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27 明日からは特訓、本日は図書館行き決定

 そんなわけで、わたしは午後の総演会見学をあきらめた。それどころではないからである。

 ……正直、二年と三年の先輩の実技も見たかった。全力実施は一年生だけなんだし……全力の重力魔法という最強はもう見ちゃったし……残りは危険なく見物できるものに違いないのだ。そうであってほしいし、とても見たい。

 くそぅ、どうしてわたし、聖属性なの!


「あー、教育を早めたいってことですか……」


 そんなわたしは今、校舎内にある方の校長室にいる。今の発言は、エルフ校長のメッセージで呼び出されたジェレンス先生のものだ。校長先生、室内の観葉植物に「悪いがまた一枚譲ってくれないか。やさしい子だね」とか話しかけると、葉っぱが一枚落ちてくるシステムの方が、魔法をかけて飛ばすやつより謎だよね……なんなんあれ。やっぱりただの植物ではないのでは?

 エルフ校長は、あらわれたジェレンス先生に簡単に事情を説明した。要は、魔王の眷属が目撃されたって話だけど。

 さすがっていうか、ジェレンス先生は眷属の種類だけではなく、できていそうな群れの規模とか、そもそもその情報を持ってきた目撃者は誰かってとこまで確認してた。目撃者はエルフだそうで……例の壁にほど近い山中に、エルフの里があるのだそうだ。エルフ校長のご実家とは別の里らしいよ。豆知識!


「研究所に突っ込んだ方がいいんじゃないですか? ウィブルに聞きましたが、ファビウスがさっそく見に来てたんですよね?」

「その件については報告を受けています。僕としては、研究所をあまり信用できないのです」


 エルフ校長が信用できないんなら、研究所はガチだな……ガチで回避せねばならないな!


「だったら、ファビウスに来させましょう」

「ジェレンス、君は教師としての職務を放棄するといっているのですか」

「違いますって。時間がないなら最高効率に持って行きましょうって話です。そりゃ、仕事ですからね、俺だって教えられることは教えます。ただ、聖属性って……見えないですからね。確認不能なままじゃ、上達させるのは難しいです」


 見えないらしいね〜。

 ……なんてつまらない魔法なんだよ! 魔王と眷属にしか効果ないって、ほんっと使えない属性だよ! もっとほかの属性に目覚めたかったな。


「ファビウスに来させる……。そうか、それしかないか」

「それか、眷属をとっ捕まえて実験台にするかですね。眷属がいれば、魔法の発動や魔力の具合も確認できますから」


 おい、そこの激やば教師! 無茶いうな!


「それも一案ですが、現状、確認された眷属が吸血鬼ではね……現実的ではないでしょう」


 待って……校長先生待って、えっ、一案ですがとかいっちゃうの? 初心者に、いきなり「じゃあそこの眷属に魔法うってみてね」みたいな教育するの、ひどくないですか? どうせウィブル先生が控えてて、大丈夫よ、なにかあってもすぐ治してあげるわとかいうんですよね、知ってる!


「つまり、ファビウスを連れて来るのがいちばんってことです。やつも、こんな美味しそうな餌があったら、のこのこ戻って来ますって」

「本人の意志は問題ないでしょうが、所長との交渉がね……。まぁ、やってみましょう。いえ、なんとかします。ファビウスの協力を得られる前提で、訓練計画を立ててください」

「仰せのままに。……じゃ、俺はこれで。ルルベルも、もう行くぞ。読書のつづきだ」


 当事者であるわたしの意志は……?

 と思ったものの、魔王の眷属と魔性先輩だったら、まぁ魔性先輩を選ぶよね。ここ、従っといた方がいいよね……というわけで、わたしも校長室を辞去した。

 廊下で待っていたリートが、で? という顔をしている。


「本を読んでおけって」

「最初の三冊、どこまで読めた?」


 つづいて出て来たジェレンス先生に尋ねられ、二冊目の八割くらいまで、と答えた。例の三冊に関しては、読む順番も指定されている。寮の部屋に移送されたときに、メモもくっついてたのだ。もちろん、エルフ校長のメモみたいな芸術的かつ魔法がかかったものではなく、ただのメモである。


「そうか。じゃあ、三冊目は後回しだ」

「……はい?」

「三冊目は、魔法の歴史だからな。基礎教養みたいなもんだ。今のおまえに必要かっていったら、まぁ……なんでも必要ではあるが、優先順位は低い。図書館に行って、司書にいえ。『聖魔大戦録』の貸し出し希望って。俺の名前を出せば許可が下りる」

「『聖魔大戦録』……」


 すごく……厨二っぽいです……。


「魔王やその眷属について、ほかには載ってないものまで網羅されてる。今回目撃されたっていう吸血鬼への対処法なんかも載ってるはずだ。ああそうだ、リート、おまえも読んでおくといい」

「一冊しかないのでは?」

「仲良く並んで読めよ」


 ふん、と鼻で笑ってジェレンス先生は立ち去った。感じ悪いけど、やっぱり知識はしっかりしてるよなぁ。

 リートはジェレンス先生の態度の悪さにも、やはり表情を変えない。なんかもう、逆に安心してきたわ。こいつは、ずっとこのままでいてほしい。

 ……でも、歩くときは少し歩幅の差を意識してくれないか。体力自慢の下町の娘だからなんとかなってるけど、深窓のご令嬢とかだったら、とっくに置き去りだよ!


     §


 学園の附属図書館は、それ自体が芸術的な建物だ。校舎は増築と建て替えを経ているそうで、創建当初の姿をそのまま残しているのは図書館だけなのだ(って、パンフレットに書いてあった)。

 外から見ても、うっひょぅ! って感じの建物だけど、入ってみたら、中も凄かった……。

 ねぇ、図書館にこんな巨大なホールって必要? わかんないけど玄関ホールかっこいい! でかい柱がどーん! 誰かの石像がどーん! 床は色味の違う大理石(だよね? ていうか、こういうとこに使う石材の名前って大理石しか知らないから、すべて大理石に見える)を使ったチェッカー模様だけど、石像を中心になにやら複雑な図形がモザイクで描かれてるのが気になる。えっこれなにか魔法的な意味がある図形?

 ルルベル2オープンβのわたしは、特別な図形を描くことで魔法を使えることも知っている! ていうか、一般向けの魔道具って基本、このシステムで動いてるんだよね。魔法使いでなくても使えるように、魔力取り込みの図形を入れるのが基本で、あとは発動させたい魔法の属性と種類を指定して、強度を指定して……みたいな原理。

 そう、原理は本に書いてあったのを読んで覚えたけど、図形を見てもまだ意味はわからない。国家資格をとって正式な魔法使いになるには、そのへんも勉強しなきゃいけないんだろうなぁ。


「ルルベル」


 リートに呼ばれて、わたしは自分が床を凝視したまま立ち止まっていたことに気がついた。いやだって……気になったから!

 ホールの奥には、これも美しい石と木でできたカウンターがある。そのカウンターの向こうに、おだやかな笑みを浮かべた男性と女性がひとりずつ座っていた。たぶん司書さんだろう。

 わたしが歩きだしたのを確認して、リートは司書に話しかけた。


「ジェレンス先生に、『聖魔大戦録』を貸し出してもらうようにといわれて来ました。一年のリートとルルベルです」

「ジェレンス先生?」


 女性の方が、ぴくりと眉を動かした。あっ、なんか剣呑な感じ……これ、ジェレンス先生が、なんかやらかしたことあるんだろ? わたし、そういうお察し力は高くってよ? 絶対なんかあるだろ? 詳細を知りたいけど知りたくない!

 男性の方は笑顔を崩さないまま答えた。


「あれは持ち出し禁止なんだ。閲覧室の予約はしてあるかい?」

「いえ、俺たちまだ入学したばかりで、図書館を使うのもはじめてです」

「そうか。じゃあまず、この閲覧室使用願いを書くところからだね」


 リートがわたしを見た。おまえが書けという意味だろう。お察し力が仕事してしまった。働き者なのである。


「それから、図書貸し出し願い、持ち出し禁止誓約書と――」


 どんどん紙が出てきた。なんだこのお役所仕事! ていうか半分くらい受け持てよ、と思ったのにリートはさりげなく、いやもうあからさまに距離をとりやがった。おいぃぃ。


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