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300 ここにいてくれるだけで嬉しいんだもの

なろうへの移植もとうとう300回に届きました!

長い話におつきあいくださっている皆様、ありがとうございます。


人気投票の結果、ファビウス先輩が貫禄の一位防衛を果たしましたので、近いうちに視点変更SSを書く予定です。

「シスコ……!」

「ルルベル……!」


 がしっ!

 今。わたしは久しぶり過ぎる女子寮にいる。

 なんでって、吸血鬼が捕縛されて研究所にいるからである。警戒度数の引き下げが許可され、研究室と図書館のローテーションから解放されたのだ!

 タイミングよく校舎から戻って来たシスコと遭遇したの、最高だね!


「うわーん、シスコぉ」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃなかったぁ! シスコが恋しかったよぉ!」


 もう、とシスコが困ったような顔をする。可愛い! 天使! 健康に良い!

 わたしを見て、少し首をかしげる仕草! ……これが尊いってやつか。


「……疲れてるだろうから遠慮した方がいいかと思ってたんだけど……今夜、部屋に来る?」

「行く行く! 行っちゃう! ……あっ、その前に部屋の掃除をしないと」

「掃除なら毎日されてるはずよ?」


 ……そうだった。

 寮は使用人さんがお世話をしてくれる場所だったんだ……そういえば、研究室もたまに清掃スタッフが入ってた。わたしの部屋は立ち入ってもらいたくないからってお断りしたけど。

 だって使用人とか無理だもん! ド平民が! 使用人とか! 自分がなるんじゃなくて使う側になるの、マジで無理だからね!


「それで……戻って来たってことは、解決したの? あの……」

「うん。今日、捕縛できたんだ。研究所に運ばれてるはず」


 寮に戻っていいんだって気がついてすぐ、ではお世話になりましたと挨拶したら、ファビウス先輩が若干ショックを受けたような表情だったのは、そのー……申しわけないとは思う。

 そりゃね? ファビウス先輩のことは、す、ですよ。うん。

 わたしがいなくなったら、また徹夜つづきになるのでは? という危惧もある。

 だけど、おかしいじゃん……ずっと研究室に居候して当然みたいなの、変じゃん! わたしの良識がそう叫んでいる!

 まぁ、リートは嫌がってたけど。研究室の方が護衛がしやすいとかいって。ナヴァト忍者はそんなに気にしていないようだったが……親衛隊になる前は王子の護衛だったんだから、寮に部屋とかないよなぁ? 毎日王宮に帰ってたはずだし。どうするんだろう、今後。

 ……ひょっとして、雇用主としてわたしが手配すべきなんだろうか? ていうか雇用主なのかな……お給金の話とか、ちゃんとしたことないけど。ファビウス先輩まかせだよ……やばい。

 まぁ、研究室はいつでも訪ねられるんだし! そのへんもあらためて、相談しないとな。

 だけど今は、吸血鬼の脅威が去って自由になった開放感を満喫したい!


「そうなんだ。これで安心できるね」


 シスコの言葉に勢いよくうなずいてから、ちょっと待て、と自分にツッコミを入れた。

 このところ、王都に居座ってる吸血鬼という問題がデカ過ぎて、その背後からは目を逸らしてたけど……今だけは吸血鬼捕縛を祝っていいだろうか?

 つまり、「吸血鬼が出てくるのも、巨人が出たのと原因は同じだよね? つまり魔王の封印が弱まってて復活が近いってことだよね?」という根本的な問題については、明日以降考えるということで……許されるよね?

 少しでいいから休ませてくれ。ストレスから解放されたい!

 それに、シスコの言葉を否定したくない。


「……とりあえず、ひと安心ってところだね」


 シスコが、ふにゃっとした笑顔になった。なんて……なんて可愛いの!

 いや、そんな呑気な感想を抱いている場合じゃないのかな。だって、見るからに気が抜けました〜って表情はさ……それまで気が張ってたってことでしょ?

 直接のターゲットにされ、囮にもされたわたしだけど、基本的にはすごく守られていた。吸血鬼関連の情報にもふれることができていたし、自分で聖属性呪符を描いたり、戦えてる実感もあった。

 でも、シスコはさ……なにも知らされず、特に守られることもなく、それでも聖女の友人だというだけで狙われる確率は高いと考えざるを得なくて。

 そりゃ緊張もするよね。


「ごめん、シスコ」

「え?」

「ずっと不安だったよね。もっとちゃんと、なにか……できたはずなのに」

「やめて、ルルベル。吸血鬼が怖いのは誰だって同じよ。ルルベルだって、怖くなかったわけじゃないでしょ?」


 ……いや、どうだろう。今日の作戦だって、吸血鬼より上流階級の皆さんが怖かった気が。特にシェリリア殿下とか。


「わたしは……守られてるから」

「当然だよ。ルルベルは狙われやすいんだもの」

「でも、シスコだって……! わたしの友だちってだけで標的にされたじゃない」

「それね。ちょっと面白くない?」


 はい?


「面白いって、なにが?」

「だって、吸血鬼にさえ知られてるのよ? わたしがルルベルの友だちだ、って。誇らしいと思うわ」


 ……おお。シスコが……シスコがかっこいい!


「わたしもシスコの友だちでいられることを誇りに思う!」

「……わたしたち、似たもの同士なのかもね」

「シスコに似てるなんて、それこそ光栄だよ!」


 でも、似てはいないと思う。

 だってさー。シスコは天使だけど、わたしのどこが天使よ? いや似合わんだろ、天使。まったくそんな要素ないわ。


「シスコ! ……あっ」


 寮の玄関先で話し込んでいたところ、シスコが呼ばれたわけだけど……。

 声のした方を見ると、ひとりの女子生徒が立っていた。つやっつやの栗色の髪をゆるふわに巻いて、ベビーピンクのリボンをカチューシャみたいに結んでる。

 えっ、お人形さんみたいに可愛いな!


「……リラ、どうかした?」

「ううん、あの……ごめんなさい、お邪魔ですね。失礼します」


 シスコがなにをいう暇もなく、リラと呼ばれた女子生徒は踵を返し、ぽてぽてと駆け去ってしまった。そう……なんか、ぽてぽてしてる。はっきりいって、走り慣れてなさそうっていうか。転ぶんじゃないかと心配だ。


「どうしよう。わたしがいるから遠慮しちゃったかな?」


 一応、聖女様だしなぁ。

 シスコを見ると、眉根を寄せていた。あんまり見たことがない表情だ。


「……シスコ?」

「ごめんね、ルルベル」

「え、なにが?」

「あの子、同じクラスなんだけど」

「そうなんだ? 気がつかなかった……」


 教室に行かない日が多いとはいえ、クラスメイトの顔もわからないとは嘆かわしい。しかも、あんなに可憐なのに!


「入学して来たのは、最近なの。筆記試験より、あとだったはず」

「え、ほんとに最近だね」

「うん。だから、ルルベルは知らなくて当然よ」


 随時入学システム、いつのまにかクラスメイトが増減してる問題があるんだなぁ。

 ……なんて感心しているわたしの隣で、シスコはまだ微妙な顔をしていた。


「シスコ?」

「……夜、話すわ。そうだ、夕食も一緒に食べられる?」

「うん、もちろん! あっ、シスコがよければだけど」

「いいに決まってるでしょ? 嬉しいわ、久しぶりにルルベルと食事できるの」

「リートも来るんじゃないかな……たぶん」

「それも久しぶりね」


 ナヴァト忍者も来るかも……いや、たぶん来るだろうだけど、あのひとの場合、来ても姿が見えなかったりするからな。まぁ、予告しなくてもいいだろう。姿をあらわして同席を求められた時点で、紹介すればいいし。


「久しぶりかもしれないけど、リートは相変わらずだよ」

「デリカシーがなくて失礼なのね」


 そういいながら、シスコは笑った。正確な把握ですね!


「呼吸するように失礼だよ。わたしがなにかいうと、必ず否定してくるし! それでもまぁ、とにかく役に立つんだけど」


 古代エルヴァン文字とか教えてくれたしなぁ。

 ……。


「あっ!」

「どうしたの?」


 研究所を出てしまった上に図書館通いもなくなると、リートと一緒に勉強する機会もなくなってしまう。つまり、発音記号を教われない。


「……まぁいいか」


 勝手に叫んで勝手に納得したわたしに、シスコは寛大な笑顔を向けた。


「ルルベルがいいなら、それでいいわ」

「ありがとうございます!」

「とにかく、ルルベルがここにいてくれるだけで嬉しいんだもの」

「シスコぉ……! わたしも! わたしもだよ、シスコと一緒にいられて嬉しい」


 感極まりつつ再集合を約束し、食堂へ向かったわたしたちを待っていたのは。


「お嬢さんがた、食事をご一緒してくださいませんか?」


 ファビウス先輩、さっきぶりですね……。そして視線がむちゃくちゃ集まってますね……。


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