておかれると、つい研究に熱中して時間を忘れてしまうから」


 時間を忘れる件については熟知してるけど、またチクチクされてる気がしないでもないな!

 それはともかく。


「スタダンス様といえば――」


 ふと思いだして、わたしは声をひそめた。


「――なにか、悩みごとでもおありなのでしょうか?」

「ああ、ちょっと雰囲気が変だったよね。本人に喋るつもりがあれば、喋るだろう。一応、研究室には招いておいたし」


 そういうことか! 別れ際の招待、唐突だなぁと思ってたけど……なにか変だからっていう理由だったんだ!

 こんなとこでも、さすファビが!


「ファビウス様、さすがですね」

「僕が処理しないと、君が引き受けるだろうと思っただけ。王家避けと同じことだよ、方向性は違うけどね」


 とろけるような笑顔でいう台詞ですか!?


「いや、えっと……でも、いつまでも皆さんのお力をたよっているのも、どうかと思います。一応、国に認められた聖女なんですから。もっとこう、ビシッと……あなたがたに命令されるいわれはございませんってふるまいを身につければ、ご心配をおかけする必要もなくなるかと」

「……ゆっくりでいいよ、ルルベル」

「はい?」


 ファビウス先輩は微笑をおさめ、低い声でくり返した。


「そんなに早足で立派にならなくていいんだ。息切れしてしまうよ。君が生まれ育った環境からいって、急にふるまいを変えるのは無理がある。違う?」

「それは……違いませんけど」

「たよってほしいって、いってるでしょ? 僕に限らない。君が親しくしている者なら誰だって、君がもう頑張り過ぎてることを知っているんだ。だから、そんなになんでも背負わないで」

「……はい。お気遣い、ありがとうございます」

「俺の意見をいってもよければ――」


 不意に、リートが割り込んできた。

 見れば周りの皿はすっかり空である……よく食べたなぁ!


「――ルルベルは、突っぱねるくらいのことなら問題なくできています。ウフィネージュ殿下に口答えした実績がありますし、ほかの誰だって対処できるでしょう」


 あああああー! その話は! やめて!


「それはそうだけど」


 ファビウス先輩も! そこ、認めないでくださいません!?

 心で絶叫するわたしを、ちらりと見遣って。ファビウス先輩は、こうつづけた。


「僕が心配してるのは、すがられる方。困った、助けて、ってされたらルルベルは切り捨てられない」


 なぜか全員が、だよねーって顔でわたしを見た。そんなところで全会一致をキメられても!


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