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29 吸血鬼に襲われるべきでない三つの場所とは

「俺がリート、こっちがルルベルですが、なにか?」


 対応を見るに、知人ではなさそう。とはいえリートのことだ、接触してきそうな人物の下調べなんて済んでるだろうし、わかってて知らんふりなんじゃないかな。知らんけど。

 新たなイケメンは、長い黒髪に、すっきりとしたお顔立ち。あと、眼鏡装備。ポイント高いわ……。目の色は、かなり明るめのブルーだ。黒髪に映えるなぁ。

 ……でも、顔で転生先を選んじゃいけなかったんだよ。

 わたしは後悔しているのだ。イケメンが登場するたび、おのれの過ちを突きつけられている心地がするほど。それなのに、どんどん出てくる。ノンストップ・イケメンである。なんなのこの世界。


「王立魔法学園へようこそ。これは生徒会主催の歓迎会への招待状だ。総演会の準備などがあり、遅れてしまったことを詫びよう」


 受け取ってくれたまえ、といいながら眼鏡イケメンは封筒を差し出した。リートが二通とも受け取り、宛名を確認して一通をこっちに寄越した。

 とても手触りのいい封筒だ。学園の紋章が型押しされているのが、シック。宛名書きは凝った装飾文字で、ちょっと……読めないですね。リートよく読んだな。さすがだ。

 ……ていうか、エルフ校長のメッセージ・カードもだけど、高貴な人々ってやたらとこう、書いて寄越すのね。口頭で伝えるんじゃないのね。そこからもう文化の違いっていうか……いや、違いとかそういうんじゃないな。文化だよ、文化!

 下町育ちのルルベル的には、もう、はぁ〜すごい! ってなる。上流階級ぅ〜! って感じ。


「俺たち、ジェレンス先生にしごかれる予定なんですが」


 婉曲に断りを入れようとするリートに、眼鏡のイケメンは真顔で答えた。


「それは大変だな。だが、校長の許可はとってある。歓迎会は、今日の放課後だ。夕食を準備してある。食堂には行かず、こちらへ来てくれたまえ」


 口頭での説明も充実してしまった。招待状の意義とは? 記念品?


「わかりました」

「勉強中、失礼した。では、後刻」


 さっぱり顔のイケメンは行動もサッパリしてるようで、渡すものだけ渡すと帰って行った。


「……で、誰? 今の」

「生徒会の役員だな」


 いかにも乙女ゲームに出てきそうだね!

 というか、前世の記憶的には問題ないけど、ルルベル的には意味がわからないな、生徒会……。

 いや待って、前世の記憶的にもちょっと問題あるぞ。生徒会ってほら、立候補して投票して〜、みたいな民主政治を学ぶためのなにかじゃん? あんまり学べた気はしないけども。自分には関係ないイベントだなって印象しか残ってないので、実は逆効果だったんじゃないかという気もするが……それはともかく、王制のこの国でやる必要あるの? どうなってんの?


「生徒会ってなに?」

「上流の皆様が、実際に国政の場におもむく前に、政治的なふるまいや力関係を学んで慣れるためのごっこ遊びだ。貴族でも、関与するのはごく一部の生徒だけだ。平民が声をかけられるのは、入学歓迎会くらいものだろう」


 なるほど、生徒会の機能と目的、そっちに行くのか。前世知識により生じていた疑念、解消。


「ご馳走、出るかな?」

「料理は豪勢だろうが、君が遭遇したくない人々も出席すると思うぞ」


 うぐっ、とわたしは息を詰まらせた。

 そうか……王子は参加してるよな。ひょっとして、最高学年の王女殿下も?


「そういえば、総演会って一学年から三学年までしか参加しないの?」

「急に話題が変わったな」

「王女殿下もいらっしゃるのかな、って思って。それで、最高学年の実技実施の話は聞いてないな、って思いだしたんだよ」

「王女殿下は、生徒会の会長をつとめておいでのはずだ。だが、最高学年の生徒は、実習で学園内にいないことが多い。総演会への参加も義務づけられてはいないようだ」

「そうなんだ。……義務っていえば、歓迎会って拒否できないの?」

「……可能か不可能かでいえば可能だが、今後の学生生活に大きな影響が生じるだろう」


 返事までに少し間があったから、たぶん、ちゃんと考えたのだろう。


「たとえば?」

「実際なってみないとわからん」

「リート様のお得意な、妥当な推測でどうぞ」

「たとえば、また誘いに来る。出席するまで誘われる」


 ……地味にキツい。


「わかった、出席しよう」

「今のは、もっとも穏当な推測だったのだが」

「よし絶対出席しよう」

「出席するのはいいが、君も禁帯出の本に目を通すくらいはしておけ」

「……そだね」


 まぁね。課題図書は読まないとね。明日、どこまで読んだか、内容はどれくらい把握しているか、確認されるに決まってるもの。それで、鼻で笑われるんだろ……笑ったあとで、なんかよさげなこというんだろ、あの教師。

 すでに担任を理解したといっていい気がしてきた。

 やる気は盛り上がらなかったものの、わたしは本を読みはじめた。

 読めばけっこう面白いのである。もちろん、きちんと学ばねば死活問題だということもわかっている、わかっちゃいるけどそれ以上に面白いのだ。

 あ〜、こういうのに飢えてたんだわ〜、と実感する。

 だってさ、下町のパン屋の生活には存在しないわけ。魔王もその眷属も、各種属性魔法も、王侯貴族の政治ゲームも、なにもかも! ぶっちゃけると、毎日パンを焼いて並べて売って客をあしらって売り上げ計算して、あとは食べて寝るだけの生活をしてたんだから、そりゃ、すべてが新鮮だよね。

 純粋に、読書、楽しんじゃってるよね!


「吸血鬼の出現は確定してるんだ、そこは先に読んでおいたらどうだ」


 リートが文句をつけたのは、わたしの読書の進みが遅いからだ。面白いからぐいぐい読んじゃうけど、ここんとこ意味不明と思ってたけどそういうこと? ああそうか、なるほど! ってページを戻して確認したりもするからね……見ていてもどかしいのだろう。


「リートはもう読んじゃったんだから、やりたいことあったらやってていいのに」

「やるべきことは、やっている」

「なに?」

「護衛」


 あっそう。

 目次で吸血鬼の項を探し当てたわたしは、ページをめくって読みはじめた。

 曰く、吸血鬼はかなり高位の眷属であるゆえに、魔王に継ぐ戦闘力があってやばい。

 曰く、吸血鬼は人類その他、血が流れている生き物ならなんでも眷属にできて魔王よりやばい。

 曰く、吸血鬼は人類には実施不可能な魅了魔術を生得的に発動するため本質的にやばい。


「……やばさしかないな、吸血鬼」

「そうだな」

「これにどうやって、『ただ負けはしない』とかできるの」


 ただ負けはしないのところはキリッと……いや、無表情にキメてみたが、これもリートはなんとも思わないようだった。


「大したことはない」


 出た、大したことはない!


「魅了魔法って、予防法ないよね?」

「心理操作は禁術だからな」


 禁術だから人類は研究してないけど、吸血鬼は使えるのね……それも生得的に! えぇ〜、こんなのエルフ校長くらいしか対抗できないじゃん。


「魅了されたら終了としか思えないんだけど……」

「魅了は意志の力で抵抗レジストできる。俺の場合、任務完遂への執着心が強いから、相手を敵と認識できれば抵抗可能と推定できる」

「なるほど」


 妙に納得してしまった。任務完遂への執着心ね……。


「わたしだったら、魔王封印への意欲とか?」

「抵抗の条件は、個々人の事情と資質次第だろう」

「リート先生のご覧になるところ、わたしの事情と資質ってどうですか?」

「無駄口を叩いてないで、弱点のところも読んで対策を考えるべきだ」

「護衛様が守ってくださるんじゃないの?」

「俺がついて行けない場所がある。便所、風呂、寝室だ」


 いいかたー!

 口を開いたものの言葉にならなくてパクパクしているわたしに向かって、リートはさらにつづけた。


「その三ヶ所のどこでも、吸血鬼に襲われてみろ。最悪だぞ」


 どこであっても最悪に決まってんだろ!


[2022/11/13] 王女の生徒会での役職を、副会長から会長に変更しました。

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